守護異能力者の日常新生活記 ~第1章 第12話~

「あの……すみません」

まず紅音の口から出てきたのは謝罪の言葉だった。

(やっぱりか……こんな得体のしれない力を持ってる奴を置いとけるわけ無いよな……)

覚悟していたとはいえ、やはりその現実は修也の心に重くのしかかる。
昨日知り合ったばかりだが、紅音が良い人だと分かるから尚更である。
そんな修也の心境を知ってか知らずか、紅音は言葉を続ける。

「修也さん……」
「…………はい」

修也は改めて覚悟を決めた。

「修也さんの言う『大事な話』はいつ始まるんでしょう?」
「…………はい?」

だが、紅音の口から出てきた言葉は完全に修也の予想外のものだった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第1章 第12話~

 

「大事な話なので言い辛いのは分かります。心の整理が必要かと思い待ってましたが、いつまでも本題に入らないようなので……」
「え? いや、あの……」
「大丈夫ですよ。そんなに緊張しなくても私の答えはもう決まっています」
「……はい?」

さっきから紅音の言葉の意味がイマイチ分からない。
というかなんだか噛み合っていないような、そんな印象を受ける。

「あの……紅音さん?」
「はい、何でしょうか?」
「大事な話は……もう終わったんですけど」
「いえ、私はまだ聞いてませんよ?」
「え? 言ったよな、蒼芽ちゃん」
「はい……私はちゃんと修也さんの話を全部聞きましたけど……」
「修也さん、心配しなくても私は反対なんてしませんから」
「んん? ……さっきから……何の話をしてるんですか?」
「え? 蒼芽をお嫁にくださいって話でしょう?」
「えぇっ!!?」
「お、お母さんっ!!?」

紅音の言葉に修也と蒼芽、二人同時に驚いて立ち上がる。

「いやそんな話全くしてませんよ!?」
「ええ。なので私はまだ聞いてないと言ったんです」
「あの、今話したいのはそう言うことではなくて……」
「私にとって大事な話というのはこのことだけですよ」
「えぇ……」

紅音のとんでもない物言いに対し、修也は言葉が出ない。

「修也さんが不思議な力を持っているのは分かりました」
「あ、良かった、ちゃんと話は聞いて理解していたんですね」
「でも、それを知ったとしても私の修也さんに対する見方は変わりません」
「!」

その言葉に修也ははっとする。

「つまり……俺のこの『力』の事なんて紅音さんにとっては大した問題ではない。そういうことですね?」
「ええ、そういうことです」

そう言って紅音は微笑む。

「蒼芽はどう?」

蒼芽にも紅音は意見を求める。

「お嫁さん云々は置いておくとして……疑問なんですけど、今の修也さんの話で、私たちが修也さんを避けたり嫌ったりする要素ってどこにあるんですか?」

本気で分からない、という顔で蒼芽は修也に問う。

「え? いやだって、こんな得体のしれない力を持ってる奴って気味悪くないか?」
「いえ別に」
「そ、即答……」
「少なくとも私は『世の中広いんだしそういう人もいるよね』くらいの感覚です」
「蒼芽ちゃん器でっけぇ……」
「私からすれば、たったそれくらいのことで修也さんの本質を見ないで距離を置いてしまう人達の器が小さすぎに感じます」
「マジか……」
「今までの修也さんを良く思ってなかった人達の事なんて忘れてください。私は何があっても修也さんの味方ですから」

そう言って蒼芽は修也に微笑む。

「もちろん、私もですよ」

紅音もそれに続く。
二人の表情から、その言葉が建前や上辺だけのものでは無く本気で言ってるのが分かる。

「……ありがとう、蒼芽ちゃん。ありがとうございます、紅音さん……」

だから二人に頭を下げて礼を言う修也。
感極まって涙が出そうになるが、そこはグッと堪える。

「それにしても修也さん……」
「? どうしましたか紅音さん」
「ゾルディアス古武術じゃなくて気功術の使い手だったんですね?」
「紅音さんその名前気に入ったんですか?」

最後の紅音のボケのせいでなんだか緊張感の抜けた空気になったが、今の修也にはそれが心地良かった。

 

「それにしても、蒼芽ちゃんも紅音さんも俺が想定したようなリアクションじゃなくてほっとしたなぁ」

あの後、普通に昼食を食べ終えて修也は自分の部屋に戻ってきた。
宣言通り、二人とも修也の『力』の事を知っても態度が一切変わらなかったのだ。
修也にはそれがありがたく、嬉しくもあった。

「……うん、ここでなら何も気にすることなく楽しくやっていけそうだ」

初めは急な引っ越しで陰鬱な気持ちになっていたが、今では引っ越して良かったとさえ思える。

 

こんこん

 

「修也さん、いますか?」

ノックと共にドアの向こうから呼びかける声が聞こえてきた。
この声は蒼芽だ。

「いるぞー。どうした蒼芽ちゃん」

返事をすると、ドアが少し開けられて蒼芽が顔をのぞかせてきた。

「いえ、せっかく学校が早く終わったので、ちょっと外をお散歩しませんか?」
「散歩?」
「はい。ショッピングモールの案内は明日やるので、今日は特に目的も無しで適当にぶらつくだけですけど」
「良いね。行こうか」

特に断る理由もない。修也は二つ返事で了承した。

「はいっ!」

修也の了承に笑顔で返事をする蒼芽。

「じゃあ準備するからちょっと待っててくれ」
「分かりました」

そう言って蒼芽はドアを閉めた。

(あ、そういや紅音さんが今日は昼から雨が降るかもって言ってたな……)

