守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第16話~

「みんな今日はお疲れー! 試合に出た子も応援に回ってた子もよく頑張ったよ!!」

閉会式が終わって教室に戻った後、陽菜が教卓の前に立って生徒たちに労いの言葉をかける。

「みんなの頑張りの甲斐あって今回の球技大会は史上最高の結果だったよ!」
「最高も何も今回が初めてでしょうに。更に言うなら球技大会って基本的に年1回でしょうが」
「もう、野暮なこと言わないの! それに史上最高なのは間違ってないでしょ」

確かに1回しかやらないのであればその1回が史上最高になるのは間違ってはいない。
間違ってはいないのだが、わざわざ大袈裟に言う必要も無いのではないかと修也は思う。

「そんなみんなの健闘を称えて約束通り私の自腹でジュースを買ってきたよ。私の『じ・ば・ら』で!!」
「やたら『自腹』を強調してくるなぁ……」

そう呟きながら修也は配られた紙パックのジュースに視線を落とす。
これは購買で売られている物だ。
実は教師である陽菜も学校内でかかる費用の半額が適用されるらしい。
修也はてっきり自販機の缶ジュースとかを想像していたのだが、いくらひとつひとつが安くてもクラス人数分ともなるとそう馬鹿には出来ない金額になる。
なので修也は陽菜のこのチョイスに対してどうこう言うつもりは無い。
……無いのだが、それで自慢気に胸を張られてもリアクションに困る。

「それじゃあみんなお疲れ様! そして学年ではE組と並んで同率優勝、総合でも優勝できたことにカンパーイ!!」
『カンパーイ!!』

陽菜の音頭を合図に教室のあちこちから声が上がる。
修也はその様子を眺めながら自分の紙パックのジュースにストローをさして飲み始める。

「………………」

口の中に広がるジュースの甘さを堪能しながら修也は今日の球技大会での出来事を思い返す。

(……何か色々あって騒がしかったけど……楽しかった。ちゃんとイベントに参加できるってこんなに楽しかったんだな)

今まではこのようなイベントに参加することができず、教室の端で静かに気配を消していることが常だった。
それが今では参加どころか中心人物にまでなっている。
人生何がきっかけで変わるか分からないものだ。

「……ってちょっと待った。総合優勝って何?」

とここで陽菜の言葉で気になる点があったので修也は尋ねる。
学年優勝は分かるが、他に競う点などあっただろうか?
修也はそれが気になったのだ。

「最初に言ったでしょ? この学校のイベントにはクラス縦割り制システムがあるって」

修也の疑問に陽菜が答える。

「つまり1-Cや3-Cの成績も俺らの得点に加算される」
「それらを加味した上での順位も決められるのよ」

さらに彰彦と爽香も補足してくれた。

「あーそう言えばそんなシステムあったなぁ。忘れてたや」
「確かにあまり馴染みの無いシステムよね。去年まで別の学校だった土神君は特に」
「まぁな。というか今日もあまり意識するような場面無かった気がするけど」
「ま、そんなもんだ」
「そんなもんか」

彰彦の纏めの言葉に納得して頷く修也であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第16話~

 

「……で、総合優勝したら何かあるんですか?」

とりあえず総合優勝の意味は理解できた修也は次の質問に移る。

「ん? いや特には何も無いよ。敢えて言うなら『やったね、総合優勝できたよ!』って喜べるくらいかな」
「まぁ……そりゃそうか」

ただの高校の球技大会で賞品や賞金など出る訳が無い。
むしろ出られたら逆に困る。
今修也たち生徒が持っているジュースでも十分すぎるくらいだ。
敢えて言うなら『みんなで試合を頑張った』という思い出が一番の賞品だ。
そこに総合優勝という拍が付いたくらいに考えておけば良いだろう。

