守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第8話~

「はーーーはっはっはぁ!! どうだ見たか俺の活躍をー!!」

昼休みに入りそれぞれが昼ご飯を食べ始める中、戒は仁王立ちで高笑いしていた。
あれから2-Cは2試合あったのだが、そこでも戒は全打席ホームランを放っていたのだ。

「2試合目は私と詩歌も見てましたけど……物凄く飛ばしてましたね」
「あ、あれ……ソフトボールですよね……? あんな軽々と……飛ぶようなものじゃなかったような……」

修也たちの昼食に同席している蒼芽と詩歌が驚き半分で呟く。

「私は3試合目を見たけど、そこでも撃ちまくってたねぇ」

同じく同席している華穂も蒼芽や詩歌と同じような感想を持ったようだ。

「まぁ身体能力だけはハンパない奴だからなぁ、身体能力だけは」
「勉強能力はどっかに忘れて来てるしな」
「むしろここで活躍しなかったら霧生君の存在意義って何になるのかしら」
「数少ない見せ場だ。存分に励むが良い」
「お前ら辛辣すぎないか!? 同じクラスだよな!?」

呆れ半分で呟く修也たちに詰め寄る戒。

「でもまぁ、霧生が活躍してくれるおかげでそっちに目が行くから俺が目立たなくて平和だ」

そう言いながらお茶をすする修也。

「でも土神君も全打席出塁してたわよね」
「全部シングルヒットだけどな」

爽香の言う通り、修也もそこそこの成績は残している。
とは言え高校の球技大会くらいなら全打席ヒットはそこまで珍しい話でもない。
やはり全打席ホームランのインパクトの方が強い。
なので修也は爽香の言葉をそう言って軽く受け流す。

「修也さん……もしかしなくても敢えてシングルヒットにしてましたよね?」
「えっ?」

だが蒼芽の指摘に修也は言葉が詰まった。

「あ、それは私も思ったぞ」

自分のクラスではなく修也たちの所に来ていた瑞音も蒼芽に同調する。

「……と言うか相川、俺たちの試合見に来てたのか……」
「ライバルの様子を視察するのは当然だろ?」
「そういうもんなのか……?」
「まぁそれはともかく、修也さんなら守備の穴をついて長打にすることくらい簡単でしょう?」
「……いやぁ守備の穴を見つけるくらいならともかく、そこに狙って打ち込むなんていくら何でも……」

実のところ守備の穴を狙って打ったのは事実だ。
銃弾ですら見切れる修也は普通の人間の手で投げられたボールを見切るなど余裕だ。
しかしそれを言ってしまうとまたややこしいことになりかねない。
そう危惧した修也はやんわりと否定する。

「だがお前の打球は全部ちょうど内野を越えて外野の真正面に落ちるものだった。まるで狙ったかのようにな」
「…………いやー……たまたまだよ…………」

瑞音の指摘に目線を逸らし誤魔化す修也。

「たまたまで全打席同じようなことにはならねぇだろ」
「別に修也さんならそれくらいできても私は驚きませんよ」

ただ蒼芽と瑞音を誤魔化すことはできていないようだ。

「いやでもさ!? やっぱ霧生みたいにあんなにかっ飛ばすのも分かりやすくてスゲェよな! ありゃ相当なパワーが無いと出来ない芸当だし!!」
「そうだろそうだろ! やっぱり今日の俺は輝いてるぜー!!」

修也におだてられて再び調子に乗り出す戒。

「…………よし、何とか誤魔化せ」
「てませんよ修也さん」
「と言うかアレで誤魔化せてるのは霧生くらいだろ」
「別に良いじゃない。ここにいるメンバーは全員土神くんが凄い人だって知ってるんだし」
「そ、そうですよ……今の話を聞いても……先輩ならあり得るって思えますし……」

華穂と詩歌も同調してくる。
何とか切り抜けたと思っていた修也だが、どうやらそれは気のせいだったらしい。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第8話~

 

