守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第9話~

「お願いです詩歌さん、どうか前向きに考えていただけないでしょうか……!」
「そ、そんなこと言われても……まだ私、高校1年生ですし……それにお料理はただの趣味で……」

昼食を終えてからずっと美穂が詩歌に詰め寄って懇願している。
美穂はどうにかして詩歌の料理を定期的に食べたいらしい。
詩歌を姫本家の料理人もしくは料理の指導者としてスカウトしようとしている。
その目はかなり真剣だ。

「ま、舞原さん……土神先輩……た、助けて……」
「え、えーっと……」

詩歌が蒼芽と修也に助けを求めるが、どうすれば良いのか分からず蒼芽は途方に暮れる。

「ど、どうしましょうか修也さん?」
「んー……まぁ美穂さんの気持ちも分かるんだよなぁ……詩歌の料理メチャクチャ美味いし」
「確かに詩歌の料理は物凄く美味しいですよねぇ」
「せ、先輩…………舞原さん……私のお料理を褒めてくれるのは嬉しいけど……」

悩む修也と蒼芽に詩歌は縋るような目を向ける。

「あー……とりあえず美穂さん落ち着いてください。詩歌もレシピを渡すくらいなら良いんじゃないか?」

流石に見かねて仲裁に入る修也。

「あ……は、はい……それくらいなら……後でメモに書いてお渡ししますので……」
「! 本当ですか? ありがとうございます詩歌さん」

詩歌の返事を聞いて表情を輝かせる美穂。

「で、そのレシピはおいくらで買い取りましょうか? 今持ち合わせはあまり無いのですぐにはお渡しできないかもしれませんが……」
「え……えぇっ!? い、いりませんよお金なんて……!」

財布を取り出そうとした美穂を詩歌は慌てて止める。

「詩歌さん、それはいけません。価値あるものに対価を支払うのは当然のことです。これほどの物を頂くのに対価無しと言うのは……」
「わ、私にとっては……私のお料理を食べた人が『美味しい』と言ってくれることが……一番価値のあること、なんです……! だから……」

尚も引き下がろうとしない美穂に対し、詩歌も精いっぱいの主張をする。

「…………」

それまでグイグイと押していた美穂が詩歌の言葉を聞いてはたと止まる。

「…………? ど、どうしたんですか……?」
「なるほど……詩歌さんのお料理に対する情熱と心意気、しかと感じさせていただきました」
「……え?」
「料理は心、食べていただく方のことを思いやる気持ち……詩歌さんはそこに価値を見出しているのですね」
「えっ……そ、その……そこまで大袈裟なものでは……」
「お金で何とかしようとした私の浅ましさが恥ずかしいです。申し訳ありませんでした」

そう言って深々と詩歌に対して頭を下げる美穂。

「い、いえっ……! そ、そんな……あ、頭を上げてください……!」

美穂の行動に驚いた詩歌が慌ててあたふたとしている。

「……うーん、恐るべき詩歌の料理の力……」

美穂にここまでさせる詩歌の料理の凄さに改めて感心する修也であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第9話~

 

「さーって、昼食も終わったことだし……」

全員の昼食が終わったのを確認して瑞音がおもむろに立ち上がる。

「軽く一勝負するか、土神!」
「いやそんな食後の軽い運動みたいに言われても」

軽い口調でそんなことを言い出した瑞音に待ったをかける修也。
どうも瑞音は勝負ごとになると途中から熱くなりやすい性格をしているらしい。
それが修也に向けてだけなのかどうかは分からないが、まず間違いなく軽い運動では終わらないだろう。

「今日は球技大会なのにこんな所で無駄に体力を消費してどうする」
「無駄じゃねぇんだから良いじゃねぇか」
「今日の主目的が何なのかちゃんと考えろと言ってんだよ……」

そう言ってため息を吐く修也。
と、そこに……

「あー! おにーさんみっけー!!」
「ごっふぉぉっ!!?」

修也の背中に突然衝撃が走った。
修也のことを『おにーさん』と呼び、尚且つ修也の背後を容易に取れる人物など1人しかいない。

「あれっ、由衣ちゃん来てたの?」
「うんっ! 今日は高校で球技大会があるってこの前おねーさんが言ってたでしょー? だから応援に来たんだよー」

蒼芽の問いににこにこと笑いながら修也の背に乗ったまま答える由衣。

「でもどこで何やってるかが分からなかったからおにーさんたちを見つけるのに時間かかっちゃったんだよねー……」
「あー……パンフレットとか無いからなぁ……」

先日の中等部の体育祭とは違い、この球技大会は校内のイベントだ。
故に対外向けの案内などは無い。
だからと言って閉鎖的ではないので、美穂や由衣のようにこの高校に在籍していなくても普通に入ることができる。
まぁ美穂は在籍している華穂の身内だし由衣は同じ学校の中等部なので全くの無関係という訳でもないのではあるが。

