守護異能力者の日常新生活記 ~第4章 第17話~

「黒沢さん、今お時間少々よろしいですか?」
「おや白峰殿、どうかなされましたかな?」

放課後、ホームルームも終わり生徒が各々の目的の為に教室から出ていき始めた時に白峰さんが黒沢さんに声をかける。

「今週から衣替えが始まりましたがそのことについて黒沢さんの所感をお尋ねしたいのです」
「あぁなるほどそういうことですな。自分も語りたいところでしたのでちょうど良かったですぞ」
「では本日のテーマは『衣替え』についてで行きましょう」

そう言って黒沢さんの席の前に座る白峰さん。

「衣替えの醍醐味とは、やはり新鮮さと目新しさにあると思うのです。今まで見慣れていた服装とガラリと変わるのですから」
「ですな。さらに冬服から夏服に変わる際には自然と肌の露出も増えるのが眼福ですぞどぅふふふふ」
「仰る通りです。爽やかさと色気を同時に感じることのできる貴重なタイミングですわうふふふふ」

おおよそ女子高生がするものとは思えない会話をする2人だが、いつものことなので誰も気にしない。

「しかし自分、少々不服な所もあるのですぞ」
「不服……ですか?」
「我々女子の制服は先程白峰殿が言った通りガラリと変わっております。そのような学校は決して少なくありませぬ」
「確かに……冬服はベージュなのに夏服は薄い青。色だけでも大きく変わりますわね」
「しかし男子の制服はただ上着を脱いだだけではないですか! それでも半袖になる分目の保養にはなりますがそれだけでは物足りないと自分は思うのです!」

そう力強く主張する黒沢さん。

「……なるほど、黒沢さんの仰りたいことは分かりました。ならば私たちで新しい男子の制服のデザインを考えてみようではありませんか!」
「おぉっ! 白峰殿ならそう言ってくれると信じておりましたぞ!」
「ここは漫画制作で培ったデッサン力の見せどころですわ! 黒沢さん、何か白い紙はありますか?」
「どぅふふふふ……こうなることを見越してあらかじめ用意しておりますぞ」

そう言って黒沢さんは自分の机の引き出しから白い紙とシャーペンを取り出す。

「流石黒沢さんですわ! では……いざ!」
「我らの想像力を紙面に具現化させましょうぞ!!」

その言葉を合図に、白峰さんと黒沢さんは一心不乱に紙に何か描きこみ始めた。

「……捗る! 捗りますわあああぁぁぁぁ!!」
「やりますな白峰殿!! 自分も負けてられませんぞおおぉぉぉ!!」

お互い叫びながら描くのでやかましいことこの上ない。
それでも周りのクラスメートは誰も気にする様子を見せない。
……ただ巻き込まれたくないので進んで関わろうとしたくないだけなのかもしれないが。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第4章 第17話~

 

「……できましたわ! まず1つ目!!」

先にシャーペンを置いたのは白峰さんだった。

「むむ、やりますな白峰殿! 流石に速さでは分が悪いですな」
「ではお聞きくださいませ。男子の夏服案その1! いたってシンプルかつ基本に忠実に。ノースリーブのワイシャツはいかがでしょう!」

そう言って今まで描いていた紙を黒沢さんに向ける白峰さん。
そこには袖の無いワイシャツを着たマネキンが描かれていた。
しかも無駄に上手い。

「ほほぅ……確かにシンプルかつ『暑いなら袖を短くすれば良いじゃない』という基本を忠実に守っておりますな。流石ですぞ」

それを見た黒沢さんが真面目に講評をする。

「しかしそれでは見た目があまり変わりませぬな。シンプルなのは良いことですが変化が無いのがマイナスポイントになってしまっておりまする」
「やはりそうですわね……基本に忠実すぎるとそこがネックですわね」
「という訳で自分の案を聞いてくだされ!」

そう言って今度は黒沢さんが描いていた紙を白峰さんに向けた。

「我々女子はスカートの裾を割と自由に調整するでしょう。ならば男子もズボンの裾を調整しても良いのではないかと考えた結果がこれですぞ!」

黒沢さんが描いたのは、マネキンの上のワイシャツはそのままだが下のズボンがハーフパンツになっている絵だった。
こちらも無駄に上手い。

「な、なるほど……上がダメなら下を変えれば良い、と。黒沢さんらしい着眼点ですわね」
「どぅふふふふ……そうでしょうとも!」
「しかし、女子のスカートのように簡単に裾の調整はできないのではありませんか? しかも1回短くしてしまうともう元には戻せないのでは……」
「……はっ!? 言われてみれば確かにそうですな……」