今朝言われたことを思い出して窓から外を見る修也。
しかし今のところは晴れ間が広がっていて雨の降る気配は無い。

(でもまぁ用心に越したことは無いか)

そう思い、修也は外出用のショルダーバッグに財布とスマホ、そして折り畳み傘を入れる。
準備完了した修也は部屋のドアを開ける。蒼芽はドアのすぐそばで待っていた。

「お待たせ。じゃあ行こうか」
「はい!」

修也と蒼芽は二人並んで階段を下りる。

「あら、お出かけ?」

そんな二人に気づいた紅音が声をかける。

「うん、ちょっと修也さんに町の案内をしてくるよ」
「あら? 明日も案内するんじゃなかったの?」
「明日はショッピングモール。今日はそれ以外だよ」
「分かったわ。あまり遅くならないようにね」
「はーい」
「じゃあ行ってきます」

紅音に見送られ、修也と蒼芽は外に出た。

 

「ん-っ、どんどん暖かい日が多くなってきましたねぇ」

今は春が過ぎ、初夏に入ろうかという季節。
春先ではまだ冷える日もあったのだが最近はそんな日も無くなってきている。
蒼芽は道を歩きながら大きく伸びをする。

「これくらいの気候が一番気持ちいいんだよなぁ。でもそういうのはすぐ終わってしまうのがなぁ」
「ですねぇ。すぐに暑くなってしまうんですよね。修也さんは暑いのと寒いのではどちらが平気ですか?」
「寒い方かな。寒いのは着込めば何とかなるけど暑いのはどうにもならんから」
「私は暑い方が良いかもですね。冬は脚がすごく冷えるんですよ……」
「……もしかして蒼芽ちゃん、冬もスカート短いの?」
「もちろんです。そこは譲れないこだわりというものです」
「だったらタイツ履くとか。別に校則で禁止されたりはしてないだろ?」

校則は最低限しかないと理事長が言っていたのを思い出して修也は提案してみる。
まさかその最低限の校則に、『女子はタイツ履いちゃダメ!』なんて組み込まないだろう。
陽菜が理事長だったらあったかもしれないが。

「我慢できないくらいの寒さならそれもアリですね」
「つまり極限ギリギリまでは使わない、と」

何が蒼芽をそこまでこだわらせるのかは分からないが、修也があれこれ言う問題でもないだろう。
本人の好きにさせとけば良いや、と修也は自分の中で結論付けた。

「それに短いって言いますけど、精々膝上数センチくらいですよ。私よりもっと短い子いますよ?」
「そうなの? あんまり女子高生のスカートなんざ観察しないからなぁ」
「あはは、確かに修也さんの立場からすれば観察できないですよね」
「うん、そんなことしてたらもれなく不審者の仲間入りだ」

蒼芽は同じ女性なので、余程の事が無い限りは大丈夫だが修也はそうはいかない。
女子高生のスカートの裾をジロジロ見ようものなら、疚しいことが無くても通報されかねない。

「そう言えばテレビの特集で見たんですけど、もうホントギリッギリまで裾上げしてる子とかいましたね。ちょっと風吹くだけでパンツ見えそうでした。と言うか見えました」
「見えたの!? 公共の電波で!? ……で、そう言うのに限って『見たな! この変態!!』とか言いがかりつけてくるんだよなぁ」
「そこまで行くと当たり屋的なものじゃないかと私は思ってます。修也さんはそういう場面に遭遇したことありますか?」
「ああ、あるなぁ」
「あるんですか!? わざとではないんでしょうけど……やっぱり修也さんも、目が行っちゃうんですね……男の人ですし……」

何故かショックを受けて段々小声になっていく蒼芽。何やら複雑な表情をしている。

「そういう風に女子高生に詰め寄られてるサラリーマンを見たことがある」
「あ……見た当事者じゃなかったんですね」

そこで何故かほっとした表情になる蒼芽。

「でも逆に『そんな短いスカート履いてるのが悪いんだろうがっ!』って言い返されてた」
「まぁそうですよね……別にサラリーマンの方が自分から覗きにいったんじゃないんですよね? 」
「うん、階段とか段差のある場所じゃなくて普通の道だったし」
「だったらそれはサラリーマンの方が正しいと思います。私が言うのもなんですが、自分でスカートを短くしている以上、何らかのハプニングで中を見られてもそれは自己責任ですよ」
「うん、周りもそう思ったみたいで、女子高生の方が集中砲火喰らってたよ。女性だからって無条件で擁護されなくてちょっとほっとしちゃったな」
「そういう冤罪が問題になった事がありましたよね、そう言えば」
「男にとっては結構深刻な問題だったんだよ、アレ」

話題が結構際どいが、修也は蒼芽とこういう雑談がまたできることが嬉しかった。
『力』の事を話した時は、もうこんな話どころか顔を合わせる事すらできないと絶望したが、蒼芽は変わらず接してくれる。
こんな人は今までいなかった。

「……ふう、さすがにちょっと暑くなってきましたね」

歩き続けて体温が上がって来たからか、そう言って蒼芽は手でパタパタと顔を扇ぐ。

「じゃあちょっとどこかで休憩しよっか」
「あ、近くに公園がありますよ。コンビニもあるので何か買って少し休みましょう」

そう言って蒼芽が先導して歩き出す。
修也もそれに続いていった。

 

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