「それよりもメシにしようぜ! 張り切ったから腹減っちまったよ」

場の空気を切り替えるように戒がそう言う。

「はいどうぞ戒さん。張り切ってお弁当を作らせていただきました。お口に合うか分かりませんが……」
「おっ、ありがとうございます美穂さ……ん?」

目の前に差し出された弁当箱を笑顔で受け取る戒だが、途中でおかしいことに気が付いた。

「あ、あれ……? どうして美穂さんがここに……?」

美穂はこの学校の生徒ではない。
その美穂が何故ここにいるのかということに戒だけでなく修也も疑問を持った。

「今日はここで球技大会があると姉さんから聞いていましたので」
「それで霧生くんの応援に行きたいって言うからこっそり来てたんだよね」
「あぁ、そういうこと……」

修也の疑問にそう答える姫本姉妹。

「あ、どうもお久しぶりです」
「ご無沙汰しております妹さん。お変わり無い様で何よりです」

美穂と面識のある彰彦と塔次が頭を下げ挨拶する。

「お久しぶりです、仁敷さん氷室さん。お二方もお元気そうで」

それに対して柔らかく微笑みながら挨拶を返す美穂。

「へぇー、この人が前に話で出てきた霧生君の彼女……」
「す、凄く綺麗な人……」

爽香と詩歌は直接の面識は無いのでそれぞれの感想を呟く。

「ありがとうございます。でもあなたも可愛らしくて素敵な方だと思いますよ」

詩歌の呟きに対して美穂は笑顔でそう返す。

「えっ……!? そ、そんな私なんて……」
「大丈夫ですよ。あなたはあなたにしかない素敵な魅力を持ち合わせています。自信を持ってください」

恐縮して縮こまる詩歌に優しく声をかける美穂。

「あ……は、はい……」
「そう言えばまだお名前を伺っていませんでしたね。私は姫本美穂と申します。あなたのお名前は何と言うのでしょう?」
「え、えっと……米崎、詩歌……です……」
「詩歌さんですね。よろしくお願いします」

蒼芽の時もそうだったが、詩歌が年下なのにも関わらず美穂の対応は丁寧なものである。

「霧生殿の彼女さんが来ていると聞いて!!」
「私たちも馳せ参じましたわー!!」

そこに突然現れた黒沢さんと白峰さん。

「どこで聞きつけたんだアンタらは」
「たまたま近くを通りがかっただけですぞ」
「これは本当に偶然ですわ。米崎さんがそう呟いているのが耳に入ったのです」

半眼で睨む修也に対し、偶然を主張する2人。

「それにしても……本当にいたのですなぁ、霧生殿の彼女さんは」
「失礼ながらてっきり空想上の存在だとばかり思っておりましたわ」
「本当に失礼だな!?」

しれっとそんなことを言い出す2人に突っ込む戒。

「しかし……見れば見るほどお嬢様オーラが滲み出ていそうなお方でありますな」
「全くですわ。私の似非お嬢様感なんて足元にも及びませんわ」
「自分で言ってて悲しくならんのか……」
「私のはそういうキャラですので」
「キャラとか言っちゃったよオイ」

修也の問いかけに対してさして気にした様子を見せない白峰さん。

「何にしてもこれは認識を改める必要が出てきましたぞ」
「ですわね。誠に残念ですが霧生さんにソッチの気がある疑惑は払拭させなければなりません」
「いや残念がるなよ。でもこれでやっと不名誉な疑惑が消え……」
「これからは『どっちもイケる』という風に認識を改めますぞ!」
「ですわね!」
「違ぇよ!!」

