守護異能力者の日常新生活記 ~第6章 第20話~

「どうも今日はわざわざ来てくれてありがとう。これからも瑞音をよろしくね」

しばらくしてから修也たちは帰るために相川家を後にする。
それを見送るために瑞音と瑞音の両親が玄関先まで出て来てくれた。

「こちらこそ。同じ『力』の持ち主がいたってのは俺としても僥倖ですし」

それに対し修也は頷いて返す。
蒼芽たちのように『力』のことを理解し敬遠しないでいてくれるのは非常にありがたい。
しかしやはり実際に似たような能力を持っている瑞音の存在は一線を画している。

「だよな。いつか『力』ありでの真剣勝負もやろうぜ! お前相手ならそれができるってのが堪らねぇ!!」
「……ホントどこまでも勝負のことばっかりだな……」

楽しそうにそう言う瑞音に対して修也は呆れて呟く。
しかし修也としても全く楽しみでないかと言われたらそうでもなかったりする。
心ない揶揄を避けるため、誰が相手であろうとも修也は今まで可能な範囲で『力』を使うことは避けてきた。
武器を持つという選択肢を取れるのに取らないのは修也の意思だ。
そこに不平を訴えるのは筋違いもいいところである。
でも相手の場合は『力』を『使わない』ではなく『使えない』。
たとえ相手が凶器を持っていたとしても『力』を使うのは不公平だという意識が働いてしまっていた。
だが瑞音が相手ならそれを気にする必要は無い。
『硬くする』『重くする』と性質は違うものの、似たような能力をお互い持っている。
それなら不公平は発生しない。
『力』ありきで戦術を組み立てるのもそれはそれで面白そうではある。

「あぁそうだ土神君。おせっかいかもしれないけどこれだけは言わせてほしい」

そんなことを修也が考えている時に瑞音の父が何かを思い出したかのように口を開いた。

「何でしょう?」
「君は身体能力・体術・能力どれをとっても守ることに特化している。しかし君自身もその守る対象だということを忘れてはいけないよ?」
「え?」

瑞音の父の言っていることが一瞬理解できず首を捻る修也。

「もし誰かを守るために君が傷ついたりしたら、その守られた人はいくら無事だったとしても嬉しくないってことさ。体を張って守るのと自分を犠牲にするのとは全くの別物だ」
「…………」

瑞音の父の言葉に修也は考え込む。
今までも修也は幾度となく降りかかる危険から周りを守ってきた。
結果的には無傷で切り抜けてきてはいるものの、もし怪我を……それも取り返しのつかないレベルの物を負っていたら、守られた方は素直に喜べない。
むしろ責任を感じてしまいかねないだろう。
由衣の誘拐騒動の時も刺されたように見えたことで蒼芽に心配をかけてしまった。
もし本当に刺されたいたら、心配どころでは済まなかっただろう。
体には傷を負わなくても、心に深刻な傷を負わせていた可能性はある。

「そう……ですね。肝に銘じておきます」
「うん、何を差し置いてもまず大事なのは自分の身だ。自分の安全を最優先するのは何も間違っていないんだからね」

修也の返事を聞いて、瑞音の父は満足気に頷く。

「………………あれ?」
「? どうしたんですか修也さん?」
「……いや、こうやっていい話した後盛大にオチがつくってのがいつものパターンなんだけど、今回それが無いなーって」
「いやいや毎回そんなことにはなりませんよ……」

毎度話にオチを付けられることに辟易していたが、無いなら無いでそれは落ち着かない。
そんな修也に蒼芽は苦笑いを浮かべるのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第6章 第20話~

 

「じゃあなーゆーちゃん兄さん蒼芽さん!」
「ばいばーい、また明日ねーちーちゃーん!」

途中まで一緒に帰っていた千沙と別れ、修也たちは3人並んで帰り道を歩く。

「……しかし、何かあったら親に紹介するってのはこの町の風習か何かなのか? 今まで結構な数紹介されてきたぞ」

修也は今まで親を紹介された回数を指折り数える。
紅音を紹介されたのは居候させてもらうのだから当然だから除くとしても、今日ですでに4回目である。

「まずは詩歌の所だろ? 華穂先輩の所は親の親まで出てきたし……由紀さんに今日の相川のご両親と……」
「あっ、おとーさんもまた今度会いたいって言ってたよー」
「……いくら俺でも分かる。これは普通じゃない。普通はこんなことにならない」
「あ、あはは……」

難しい顔をして唸る修也を見て乾いた笑い声をあげる蒼芽。

「でも自分の子供の危機を救ってくれたのであれば、一言お礼を言いたいのは親として当然じゃないでしょうか」
「あー……確かにそういうもんかもしれないなぁ」
「ええ、やっぱり自分の子供は可愛いし大事なんだと思いますよ? 私も想像でしか言えませんけど、同じ立場だったらお礼を言いたいと思いますし」
「同じ立場かぁ……想像つかないや」