始めは自慢気に胸を張っていた黒沢さんだが、白峰さんの指摘に気付いて肩を落とす。

「気を落とす必要はありませんわ黒沢さん! 1つの案が頓挫した程度で挫ける私たちではないでしょう?」
「……確かにそうですな。1つでダメなら2つ。2つでダメなら3つ! この程度で諦めてなるものですか!!」
「その意気ですわ黒沢さん!」

そう言って再び紙に向かい合う2人。

「ならばこれでどうです!? いっそワイシャツじゃなくてかりゆしにしてしまうのです。これなら色や柄が自由に変えられるから見栄えも悪くありませんわ!!」
「しかしここは沖縄ではありませんぞ? 流石に場違いすぎかと。だったらタンクトップなどはいかがですかな?」
「それも悪くありませんわね。しかしもう一声行きたいところですわ……いっそビキニパンツまで突き抜けたら」
「お待ちくだされ白峰殿! 流石にそこまで行くと見た目が変わりすぎて逆に不公平ですぞ! 女子もビキニにするくらいしないとつり合いが取れませぬ!!」
「た、確かに……くっ……背に腹は変えられませんわ。ここは言い出しっぺの私が先陣を切って体を張って理事長に直訴を……」
「おぉ……何という見上げた根性。自分も付き合いますぞ。白峰殿1人だけ死地に赴かせるわけにはいきませぬ!!」
「く、黒沢さん……あなたという方は……! ならばさっそくショッピングモールにビキニを買いに行きますわよ!」
「御意!!」
「……止めなくて良いんですか、アレ」

修也はさっきから2人に口出しせず見守っている陽菜に声をかける。

「いやいや中々聞いてて面白かったよ? 年取ると斬新な発想ってのは生まれにくくなるからねぇ。少しくらい常識の殻を突き抜けたって良いじゃないのさ」
「突き抜けるどころか粉砕してる気もしますが」
「でもさ見たくない? あの2人のビキニ姿。特に白峰さんはボリュームたっぷりだから見応えあると思うよ?」
「教師としてその発言はどうなんですか……」
「はっ!? つまり私も教師として手本となるべくビキニで通勤をしろってか!」
「何をどうしたらそうなる。保護者に訴えられても知りませんよ?」

割と真面目な顔してとんでもないことを言い出した陽菜を疲れた声で突っ込む修也。

「まぁそれは置いといて、そろそろ潮時だね。じゃあ私も混ざってくるか」

そう言って2人の元に歩み寄っていく陽菜。

「そうしてください……ん?『混ざる』?」

ようやく介入し始めた陽菜を見送る修也だが、不穏な単語に眉を顰める。

「おーい2人共ー。発想は面白いけど通学にビキニは似合わないよ。裸足で登校するのはキツイでしょ? かと言って靴履くのはミスマッチだし」
「え、気にすんのそこ?」
「はっ……! 言われてみれば確かに……」
「流石は陽菜教諭……我々とは目の付け所が違いますな!」
「いや納得するのかよ……」
「だからさぁ、ここは間を取ってブルマで登校するってのはどうかな?」
「どの辺が間だよ!? それただアンタの欲求満たしたいだけだろうがっ!」
「ああそうだとも! 普段見れたとしてもスク水が関の山な私としてはビキニ姿を見てみたい欲求もあるけどやはりブルマは何物にも代え難いんだよ! 文句あるかぁ!?」
「文句しかねぇよ! 開き直ってんじゃねぇ!!」
「あぁ……やはり土神さんのツッコミは聞いていて心地良いですわね」
「ですな。一種の心の清涼剤ですぞ」

陽菜に突っ込む修也を見てホクホク顔になる白峰さんと黒沢さんなのであった。

 

「……てなことがさっきあった訳だが……華穂先輩には言わない方が良さそうだな」
「修也さん……あの、手遅れです」
「え?」
「せ、先輩……その……後ろに……」

校舎の玄関に向かう途中に蒼芽と詩歌と鉢合わせ、並んで帰りながらさっきあった事を話す修也。
内容が内容だけに華穂に話すのはやめておこうかと修也は思ったのだが、後ろを見ながらそう言う2人につられて後ろを見る。

「…………!! …………!!」

そこでは華穂が声にならない笑い声をあげながらバンバンと壁を叩いていた。

「……あの笑い転げ方してるの漫画でしか見たこと無いや」
「私もです……」

とりあえず修也たちは華穂が落ち着くまで静観することにした。
他にできることが何も無いと分かっているからである。

「……ふぅー、落ち着いたぁ。もう酷いよ土神くん。不意打ちであんな面白い話をするなんて」
「え、俺が悪いのこれ?」

頬を膨らませながら修也に糾弾してくる華穂。
ただ口調は軽いので本気で言っているわけではなさそうだ。

「でもさ、確かにそうだよねぇ。男子の夏服ってあまり変わり映えしないよね」

華穂がそう言いながら修也の服装を見る。

「別に周りの目を楽しませる必要なんて無いだろうに」
「でも服装が可愛くなれば学校生活が華やかになりますよ」
「俺に可愛い要素を入れるとか、どう考えたってミスマッチだろ」
「可愛い先輩……」

