「…………おっ、陽菜ー! 土神くーん! こっちこっちー!」
「悪いわね、先に注文させてもらったわよ」
陽菜と共にファミレスに行くと、瀬里と優実は既に来て席についていた。
2人を見つけた瀬里が立ち上がり大きく手を振る。
優実も席を立ちこそはしないものの修也に向かって小さく手を振ってくれた。
「やーやー揃ってるね!」
「すみません七瀬さん、急に呼び出すようなことをして」
「良いのよ気にしないで。陽菜が言いだしたことなんでしょう?」
「えぇまぁ。でも相談したいことがあったのも事実なので」
「それこそ気にしないで大丈夫よ。不破警部からもしっかり相談に乗ってやれと言われて快く送り出してくれたわ」
申し訳なさそうに頭を下げる修也に対して軽く微笑む優実。
やはり修也の予想通り不破警部はあっさりと許可を出したらしい。
(……不破さんにもいつか機会があれば礼を言っとかないとな……)
いくら修也が今まで何度も警察に貢献してきているとはいえ、人員を割かれると部署の負担になるのは間違いない。
なのに快く優実を送り出してくれた不破警部には感謝しかない。
「ねぇねぇ土神君、私は? 私には申し訳なく思わないのかな?」
「いやもちろん高代さんも仕事中に呼び出すようなことをしてしまったのは申し訳なく思ってますよ」
「へへーん、だったら……」
「気にしなくて良いわよ土神君。瀬里の職場はこういうことに割と融通が利くから」
「ちょっ! 優実、それは言わない約束でしょ!? ありがたみが減るじゃん!! この恩にかこつけて土神君のゴシップなネタをゲットするつもりだったのに!」
「いや何やろうとしてるんですか」
しれっと言う優実に突っかかる瀬里に修也は突っ込む。
「まぁそれは置いといて、私も優実と同じで最近この辺で起きてる事件の取材になるって上司に言って許可貰ってるから気にしなくて良いよ!」
「なら良いんですけど」
とりあえず2人の仕事の邪魔にはなっていないようで安堵のため息を吐く修也。
「…………まぁ私としても舞原さんと最近どうなってるのか気にならないと言えば嘘になるけど」
「七瀬さん七瀬さんあなたがそっち側に回られるとマジで収集付かなくなるので自重してください」
「あぁそうねごめんなさいね」
ポロっと本音が出た優実を修也は諫める。
ただでさえ陽菜と瀬里という二大面倒くさいやつがこの場にいるのだ。
修也1人ではとても捌ききれないというのに優実まで加勢されるとこの場は混沌と化する。
優実もそのことの重大さに気づいてすぐに咳払いして気を取り直す。
「ねーねー土神君、それじゃあ私はどうなのかな?」
「いやアンタはむしろ連れ出した方だろうが」
そして話の流れに便乗してきた陽菜に修也は半眼で突っ込みを入れる。
「陽菜あなた……土神君の都合も考えなさいよ。私たちは慣れてるから良いけど」
「でもこれくらい強引な人が1人くらいいた方が話はスムーズに進むってもんさ!」
「……まぁそれも否定できないけど」
一方で優実は呆れ顔で、瀬里は納得顔でそれぞれ頷くのであった。
2人にとってこれは別に珍しいことでも何でもないらしい。
守護異能力者の日常新生活記
~第6章 第15話~
「……で、土神君からの相談というのは……やはり例の件かしら?」
「おっ、あれから何か進展はあったのかい? 詳しく聞かせておくれよ!」
ある程度事情を聞いている優実と瀬里から話を促される。
「えー、なんだよ私は聞いてないぞー? 私に内緒で何をやってんだよーぅ?」
唯一事情を聞いていない陽菜がそれを聞いてむくれて不満を口にする。
「あまり楽しい話じゃないのよ。それにぺらぺらと口外するのも憚られるわ」
「まぁこの前の脅迫状の件とも繋がりがあるしね」
そんな陽菜に対しフォローと弁明を入れる優実と瀬里。
「何言ってんのさ、それを楽しい話にするのが私たちでしょうがっ!」
「まぁそれも一理あるねっ!」
「無いわよ」
おかしな主張をしだした陽菜とそれに乗っかる瀬里を優実は切って捨てる。
「真面目な話なんでちょっと自重してください。で、七瀬さん。この前駅前で暴れてた鉈男のことですが……」
「あぁ、その件の報告は私のところにも来てるわ。守秘義務の関係で言えることに限りはあるけど」
修也の質問に優実は頷きながら答える。
「あっ、それなら私も調べてるよ! 何か勤めてた会社に不満があったとか」
「そうね、年功序列から実力主義に方針を変更してそのあおりを受けた形で職を失ったことによる恨みが動機らしいわ」
