守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第32話~

「死ねえええぇぇぇ!!」

そう叫んで男は鉈を大きく振りかぶって修也に向けて振り下ろす。

「……どうしてこういう時って初動から大振りしてくるやつが多いんだろうな?」

しかし振り下ろそうとした時点で既に当たらない場所に移動していた修也はそんなことを呟き考える。

「なっ!? 避けてんじゃねぇよ!!」
「いや当たったら怪我するだろ」

渾身の一撃が不発に終わったことにいら立つ男。
それに対し修也は冷静に返す。

「うるっせぇ! お前の都合なんて知るか!」
「奇遇だな、俺も同じ意見だ。お前の都合なんて知らん」

男がいきり立って振り回す鉈を修也は全て回避する。

「……? なぁなぁ瑞音ちゃん」

その様子をじっと見ていた千沙が瑞音に声をかける。

「ん? どうした千沙」
「なんかさー、兄さんの動きにちょっと違和感というか不思議な所があるような気がするんだが」
「お、千沙も気づけたか」

千沙の言葉を聞いて瑞音は感心して頷く。

「タイミングがずれてるというか、攻撃が来る前に避けてるというか……」
「あぁそうだ。土神はな、見切りの能力がハンパない。どんな攻撃が来るのかがあらかじめ分かってるっぽいんだ」
「え? 兄さんって予知能力があるのか!?」
「いやそうじゃねぇ。土神は相手を見て次の行動を予測して、それに対して最適な行動をとってるんだ」
「マジかよスゲェな! 生半可な洞察力じゃそんなことできねーぜ」
「だよね! 何たって土神先輩は拳銃すら見切れるんだから!」
「1回だけだったら偶然ってことも考えられるけど、何回も避けてたから偶然じゃないよ。土神先輩にはきっと銃弾が止まって見えるのよ」

感心する千沙に陣野君と佐々木さんが更なる情報を加える。

「いや流石にそこまでは……相川の言う通り攻撃の場所とタイミングが分かるという方が近いな」
「なるほどなー、道理であたしの超必殺最終奥義上段後ろ回し蹴りも難なく避けられたのかー」
「いやアレは私も避けてるだろうが……」

納得顔でそう呟く千沙に疲れた声で呟く瑞音。

「まぁ、うん……あれは分かりやすすぎる。確定状況で出すとかコンボに組み込むとかもうちょい工夫をだな」
「人が真剣にブチギレて襲い掛かってんのに呑気に会話してんじゃねえええぇぇぇ!!」

普通に瑞音たちの会話に混ざる修也を見て男はさらに怒りのボルテージを上げる。
しかし怒れば怒るほど思考が単調になり攻撃が単純になる。
そんな攻撃では修也にかすらせることすらできない。

「確定状況って……どんな時があるんだ?」
「そうだなぁ……例えば足払いをして転ばせるかよろめかせるとか。こうやって」

千沙の問いに対してそう言って修也は対峙している男に足払いをかける。

「おわっ!?」

まさか反撃が来るとは思っていなかった男は足を取られてすっ転ぶ。

「これなら相手に隙ができるし、足払いが回し蹴りの予備動作にもなって繋げやすいだろ?」
「おぉーなるほどな!」

修也の実践を交えた解説に感心して頷く千沙。

「流石に実戦で慣れないことやるのは危ないから回し蹴りまでは披露できないけどこういう方法もあるということで」
「サンキュー兄さん! 早速練習してみるぜー!」
「あ、そう言えば今は練習とか試合じゃないんですよね……」

あまりにも緊張感が無いので失念してしまいそうになるが、今は刃物を持って暴れている男に襲われているという状況だ。
そのことを思い出しそう呟く亜理紗であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第32話~

 

「なーなー兄さん、他にどんな時がある?」
「え、まだ続ける気なの?」

まだ話を切り上げない千沙に驚きと呆れが混ざった声で突っ込む亜理紗。

「んー……俺ばっかりの意見だと偏りかねないから他の人の意見も聞いてみたらどうだ?」
「で、土神先輩も応えるんですね……」
「だってこれくらいなら余裕だし。むしろ物足りないくらいだ」
「んだとクラァ!!」

修也の言葉にさらに激昂する男。
……だがそれは男にとっては悪手だ。
さらに思考が単純化して攻撃が単調になる。
本人が気づかないうちにどんどん修也の術中に嵌っていっている。

