守護異能力者の日常新生活記 ~第6章 第1話~

皆でアミューズメントパークに行った日から数日が経った。
人の口に戸は立てられぬとは良く言ったもので、修也が普通とは違う『力』を持っているということは瞬く間に知れ渡っていった。
恐らくは駅前での鉈男とのやり取りを見ていた人がいたのだろう。
学校でも修也が超能力者であるという話はすぐに広まった。
……ただそれが修也にとって不都合なことになったかと言われると実はそうとも言いきれなかったりする。
修也の『力』のことを耳にした生徒を始め学校関係者たちの大体のリアクションは、

『へぇー……で、それが何か?』

程度の物だったのだ。
前の町であったような排斥的な空気など微塵も感じられなかったのである。
修也が今までやって来たことを考えれば、その程度では修也の評判を損なうような要因にはなりえなかったのだろう。
中にはこのような人もいた。

「土神さん……お話は伺わせていただきましたわ」
「同じく……まさか土神殿がそのような……」

朝登校して早々に白峰さんと黒沢さんが神妙な表情で修也に話しかけてくる。

「あ、いや……」

恐らく『力』のことを聞いたのだろう。
普段ふざけ倒している2人が珍しく真面目な表情をして詰め寄ってくるので修也は言葉に詰まる。

「土神さん、どうして黙っていたんですの?」
「白峰殿の言う通りですぞ。隠されていた方としては気分が良いものではありませぬ」
「え、えぇと……」
「どうして…………どうしてめんたいこの港の名付け親だということを黙っていたんですの!?」
「水臭いではないですか! 我々が如何にきのこたけのこめんたいこを愛しているか知らないわけではありますまい!?」
「あれぇそっち!?」

だがしかしその詰め寄る方向が全く見当違いであったことに修也は驚く。

「事の始まりは先日土神殿たちがボウリングに行っていた日のこと……自分と白峰殿はとある同人誌の即売会へ赴いていたのです」
「あ、外せない用事ってそれ……?」
「ええ……この滾り迸る情熱を抑えることができず、ついに私たちは作家デビューを果たしたのですわ!」
「もちろんきのこたけのこめんたいこのお話ですぞ!」
「あ、そうなんだ……」

『好き』が高じてそこまで行ったのかと修也は少し呆れつつも感心する。
対象が何であれそこまで熱中できるものがあるというのは悪いことではないと修也は思う。

「安心してくだされ、今回は性別年齢趣味嗜好関係無く楽しめるお話であります」
「いや何を安心すれば良いのか分からん。てか次回があんのかよ」
「当然ですわ! まぁそれはさておき、そこで公式の広報担当の方と知り合う機会を得られまして」
「え」
「そこでその方から我々の高校にめんたいこの港の名付け親がいることとそれが土神殿であることを聞きまして、その縁もありまして何と我々に公式でマスコットキャラクターのデザイン依頼が来たのであります!」
「な、何だって!?」

そう自慢気に語る2人に修也は改めて驚く。

「もちろんそのまま採用されるわけではないので諸手を上げて喜ぶことはできませんが、それでもこれは大きな前進ですわ!」
「ち、ちなみにその人の名刺とかって……」
「ええ、もちろん頂いておりますわ」
「これですぞ!」

そう言って2人は修也に名刺を見せてくる。
そこには『広報担当 永田澄香』と書かれていた。

「何やってんですか永田さーーん!」

それを見て三度驚くことになった修也であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第6章 第1話~

 

「ところで……土神殿が気にしておられるのは、土神殿が実は超能力者だったというお話ですかな?」

さらりと話題を変えて黒沢さんが尋ねてくる。

「え? あ、まぁそうなんだけど……2人共大してどころか全く驚いてないな?」

あまりにもリアクションが普通なので修也は逆に気になって尋ね返す。
修也としては人生の岐路に立っていると言っても過言ではないことなのだが、2人のリアクションはまるで夕飯のおかずを尋ねるくらいのノリなのだから無理も無い。

「甘いですわ土神さん! 私たちを舐めてもらっては困ります。こう見えても私たち、様々なお話を読みふけってきているのです」
「その中には学園ものや能力者バトルもののラノベもありまする。剣と魔法のファンタジーや異世界転生なども嗜んでおりますぞ。そこには奇想天外な世界観や設定が盛りだくさんなのであります」
「そのようなお話を見てきた私たちからすれば、言い方は悪いかもしれませんが超能力を持っている程度では微塵も驚きなどしませんわ!」
「然り。我々を驚かそうというのであれば前世があらゆる魔法を使いこなす魔界の王でありながら現存する全ての剣術流派を極めた最強の剣聖でもありそれでいて毎朝起こしに来てくれる美少女幼馴染がいる……くらいは欲しい所ですぞ!」
「ファンタジーとラブコメを混ぜるな! 収集がつかねぇ!!」

