「オラァかっ飛べええぇぇぇ!!」
午後からの試合も戒は絶好調だった。
むしろ美穂が応援に来ていると知って午前以上に力が入っているように見える。
「うわぁまた場外……あれ誰が回収するんだろ」
遥か遠くへ飛んでいったボールを修也は1塁上で見送りながら呆れ気味に呟く。
「はーーーはっはっは!! これで2点追加だな! ほら土神、進め進め!」
余裕綽々で走ってくる戒に言われ、修也は2塁へ足を進める。
午前中は打順が適当だったのだが、修也が確実に出塁して戒が確実にホームランを打つので陽菜が修也の打順を3番に、そして戒の打順を4番にしたのだ。
これなら打順が回って来れば確実に2点が取れる算段だ。
「……ただの高校の球技大会でそんな打順なんてあまり関係ない気もするけどなぁ……」
修也はそう思うのだが、陽菜が『強打者は4番ってのは昔からのセオリーでしょ!』という意見を一切曲げなかったせいでこうなっている。
そして戒のホームランの恩恵にあやかるために、必然的に修也は3番に入れられた。
「3番もそこそこ強打者のイメージがあるんだが……俺には分不相応と言うか何というか」
「全打席出塁しておいてその言い分は通らないと思うぞ」
ホームに戻ってきながら呟く修也に彰彦が声をかける。
「そうね、ただかっ飛ばせばいいわけじゃないからむしろそっちの方が凄いんじゃないかしら」
横にいた爽香も彰彦に同調する。
(……ダメだ、この話は堂々巡りだ)
どうしても毎回ホームランをかっ飛ばす戒も凄いが毎回出塁している修也も十分凄いという結論に終わってしまう。
「ところでどうして4番に強打者を組むようになったんだろうな? 別に1番においてプレッシャーをかけても良くないか?」
なので修也は話題を変えることにする。
「それも戦術としてはアリかもしれんが、1番・2番・3番が出塁して走者を溜めた方がより効果的ではないか?」
そんな修也の疑問に塔次が答える。
「あぁなるほど、走者を溜められるだけ溜めて長打を打つ方が得点になるもんな」
「そして5番にも強打者を配置しておけば、もし4番が凡退してもまだチャンスはある」
「じゃあもう全部に強打者を置いておけば良いじゃない?」
「……それができれば苦労はしない」
爽香の提案にため息まじりに返す塔次。
「それに打つのが得意でも守るのが下手だと話にならんぞ。仮に10点取っても11点取られたら負けるんだぞ?」
さらに彰彦が説明を付け足す。
「だったら守備が上手い人で固めれば……」
「今度は逆だな。0点に抑えたとしても1点も取れなくては勝てない」
「じゃあどっちも得意な人を揃えれば……」
「そんな超人がその辺にゴロゴロいる訳無いだろ」
「そうですぞ米崎殿! 攻めも受けもこなせるような人はそうはいませぬ!」
「ですわね。大体は攻めか受け、どちらかに偏るものですわ!」
修也の言葉に乗ってきた黒沢さんと白峰さん。
「……『受け』? 『守り』じゃないのか?」
「土神、恐らくこの2人は似て非なる話をしている。気にしないで流すことを勧めておく」
「……そうか」
2人の言い回しに疑問を持った修也だが、塔次に諭されその疑問を抹消することにした。
守護異能力者の日常新生活記
~第5章 第10話~
その後も修也たちのクラスはほぼ戒のホームランだけで勝ち進んでいった。
ただ勝っても何か賞品があるわけでもないし負けてもペナルティがあるわけでもないので、誰も勝敗にそこまでこだわっていない。
もちろん勝てば嬉しいし負ければ悔しいが、逆に言えばその程度で終わるのだ。
(……まぁ高校の球技大会なんてそんなもんか……)
今まで学校のイベントにがっつり関わってこれなかった修也も、何が何でも勝ちたいという意識は無い。
ただこうやって普通にイベントに参加できること自体を楽しんでいる。
「でも勝つに越したことはないよな……」
そう呟きながら修也は立ち上がる。
これから最後の試合が行われるのだ。
「頑張ってくださいね修也さん。これで勝てば全勝ですよ!」
「が……頑張って、ください……土神先輩……」
「あぁ、まぁ怪我しない程度に頑張るよ」
応援に来ていた蒼芽と詩歌に軽く手を挙げて応えながら試合が行われる場所へ向かう修也。
「あっ! 土神先輩の所の試合がそろそろ始まるぞ!」
「凄いよね土神先輩。全打席ヒットを打って出塁してるんだって!」
「プロ野球選手やメジャーリーガーだって4割打てれば凄い方なんだぞ? それを10割とか流石すぎる!!」
「これはまた新しい伝説が生まれるかも? その場に立ち会えるとか何という幸運!!」