「んーまぁやっちゃいけないことをやったのは擁護できないけど、急な方針転換を恨む気持ちは分からないでもないなぁ」
「まぁ確かに……急に真反対の方針で運営していきますとか言われたらどこかから反発が出てくるのはある意味当然なんでしょうね」
一定の理解を示す陽菜に修也も理解を示す。
あの鉈男に関しては他にも理由がありそうだが、改革にはそういう確執が発生するのは世の常なのだろう。
「でしょ? 私も『明日から体操服はスパッツに変えます』とか言われたら理事長室に殴り込みに行きそうだし」
「あぁ? それはスパッツ派の私に対する挑戦状と見た! 受けて立つぞコノヤロー!!」
「上等だコラ! 今日こそブルマとスパッツのどちらが上か白黒付けようじゃないの! ブルマの未来は私が守る!!」
「自重しろと言われたばかりでしょうが」
早々に脱線しかけた瀬里と陽菜を優実が止める。
「でも陽菜の心理はある意味正鵠を射ているわ」
「だよね! やっぱ体操服はブルマに限るよね!!」
「そこじゃないわよ。企業の決定に不服があるなら企業に訴えるというところよ」
「あ、そうか。あの鉈男、自分の会社じゃなくて町中で不満を訴えていたな」
あの時の鉈男の言葉を思い出した修也はそう呟く。
「それに方法も最悪だった。きちんと法に則って訴えればいいのに暴力という手段に出てしまった」
「あるいは訴えたけど相手にしてもらえなかった……とか?」
優実の言葉を聞いて修也は仮説を打ち出す。
「なるほど確かにそれまでも色々やらかしてたみたいだしねぇ。会社側としては解雇するに十分で正当な理由があったってことか」
「そうなると経営の方針転換は辞めさせる為の建前という可能性もあるわね」
修也の仮説に頷く陽菜と優実。
「つまり……『うちはこれからこの方針で行く。賛同できないなら辞めてくれ』みたいな理由をつけたわけですか? それって問題無いんですかね」
「さぁ……その辺は私は専門外だから何とも言えないわ」
疑問顔の修也に対して優実は首を横に振る。
「仮にそうだとしても鉈持って暴れて良い理由にはならないよね」
「そもそも鉈持って町中で暴れるなんて発想になんで繋がるかなぁ……?」
「……もしかしたら、トラックの暴走やこの前の誘拐事件と同じなんじゃない?」
修也の呟きに瀬里が真面目な顔で問い返す。
「! まさか、スケルス……!?」
「……もしそうだとするとかなり厄介な話になるわね」
瀬里の言葉に修也と優実が難しい顔で唸る。
「俺がこの町に引っ越してきてから起きた事件は、もしかしたら全部スケルスが引き起こしたことなのか……?」
「ん? ちょい待ち土神君。君の先輩である姫本さんの時の話は違うんじゃない? あれは猪瀬家の子が主犯でしょ?」
「いやそれが……猪瀬とスケルスに繋がりがあったんです。そのことも共有したくて」
「なんと!」
修也のもたらした情報に瀬里は驚きつつも興味津々といった感じで身を乗り出す。
「それは警察の立場からしても興味深い情報ね。詳しく教えてくれるかしら」
優実も目を光らせて修也に問いかける。
「高代さんには少し話したんですが……あの件以降猪瀬は改心しまして、素行がかなり良くなったんです」
「あー確かに、悪い噂は聞かなくなったね。むしろ別人じゃないかってくらい善人になったって話はよく聞くよ」
「正直アレはアレで気味悪いしやりにくいですがね……」
修也は呻くように呟く。
誰だって異様に卑屈になってすぐに腹を切りたがるようなやつの相手は面倒以外の何物でもないと思うだろう。
それまでが傲岸不遜な人間だったなら猶更である。
「まさか、それもそのスケルスってやつが関わって……」
「いや多分それに関しては関係無いかと。確かに人格崩壊してますけど」
サスペンスチックな表情をする瀬里に突っ込む修也。
これに関しては塔次のマインドコントロールが原因でスケルスは関係ないと分かっているので考慮に入れる必要は無い。
「まぁそれもそっか。自分から悪人を名乗るやつがちょっと気味悪くても結果的に良いことになるようなことやるわけないもんね」
ただ瀬里は一般的な心理からそれはあり得ないという結論に行きついたようだ。
それも間違いではないだろうから修也は訂正しないでおく。
「話を戻して……改心する前にスケルスが接触してきたことがあるという話を本人から聞いたんです」
「となると……少し話が繋がるところが出てくるわね」
修也の言葉に神妙な顔で考え込む優実。
「えぇ、多分猪瀬の当時の部下たちが言っていた『消される』とは、スケルスが関わっています」