よく分からないことを言い切る白峰さんと黒沢さん。
方向性がおかしい気がしなくもないが、2人も修也の『力』のことを知っても前の町の人たちのような反応はしないようだ。

「それよりも白峰殿! 今度の話はきのこたけのこめんたいこによる能力者バトルとかはどうですかな!?」
「あら良いですわね。王道ではありますがやはり胸が熱くなるようなバトルものは押さえておきたいところですわ!」
「では最強の能力者がその能力を封じられ、悔しさと絶望を滲ませながら蹂躙される……そんなシチュエーションなどはいかがでしょうか?」
「ほ、ほああああぁぁぁぁ!? く、黒沢さん……あなたという方はどこまで私の妄想と欲望を膨れ上がらせてくれますの!?」
「どぅふふふふ……自分を誰だと心得ているのですかな? 腐った思考をすることにおいて自分の右に出る者はそうはおりませぬぞ」

また修也の理解の及ばない領域で盛り上がる2人。
まるで修也の『力』のことなど些末なことだとでも言わんばかりの様子だ。
だが修也にとってそれはとてもありがたく、尚且つ心地よいものであった。

「やーやー何だか楽しそうじゃないのさ」

そこに陽菜が顔を出してくる。

「あっ、陽菜先生! 聞いてくださいまし。私たちに企業から公式マスコットキャラのデザインの依頼が来たのですわ!」
「我々の努力がついに実を結んだのであります。これもひとえに応援し続けてくれた陽菜教諭のおかげ……感無量ですぞ!」

陽菜の姿を見て駆け寄る2人。

「おぉー、凄いじゃないのさ2人共! でもそれは君たちがずっと努力を続けてきたからだよ。私は後ろで見守っていただけさ」
「それが支えになっていたのですわ。私と黒沢さんだけではいつか限界が来ていたことでしょう。そうならなかったのは陽菜先生の応援と土神さんのツッコミのおかげですわ」
「全くですぞ。土神殿のツッコミも我々に活力を与えてくれました故」
「しれっと俺を混ぜんな!」

おかしなことを言い出した2人に修也は突っ込みを入れる。

「おぉ、土神君のツッコミは今日もキレッキレだね」
「誰のせいだと思ってんですか」

楽しそうに笑う陽菜を半眼で睨む修也。

「それに今の土神君は表情が晴れ晴れとしてるよ。憂い事が無くなって心の負担が減ったからかな?」
「…………そんなに違って見えますか?」

先日アミューズメントパークのオーナーにも似たことを言われた修也はそう聞いてみる。

「そうだねぇ、全然違うよ。どれくらい違うかっていうと、深夜の通販番組で紹介される美容クリームを使う前と使った後の肌のツヤくらい違うね」
「そんなよく分からんものをたとえに出されても」
「それはさておいて、転入手続きの日に私が言ったことを覚えてるかな?」
「え? えっと……」

そう言われて修也は陽菜に言われたことを思い出す。

(確か……秘密を隠そうとするから後ろめたい。むしろ堂々とオープンにしてしまえ……みたいな話だったかな)

話の流れから修也はそうアタリをつける。
今なら分かる。
前の町でのことがあったので仕方がないのではあるが、秘密を抱えて生きるというのは相当息苦しい。
蒼芽や紅音にだけは普通に話せるようになったとき、気楽さと解放感があったはずだ。
今は全く隠す必要が無くなったので非常に気が楽で、大げさに言うなら世界が変わったようにも見える。

「思い出したようだね。そう! 私が重度のブルマフェチで、穿くのも穿いてる子を見るのも大好きだってことを!!」
「それ今何の関係も無ぇだろ!!」

堂々と胸を張って言い切る陽菜に突っ込む修也。

「私にとってブルマは全てにおいて優先されるべきこと! 君が超能力者とか正直どうでも良い!!」
「言い切ったなオイ!? 敬遠されるよかマシだけどそれはそれで何か複雑だよ!!」
「どんな秘密を抱えてようとも君は私が担任を務める生徒だということに変わりは無いのさ!!」
「…………!」

そう力強く主張する陽菜に修也は今度はハッとさせられる。
言い方に難があるが、陽菜も修也の『力』を知っても態度を変えるつもりは無いということらしい。

「それにさ、土神君にはツッコミ役という非常に大切な役割があるんだよ! 私たちにはそっちの方が大事ってものさ!」
「そうですわ! 土神さんのツッコミは唯一無二の非常に価値があるものなのです!」
「もう土神殿のツッコミ無しでは我々は自由な活動が出来ぬのであります! それを手放すなどとんでもない!」
「変な所で俺の価値観を見出すんじゃねぇ!!」
「そうこれ! やっぱり土神君のツッコミは切れ味抜群だね!!」
「土神さんは至高のツッコミスト! 私たちにとって土神さんはそのような存在なのですわ!!」
「いらねぇよそんな称号!」
「ぬほおおおぉぉぉ!! じ……自分、もう立っていられませぬぞ……! 陽菜教諭に白峰殿、申し訳ありませぬが少々肩を貸してくだされ……」