「でもね、君らも頑張ったご褒美が欲しいと思うんだ」
「え、いや別にそんなことは……」
「良いの良いの! 成果に対する報酬を求めるのは何も間違っちゃいないさ!」

陽菜の提案にやんわりと辞退しようとした修也だが陽菜に止められる。

「でも流石に全員に……てのは時間的に無理だったから1人MVPを決めてその子にご褒美を送ろうと思って用意したんだよ!」
「え、『用意した』って……結果がどうなるか分からなかったのに?」

今回はたまたま総合優勝を果たせたので良かったものの、そうでなかったら無駄になってしまっていたのではなかろうか。
そんな懸念が修也に浮かぶ。

「まぁ優勝できなかったらその時は名目を変えるだけだよ。がんばったで賞みたいな感じで」
「……なんかありがたみが薄れるなぁ……せめてもうちょっと名前をそれらしくしてほしい所だ」

さらっと裏事情を暴露する陽菜に脱力する修也。
それでも陽菜がそう言ったものを作っていたというのは素直に嬉しく思う。
何だかんだ言っても生徒のことを大事に考えている良い教師なのだ。

「まっ、結果的に総合優勝を果たせたんだから良いじゃない! という訳で今回のMVPなんだけど……皆は誰が良いと思う?」
「それなら土神さんだと私は思いますわ!」
「自分も白峰殿に同意ですぞ!!」

陽菜の質問に対して白峰さんと黒沢さんが手を挙げて即答する。

「え、俺?」
「だってそうでしょう? 全試合全打席で出塁して驚異の打率10割を達成したわけですし」
「それでいてあの強固な守備。どちらにおいても大活躍だったではありませぬか」
「いや霧生だってホームランを量産していたし……」
「でも俺は最後の試合では相川を打ち崩せなかったからなぁ。その点土神はきっちり攻略してただろ」

白峰さんと黒沢さんに反論する修也だが、引き合いに出した戒本人も2人に加勢してきた。

「だったら最後の相川を抑えたあの氷室の投球は……?」
「俺が出張ったのはあの場面だけだ。全試合で活躍した土神には遠く及ばん」

塔次にも話を振ったが、にべもなく首を横に振る。

「それに1-Cや3-Cも土神君がいるから頑張ろうって気勢を上げていたらしいわよ」
「そういう点ででも総合優勝に貢献してたなら土神がMVPなのは間違いないな」

爽香と彰彦も修也がMVPであることに異論は無いようだ。
3-Cは分からないが、修也を神の如くリスペクトしている1-Cの面々なら十分あり得る話だ。

「そうだな、土神が一番頑張ってたもんな」
「うん、土神君がMVPで良いと思うよ!」

他のクラスメイトからもそんな声が上がる。

「……うん、決まりだね。満場一致で今回のMVPは土神君で決定だ!!」

陽菜の言葉で教室内に歓声が沸き立つ。

「………………」

そのことに修也は嬉しくもあり、少々気恥ずかしくもなる。

「それじゃあこれがMVPの賞品ね」
「……ありがとうございます」

そう言って陽菜は何かが入っている紙袋を修也に手渡した。
礼を言いながら早速開けて中を見てみる修也。

「……………………何ですか、コレ?」

そして怪訝な表情で陽菜に尋ねる。

「見て分かるでしょ? MVPにふさわしい金のブルマだよっ! この私がいちから監修して素材を厳選して作り上げた珠玉の一品さ!!」
「いりません返します」

ドヤ顔で自慢気に語る陽菜に即レスで紙袋ごと突っ返す修也。

「何ぃ!? 世の中様々な色のブルマはあるけど金色なんてそうお目にかかれるものじゃないんだよ? それを君はいらないというのかい!?」
「こんなもん持っててどうしろって言うんですか。たとえ普通の色だったとしても俺の手には余るというのに」
「そりゃ使い方は様々だよ。普通に穿いても良いし眺めるのも良いね。頭にかぶってみるのも面白いかもしれないしちょっと今ここでは言えないような使い方をしてみるのも……」
「百万歩譲って前半2つはまだ良いとして後半2つは全く持って意味が分かりません」

