守護異能力者の日常新生活記 ~第6章 第5話~

「……なんかすっごい濃い一日だったな今日は……」

ファミレスからの帰り道を歩きながら修也はそう呟く。
白峰さんたちから始まり、陽菜・理事長・優実と不破警部・そして瀬里。
途中の蒼芽たちは良いとして、色々と考え込まされることの多い話ばっかりだった。
そのせいで体力はまだまだ余裕はあるものの精神的な疲れが尋常ではない。

「こういう時はさっさと帰って夕飯食べて風呂入って寝るに限るな、うん」

流石にこれ以上誰かに絡まれることはないだろう。
寝る前に蒼芽が部屋にやってくるかもしれないが、蒼芽ならきっと話せば事情を分かってくれる。
それに蒼芽とだったら別に話をしていても負担は無い。
そう考えて修也は舞原家への道を歩く。
程なくして舞原家に着いた修也は玄関の扉を開ける。

「ただい」
「あっ! おにーさんだー!!」
「ごっふぉおお!!?」

しかし開けた瞬間、中にいた由衣が入ってきた修也の姿を見て飛びついてきた。
色々予想外の出来事に流石の修也も対応できず由衣のタックルをまともに受けてしまう。

「もー、おにーさん帰ってくるの遅いよー」
「ま、まぁ色々あってな……それよりどうして由衣ちゃんがこっちにいるんだ? 蒼芽ちゃんと遊んでたのか?」
「んー……それもあるんだけどー、ちゃんと他にも用事があったんだよー。それでおにーさんが帰ってくるのを待ってたのー」
「あれ、俺に用事だったのか? そりゃ悪いことしちゃったな」

特に約束などをしていたわけではないのだが、結果として由衣を待たせることになってしまった。
そのことに対し修也は軽く謝る。

「それで俺に何の用かな?」
「えっとねー、リビングまで来ておにーさん」

修也の問いに対し、由衣は修也の腕を引っ張ってリビングに来るよう促す。
由衣に引かれるままにリビングへ足を運ぶ修也。

「あ、お帰りなさい修也さん」

そこにいたのは、先に帰っていてすでに部屋着に着替えていた蒼芽と……

「お帰りなさい修也さん。今日もお疲れ様でした」

食卓にある自分の場所の椅子に腰かけている紅音と……

「あっ! キミが噂の『おにーさん』だね? やっと会えたよっ!」

紅音の正面の椅子に座っている、今まで修也が見たことのない女性だった。

「…………? 由衣ちゃん、君にはお姉さんがいたのか?」

その女性を見て修也は由衣に尋ねる。
修也がそう尋ねたのは、笑顔を向けてくるその女性が由衣を一回り大きくしただけのような人だったからだ。
ヘアバンドを付けていたら由衣と見分けがつかなくなる可能性も十分ある……そんな人だ。

「うぅん、私は一人っ子だよー?」
「え、じゃあこの人は……」
「私のおかーさんだよー!」
「えっ……えぇ!?」

得意気に自分の母を紹介する由衣に修也は驚きの声をあげるのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第6章 第5話~

 

「そのとーりっ! 今紹介してもらった通り、私は由衣ちゃんのお母さんの平下由紀(ひらした ゆき)だよっ!」

席を立ちながらそう自己紹介する由紀。

「そうなんですね……すみません、勘違いしちゃって……」
「いーのいーのっ! いつものことだし若く見られるってことで悪い気はしないからっ!」

謝る修也に対して由紀は全く気にする素振りを見せず笑う。
事実由紀は相当若く見える。
紅音も随分若く見えるが、由紀はそれ以上である。
高校の制服を着ていたら普通に高校生なのかと納得してしまえそうなくらいだ。
それなのに陽菜たちよりも年上だというのだから驚きである。

「でもおかーさん、おとーさんのお酒買うときいつもレジの人に年齢聞かれるのが面倒だって言ってたよねー?」
「そーなんだよねー。そーゆー時は面倒だなーって思うよ」

由衣の言葉を聞いて困ったように首を傾げる由紀。

「でもねっ、長所も短所も全部ひっくるめて個性なんだと私は思うなっ!」

そう言って由紀は朗らかに笑う。

「……姉とか母とかは置いといて、由衣ちゃんの身内だとすっごく納得できる人だ……」
「ふふっ、ありがとうおにーさんっ!」
「え、あれ? えっと……由紀さん……って呼べば良いんですかね?」
「うんっ! それで良いよっ!」
「その……由紀さんも俺のこと由衣ちゃんと同じように呼ぶんですか?」

由衣は年下なのでそう呼ばれることに違和感はないが、由紀は間違いなく修也よりも年上である。
それなのに『おにーさん』と呼ばれるのはどうにも変な感じがする修也。

「それはあれですよ。相手が誰だろうと男の人を『お兄ちゃん』っていう人いるじゃないですか。それと同じようなものと考えれば」
「あ、なるほど……そう言われると納得行くかも」