ようやく自分の不名誉なレッテルが無くなると胸を撫で下ろしかけた戒だが、おかしな方向にシフトチェンジしてしまったことに突っ込む。

「では、我々はこれにて失礼! そもそも通りがかっただけです故」
「皆様、午後からも頑張ってくださいまし!」

そう言って黒沢さんと白峰さんは足早に立ち去って行った。

「いやその前にちゃんと認識を改めてくれよおおぉぉ!!」

そう懇願する戒の言葉を聞き流しながら。

「あはははははは! あっははははははは!!」

2人が立ち去った後に残ったのは華穂の笑い声だけだった。

「はー笑った笑った。やっぱり土神くんのクラスは面白いねぇ」
「俺のクラスっつーかあの2人と担任だけっつーか……」
「戒さん、あのお二方が仰っていた『ソッチの気』とは……」
「気にしなくて良いです! 美穂さんは一生知らなくて良いことです!!」

疑問顔で尋ねる美穂に対して食い気味に回答を拒否する戒。

「そうですね、知らなくても今後の美穂さんの人生に何の影響も与えませんので」
「土神さんもそう仰るなら……それでは遅くなりましたがお昼ご飯にしましょうか」
「はいっ! いやー美穂さんの弁当楽しみだなー!」

戒はこれ幸いとばかりに話題変更に乗る。
先程美穂から受け取った弁当箱を自分の前に置き、蓋を開けた。

「ちょっと霧生君、彼女のお弁当を独占したい気持ちは分かるけど……」

美穂の弁当を独り占めしようとしている戒に苦言を呈する爽香。
まあ戒が受け取った弁当が重箱サイズなので爽香がそう思ったのも無理はないだろう。
しかし……

「おい爽香、忘れたのか? 霧生の食う量を」
「……え? あぁー……そうだったわね……」

彰彦に指摘されて以前学食で同席したことを思い出した爽香。
あの時戒は大盛り丼3杯に加えて普通の白米も特盛で食べていた。
それを考えると美穂の重箱弁当くらいは普通に1人で食べ切りそうである。

「いやでもせめて美穂さんとシェアして食べるとか……」
「大丈夫ですよ、私も同じものを用意していますので」

そう言って美穂は同じ大きさの重箱弁当をもう1つ取り出した。

「……え?」

これには彰彦も呆気にとられる。

「重箱が2つあるとは、流石良家のお嬢様」
「これ全部美穂さんが作ったんですか? 凄いですね」
「…………それにこの大きさを2つとなると結構な重さになると思いますけど良く持ってこれましたね?」

だが修也と蒼芽のリアクションを見て、気を取り直した。

「学校までの移動は車でしたので、持ち運んだ距離はそこまで長くないので大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
「にしても、仁敷くんは美穂ちゃんのお弁当を見てもそんなに驚かないんだね?」
「えぇまぁ……初めは驚きましたけど、土神が突っ込まないってことはこれは別に変なことではないと思い直しまして」
「人の突っ込みを基準にするんじゃねぇ」

しれっと言う彰彦に修也は突っ込みを入れる。

「……さて、じゃあ俺も昼飯買ってくるかな……」
「あ、あの…………」

昼食の確保のために立ち上がりかける修也。
そこに詩歌が遠慮がちに声をかけてきた。

「ん? どうした詩歌」
「そ、その…………わ、私も……今日は、お弁当を……作って、来たんです……」

そう言って詩歌は顔を真っ赤にさせながらおずおずと弁当箱を差し出してきた。

「え、マジ?」
「は、はい……この前、先輩がまた料理を作ってくれって言っていたので……」

どうやら詩歌は先日の屋上でのタッチゲームの時のことを言っているようだ。
詩歌が気負わないように軽く言っただけだったのだが、それをしっかり覚えていたらしい。

「あ、舞原さんと姫本先輩の分もあるから……」
「え、ホント!?」
「良いの詩歌ちゃん? 私たちの分まで。もちろん作ってくれたのは嬉しいんだけど」
「は、はい……2人共、私の料理を……おいしいって喜んでくれたので……そ、その……ご迷惑……でしたか?」
「とんでもない! ありがとね詩歌ちゃん」
「私からもありがとう、詩歌!」
「う、うん……! で、こっちがお姉ちゃんとアキ君の分ね。あ、でも……相川先輩と氷室先輩の分は、その……」
「良いって良いって気にすんな。私の分まで作ってたら負担がハンパねぇだろ」
「そもそも約束していた訳でもないからな。気に病む必要は無い」

