守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第7話~

「あれ、どっか行ってたのか土神。トイレか?」

自分の持ち場に戻ってきた修也を見て戒が声をかけてくる。

「いや、1-Cの応援に行こうとしてたんだよ。すぐ引き返すことになっちゃったけどな」
「何でだ? 俺たちの試合までまだもうちょっとあるぞ?」

戒がグラウンドに備え付けられている時計を見ながら首を傾げる。

「え……霧生、お前時計が読めるのか?」
「読めるわそれくらい! そこまで馬鹿じゃねぇよ!!」
「そうか……俺はてっきりデジタル時計ならともかく針時計は無理だと思ってた。ほら、あの時計は針時計だし」

修也の言う通りグラウンドに備え付けられている時計は針時計である。

「失礼にもほどがあるだろ!!」
「ならば霧生、これは何時何分だ?」

そう言って横から出てきた塔次が地面に時計の絵を描く。

「何だこんなの簡単じゃねぇか。6時ちょうどだ! 長い針と短い針がまっすぐになってるからな!!」

塔次の問いに自信満々に答える戒。

「……不正解だ。正解は12時30分。短針が少し傾いているだろうが」

その戒の答えに対して呆れたように塔次が呟く。

「なっ!? 卑怯だぞ! これじゃ数字が書かれていないからどっちが上か分からないじゃないか!!」
「何を言う。しっかり書いているではないか」

問題の不備を訴える戒だが、塔次はそんなものは無いと主張する。

「…………?」

修也も気になって塔次の描いた時計を覗き込むが、特に不備があるようには見えない。
そもそも塔次がそんなミスをするはずがない。

(…………もしかして…………)

塔次の描いた時計を見ているうちに修也はひとつの可能性に行きついた。

「いやどこにだよ? それらしきものなんてどこにも……」
「……なぁ霧生、もしかしてお前……ローマ数字読めねぇの?」

修也が行きついた可能性……それは、戒がローマ数字が読めないのではないかということだ。

「ローマ数字………………って何だ? 数字は数字だろ?」

修也の問いに不思議な顔をして聞き返す戒。

「マジか…………」
「そうか、霧生はローマ数字を知らなかったのか。それは想定外であったな」

そんな戒に修也は呆れ気味に呟き、塔次は何故か得心が行ったかのように頷く。

「霧生の想像している数字というのはアラビア数字のことだろうな」
「そうだろうな。確かにそちらの方が一般的だ。アラビア数字はローマ数字や漢数字と違ってゼロ記号があるゆえに世界で最も早く発展したとも言われている。故に知名度も最も高い」
「へぇー……言われてみれば確かにゼロって無いな。漢数字は文字としては存在しているけど」

塔次の説明に興味を引かれ、修也は話に乗る。

「うむ。ちなみに余談だがアラビア数字と言われているが実は発祥はインドだ」
「え? じゃあ何でアラビア数字って言うんだ?」
「アラビア経由でヨーロッパに伝わったからだ。当時のアラビアは科学の中心地だったからな」
「あぁ、ネームバリュー的にそっちの方が良かったって感じか」
「そうかもしれんな。無名の人間よりも有名な人間の方が影響力が高いのはいつの時代も変わらぬということだ」
「そ、そろそろ話題変えてくれねぇか……? 頭痛くなってきた……」
「あ、悪い」

話についていけず置いてけぼりになった戒が頭を抱えてうずくまりだしたので、修也と塔次は話を一旦打ち切ることにした。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第7話~

 

「……で、何の話だっけ」
「霧生がローマ数字を知らないのではないかという話だったな」

話を打ち切ると見せかけて、スタート地点に戻る修也と塔次。

「違う! …………いや、違わないのか? 何が何だか分からなくなってきた……」

もう訳が分からなくなってきたのか、戒が白目を向きだした。
気のせいか戒の頭から湯気が出てきているように見える。

「氷室……そろそろ本当にこの話題終わらせた方が良いぞ。霧生が使い物にならなくなる」
「ふむ…………球技大会と言うこの場でそれは少々痛いな。仕方がない、要点を纏めるか」

戒の限界を感じ取った修也が塔次に耳打ちする。
塔次も戒の様子を察して話を切り上げる。

「ここに書いてある文字がローマ数字で『12』の意味だ」

そう言って塔次は時計の絵に書かれている『XⅠⅠ』の文字を指さす。

「12が針時計で一番上に来るのはいくらお前でも知っているだろう?」
「そりゃ知ってるけど……これが12なのか? 『2』は棒が2本あるから感覚的に分かるけど何でXが1なんだよ。そこは棒1本にしてくれよ」
「それは1ではなく10だ。10と2だから12になる。霧生の言うような表記方法だと3と混同してしまいかねない」
「あ、確かにそうか……でもさ、だったら棒10本で10でも良くないか?」
「単純に数えにくいだろうが。20や30にもなるとその表記だと読むだけで一苦労だ」
「なるほど……」