だが蒼芽にそう言われ、修也は以前食堂のおばちゃんにもお兄ちゃんと呼ばれたことを思い出した。
『あなた』だとか『彼』のような呼称だと考えれば不自然さは無い。

「……それで、今日はどのような用事で……?」

由衣は先程修也に用事があると言い、リビングでは由紀が待っていた。
ということは修也に用事があるのは由紀なのだろう。
そう見当をつけて修也は尋ねてみる。

「あっ! そうそう、おにーさんにお礼を言いたくてねっ! 今まで都合がつかなかったけど、やっと時間が取れたの」
「お礼?」
「うんっ! いつも由衣ちゃんと仲良くしてくれてるのと、この前由衣ちゃんが誘拐されかけた時にすぐ助けてくれたことのお礼だよ!」
「あ、あぁ……」

そういえば中等部の体育祭の時に会いたがっていたと由衣が言っていたのを修也は思い出す。

「最近の由衣ちゃんはずっとおにーさんの話ばっかりなんだよねっ」
「えへへー」
「すごく優しくて強くて癒し系だってとっても楽しそうに話すの」
「いやいやいやいやちょっと待って? どれもこれもおかしくない?」

にこにこと笑いながら言う由紀に待ったをかける修也。

「えー、間違ってないよー? おにーさん、いつも遊んでくれて優しいもん」
「それに強いのも間違ってませんね。今まで相川さんや霧生さんとの試合も含めて完全にノーダメージじゃないですか」
「ちーちゃんとの試合でもちーちゃんの攻撃に1回も当たらなかったもんねー」
「いやそもそも新塚は1回しか攻撃してないし、その1回も狙い丸分かりの当たる方が難しいものだったじゃないか」

あれだけ予備動作が大きくて尚且つ技名を大声で叫んでいたら、修也でなくてもどんな攻撃が来るか分かる。

「……なるほど、確かにおにーさんは癒し系だねっ!」

そんな修也たちのやり取りをじっと見ていた由紀がそう口走る。

「でしょー?」
「やっぱりそうですよね?」
「いやどうしてそうなるんですか」

由紀に同意する由衣と蒼芽に対して疑問を呈する修也。

「だって由衣ちゃんも蒼芽ちゃんもすっごい楽しそうなんだもん。それだけで十分分かるよっ!」
「これだけたくさんの人に言われてるんですからもう否定のしようはありませんよね?」
「えぇー……」

異論は認めないと言わんばかりの圧を感じる蒼芽の笑顔に修也は何とも言えなくなる。

「そもそも修也さん、そういった評価は周りが下すものであって自分自身がどう思うかはあまり関係ありませんよ?」
「それを言われると……」

紅音の言う通り、人の評価というものは自分自身ではなく周りの人間がつけるものだ。
その周りがそう言っているのであれば認めざるを得ないということなのだろう。

「というわけで修也さんはゾルディアス流癒術も習得しているということです」
「それは違うでしょ。てかもう何個目ですかそれ」

だがそこに関しては紅音だけが言っていることなので当てはまらない。

「まっ、そーゆーわけだよ。ありがとねおにーさんっ!」
「話が逸れ過ぎて何が何だかよく分からなくなってきましたが……お礼は受け取って」
「……と言っても言葉だけじゃ嬉しくないよねっ?」
「……え? いやそんなことは無いですよ言葉だけで十分嬉しいですというかむしろ言葉だけに留めてください」

由紀の言葉に何やら嫌な予感がした修也は先回りしてくぎを刺す。

「まーまーそう言わずにっ! おにーさんは由衣ちゃんのピンチを救ってくれた人なんだから言葉だけじゃ私の気が済まないんだよっ!」
「いやそうは言ってもですね……」
「由紀さん、修也さんは私や由衣ちゃんの他にも色んな人の人助けをしてきててですね、その中にはこの町を作った資産家に縁がある人もいるんですよ」

やんわり辞退しようとする修也に食い下がろうとする由紀に蒼芽が助け舟を出す。

「へぇー! 流石だねおにーさんっ!」
「そのお礼で学費免除だとかアミューズメントパークの永年フリーパスだとか凄いものを貰っちゃって……」
「なので言い方はアレなんですが、やったことに対する見返りがデカすぎるということが何度もあったせいでお礼という言葉にちょっと警戒心を持つようになってしまって……モールの商品交換券とか未だに持て余してるし」
「あ、そう言えば私もそれ財布の中にしまったままでした……」

修也の言葉で自分の財布の奥底に眠っている券のことを思い出した蒼芽。
どうやら今の今まで忘れていたらしい。

「ゴメンな蒼芽ちゃん……とばっちりみたいなもんだよなアレ」
「あ、あはは……ホント何に使いましょうねアレ」

謝る修也に対して蒼芽は困った顔で乾いた笑い声をあげる。

「あははっ、そんな凄いものじゃないよっ! ただうちでご飯をごちそうしようってだけだからっ!」

そんな修也と蒼芽に対して明るく笑いながらそう言う由紀。

「あ、割と普通……なのか? え、普通なんだよなこれ? 色々ありすぎて普通って何なのか分かんなくなってきてる俺がいる……」
「だ、大丈夫ですよ修也さん! これはごく普通です! 何かのお礼にご飯に誘うのはかなり一般的ですから!!」