「あー、由衣! 急にいなくなったと思ったらやっぱり土神先輩を見つけたのね? アンタホント土神先輩に関することだけは恐ろしく身体能力にブーストかかるわね? 体育祭以来陸上部の子から一緒に陸上やろうってメチャクチャ熱心に誘われてるし」
「あー、ありちゃん遅いよー」
「だからアンタが速すぎるんだってば! 普段だったら私の方が速いのに土神先輩が視界に入った途端倍速以上に加速してるんだから」

由衣に少し遅れて亜理紗も修也たちのいる所にやってきた。

「倍速は言い過ぎじゃねぇか長谷川」
「いえこれは誇張でも何でもないですよ。土神先輩も見たでしょ体育祭での由衣のスピードを。本当に普段はアレの半分くらいなんですから」
「そういや蒼芽ちゃんも由衣ちゃんがあんなに速いの知らなかったみたいだしなぁ……」
「はい、私も知りませんでした」

体育祭での由衣を見て蒼芽が驚いていたのを思い出す修也。

「あの……こちらの方は土神さんと蒼芽さんのお知り合いですか?」

そこに由衣を見た美穂が声をかけてきた。

「あ、はい。隣に住んでる中等部の子です」
「? おねーさんは誰ー? 華穂おねーさんに似てるけどー」

自分を見てくる美穂に首を傾げて疑問を投げかける由衣。

「私は姫本美穂と申します。あなたのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「うんっ! 私は平下由衣だよー! 華穂おねーさんと同じ苗字ってことはー、美穂おねーさんは華穂おねーさんの妹なのー?」
「! あら、良く分かりましたね? 姉さんの方が妹だと間違われることが多々あるのですが」

由衣の言葉に少し驚いた様子を美穂は見せる。

「そうだよねぇ、何か纏う雰囲気がどうとかで私の方が妹だと思われちゃうことが結構あるんだよね」
「えー? 華穂おねーさんの方が大人っぽいよー?」
「え、そう? ありがとね由衣ちゃん」

由衣の言葉に華穂は笑って礼を言う。

「おにーさんもそう思うよねー?」
「ん? そうだなぁ……美穂さんの纏うオーラは『お嬢様』であって『大人っぽい』とはちょっと違う気がするかなぁ……あぁでもそれが悪いという訳では」
「ふふ、分かってますよ土神さん」

誤解を生みそうな発言をしてしまい取り繕おうとした修也だが、別に美穂は気分を害した様子は無い。

「ところで由衣ちゃんと長谷川さんはもうお昼食べたの? 私たちは終わったけど」
「あ、はい。元々ここに来るのが遅かったのに加えて土神先輩たちがなかなか見つからずお昼時が近づいてきてしまったのでとりあえず先に食べちゃおうという訳で学食で頂いてきました。いや良いですねぇ高等部は学食があって。中等部は購買しか無いので新鮮でした。来年度からは存分に恩恵にあやからせてもらおうと思いますよ」
「だよな、ここの学食はうまくてたくさん食えるから最高だぜ!」
「! 戒さん、ここの学食は美味しい上にたくさん食べられるのですか?」

戒の言葉に反応した美穂が問い返す。

「あ、はい。もちろん金を払う必要はありますが、この町に住んでいたら半額ですよ。だから4人前は食えるんです!」
「え、いや何でですか? 半額までは中等部でも同じことやってるので分かりますけどそれがどうして4人前食べられることに繋がるんです?」

よく分からない戒の理論に首を傾げる亜理紗。

「まぁ、それは素敵ですね」
「え、いや何でですか? 何で今の説明で理解と納得ができて魅力を感じるんですか? 私がおかしいんですかこれ?」

そして美穂のリアクションを見て亜理紗はさらに首を傾げる。

「……この2人にだけ通じ合うものがあるんだよ」
「いやそれで済ませて良いんですか!? 明らかに突っ込む所でしょう!?」
「……俺は学んだよ。土神が突っ込まないということはそれはおかしくないってことなんだよ」
「だから人の突っ込みを基準にするんじゃねぇ」

何やら悟った風の彰彦に亜理紗は詰め寄り修也は突っ込む。

「あ、とりあえずそれはそれとして私長谷川亜理紗って言います。来年からこの高等部に進学するのでその時はどうぞよろしくお願いします」
「あ、うん。俺は仁敷彰彦。今後顔を合わせる機会もあるだろうし顔だけでも覚えておいてくれると嬉しいな」

変なタイミングでお互い頭を下げ挨拶しあう彰彦と亜理紗。

「……何でこのタイミングで自己紹介してんの」
「いや色んな情報が押し寄せすぎて処理が追いつきませんよこんなの! もう何からどう手を付けたら良いのかサッパリ分かりません! で、そうこうしているうちに初対面の人もいるのに自己紹介のタイミングを逃しちゃったんじゃないですか。でも挨拶は人としての最低限のマナーですからやらないわけにはいかないでしょ? 結果このタイミングでの自己紹介となったわけですよ!」
「あーあー分かった分かった」