「…………えぇー……」
いつの間にか周りには多数の生徒が応援に来ていた。
その中には陣野君や佐々木さんの姿もあった。
明らかな人口密度の違いに修也は少しテンションが落ちる。
「高校の球技大会とプロを一緒にすんなよ……それに打率で言うなら霧生だって10割だろうに」
「そこは修也さんのネームバリューってやつでしょうね」
「結局何しても目立つってことか……」
「え、えっと…………」
げんなりしている修也を見て苦笑する蒼芽とアタフタする詩歌。
「にしてもあの観客たち……陣野君や佐々木さんの姿も見えるってことは……」
「あ、あはは……私たちのクラスですね……」
「わ、私たちのクラスの試合は……もう終わったので……」
「多分全員来てますね、これ」
「やっぱりか……にしては少し多いような気もするが」
「あれは……きっと私のクラスも混ざってるね」
観客の多さに修也が疑問を持っているところに華穂もやってきた。
「あ、華穂先輩。そういや先輩の応援に行けなかったな……」
「良いよ良いよ、私は試合に出なかったし見栄えもしなかったしね。こっちの方が見応えあるよ」
残念そうに呟く修也に対して華穂はひらひらと手を振りながらそう言う。
「私のクラスの試合も終わったから、こっちを見に行こうって話が出てたんだよね。それでだと思うよ」
「……道理で」
「おにーーーーさーーーん! 頑張ってねー!!」
「ここまで来たら全勝優勝ですよ! 華々しい活躍を期待してますからね!!」
蒼芽たちや華穂のクラスの生徒に紛れて由衣や亜理紗の姿もあった。
由衣は手をぶんぶんと振りながら大声でエールを送ってくれていた。
「うーん……こうも観客が多いとやりにくいというか何というか……」
「そ、そうですよね……こんなたくさんの人に見られたら……緊張しますよね……」
「これ以上の環境でプレイできるプロの人ってスゲェんだなぁ」
「そこを凄いと思う人ってそうはいないと思うよ」
修也の呟きに華穂が突っ込みを入れる。
「……まぁ何にせよこの試合、気は抜けないな。何たって……」
そう言いながら修也は相手クラスの方に視線を送る。
「……2-Eが相手だからな」
そしてその中で準備運動をしている瑞音を見つけて目を細めるのであった。
「ククク…………再びこの時が来たな。土神と正面切って勝負できるこの時が……!」
2-Eの集合場所でまるで悪役みたいな笑い声をあげながら瑞音が呟く。
「あ、相川さーん……? 何か凄い悪役っぽい顔になってるけど大丈夫?」
「おっとワリィワリィ」
それを2-Eの女子生徒に指摘され、瑞音は表情を緩める。
「……にしてもよくそんな楽しそうな顔できるなぁ。相手はあの土神がいる2-Cだぞ?」
「何言ってんだ。だから楽しいんじゃねぇか。戦う相手が強敵であればあるほど燃えるもんだろ」
「うわぁ根っからのバトルジャンキーだ。知ってたけど」
瑞音の言葉に呆れ半分感心半分で呟く、隣にいる男子生徒。
「いや土神も要注意だけどそれよりも気を付けるのは霧生だろ。全打席ホームランって何なんだよ……」
今までの試合を見ていた男子生徒は呻くように呟く。
「それについては手が無くもない」
「えっホント?」
「これでも一応同じ部活に所属してるからな。アイツの性格は分かってるつもりだ」
「おぉー、頼もしいなぁ」
「土神にしたってビビる必要は無い。打率10割と言っても全て単打だ。仮に打たれても後続を締めりゃ良いだけの話だ」
「…………なるほど、確かにそうだな!」
瑞音の言葉に励まされたのか、出場予定の男子生徒たちの表情に力強さが見え始める。
(まぁ土神の奴は力をセーブしてるみたいだが……それは言わなくても良いな)
せっかく士気が上がり始めた所にわざわざ水を差す必要は無い。
なので瑞音はその事実を口には出さず胸の内にしまっておくことにした。
「よし、じゃあ肩慣らししておくか。いっちょ頼むぜ」
「程々にしてくれよ……? 受けた後は痺れて手の感覚がほとんど無くなっちゃうんだから」
ボールを手に取り肩を回し始めた瑞音を見て、声を掛けられた男子生徒が力なく呟く。
「ちゃんと捕らないからそうなるんじゃねぇか。真芯で捕ればなんて事ねぇよ」
「いや簡単に言ってくれるなよ! 捕れてるだけでも相当なもんなんだぞ!?」
「うん、まぁ確かに……後ろに逸らさないだけでも大したもんだ」
「と言うかあんな球投げられる相川さんも相当凄いよね」
「格闘技クラブ部長の肩書は伊達じゃないってことだね」
「だねー」
