守護異能力者の日常新生活記 ~第4章 第20話~

「昨日は後れを取ったけど……今日は勝ってみせる! リベンジよ!!」

翌日の放課後、亜理紗は鼻息を荒くしながら高等部への道をずんずんと歩いていた。
一歩毎に力を入れて地面を踏みしめているあたりに亜理紗の気合いの込めようが感じられる。

「ありちゃん、今日も氷室おにーさんとなぞなぞ勝負するのー?」

その亜理紗の後ろを由衣がついて歩きながら亜理紗に尋ねる。
亜理紗の気合いの入れようとは対照的に由衣はいつも通りのほほんとしている。

「当然よ! このまま負けて引き下がるなんて私のプライドが許さないわ! 絶対に負けられない戦いがあるのよ!」
「でもおにーさんが言ってたよー? 氷室おにーさんってすっごく頭が良いんだってー。テストで1番以外取ったこと無いらしいよー?」
「なっ……はぁ? 何その頭脳チートは!? ……いやでもだからと言って私は引かない媚びない省みない! 私に逃走などあり得ないのよ!!」
「ほえー……」

やたら気合の入っている亜理紗を気の抜けた表情で見る由衣。

「てか由衣、別にアンタは無理して私に付き合う必要は無いのよ? これは言わば私1人の戦いなんだから。語弊があるかもしれないけど昨日は土神先輩たちがどんな人か知らないから由衣についていく形になったわ。でももう顔は知ってるんだし由衣がいなくても探し出すことはできるのよ?」
「私はおにーさんたちと遊びたいから行くんだよー」
「……うん、それくらいあっさりしてくれてる方がむしろ清々しいわ。私も変に気兼ねしなくて良いし」

あっけらかんとした由衣の発言に亜理紗は毒気が抜かれて落ち着きを取り戻す。
やはりパッと見では足並みが合わなさそうな2人だが、意外と良いコンビなのである。

「それでありちゃん、氷室おにーさんに勝てそうななぞなぞはあるのー?」
「当っ然! 用意してきてるわよ! 私は巷ではなぞなぞクイーンと呼ばれてる女よ? そんな私が何の問題の持ち合わせもなく戦いを挑むわけ無いでしょうが!」
「そんなの初めて聞いたよー?」
「良いのよ! こういうのはノリ! 言ったもん勝ちなのよ!」
「ほえー、そーなんだー」

力説する亜理紗に気の抜けた返事をする由衣。

「…………あっ!」

だが次の瞬間、由衣の表情がパッと明るくなった。
そして次の瞬間には亜理紗の視界から由衣の姿が消えた。

「えっ消えた!? ちょっ、由衣? どこ行ったの?」
「おにーーーーさーーーーん!!」
「ごっふううぅぅ!!?」

急に由衣が消えて慌てる亜理紗の耳に遠くからから由衣の楽しそうな声と修也の叫び声が聞こえてきた。

「……えっ、速!? この距離をそんな一瞬で詰められるもんなの!? 由衣、アンタ何で陸上やらなかったのよ? 普通に全国狙えるレベルじゃないのコレ!?」

3年近くの付き合いがありながら全く知らなかった由衣の一面に舌を巻きつつもとりあえず置いていかれないように由衣と修也の元へ亜理紗は駆け出した。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第4章 第20話~

 

「こんにちは土神先輩、ご機嫌如何ですかー? 私は朝の星座占いの順位が良くも無く悪くもない微妙な位置で何とも言えない気分でした。いっそ最下位とかの方が話のネタにもなって良いんですけどねー。でもあーゆーのって眉唾ものですよね。だってそうじゃないですか。全人類の運勢が12種類程度で分類されてたまるかってもんです。まぁよほどの占いマニアでもない限り1時間もすれば占いの内容なんて綺麗サッパリ忘れてしまうでしょうし気にしすぎるのも良くないと思うんですがそこんとこどう思います?」
「あ、相変わらずよく喋る奴だな……」

開口一番早口でペラペラと喋る亜理紗に対して修也は呆れ半分感心半分で呟く。

「それで? 今日もわざわざこっちまで遊びに来たのか?」
「うんっ!」
「違うでしょ! 由衣はそうかもしれないけど私はちゃんと別に目的があるってさっき言ったでしょうが!!」
「えー? 氷室おにーさんとなぞなぞで遊ぶんだよねー?」
「遊びじゃないわよ! これは私の意地とプライドを賭けた真剣勝負! 絶対に負けられない戦いなのよ! キャッチコピーは『引かない・媚びない・省みない』!!」
「いや省みはしろよ」