金色のブルマを握って力説する陽菜を修也は冷ややかな目で見る。

「でもさ、某有名アニメでは5歳児が母親の下着をかぶって遊んでたくらいなんだからブルマをかぶっても許されると思わない? むしろ下着よりマイルドだよ!?」
「思いません。そもそも比較対象がおかしい」
「えー、穿き心地だけでなく被り心地もしっかり考慮して作ったんだけどなぁー」
「考慮するなそんなもん。せめて穿き心地だけにしろ」

本気とも冗談とも取れない口振りの陽菜に対して修也の口調は段々荒くなっていく。

「……と言うかそもそもそれ先生の手作りですか?」
「あたぼうよ! 私ほどにもなると自分でブルマを作れるようになるのさ! 私の作ったブルマはその界隈の通をも唸らせる逸品だよ!!」
「何という才能の無駄遣い……と言うかブルマの通って何」
「でも流石にクラスの人数分作るのには時間が足りなかったねぇ。私もまだまだだね」
「全員分作るつもりだったのかよ!?」

しれっととんでもないことを口走る陽菜に突っ込む修也。

「とぉーーーぜん!! 私を誰だと思ってるんだい。ブルマの伝道師、藤寺陽菜その人だよ!?」
「威張って言うことか……?」

今日の球技大会に変なオチがついてしまったことに呆れつつも、これこそがこのクラスの日常なのだと妙に納得できてしまう修也であった。

 

「あははははは! 相変わらず土神くんのクラスは面白いねぇ!!」

放課後のファミレスの一角で華穂の笑い声が響き渡る。
ホームルームが終わって解散となった後、修也たちは打ち上げと称してファミレスに集まっていた。
そこには2-Cの彰彦・爽香・戎・塔次に加えてクラスの面子ではない蒼芽・詩歌・華穂・美穂・由衣・亜理紗・瑞音も参加している。
そして先程のホームルームでのエピソードを話した結果、案の定華穂に大ウケしたという訳だ。

「…………で、土神くんは結局その金のブルマはどうしたの? 貰ったの?」
「貰う訳無いだろ。そのまま返したよ」
「えー、せっかくだったら記念に貰っておけばよかったのに」
「貰ってどーすんの。使い道なんて皆無だろ」
「んー……蒼芽ちゃんに穿いてもらう……とか?」
「いやいやいやいや……普通にドン引き案件だろそれは」

華穂の出した提案に修也は首と手を同時に横に振りながら否定する。

「えっと……修也さんが穿いてほしいと言うのであれば……」
「頼む蒼芽ちゃん。お願いだからドン引きして? でないと俺がドン引きされる」

真面目な顔しておかしなことを呟きだした蒼芽の両肩を掴み、真顔で懇願する修也。

「あっ! じゃあおにーさん、私が穿こっかー?」
「止めて由衣ちゃん。蒼芽ちゃんの時以上にドン引きされる。そもそも貰ってないってば」
「……何ボーっとしてるの詩歌、次はあなたが名乗り出る番よ」
「……え、えぇっ……!?」

蒼芽と由衣に追随させようと無茶振りする爽香に驚いて焦る詩歌。

「止めろ爽香、焚きつけるんじゃねぇ。そしてありがとう詩歌、それが普通の反応だ」
「え、えっと…………どういたしまして……?」

修也に礼を言われる詩歌だが、素直に喜んで良いのか分からないのか疑問顔だ。

「そういや土神や霧生も凄かったけど、氷室も凄かったよな」

何かよく分からない空気になっていたところに彰彦が違う話題を差し込んできた。
本当に空気の読める男である。

「そうそう! 氷室お前、あんな球投げれたのかよ! あれなら最初からピッチャーやれば良かったじゃねぇか」

彰彦の言葉を聞いて思い出したかのように戎が塔次に詰め寄る。

「……俺はお前のような体力は持ち合わせていない。それに長々と投げ続けていたら対策も取られやすくなる。故にあのワンポイントだけ出るというのが最良だったわけだ」
「確かになぁ。事前にある程度見てたらもちょいやりようがあったかもな」