そんな声をバックに瑞音は少し距離を取り男子生徒に向かってボールを投げる。
軽く放り投げた程度ではあるが、それでもボールの軌道は放物線ではなくほぼ直線だ。
「……相川さん、あれだけ凄い球投げられるのに何でソフト部に入らなかったんだろ?」
「ソフトボールよりも今の部活がやりたかったんでしょ。あの部活作ったの相川さんだし」
「にしても……真剣な表情の相川さんの横顔って凛々しいよねぇ」
「あ、分かる! 元々整った顔してるからカッコイイよね!」
「あぁ、女の子なのがもったいない……男だったら絶対告るのに」
「いやもう別に男じゃなくても良いんじゃない? 最近はそういうのにも理解がある社会になってるみたいだし」
「……それ、アリ寄りのアリかも」
「開いちゃう? 新しい性癖の扉開いちゃう?」
「そこ、悪寒が走るようなこと言うの止めろ! そんな趣味私には無ぇ!!」
何やら変なことで騒ぎだした女子生徒たちに瑞音は突っ込みを入れるのであった。
「…………むっ!? 何やら百合百合しいオーラを感じ取りましたぞ!」
「私はキマシタワーの波動を察知いたしましたわ!!」
「突然意味の分からんことを言い出さないでくれるか2人共」
唐突に意味不明な発言をする黒沢さんと白峰さんに突っ込む修也。
「白峰殿! ここは原点回帰として、きのことたけのこを女体化してみるのはいかがでしょうか?」
「なるほど、原点こそ至高という訳ですわね! それはそれで面白そうですわ!!」
「もちろんめんたいこも忘れず女体化させますぞ!!」
「当然ですわ! 仲間外れなんて論外ですもの!!」
「……原点って何なんだろう……」
またおかしな方向で盛り上がりだした2人を修也は冷めた目で見つめる。
「ほほぅ、面白そうな話ではないか」
一方で塔次は興味深そうに2人の話を聞いている。
「おい止めろ! お前が関わると絶対おかしなことになる!」
「良いではないか。ここいらでひとつ販促キャンペーンとしてマスコットキャラを提案してみるのも悪くない」
「それでマジで採用されたらどうする気だ!」
「企業として売り上げが上がるのは喜ばしいことではないか。もしかしたら新しい時代の幕開けに立ち会えるかもしれんぞ」
「そんな大仰なもんじゃねぇだろうが……」
塔次の言葉にがっくりと肩を落とす修也。
「え、えーっと……今、球技大会の試合前……だよね……?」
「あー……まぁさっきもこんな感じだったし」
「ウチのクラスはこれが平常運転よ」
「あはははは!! あっははははははははは!」
その様子を唖然とした様子で見つめる詩歌にフォローを入れる彰彦と爽香。
そして大爆笑する華穂。
「………………」
一方蒼芽は修也がクラスメイトと普通に馴染んでいる様子を温かい気持ちで見ていた。
引っ越してくる前の修也は『力』のせいでクラスの輪から追い出され、孤独な生活を送っていたという。
それが今ではクラスどころか学年の垣根を越えて修也を中心にコミュニティが出来上がっている。
むしろこれこそが修也が受けるべき待遇だと蒼芽は思っている。
ようやく修也はあるべき位置に立つことができたのだ。
そのことを蒼芽はとても嬉しく思う。
(…………良かったですね、修也さん)
蒼芽は心の中でそう呟く。
「土神殿! 土神殿はきのこたけのこめんたいこの中では誰がお姉さまに適任だと思いますかな? 忌憚なき意見をお聞かせくだされ!」
「私としてはきのこに1票ですわ! 『ほらたけのこさん、タイが曲がっていてよ?』『きのこお姉さま……』みたいな感じでどうです?」
「カオスすぎるわ! キャラと世界観が食い違いすぎる!!」
「じゃあさじゃあさ土神君! 誰が一番ブルマが似合うと思う? 私のイメージだとたけのこが一番お尻が大きくて似合うと思うんだよね!! あ、でも小さくてもそれはそれで良いものなんだよねぇ……うーん悩むなぁ、どっちも捨てがたい!!」
「しれっと話に混ざってくんな! 誰が得するんだよそんな世界観!!」
「私に決まってんじゃん!」
その修也は白峰さんと黒沢さんに加え、突如話に加わってきた陽菜にかなり面倒な絡まれ方をしていた。
(え………………えぇーっと…………)
それを見て少々考えを改める必要性があると蒼芽は感じた。
流石にあれを諸手をあげて『良かった』と評価するのは違う気がしたからだ。
試合前だというのに緊張感の欠片も無い空気が漂う2-Cサイドなのであった。
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