力強く主張する亜理紗に修也は突っ込む。

「さぁそういう訳で土神先輩! 氷室先輩の呼び出しをお願いします! 今日こそはあの人に吠え面かかせてやるんですから!!」
「……ほぅ? それは面白そうだな。お前がどのような策を講じてきたのか見せてもらうとするか」
「うわぁっ!? ……氷室先輩、いつからいたんですか?」

いつの間にかこの場に立っていた塔次に驚く亜理紗。

「えー? 最初からいたよー?」
「ああ、最初からいた。長谷川からはちょうど陰になってて見えなかったのかもな」
「え? え? ……そうなの? 確かにあまり周りに注意を払ってなかったけど、そんな見通しの悪い場所でもないはずなのに……」

何でもない風に言う由衣と修也を見て亜理紗は少し混乱する。

「ちなみに『吠え面をかかせる』とは人を泣かせたりべそをかかせたりすることを意味する表現だ。長谷川がどのような手を用いて俺にそんな表情をさせるのか見物だな」
「え、そういう意味だったんですか? 私てっきり悔しがらせるとか驚かすとかそういうニュアンスだと思ってたんで泣かせるとかそういう意図は全く無かったんですが……」
「言葉は意味を正しく把握して使え。でないと思わぬ場面で恥をかくことになるぞ」
「うぅ……確かにドヤ顔で間違った知識を披露して、その間違いを指摘された時の赤っ恥っぷりは想像するだけで身の毛もよだつ思いです」
「うむ。だが勘違いしてはいけない。決して間違えることは恥ではない。肝心なのは間違いを受け入れ考えを改められるか否かだ。己の間違いを認められず非を受け入れられないような奴は先が知れている」
「……そうですね。間違いは間違いだと素直に認めるのが大事ですね」
「そういうことだ。今日のこの事を糧にして明日からも研鑽に励むが良い。ではな」
「はーい…………って、ちょっとおおおおおぉぉぉぉぉ!!?」

そのまま手を振って立ち去る塔次を見送ろうとした亜理紗だが、本来の目的を思い出して慌てて塔次を呼び止める。

「何だ? まだ何か用があるのか?」
「まだって言うか始まってすらいないんですよ! 危うく本来の目的を見失う所だったじゃないですか!! 氷室先輩! 私はあなたにリベンジしにやってきたんですよ!!」

ビシッと塔次を指さしながらそう宣言する亜理紗。

「リベンジ? ……あぁ、昨日のアレか。懲りん奴だな……」
「ふふんっ、そうやって上から目線でいられるのも今の内だけですよ! 私が三日三晩寝ずに考えた問題で目に物言わせてあげます!!」
「……昨日の話なのに何言ってんだアイツ」
「ありちゃんそーゆーところあるからー」

塔次と亜理紗の間で(亜理紗が一方的に)火花を散らしている横で修也と由衣は完全に傍観者となっている。

「では行きますよ! まずは肩慣らしの○×問題から!! 信号の赤は『止まれ』の合図ですが青は『進め』の合図である。○か×か!?」

そんな2人を置いてけぼりにして亜理紗は塔次に問題を出す。

「×だな」

そんな亜理紗に対して塔次は全く迷う様子も見せず即答する。

「えっ……えぇっ!? ど、どうして……」
「『進め』だと何が何でも進まないといけないという風に取れる。しかしたとえ青信号でも立ち止まった方が良い場合や立ち止まらないといけない場合はある。だから正確には青信号は『進むことができる』という合図だ。よって『進め』の合図かと問われたら×になる」
「へー、そーだったんだねー」

塔次の解説に由衣は感心しながら頷く。

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」

一方の亜理紗は悔しそうに顔を歪めている。

「……そのような表情をするということは正解ということだな」
「うぐっ!? ……こ、これはほんの小手調べですよ。本番はこれからです!」

図星を突かれて呻く亜理紗だが、何とか持ち直す。

「では次の問題! 日本語は日本の言葉。では英語はどこの国の言葉でしょうか!?」
「日本だな」
「はぅっ!!?」

挫けず次の問題を出した亜理紗だが、またもや即答されて表情が引きつる。

「えー? 英語はアメリカの言葉じゃないのー?」

塔次の答えを聞いて由衣が首を傾げる。

「うむ、確かにアメリカの母国語は英語だ。他にもイギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・アイルランドが英語を母国語としている。公用語や第二言語にまで範囲を広げると58もの国が英語を使用している」
「ほえー……」
「だから『英語はどこの国で話されているか』という問いならば平下さんの言う通りアメリカが正解の1つになる。しかし今の問いはそうではない」
「あぁなるほど、つまり『英語』という単語はどこの国の言葉なのかってことか」
「そういうことだ。よって答えは日本となる」
「くっ……! 流石に一筋縄ではいきませんね……!」