塔次の言葉に瑞音が頷きながら呟く。

「でもあんなの分かってても打てないんじゃないですか? 私の所から見ても分かるくらい凄い曲がってましたよ?」
「変化球は原理さえ分かっていればさほど難しいものではない。要は球の回転のかけ方だからな」

亜理紗の問いかけに塔次は澄ました顔で答える。

「いや理屈を知っていてもそれを実際使えるかはまた別問題なんじゃね?」
「無論、理屈と実践は別物だ。知識だけ備わっていても経験が無いのでは役には立たん」
「つまり氷室先輩も陰で努力していたって訳ですか。意外ですね、てっきり氷室先輩は天才肌で努力知らずだと思ってましたが」
「……それは違う、長谷川」

亜理紗の呟きに対して首を振る塔次。

「天才は努力知らずなのではない。努力することを努力だと思っていないだけだと俺は考えている」
「え、え? どういうことですか?」

塔次の言っていることの意味が分からず亜理紗は首を傾げる。

「何事においても上達するために継続的な努力は必須だ。しかし努力というものは大抵苦痛を伴う。それ故に挫折し継続できず上達しないという結果に終わる例は少なくない」
「まぁ……そうですね」
「しかし世の中にはそれを苦痛と思わない人種もいる。そういった者たちは継続的な努力を苦も無く重ねて限りなく上達していくのだ」
「……いるんですか? そんな人」

塔次の言葉に亜理紗は懐疑的な様子で眉根を寄せる。

「例えばだ。霧生はスポーツに関して『は』天才的だろう」
「おい、『は』を強調すんな。他が全然ダメみたいじゃねぇか」
「……違うのか?」
「……違いません」

塔次の主張に異を唱えようとした戒だが、秒で論破されて撃沈した。

「大丈夫ですよ戒さん。何かひとつでも誇ることができるものがあるというのは素晴らしいことだと私は思います」
「うぅ……ありがとうございます美穂さん」

だが美穂に優しくフォローされて何とか持ち直す。

「それで霧生、お前は体を鍛えることを苦だと思ったことはあるか?」
「……いや、生まれてこの方1秒たりともそんなの思ったこと無いな」
「流石です戒さん。その鍛え抜かれた身体は日々の弛まぬ努力の賜物なのですね」
「いやぁそれほどでも……俺は好きだから鍛えてるだけですよ」

美穂の掛け値無い賞賛の言葉に今度は照れる戒。

「これと同じだ。俺は人間の可能性の限界を知りたい。その為に努力を厭わない。それだけだ」
「…………」

そう纏める塔次を亜理紗は珍しく無言で見つめる。

「ありちゃん、どーしたのー?」

そんな亜理紗を見て由衣が横から声をかける。

「……はっ!? な、何でもない、何でもないわよ!!」
「ほえー?」

慌てて取り繕う亜理紗を不思議そうな目で見る由衣。

「あっそう言えば氷室、さっき土神と相川と話してる途中で急に2人が杖の話をしだしたんだけど、アレって何なんだ?」
「ふむ……察するに『転ばぬ先の杖』のことか。それは不測の事態に備えてあらかじめ注意しておくという意味のことわざだ」
「あーなるほど、そういうことか! スッキリした!!」
「……いや何でそれだけの情報で分かるんだよ」

淀みなく戒の質問に答える塔次に突っ込む修也。

「……やっぱり氷室先輩は努力云々以外の要素を持ち合わせている気がしてならないんだけど」

その様子を見た亜理紗は唖然としながらそう呟くのであった。

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