塔次の解説に聞き入る戒。

「おい霧生、それ以上聞いてるとまた頭痛くなるんじゃないのか?」
「いや……何か面白くなってきた!」
「え?」

修也はまた戒が頭痛を起こすのではないかと危惧したのだが、意外にも戒の表情は明るい。

「ほぅ……何事においても興味を持つのは良いことだ。全ては興味を持って知ろうとするところから始まるからな」

戒の反応に意外そうな顔をしつつも感心する塔次。

「なぁなぁ氷室、じゃあ20は棒2本書いた後にXを書くのか?」
「20はXを2つだ。10が2つあって20となる」
「え、でもそれじゃあやっぱり100とか200になると数えにくくなるんじゃあ……」
「案ずるな。50で別の記号に変わる。50でLに、100でCになる。500でDとなり、1000でMだ」
「へぇー、じゃあ4つまで数えられたら良いってことか。よく考えられてるんだなぁー!」

戒にしては珍しく、学問系の話なのに興味を持って話についてきている。

「まぁ読みにくい事実に変わりは無い。だからこそアラビア数字が主流になったのであろうな」
「でも今でもこのローマ数字が使われてるところってあるだろ? この時計みたいにさ。アレは何でだ?」

今まであまり気にしていなかったが、ローマ数字も所々でよく見かける。
アラビア数字を使わず敢えてローマ数字を使う意味は何なのだろうと修也は少し気になった。

「順序や序列を表す際に適しているという利点がある。それにエレガントな印象を見ている者に与えるという所もローマ数字の利点だ」
「あ、そういう見栄え的な問題なのか……」

思ったより単純な理由に修也は意表を突かれる。

「……そう言えば白峰殿、今しがたの霧生殿と氷室殿の話を聞いていてふと思ったのですが、『0』とは中々に興味深い存在ではありませぬか?」

今の塔次たちの話を少し離れたところで聞いていた黒沢さんが隣の白峰さんに話しかける。

「…………聞かせていただきましょう黒沢さん。最近の黒沢さんの発想には目を見張るものがありますので」

それに対して白峰さんは神妙な面持ちで聞く姿勢に入る。

「それではご傾聴くだされ。0と言う数字は掛け算においていかなる数字を掛けようとも、また掛けられようとも0になるのは周知の事実でしょう」
「算数の基本的なルールですわね」
「それはつまり何をぶっかけられようとも他者に染められず、また自分をぶっかけることで相手を自分色に染めてしまうという俺様気質であるということ!!」
「はぅぁっ!!? そ、それは…………!!」
「……何で『ぶっかける』って表現なんだ……?」
「よく分からんが深く突っ込まない方が良いと思うぞ……?」

白峰さんと黒沢さんの話を聞いて首を傾げる修也を制止する彰彦。

「と言うことは、0さんは『俺は誰にも染められねぇ。むしろお前を俺色に染めてやるぜ』というドS系キャラということですわね!?」
「ぬほおおおぉぉぉ!! 想像するだけで体中の至る所から熱い情熱が迸りそうですぞおおぉぉ!!」
「という訳で土神さん! 今のセリフを持てる限りのイケボで言ってみてくれませんか!?」
「何が『という訳で』だよ!? 変なことやらせようとすんな!!」
「ほあああぁぁぁ!? ここでまさかの土神さんのツッコミが入るとは……私、もぅ……もぅ……!!」
「我が生涯に、一片の悔い無し……!」

勝手にテンションが限界突破した白峰さんと黒沢さん。
何やら満ち足りた顔をして動かなくなってしまった。

「……これが球技大会の待ち時間と言って信じる人が一体どれだけいるんだろうか」
「ある意味とてもうちのクラスっぽいけどね」

呆然と呟く修也に爽香が補足する。
そんな2-Cの様子を少し離れて見ている人たちがいた。
この後試合をする2-Aの生徒だ。

「…………なぁ、アレ何なんだ?」
「いや、俺に聞かれても困るんだが……」
「普段からホームルームとかで騒いでるのが聞こえるけど、こうしてみると変なのばっかりだな……」

呆然とした様子でそう呟く2-Aの生徒。
球技大会なのに数字の歴史について話し合っている生徒や突如テンションを上げて奇声を発する生徒を見たらそんな感想を抱くのも当然と言える。

「でも2-Cって言ったらアレだろ? 稀代の英雄土神がいるクラスじゃないか。勝てる気がしないんだが……」
「いやいや土神君が英雄なのは事実だけど、それと球技大会の勝敗とは流石に関係無いんじゃない?」
「言われてみると確かに……メジャーリーガーだからってテニスでグランドスラム取れたりしないもんな」
「K-1王者だからって卓球で世界制覇とかもしないもんな」
「そうそう! 土神君が凄いのは事実だけど、肩書にビビる必要は無いのよ! 土神君が凄いのは事実だけど!!」
「……なんで2回言ったの?」
「だって何だかんだ言っても推しなのは変わらないし」
「何よそれ……まぁ分かるけど」
「だよねー!」