まくし立ててくる亜理紗を修也は適当にいなす。

「……ちなみに仁敷は既に彼女いるからな?」

誰にも聞こえないように亜理紗に耳打ちする修也。

「あ、そうなんですか? そっちの人もそちらの方が彼女さんのようですし中々思うようにはいきませんねぇ……やっぱり高校生ともなると私生活が充実してるんですねーってそんな悠長に構えてられないんですよ! 私だって来年は高校生なんですから急がないことには流行に乗り遅れてしまいます! 首を洗って待っていやがれですよリア充グループ!!」
「……別に流行ではない気がするがな……」

よく分からない所に気合を入れている亜理紗に修也は生暖かい視線を送る。

「では戒さん、今からその学食へ行きましょう。是が非でも気になってきました」

先程の戒の説明を聞いて興味が湧いたのか立ち上がり戒を促す美穂。
だが……

「美穂さん、流石に時間が足りません。もう午後の部が始まってしまいますよ」
「それにこの学校に在籍していない美穂さんは支払いシステムの関係で利用できないのではないですか? 由衣ちゃんと長谷川さんは中等部在籍だから問題無かったでしょうけど」
「あ、言われてみれば……」

そう修也と蒼芽に言われて学食へ向かう足が止まった。

「……あの重箱弁当を食べ切った直後ってのは気にしちゃいけないことなのね……土神君が突っ込まないし」
「そうそう、そういうことだ」

深く頷く爽香とそれに同調する彰彦。

「…………なぁ、ところで土神」
「ん? どうした相川」

午後の部への準備を始めようかとそれぞれが立ち上がる中、瑞音が神妙な面持ちで修也に話しかける。

「今お前の背中に乗ってる子……平下と言ったな。何者だ? 現れた時に気配を全く感じなかったし、何よりもお前の背後をあんなに簡単にとって不意打ちを食らわせるなんてただものじゃねぇ」
「いや不意打ちて。由衣ちゃんはなんてことない普通の女子中学生だ」

真顔でおかしなことを言い出した瑞音に修也は突っ込みを入れる。

「なぁ平下。お前も中3なのか? だったら今度やる高校部活体験でうちの部活に来てみないか?」
「高校部活体験? 何だそりゃ。字面で大体の想像はつくけど」

聞き馴染みの無い単語に修也は首を傾げる。

「あ、修也さんは転入してきたから知りませんよね。読んで字の通り高校の部活を中等部の子たちに体験してもらおうっていうイベントのことですよ」

横で聞いていた蒼芽が説明してくれる。

「なるほど……中等部と高等部で繋がってるこの学校ならではのイベントって訳か。普通の学校で言う所の体験入部を早めにやるって感じか」
「中学でやってた部活とのギャップに戸惑って辞めちまう生徒もいるんだよ。それを軽減させる狙いがあるらしい」

確かに高校でやるレベルについていけずに諦めて止めてしまうというパターンは容易に想像できる。
中学で一生懸命頑張ってきたのにそれは非常にもったいない話だと修也も思う。

「でも部活やってたらおにーさんやおねーさんと遊ぶ時間が減っちゃうからなー……」

体育祭の時も言っていたが由衣はあまり部活には乗り気ではないらしい。

「まぁそんな難しく考えなくても良い。ただの体験だから実際に入部するわけじゃないし」
「んー……」
「それに土神も顔を出すぞ」
「じゃあ行くー!」

修也もいると聞いた途端行くと即決する由衣。

「ちょ、待て! 俺は行くとは言ってないぞ? そもそもそんなイベントがあるのを今知ったくらいだし」
「まぁ良いじゃねぇか学校のイベントの一環なんだし。悪いようにはしねぇからウチに顔出してくれよ」
「んー……」

瑞音に頼み込まれて修也は考え込む。
引っ越してくる前だったら1秒も悩まず不参加を決め込んでいただろう。
参加したところで爪弾きにされるのが目に見えていたからだ。
しかし今はきっとそうはならない。
ならば学校のイベントはできる限り参加しておきたいというのが修也の心情だ。
引っ越してくる前のような、誰からも歓迎されない状況とは違うのだ。

「……と言うか正式に入部してない俺がいて良いのか?」
「問題ねぇよ。部活に所属していない在校生の体験入部も兼ねているからな」
「あ、意外と合理的なんだな……分かったよ、顔出すくらいなら」
「よっしゃ決まりだ! なら当日は私と土神でデモンストレーションとして立ち合いでもやるか!」
「お前がやりたいだけだろそれ!!」

笑いながらそう言う瑞音に対して修也は今日一番の突っ込みを入れるのであった。

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