今までが今までだっただけに修也には普通の人生というもののイメージがつかない。
この町では『力』のことで爪弾きにされることは無いと判明したが、それでも簡単に思考を切り替えられるものではない。

「……ただ大事なものならできたな」
「えー、何なにー?」
「この町での生活だよ。引っ越してくる前とは比べ物にならないくらい楽しいからな」

由衣の問いかけに対しそう答える修也。

「その中に私のことも入ってるー?」
「ああ、もちろん」
「そっかー、えへへー」

修也の大事なものに自分も含まれていると知り由衣は嬉しそうに笑う。

「それじゃーおねーさんはー?」
「入ってるに決まってるじゃないか。もう蒼芽ちゃんのいない生活とか考えられん」

蒼芽は引っ越してきたその日から好意的に接してくれて良くしてくれた。
それに修也の『力』のことを知っても全く態度を変えなかった第一人者だ。
今まで腫れ物扱いされ続けてきた修也にとってそれがどれだけありがたかったことか。

「……私ももう修也さんがいない生活なんて考えられませんよ。修也さんがいるのが当たり前になってます」
「私もー!」

しみじみとしながらそう呟く蒼芽とそれに続く由衣。

「私もおねーさんもおにーさんのこと大好きだからねー!」
「いやぁありがたい話だ。誰かに好感を持ってもらえるとか前の町ではまず無かっ」
「わーー! わぁーーっ!! ほ、ほら早く帰りましょ!? 夏が近いとはいえあまり遅くまで外を歩き回るわけにもいきませんから!!」
「お、おぅ……?」
「ほえ?」

言葉を遮るように大声を出す蒼芽に修也は少々狼狽え由衣は不思議そうに首を傾げる。
修也としては自分のことを邪険に扱った前の町の人からの好感など無くても何も問題はないという意味での発言だったのだが、蒼芽はそう捉えなかったらしい。

「まぁ……そうだな、暗くなると変なやつが出てくるかもしれないし」
「えー、おにーさんがいるから大丈夫だよー」
「いやいや、何事も無く帰れるに越したことは……!」

そこまで言って修也は急に言葉を切り、体1つ分横にずれる。
その直後、空を切る音そして硬いものと地面が激しくぶつかり合う音が辺りに響いた。

「きゃぁっ!? な、何ですか!?」
「蒼芽ちゃん由衣ちゃん、俺の後ろに下がれ!!」

突然のことに悲鳴をあげる蒼芽と何が起こったか分からず呆然としている由衣を修也は振り返りながら後ろに庇う。

「……チッ、避けやがったか。そのまま喰らってオダブツしてりゃ楽に終われたものを……」

振り返った修也の視界には少し歪んだ鉄パイプを地面に叩きつけた姿勢のまま低い声でそう呟く男の姿が映った。

「……! お前は、さっきの……」
「よーぅ、お礼参りに来たぜぇ?」

ニヤニヤと笑いながら鉄パイプを肩に担いでいるのは、先程瑞音の家の格闘技教室に乗り込んできた道場破りの男だった。

「意気揚々と道場破りなんて時代錯誤もいいことやっといて俺に一撃でのされた最強にカッコ悪い男!」
「ぐっ……!? い、言わせておけば……!」

しかし修也の言葉で気勢を削がれてずっこける。

「しかも目潰しなんて反則技を持ち出しておきながらかすりもできずに無様に床に崩れ落ちるというある意味では偉業とも言えることを果たしたやつか!」
「て、テメェ……いい加減にしやがれ!!」
「そう言われるのが嫌なんだったら正々堂々と勝負すればよかったんだ。それだったら負けても後腐れが無かっただろうに」

瑞音や千沙は『勝負に勝つ』ことではなく『勝負する』ということに楽しさを見出している。
だから勝っても図に乗らないし負けても不貞腐れない。
しかしこの男は勝つことに異様に執着している。
勝って相手を見下すことで快楽を得ている。
そのせいか逆に負けた時の妬みが尋常ではない。
だからこうやって闇討ちまがいの真似をやらかしてきたのだろう。
だが修也は敵意に対してはたとえ背後からでも敏感に察知できるのでそれも空振りに終わったが。

「黙れっ! キサマこそ何か卑怯な手を使ったんだろうが!! でなければ自分がキサマみたいな小僧に負けるわけが無い!!」
「んなもん使ってないし、そもそも先にルール違反をやらかしたお前にそんなこと言う資格は無い。お前が負けたのはその捻くれ曲がって腐った根性のせいだろ」
「黙れ、黙れ、黙れえええぇぇぇ!!」