「じゃあ師匠や瑞音ちゃんは何かあるか?」
「そうだなぁ……意表をついて気を逸らすとか」
「わざと相手に大技を振らせて体勢を崩すとか」

千沙の質問にそれぞれそう答える戒と瑞音。

「後はガードブレイクからのスタンを狙うとか」
「行動不能系の状態異常を付与してやるのも良いな」
「……あれ、途中から何かゲームの話っぽくなってませんか?」

そこに彰彦と塔次も加わるが、趣旨がズレてきていることに亜理紗が首を傾げる。

「テメェらいい加減に……」
「……あぁ、いい加減にお前にはご退場願おうか」
「なっ!?」
「ふっ!!」

男の注意が千沙たちに向いた隙に懐に飛び込む修也。
その勢いを乗せて左肘を男の鳩尾にめり込ませる。

「ぐぶっ!?」

突如襲ってきた腹部への衝撃に男の動きが止まる。

「せいっ!!」

そこから修也は追撃で右の掌底を再び男の鳩尾に叩き込んだ。

「がはぁっ!!?」

二度の衝撃で男は白目を向き、立っていられなくなったのかその場で蹲って動かなくなった。

「よーしいっちょ上がりー」

それを見た修也は構えを解き、パンパンと手を払う。

「流石です土神先輩! 今日も凄かったです!!」
「いつ見ても凄い動きですよね土神先輩」

それを見た陣野君と佐々木さんが目をキラキラと輝かせる。

「いや今回は相手の凶器に助けられたかな。形状の関係上突きは絶対に来ないし、刃の向きがあるから攻撃の方向が結構分かりやすいんだ」
「だからって冷静に判断できる胆力は大したもんだよな。前のハンマー男の時もそうだったけど」

アミューズメントパークでの事件を思い出しながら彰彦が呟く。

「全くよね、一撃でも当たったら即死なのにそんな状況で冷静にいられる自信は私には無いわ。これもう土神君に攻撃を当てられる人なんて」
「おにーーーさーーん!!」
「んげっふぅ!!?」
「…………いたわね」

下手したら命が奪われかねない状況でも余裕の対応を見せる修也を感心しながら見ていた爽香だが、その直後に由衣の飛びつきをまともに食らったのを見て呆れ顔になる。

「おぉー! スゲェなゆーちゃん、あの兄さんに一撃を食らわせるとは!」
「いやあれは攻撃じゃないでしょ」

そんな由衣を見て目を輝かせる千沙と呆れる亜理紗。

「この前も今日も凄いよおにーさん! かっこいいー!」
「そ、そりゃどうも……」

至近距離からの全開笑顔の由衣を見て何と言ったら良いか分からず修也は視線を外す。

(…………ん?)

だがその外した視線の先で妙なことに気付いて怪訝な表情になる。
修也の視線の先にいるのは先程倒した鉈男だ。
男は先程の蹲ったままの姿勢のまま動かない。
だが、鉈を握る手が…………緩んでいない。

「…………まさか!?」
「うばらあああぁぁぁぁ!!」

ひとつの懸念が修也の脳裏を掠めたのと男が飛び起きたのは同時だった。
人体急所を2回も突いたが倒し切れていなかったらしい。
突如奇声を上げて起き上がった男を見て全員驚いて竦み上がる。
その隙に男は大きく鉈を振りかぶった。

(ヤバい、今は避けられねぇ!!)

今修也は由衣に抱き着かれている状態だ。
それではとても動きを先読みして避けることなどできない。
修也は由衣を守る為に腕を上に構える。

「無駄無駄ぁっ!! その腕ごと叩っ切ってやる!!」

それを見ても男は止まらず、両手で修也に向かって鉈を振り下ろした。

「い、いやあああぁぁぁ!!」

詩歌の悲鳴が辺りに響き渡る。

ガギィンッ!!

……しかし鉈が修也の腕を切り落とすことは無かった。
耳障りな金属音が辺りに響いたたけだ。
それどころか1ミリも修也の腕に食い込んでいない。
むしろ鉈の刃が修也の腕に負けて曲がっていた。

「は…………はぁ!?」

男は信じられないものを見たような目をして叫び声を上げる。

「ふぅー……助かった。メンテナンスを怠っていたせいで切れ味がゼロだったみたいだな」
「い、いやいやいやいやそんな訳ねぇだろ!? 仮に切れ味ゼロでも骨を折るくらいはできるだろうが!!」
「現実はそこまで甘くないってことだな。じゃあ今度こそトドメだ!」
「は?」
「そいやぁっ!!」

混乱状態に陥る男を尻目に由衣を避難させた修也は三度男の鳩尾に正拳を叩きこむ。

「げぶぅっ!!?」

男はガクガクと足を震わせ、鉈を取り落として今度こそ倒れて動かなくなった。

「…………2回急所に直撃させたから倒せたと思ってたんだけど見込みが甘かったか……俺もまだまだだな」
「あの…………修也さん」

自身の失敗を反省している修也の横にそっと蒼芽が寄ってくる。

「ん?」
「その……状況的に他の手が無かったのは分かりますが……」
「…………!」

蒼芽に言われて修也はハッとすると同時に血の気が引く。
さっき修也は鉈を防ぐために『力』を使った。
銃弾や高速トラックでも傷ひとつ負わないのだから、人の手で振り下ろした鉈程度では痛くも痒くもない。
自分は無傷で由衣も守れたので結果だけで言えば最上だ。
しかし、皆の前で『力』を使ってしまったのは致命的だ。