「そしてあの誘拐犯もスケルスに『消された』……」
「え? 滅びたのその誘拐犯?」
優実の呟きを聞いて陽菜が聞き返す。
「一応は生きてるわよ。でも社会復帰はほぼ絶望的でしょうね」
「そりゃーこんだけの騒ぎを起こしちゃーねぇ?」
「寧ろそんな全国の少女の敵なんざ復帰させちゃダメでしょ」
「それもあるけど……そもそも復帰させたくてもできないのよ。言ったでしょう? 『一応は』生きてるって」
嫌そうに顔をしかめる瀬里と陽菜を見ながら首を横に振る優実。
「それはつまり……本当に生きてる『だけ』ってことですか?」
「えぇ。あれから状態は一向に改善されてないわ。起き上がることも話すことも無い。さらに言うなら意識も無い。でも最低限の生命活動は何とか続いている……そんな状態よ」
「………………」
優実の言葉に修也は押し黙る。
聞けば聞くほどスケルスの危険人物の度合いが上がっているような気がする。
「良いじゃん良いじゃん、ますます闇の組織っぽくなってきたねぇ! 面白くなってきたよ!!」
「……えらく楽天的ですね高代さん。俺は物凄く気が重いですよ……」
あっけらかんとしている瀬里を見て修也は重いため息を吐く。
「まぁ私は言ってしまえば部外者だからね!」
「ぶっちゃけた!?」
「でも部外者は部外者なりにできることがあるんだよ」
「できること……?」
「例えば……敢えておちゃらけた態度をとることで場の空気を暗くならないようにする、とかね」
「……!」
「あぁー、会議とかで意見を出しやすくするために敢えてふざけたりとかするよね」
「昔王宮とかでは道化師を呼んで緊張をほぐしていたという話も聞いたことがあるわ」
瀬里のたとえにハッとする修也。
陽菜や優実も同調するあたり実際によくある話なのだろう。
「土神君、何も君が全部責任を背負い込む必要は無いんだ。1人で全部何とかしようとするのにはまだまだ人生の経験値が足りないね」
「瀬里の言う通り、君はまだ若いし子供だ。私らみたいな人生経験豊富な大人に頼れるときは思い切り頼れば良いんだよ」
「高代さん……藤寺先生……」
「…………って誰が年増だゴルァアアア!! 私ら同い年だろうがっ!!」
「あぁん? やんのかコラァ! 上等だ、表出ろぃ!!」
「!?」
修也を諭すような優しい口調だった瀬里と陽菜が突然同時に激高しだした。
お互い胸倉をつかみ額をぶつけて叫びあう。
2人のあまりの剣幕に驚く修也。
「……ごめんなさいね土神君。この2人、真面目な話を10分以上続けることができないのよ」
「あぁ……何か理解できてしまう自分が嫌だ」
呆れる優実の呟きに修也も同じく呆れるしかできない。
「ちなみに本気で怒ってるわけじゃなくてただのネタとノリだから気にしなくて良いわ」
「え? でも結構マジなトーンに聞こえ」
「というわけで土神君、最後の審判だ! ブルマか!」
「それともスパッツか!?」
「「今日の君の注文はどっち!!?」」
「……ホントにネタとノリでしたね」
「でしょう?」
本気で喧嘩を始めかねない勢いだったが、優実の言う通りただのいつものノリだった。
それを見た修也の両肩に疲労感がどしどしとのしかかる。
「気を張り詰めすぎるのも考え物だけど自重しろとさっきから言ってるでしょうが」
「あだぁっ!?」
修也に詰め寄ってきた瀬里の脳天に優実の手刀が突き刺さる。
「ふふんっ、それは私には通用しないよっ! 見よこの身のこな」
「七瀬さん右です」
「了解」
「あべしっ!?」
自分にも降りかかってきた優実の手刀をいつものように避けようとした陽菜だが、陽菜の動きを見切った修也の言葉で軌道が変わり直撃してしまった。
そのまま瀬里同様机に突っ伏す陽菜。
「……流石ね土神君。やはりあなたの動体視力はずば抜けてるわ」
「七瀬さんもよく反応できましたね。お見事です」
どことなく満足げに呟く優実に修也は称賛を送る。
「これで積年の鬱憤を0.1%くらいは晴らせたわ」
「……鬱憤溜まりすぎじゃないですか? 気持ちは分かるけど」
高校時代からの付き合いとなるともう10年近くになる。
それだけ優実はこの2人に苦労させられたということになる。
その心情は計り知れない。
「やっぱり土神君、あなた警察に来ない? そして私の相方になってくれないかしら」
「数ある選択肢の1つとして考えるくらいはしておきます」
冗談とも本気ともとれる優実の誘いを修也もまた軽口で受け流すのであった。
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