申し訳なさそうに頭を下げる詩歌に対し、ひらひらと手を振りながら笑い飛ばす瑞音。
塔次も全く気にしていないようだ。

「……ん? でもちょっと待て詩歌。それだと自分の分を含めて6人分も作ったのか?」

気になった修也が指折り数えて詩歌に尋ねる。
それほどの量にもなると手間も材料費も馬鹿にならないはずだ。

「あっ……そ、その……す、すみません……」
「いや別に咎めてるわけじゃないんだ。ただ流石にちょっと申し訳なくてな」
「確かにそうだね。ちゃんと対価は払うよ。……1万円で足りる?」
「そ、それは全員分でも余りすぎます……!」
「でも手間と詩歌が作ったことによる付加価値を考えたら妥当じゃない?」
「そ、そんなこと無いから……!」

とんでもない金額を提示した華穂とそれに乗る蒼芽を慌てて止める詩歌。

「……でも総額1万円として6人分となると平均1600円程か。ただの弁当ならかなり高いが蒼芽ちゃんの言うように詩歌が作ったという付加価値を加味すると十分元は……」
「と、取れませんよぅ……!」

真面目に分析を始めた修也を止める詩歌。

「ほら先程言ったでしょう? それが詩歌さんの魅力なんですよ」
「……え?」

そんな詩歌に美穂は優しく語りかける。

「だから自信を持ってください。詩歌さんにも素敵で立派な魅力がありますよ」
「そ、そうでしょうか……何だかちょっとだけ、そんな気がしてきたような気がします……」
「……」

やはり美穂の言葉には不思議と説得力がある気がする。
詩歌からそんな言葉が出てきたことに修也は少し驚きつつも感心する。

「ところで……姉さんや土神さんと蒼芽さんがそこまで言う詩歌さんの作るお料理がどのような物なのかとても興味があるのですが……」
「あ……もし良かったら、ここから好きなものを食べてください。そ、その……お口に合うかどうかは分かりませんけど……」

そう言って詩歌は自分の弁当箱を美穂の前に差し出す。

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えまして……」

美穂は微笑みながら礼を言い、詩歌の弁当に入っていたアスパラのベーコン巻を箸でつまんで自分の口に運ぶ。
その所作ひとつとっても絵になりそうな品の良さだ。

「………………」

美穂は何度か咀嚼して飲み込み……

「…………詩歌さん」

じっと真剣な目で詩歌を見つめる。

「は、はい……? あ……もしかして、お口に合いませんでしたか……?」
「私専属の料理人になっていただけませんか? 対価は言い値でお支払いしますので」
「え……えぇっ!?」

美穂の口に合わなかったかと心配していた詩歌だが、美穂から出てきた言葉に驚いてらしくない大声をあげる。

「驚きました……ここまで美味しい物がこの世に存在しているとは思いませんでした」
「お、大げさですよ……ただアスパラにベーコンを巻いて焼いただけなのに……」
「シンプルな調理方法程作る人の技量が問われるのです。断言します、これは今すぐにでもお店を開けるレベルです」
「え…………えぇ……」
「専属料理人が無理ならうちの料理人たちに指導をお願いしたいのですが……」
「そ、それこそ無理ですよ……! 姫本家の料理人ともなると、きっと一流の人ばっかりで……」
「大丈夫、詩歌ちゃんならそこで肩を並べられるよ! むしろ腕は詩歌ちゃんの方が上かも」
「そ、それはいくら何でも……」

華穂も乗り気なことに慌てふためく詩歌。

「当然よ、詩歌の料理の腕は世界でも通用するレベルなんだから!」
「いや何で爽香が偉そうなんだよ」

何故か爽香が得意気に胸を張ることに突っ込みを入れる彰彦なのであった。

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