何故かよろめきながら塔次を睨む亜理紗。

「では次は俺からの出題だ。ティーカップやマグカップなどの取っ手はどちら側についている?」
「は、はい!? あれってどっち側とかあるんですか!? そんなの回転させたら右側にも左側にもなると思うんですけど!」

塔次からの問題に亜理紗はまたしても驚きの声をあげる。

「当然だ。きちんと定義されている」
「え、えぇと……」

亜理紗は視線を宙に彷徨わせながら考える。

「…………すみません、ちょっと質問良いですか?」

しばらくした後、亜理紗は手を挙げてそう発言する。

「何だ?」
「……現時点では世の中って右利きの人の方が多いですよね?」
「そうだな。日本では約90%が右利きと言われている。世界的に見てもこの割合に大差は無い。少々左利きの割合が高い国もあるようだがその差はせいぜい5%程度のものだ」
「だったら右利きの人が持ちやすいように取っ手は右側になるように置くのがマナーとかそういうことではありませんか?」
「ふむ……確かに気づきにくいが、世の中には右利きに配慮された仕組みになっているものは少なくない。ドアの開き方や駅の改札などが一例だ」
「学校の教室も正面に向かって左側が南になってますよね。自分の手が影になってノートが見え辛くなるのを防ぐ為だとか」
「なるほど……そう言った日本人によく見られる気遣いから来た慣習を鑑みて、長谷川は取っ手を右側と定義すると言いたいわけだな? 中々良い着眼点を持っているではないか」
「! ということは……!」
「しかし今回の問題はそういう話ではない」
「へ?」

正解を言い当てたと思い喜びかけた亜理紗だが、続けて出てきた塔次の言葉に表情が固まる。

「そんなもの外側についているに決まっているだろうが。長谷川は内側に取っ手がついているカップを見たことがあるのか?」
「……あ゛ーーーーっ!? そういうことですか!! 右とか左とかじゃなくて外側と内側ってこと!?」

そして告げられた解答に頭を抱えて叫ぶ。

「もっと柔軟な発想を持て。固定観念に囚われるな。先入観は己の思考の視野を狭めるだけだ」
「う、うぅ~~~~……こ、これで勝ったと思わないでくださいよ!? 私は絶対に諦めませんからね!! 私は滅びぬ! 何度でも甦る!! アイル・ビー・バアァァァーーーック!!」

そんな捨て台詞を残して亜理紗は走り去っていった。
由衣をその場に残して。

「おいおい、あいつ由衣ちゃん置いてっちゃったぞ……」
「大丈夫だよー、私はおにーさんと遊ぶために来たんだからー」
「あ、そうなの……にしてもあれだけボコボコにやられておいて諦めないとか、長谷川の奴メンタル強すぎだろ……」
「……ふっ、中々面白い奴ではないか」

亜理紗が走り去っていった方向を見ながら塔次は口元を緩める。

「氷室おにーさん、これからもありちゃんと遊んであげてねー? あー見えてもありちゃん、とっても楽しそうだったからー」
「良いだろう、いつでも相手になってやる。そして向かってくる以上一切の容赦はしない。そう伝えておいてくれ」
「うんっ! あ、そーだ。ねーねー氷室おにーさん、私にも何かなぞなぞ出してー」

塔次の伝言を聞いて大きく頷いた由衣だが、不意に塔次にそんなことを言い出した。
亜理紗と塔次のやり取りを見て自分もやってみたくなったのだろう。

「ふむ……ならばこんな問題はどうだ。日本では酒が飲めるのは20歳から。では車に乗れるのは何歳からだ?」
「ほえ? 何歳からでも乗れるよねー?」

塔次から出された問題に由衣は首を傾げながらもそう即答した。

「……ほぅ? そう思う理由は?」
「運転するなら大人にならないとダメだけどー、乗るだけだったら赤ちゃんでもできるもん!」

理由を尋ねる塔次に対してそう答える由衣。

「……やるではないか平下さん、正解だ。俺はただ何歳から乗れるのかを聞いただけで運転できる年齢を聞いたのではない。平下さんの言う通り乗るだけなら0歳の赤子でもできる。直前に酒の話をプラフに置いたのだが引っかからなかったようだな。見事だ」
「やったー! 正解だったよおにーさん! 褒めて褒めてー」
「ああ、凄いじゃないか由衣ちゃん」
「えへへー」

塔次の出した問題に正解できたことに加え、それを修也に褒めてもらえたことで上機嫌で表情を綻ばせる由衣なのであった。

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