修也の言葉に激昂し怒りのボルテージを上げていく男。

「自分は負けん! 負けるはずがない!! 自分が負けるなんて認めん!! 勝つ! 俺は勝つ! 強いやつが勝つ! 自分は強いんだ!! 強いやつが正義! 正義は絶対に勝つんだ!! 自分こそ正義! だから何しても許されるんだああぁぁ!!」
「…………何だ? 段々言ってることがバグってきたぞ?」

男のセリフが段々脈絡のない意味不明なものになってきた。
そのことに修也は眉をひそめる。

「……俺は強さとか正義とか気にしたこと無いし、正義を名乗りたいなら勝手にやってくれって感じなんだが……何をどう言い繕おうがお前が俺に負けたという事実は揺らがんからな」
「そんなもの認められるかああぁぁ! ここでお前をギッタギタのメッタメタにぶちのめして、自分が負けたという不名誉な事実を消してやる!!」
「いやだから、もし仮に今ここで俺を倒したとしてもその事実は消えないっつの。てかギッタギタのメッタメタってすごく久しぶりに聞いた気がする」
「んー……暴れん坊のガキ大将とか口だけ達者な小物感漂う悪役とかが使いそうな言い回しですね」
「あっ! おねーさんが持ってる漫画にそーゆーキャラいたよねー!」
「……前者はまぁ分からんでもないけど、そんな後者のキャラが出てきそうな殺伐とした雰囲気の漫画を蒼芽ちゃん持ってんの? あぁでも前に似たようなこと言ってたっけか……」

蒼芽の漫画の嗜好に首を傾げる修也。
蒼芽も由衣も最初こそ急襲されて驚いていたものの、既に落ち着きを取り戻しいつものペースになっていた。

「まぁつまりだ。今のお前の立ち位置ってそんなもんだぞ? 汚名返上どころか新たな黒歴史刻むことになるだろうからやめとけって」
「やかましい! さっきと同じように行くとと思うなよ!」
「いや、ものの数時間程度で何が変わるんだ……」
「うぉらああぁっ!!」

修也の質問に答えず持っていた鉄パイプで殴りかかる男。
しかし振りかぶった時点で既に回避が終わっていた修也には当然当たらない。
振り下ろされた鉄パイプは先程と同じように地面にぶつかり派手な音を立てる。

「まだまだぁっ!!」

そこで男は動きを止めず、何度も鉄パイプを振り回してくる。

「……単打でダメなら連打か。まぁ考えた方だとは思うが結局のところ一度に来る攻撃は1回だけだからなぁ」

それでも修也には当たらない。
むしろ考える時間も無く連続で振り回すことで攻撃が単純化している。
そのおかげで非常に読みやすい。

「だ、だったら……2本ならどうだっ!!」

そう言って男は背中から新しい鉄パイプを取り出す。
体格が良いので見えなかったが、もう1本持っていたらしい。

「いや、話聞いてた? 数増やそうが結局一度に来る攻撃は1回だろ。無理に同時攻撃しようとしてもうまく力が入らないから威力はガタ落ちだ。それでなくても片手で振るから威力落ちてんのに」

鉄パイプを2本持つことで手数は倍に増えるが、今まで両手持ちだったのが片手持ちになる以上威力は落ちてキレも悪くなる。
しかも利き腕でない方の攻撃など修也にとってはあって無いようなものだ。
さらにそれぞれの手で同時攻撃しようにも体重を乗せられないし、下手したら自分の手を自分で攻撃してしまう。
熟練者ならともかく、付け焼刃の二刀流など実用的ではない。

「さっきの方がまだマシだったぞ……アレか? 思考能力どっかに落とした?」
「うるっせええぇぇぇ!! キサマだけは……キサマだけは……!」

修也の言葉に耳を貸さず、両手の鉄パイプをブンブンと振り回すだけになった男。

「自分に勝てるやつなんて、この世には存在しない……! だから自分に勝ったキサマはこの世に存在してはいけないんだ……!」
「……何か物騒な話になってきたぞ? ただどんな事情があろうとも負けてやる義理は……無い!」

そう言うと同時に修也は大きく踏み込んで右肘を男の鳩尾に叩き込んだ。

「ぐぶっ!!?」

予期せぬ衝撃に男は手を止め、後ろによろめいて膝をつく。

「負けず嫌いも程々にしとけよ? 負けを認めることも強くなるためには必要なことだと思うぞ」
「そんなものはいらん……! 自分に必要なのは勝つこと……それのみ! そのために手段は選ばん!!」

そう叫んで男は右手の鉄パイプを振りかぶる。

「っ!!?」

どう考えても当たらない距離なのだが、男の行動を見て修也の目つきが険しくなる。

「キサマに当てられないなら……キサマの後ろの女に喰らわせてやる!!」
「えっ!?」

狙いが自分だと知った蒼芽が息を呑み立ちすくむ。

「死ねええぇぇぇ!!」

そんな蒼芽にお構いなしに男は全力で蒼芽めがけて鉄パイプを投げた。

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