難しい顔をして頭を抱えだした修也を蒼芽は懸命に諭す。

「あっ、そーだ! それだったら一緒にお泊り会もしようよー!」

その横で由衣がそんなことを言いだした。

「……普通か? これは普通なのか?」
「え、えぇと……」

修也の問いに今度は言葉が詰まる蒼芽。
お礼に食事に誘うまでは普通かもしれないが、そのままお泊り会に移行するのは流石に普通とは言えないだろう。

「あっ、待って待って由衣ちゃん」

そんな由衣の提案に由紀は待ったをかける。

(……うん、そりゃそうだ。今俺が置かれている状況みたいなものならともかく、いくら何でもそれが通るわけがない)

それを見て修也は内心で安堵の息を吐く。
修也が舞原家に身を置くことになったのはやむを得ない事情があったからだ。
蒼芽や紅音がそういったことに一切抵抗が無かったため成り立っているが、一般的には色々と問題がある。
それを懸念して由紀は由衣を止めに入ったのだろう。
修也はそう考えていたのだが……

「それなら今日じゃなくて週末の方が良いよっ! 翌日はお休みだからいっぱい遊べるし」
「あ、確かにそーだねー」
「えっ!? 理由それなの!?」

由紀が由衣を止めた理由が想像していたものと全く違っていたことに驚く修也。

「え? 他に理由あるかな?」

そんな修也に対し由紀は真顔で尋ねる。

(……あ、この顔は本気で他に全く問題がないと思ってる顔だ)

その表情から由紀の考えを読み取る修也。

「いや……蒼芽ちゃんならともかく俺みたいな若い男が一緒にお泊り会とか」
「あっ、もちろん蒼芽ちゃんも一緒だよっ!」
「わーい! おねーさんとのお泊り会は久しぶりだねー!」
「いやだから問題なしみたいに言われても」

満面の笑みでそう言われても修也としては戸惑いしかない。
信頼されていると言えば聞こえは良いが、素直に喜んでいいのかどうか分からない。

「あっ、ちゃんとお客さん用のお布団はあるから安心してねっ?」
「ずれてる、色々と……」
「あ、あはは……」

由紀の気遣いポイントがずれていることに再び頭を抱える修也に苦笑いを浮かべる蒼芽。

「えー、せっかくだったら皆で私のお布団で寝ようよー」
「いや由衣ちゃん、それは大問題だから」
「ほえ、何でー?」

とんでもないことを言いだした由衣を窘めようとする修也だが、由衣は何が問題か分かっていないらしい。

「あのね由衣ちゃん、3人も一緒に寝たら狭くてゆっくり眠れないでしょ?」
「あ、そっかー」
「いやいやちょい待て蒼芽ちゃん」

修也に代わって諭した蒼芽の言葉には頷いた由衣だが、それはそれでおかしいと修也は突っ込む。

「いやこれは方便ですよ修也さん。由衣ちゃんには倫理観よりもこういう物理的な問題点を突いた方が納得してくれるんです」
「あ、なるほどね……」

だがその後すぐに耳打ちしてきた蒼芽の言い分に納得した。
流石付き合いが長いだけあって扱いに慣れている。

「じゃあ由衣ちゃんの部屋で蒼芽と修也さんが一緒のお布団で寝るということで」
「お母さん!?」

だが紅音のトンデモ発言には慣れていなかったようだ。

「由衣ちゃんは一度寝たら簡単には起きないからちょっとくらい物音立てても大丈夫だよっ!」
「何が大丈夫なんですか!?」

さらに由紀まで悪ノリに加わってきた。

「3人は確かに狭いけど2人なら言うほどでもないでしょう? だったらせっかくのお泊り会なんですし」
「……せめて蒼芽ちゃんと由衣ちゃんが一緒に寝て俺は別の布団ってことになりませんかね」
「……そうですね、それが落としどころですね……」

これ以上あれこれ言っても事態は自分の望む方向には転がらない。
そう悟った修也は妥協案を提示する。
蒼芽も修也の意図を汲み取ったようで乗ってくる。

「ゴメンな蒼芽ちゃん。蒼芽ちゃんも俺が同じ部屋で寝てるなんて嫌だろうけど……」
「あ、嫌かどうかと言われたらそれは別に……」
「そーだよー、おにーさんは癒し系なんだから一緒の部屋にいたらきっと落ち着いてぐっすり眠れるよー」
「『癒し系』という言葉に蒼芽ちゃんの言うところの『可愛い』みたいな汎用性を求めないでくれるか由衣ちゃん。何でもかんでもそれ言えば解決みたいになっちゃうから」
「何言ってるんですか修也さん。可愛いは万能ですよ!」
「えぇぇ……」

段々場の空気が混沌としてよく分からないことになってきた。
それでもスケルス関連で真面目に頭を悩ませるよりかはまだマシである。
……と無理やり自分を納得させることにする修也であった。

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