(最悪だ……せっかく今まで隠し通してきたのに……)

かつて他人を守る為に『力』を使った結果、遠巻きにされ爪弾きにされるという目に遭った。
今回も似たような状況だ。
ということは結果も似たようなものになりかねない。
ハッキリと見られている以上今までのように誤魔化すことも難しいだろう。

「土神君……あなた今、鉈を素手で止めたわよね? それも白刃取りとかじゃなくて腕を盾にして」

代表して爽香が尋ねてくる。

(…………やはり見られてたか……)

修也は心の中で諦めの境地で天を仰ぐ。
これが長袖だったら服の中に何か仕込んでた……と苦しいながらも言い訳できなくもないが、今は夏間近で今日の修也は半袖だ。
そんな言い訳も立たない。

「それに鉈を止めた時に出た音はとても人体を殴った音には聞こえなかったんだが……」

彰彦も疑問を口にする。

(……これはもう、正直に話すしかないか……)

話した結果引っ越し前と同じ事になるかもしれないが、適当に誤魔化して切り抜けることはもう無理だろう。

「…………実は皆には黙っていたことがあるんだが……」
「えっ? 修也さん……良いんですか?」

この中で唯一事情を知っている蒼芽が心配そうに尋ねてくる。

「あぁ。もう隠し続けることはできないだろ」
「そうかもしれませんが……」
「……俺には普通とは違う、超能力とでも言うべき力がある。俺が触れたものや俺自身を『硬くする』という力が」

覚悟を決めた修也は自身の『力』について語り始める。

「これを使えば拳銃で撃たれようが大型トラックに撥ねられようがナイフで刺されようが全くの無傷でいられる……そんな力だ」
「……あっ!」

修也の挙げた例に心当たりのある面子が驚きの声をあげる。

「パッと見では分からない地味な力だが、気味が悪いものに違いは無い。現に引っ越し前の町では化け物を見るような視線に晒され続けてた。その結果常に人目を気にして避ける生活を余儀なくされたんだ」
「妙に壁みたいなものを感じるのはそういう訳だったのね……」

今までの修也の立ち振る舞いに違和感を覚えていた爽香が納得したような表情で呟く。

「だから、引っ越してきてからはバレない様に徹底的に抑え込んでたんだが……」

だがそれも終わってしまった。
こうやってはっきりと見られてしまった以上今までの生活に戻ることは……

「…………ん?」

これからの暗い未来を予測し俯く修也の肩に重みが加わった。
目線を上げると瑞音が修也の肩に手を乗せていた。

「相川…………お前何でそんなに目輝かせてんの?」

そして何故かメチャクチャ良い表情をしていた。
そのことに修也は疑問を呈する。

「土神、お前ってやつは…………本当にどこまでもどこまでも私の期待の上を行ってくれるな!」
「え?」
「流石私が見込んだ男なだけはある。控えめに言っても最高過ぎるじゃねぇか!!」
「話聞いてたか? 俺は普通とは違う力を持っていて……」
「何だそれでアドバンテージを主張するつもりか?」
「いやそんなつもりは……」
「甘いぜ土神! そんなもんアドバンテージになりゃしねぇ。むしろイーブンになったくらいだ」
「……ん?」

瑞音の発言に引っかかりを覚えた修也は首を傾げる。

「へぇー、兄さんもそう言う能力持ってんのか! 瑞音ちゃんと一緒だな!!」
「は、はいぃ!?」

そして千沙の発言に息をのむ。

「相川と一緒ってことは……」
「あぁそうだ。特に言う必要も無いから黙ってたが、私もそういう能力を持っている。土神みたいに硬くするわけじゃないがな」

何でもないことの様にさらっと言ってのける瑞音。

「それじゃあどういう……」
「私の場合は『重くする』だ。私が触れたものや私自身を重くする……そんな能力がある。まぁ実際見た方が早いな。ちょっとこれ持ってみろ」

そう言って瑞音は道に落ちていた小石を修也に手渡す。

「そしてこの小石に……」

そう言いながら瑞音は小石を持つ手に力を入れる。
ちょうど修也が『力』を使う時と同じような感じだ。

「…………ん? 小石が段々重くなっているような……?」

修也は次第に自分の手にかかる小石の重さが増しているような気がしてきた。

「まぁ重くするスピードを早くしすぎたら下手したら手を突き抜けるからな」
「さらっと怖いこと言うなよ!!」

物騒なことを口走る瑞音に突っ込む修也。

「こういう能力を持ってると何をするにしてもフェアじゃない気がしてたんだが……土神が似たような力を持ってるんなら本当の意味で遠慮はいらねぇな!」

そう言って瑞音は心底楽しそうに笑う。

「……こういうリアクションされたのは初めてだな……」

未だかつてないリアクションに少々戸惑いつつも、引っ越し前とは全く違う展開に安堵する修也であった。

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