修也の言葉を聞いてぽつりと呟く詩歌。
そしてすぐ何だか微妙な表情になった。

「あれ、詩歌ちゃん的には可愛い土神くんは微妙?」

その様子を見た華穂が詩歌に尋ねる。

「えっ? あ……い、いえ、その……」

華穂に指摘され、狼狽しながら華穂と修也を交互に見る詩歌。

「遠慮しなくて良いぞ詩歌、言ってやれ。俺に可愛い要素は似合わないって」
「あ、あの……せ、先輩が悪いわけでは……無いんですけど……先輩は……可愛いよりも、かっこいいの方が……似合うかと……」
「うん、それはそうだよ?」
「そうだね、かっこいいのは大前提の話だよ」
「……え?」
「いやちょっと待って2人共、それはそれでおかしい」

当然のことの様に言う蒼芽と華穂に唖然とする詩歌と止めに入る修也。

「そんなこと無いですよ。だって修也さん、こっちに引っ越してきてから何回そして何人人助けしました? 1人や2人ではきかないでしょう?」
「いやそれは結果論であってだな……」
「それに私のボディガードの件だって友達なんだからお金はいらない、払うなら断るなんて言っちゃうんだもん。言動がかっこよすぎるよ!」
「それは……確かに……」
「えぇー……詩歌も納得しちゃうの……?」

蒼芽と華穂の説明に納得しかけている詩歌を唖然とした表情で見やる修也。

「だからさ、そんな土神くんに可愛い要素を盛り込めばかっこいいに可愛いが合わさってもう無敵だよ!」
「ですよね。修也さんなら可愛くもなれますよ」
「いや……なれなくて良いしなりたくねぇ」
「まずは簡単な所で髪を弄ってみましょうか。詩歌、その髪留めちょっと借りても良い?」
「えっ……?」
「蒼芽ちゃん人の話はちゃんと聞こうな? 詩歌だって自分の髪留めを他人に使われるとか嫌だろ」
「い、いえ……あ……あの、そ……そんなことは……」

修也の言葉に顔を赤くさせながら俯いて小声でボソボソと呟く詩歌。
しかし小声過ぎて周囲の環境音にかき消されてしまい、修也たちの耳には届かない。

「だったら私のヘアゴム使う? 髪纏める時とかに使ってるやつだけど」
「あ、それも良いですね。私髪短いからそういうのは持ってないんですよ」
「あのー、勝手に話進めないでくれないかなー……」
「ほらほら土神くん、可愛いは正義なんだから」
「何か前に誰かが言ってたなそんな事」
「やっぱり共通認識なんですよ。それだけ知れ渡ってるってことは」
「それに土神くんが身に付けたものって何かご利益ありそうなんだよね。回避率が50くらい上がりそう」
「何そのぶっ壊れ性能だけど生活においては何の役にも立たない効果!?」

どうにかして修也に可愛い要素を盛り込もうとする蒼芽と華穂に対しどうにか回避しようとする修也。
ちなみに詩歌はどっちについて良いか分からずオロオロしている。
そんな言い合いをしながら校舎を出て校門を抜けた時……

「あー! おにーさんだー!!」
「げふぉっ!!?」

聞き慣れ始めた声と共に修也の真横から衝撃が走った。

「あ、由衣ちゃんだ。やっほー」
「こ……こんにちは、由衣ちゃん」
「こんにちはー、華穂おねーさん、詩歌おねーさん!」
「由衣ちゃん、今日もこっちに来たの?」
「うんっ! おにーさんたちと遊びたかったしー」

蒼芽の言葉に笑顔全開で頷く由衣。

「それにねー、今日は友達も一緒に来たんだよー」
「友達?」
「うんっ! ……あれー?」

修也の言葉に大きく頷いて後ろを振り返る由衣だったが、そこには誰もいない。
そのことに由衣は首を傾げる。

「……いないね?」
「道に迷ったとかか?」
「でも中等部からここまでそんなに道は複雑じゃないですよ?」
「だったら……どうして……」

由衣が一緒に来たという友達がいない理由について修也たちがあれこれ話していると……

「ハァ……ハァ……や、やっと追いついた……由衣、アンタいつの間にそんなに足速くなったのよ。体育の授業の時はそんなに速くなかったじゃない。むしろ私の方が速かった気がするんだけど?」

息も絶え絶えの状態の亜理紗が校門を出てすぐの曲がり角からフラフラと現れた。

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