そう言って机に手を付いてガクガクと足を振るわせ始めてしまった黒沢さん。
何やら生まれたての小鹿みたいになってしまっている。

「土神君……末恐ろしいね、君は。1人の少女を腰砕けにしてしまうとは……」
「誤解招きそうな言い方やめろ!」
「はぅあぁっ!!? 陽菜教諭……白峰殿……自分は、自分はもう……!」

遂に黒沢さんはビクンビクンと全身が震えだしてしまった。
と、その時予鈴のチャイムが鳴りだした。

「さてじゃあ今日も元気にホームルーム始めよっか!」
「そうですわね。規則正しい生活を送ることは健全な学生生活を送るに置いて最も大事なことですわ」
「いつもと同じ生活を送ることができる……気づきにくいですがこれはとても幸せなことなのですなぁ」

そう言って陽菜は教壇に、白峰さんと黒沢さんは自分の席へ歩いて行く。
十数秒ほど前までガクガクと震えていたはずの黒沢さんの足取りは何事も無かったかのようにしっかりとしていた。

「……ああそうだよな、このクラスはこれが普通でいつも通りなんだよな……」

その様子を修也は呆れながら見送るしかできなかったのである。

 

「あははははは! あはっははははは!!」
「……そしてこれもいつも通りだな……」

昼休み、屋上に華穂の笑い声が響く。

「ふぅーっ、落ち着いたぁ」
「お、復帰が早くなってる」
「ホント? 私も慣れて少しずつ耐性が付いてきたってことかな」
「それにしても良かったですね修也さん。クラスの人たちも特に変わりなくて」
「方向性はおかしい気がするがな……」

蒼芽の言葉に苦笑いで返す修也。
白峰さんや黒沢さん以外のクラスメイトも修也の『力』のことを知っても特に今までと対応は同じだった。
そもそも2-Cの面々は修也が神だ何だと周りから持ち上げられていた時も何ら変わらなかったのである。
この展開も納得できるというものだ。

「元々そういう気質のやつらが偶然集まってたのかそれともあの担任の影響なのか……何にせよ物凄い偶然だ」
「そうですかねぇ? 私はむしろこっちの方が普通だと思いますよ?」

修也の呟きに首を傾げ異を唱える蒼芽。

「私もそう思うな。人の知られていない意外な一面を知ったくらいで態度を変えるような人ははっきり言って人でなしだよ。この前爽香ちゃんも似たようなこと言ってたけど」
「わ、私も……舞原さんや姫本先輩と、同じです……悪いことしたわけでもないのに、距離を置くなんて……可哀想です」
「まぁそんな輩どもなんざ放っておけばいいんだ。むしろ物の本質が見えない気の毒なやつなんだと憐れんでやれ」

華穂たちも蒼芽と同じ考えのようだ。

(……ここまで来ると……こっちが普通で前の町のやつらが相当特殊だったんだなと思えてくるな)

前の町では修也の『力』のことが知れ渡った瞬間に波が引くように修也の周りから人がいなくなってしまった。
しかし今は全く変わらない。
一部の人に至ってはそんなことはどうでも良いと言わんばかりだったのだ。

(……いや、それはそれで特殊だろ)

今朝のことを思い出しながら修也はかぶりを振る。
別に当人たちの趣味嗜好をどうのこうの言うつもりは無いが、アレを『普通』にカテゴライズしてはいけないだろう。

「あ、そうそう土神くん、忘れないうちに伝えとくよ」

ふと華穂が何かを思い出したようで修也に話しかけてきた。

「ん、何?」
「おじいちゃんが話したいことがあるらしいから放課後ちょっと理事長室に寄ってほしいんだって」
「理事長が?」

華穂の言葉に首を傾げる修也。
このタイミングということは修也の『力』に関係することだろうか。
いくら生徒や担任が寛容な態度を示していても、トップである理事長が良い顔をしなければ……最悪のパターンも考えられる。

「……心配しなくても大丈夫だよ。悪い話じゃないってのは私が保証する」

修也の表情を読み取ったのか、華穂は優しく微笑みながらそう言う。

「……また何か変な理由こじつけてお礼を渡してくる可能性は?」
「それは…………何とも言えないなぁ」

だが半眼での修也のそんな尋ね返しには視線を外しながらそう返すしかできない華穂であった。

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