そう言ってきゃいきゃいと盛り上がる2-Aの女子生徒たち。

「な、なぁ……やっぱりああいう土神みたいなのと付き合いたいとか思うのか? あぁいや俺がどうとかじゃなくて、一般的な話で」

その女子生徒たちに遠慮気味に尋ねる男子生徒。
あくまでも一般的な話として聞きたい風を装っているが、個人的に気になっているのが容易に見て取れる。

「いや、それは無いなぁ」
「うん、無いね」

男子生徒の問いに首を横に振る女子生徒たち。

「え、そうなのか?」
「うん、推しはあくまでも推しであって付き合うとかそういう次元の話じゃないんだよねー」
「そもそも高嶺の花過ぎて私らには無理っしょ」
「『〇〇は俺の嫁!』とか言っても実際に婚姻届出したりしないでしょ? アレと一緒よ」
「いや……何か違う気がするんだが」

3人目の女子生徒が出したよく分からない例に首を捻る男子生徒。

「まっ、土神君とどーのこーのってのは私らは考えてないから」
「そーそー、遠くでそっと推し活できりゃそれで十分!」
「だから…………安心しなよ、ね?」

1人目と2人目の女子生徒が明るく笑いながら言っている横でそっと3人目の女子生徒が男子生徒に耳打ちする。

「なっ!? あああああ安心って、なななな何を……」
「いや分かりやすすぎでしょ」

態度が分かりやすすぎる男子生徒を見て呆れる3人目の女子生徒。

「へー、ほー、ふーん……?」

その様子を見て2人目の女子生徒はニヤニヤと笑う。

「な、何だよその顔は……!」
「べっつにー?」

男子生徒の追求に口笛を吹いて明後日の方を見る2人目の女子生徒。

「……?」

その様子を1人目の女子生徒は不思議そうな顔で眺めていた。

「まぁとにかく試合頑張ってきなよー」
「そーそー、負けたって私らは気にしないよー」
「あの土神君と試合できるってだけで光栄なことじゃん! 思い切って当たって粉微塵に砕けてきなよー」
「負けるの前提で話すなよ! さっきも言ってただろ、いくら土神が英雄と言われてたって球技も強いとは限らないしこれはチーム戦だ。1人だけが凄くたってチームなら分からないじゃないか!!」
「その意気その意気。頑張れー」
「お、おぅっ!」

1人目の女子生徒の声援を受けて気合十分になった男子生徒は試合の準備に向かっていった。

「……いやー、分かりやすいねぇ」
「ホントホント」
「え? 何が?」

去って行く男子生徒の背中に生暖かい視線を送る2人目と3人目の女子生徒を1人目の女子生徒は疑問顔で見つめる。

「……知らぬは本人ばかりなり」
「でもさ、実際の所どうなの? 勝ち目ありそう?」
「いやぁ無理なんじゃない? だって……」

 

「……っしゃあもらったーーー!!!」

そう叫びながらの戒のフルスイングがボールを真芯で捉えた。
角度・方向・スピード全てが非の打ち所がない完璧な打球だ。
2年はソフトボールが行われているのだが、2-Aと2-Cの試合は戒が第1打席からいきなり特大ホームランを放ったのだ。

「うおおおぉぉぉ流石ですぞ霧生殿! 運動に能力を全振りしているだけはありますな!!」
「学力を捨ててまで培った運動能力は伊達ではありませんわね霧生さん!!」
「はーーはっはっはー!! どうだ見たか俺の力をー!!」

黒沢さんと白峰さんの声援の絶妙なディスり具合にも気づかず上機嫌にガッツポーズを決める戒。

「うわぁどこまで飛んでくの……あれソフトボールだよね? ソフトボールって結構重かった気がするんだけど」
「そうだった、2-Cには霧生君がいたんだっけ。流石にそりゃ無理だわ」

遥か彼方に飛んでいったソフトボールを見送りながら2-Aの女子生徒たちが呟く。
修也のことばかり話題に出ていたせいですっかり忘れていたが、2-Cには戒がいるのだ。
それこそ野球でMVPを取りつつもテニスでグランドスラムを取ってもおかしくない戒が。
パワー・スピード・技術どれをとっても格が違う。

「うん、これはしゃーない。町内会の野球大会にメジャーリーガーが出てきたようなもんだわ」
「圧倒的に強い人が1人いたらチームプレーとか関係ないのね」
「この試合は諦めて次頑張ろ、次」
「もうちょっとやる気の出る応援してくれないかなぁ!?」

完全にこの試合を捨てている女子生徒たちに突っ込む男子生徒。
とは言え男子生徒も分かっている。
これはどうしようもない。
むしろ敬遠で逃げるという選択肢を取らなかったことを潔いと評価されるべきである。
というか戒なら敬遠球ですら弾き飛ばしそうだ。
結局この試合は戒が全打席ホームランを放つという偉業を達成し2-Cが圧勝した。

「……うん、霧生が活躍してくれるおかげで俺が目立たない。快適快適」

注目が戒に行くおかげで自分は目立っていないことに修也は久しぶりにホクホク顔で気楽な時間を過ごすのであった。

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