守護異能力者の日常新生活記 ~第1章 第14話~

「…………ん?」
「…………えぇ?」

今度は不破警部と優実が首を傾げる番だった。

「場所はショッピングモールですよね?」
「ああ、そうだね」

修也の問いかけに不破警部が頷く。

「昨日の話ですよね?」
「ええ、そうです」

蒼芽の確認に優実が頷く。

「だったら間違いないです。すっ転ばせた張本人は俺です」
「なんと! そうだったのかね!?」

驚いた様子で前のめりになって問いかけてくる不破警部。

「いやはや、ひったくりも土神君が未然に防いでくれていたとは! やはりウチに来ないかい?待遇については口利きしてあげられるよ?」

再びスカウトしてくる不破警部。

「いやいや、公務員はスカウト制じゃないでしょ!」
「それなら個人事務所を立ち上げて協力して頂くという形でも……」

何故か優実まで乗り気だ。

「それに俺まだ高2ですよ!? いくら何でも気が早すぎるでしょ!」
「何を言うか! 優秀な人材はどれだけ早く確保しても困らないんだよ!!」
「それは確かに。舞原さん、あなたからも説得してあげてくれないかしら?」
「えっ? 私がですか?」

話は蒼芽にまで飛び火した。自分に話が振られるとは思ってなかった蒼芽はキョトンとした顔で聞き返す。

「ああ、そうだな! 君も彼氏が安定した公務員もしくは警察と太いパイプが繋がってる個人事業主とかだと将来安泰だろう?」
「え……ええええぇぇぇぇ!!?」

不破警部の言葉に蒼芽は目を見開き、顔を真っ赤にさせて驚いた。

「あ、あの、修也さんは別に彼氏ってわけでは……!」
「ああ成程、もう旦那様なのね?」

何故か優実までノってくる。

「うおおおおぃ!! なんでランクアップしてるんですか!?」
「そ、それに私今15歳です! それに修也さんも16歳……ですよね?」
「あ、うん。俺誕生日10月だから」
「あ、そうなんですね。私は7月です」
「そっか。覚えとくよ」
「私もちゃんと覚えておきます。誕生日はお祝いさせてくださいね? ……だからまだ年齢が届いてないので結婚できません!」

蒼芽も相当テンパっているのか、つっこむ所がズレている。

「成程、年齢問題さえクリアすればOK、と」
「今はそういう話じゃないでしょうがぁぁぁっ!!」

ファミレスの一角がカオスな場と化しているのを、店員や他の客たちは温かい眼差しで遠巻きに眺めていた。
巻き込まれないように避難していたとも言う。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第1章 第14話~

 

「……すみません、取り乱しました」
「いや、こっちも悪ノリしてすまなかったね」

しばらくして落ち着いた後、お互いに頭を下げて謝罪する。

「とにかく、君がひったくりを止めたのは分かった」
「結局その時は逃げられましたけどね……」
「いや十分だよ。被害が無くて何よりだ」
「で、被疑者もいい加減懲りれば良いものを、翌日あんな事件を……」
「……ん? あれ? ちょっと待ってください」

優実が説明を続けようとした所で修也はストップをかける。

「修也さん? どうしたんですか?」
「不破さん、コンビニ強盗も未遂だったんですよね?」
「ああ、店員がスタンガンなんて物騒な物持ち出したからね」
「ああ、やはり不破さんも物騒だという認識はあったんですね……」
「被疑者の方の凶器は?」
「コンビニの店員によると、ナイフだったそうです」
「そこがおかしいんだ」
「え?」
「ナイフで脅そうとしたら逆にスタンガンで脅されたから逃げた。状況はこれで合ってますね?」
「うむ、概ねその通りだ」
「……じゃあ、なんで拳銃を使わない?」
「あ……」

修也の指摘に、他の3人はハッとする。

「たとえスタンガンを持ち出されても、射程では拳銃の方が圧倒的に有利だ。ナイフから持ち替えれば良いじゃないか」
「うむぅ、確かに……」
「しかし奴はそうせずに逃げた。何故か?」
「持ってくるのを忘れたとかですか?」
「パニックになってそこまで思考が回らなかったとかでしょうか?」
「……もしくはその時点ではそもそも持っていなかった、か」

蒼芽・優実・不破警部がそれぞれ自分の考えを述べる。
蒼芽の言う通り忘れてきただけなら単なるマヌケだ。
ただあの男ならありえないとも言いきれないのが問題だ。
優実の推測はありえなくも無いし、話はそんなにややこしくはないだろう。
しかし、不破警部の考え通りだと……

「どれもありえなくはない話ですが、どれにせよまだ疑問が残ります」
「……拳銃の調達経路、だね?」

不破警部の言葉に修也は頷く。

「ええ。その日の食う物にも困ってるような奴が、どうやって日本では所持すら禁じられている拳銃なんて調達できたのか」
「舞原さんや私の考えだったらこんな凶行に走る前に何らかの方法で所持していたとしても不自然ではありませんが……」
「それでも普通に銃刀法違反だがね。私の案の場合だと、昨日の夕方から今朝にかけて誰かが被疑者に接触して拳銃を渡した、か……うーむ……もしそうだとすると何やら思ってたよりも大きな事件の匂いがするな……」

そう呟く不破警部の顔は、先程までの様な悪ノリする中年のおっさんの顔ではなく、凛々しい警察官の顔になっていた。

「とにかく、この件はもっと掘り下げて捜査を進める必要がありそうだ。署に戻って調書を纏めるとしよう。情報提供感謝するよ、土神君」
「また何かあったら連絡してください。念の為私の名刺も渡しておきますね」

そう言って優実は自分の胸ポケットから名刺を取り出して修也の前に置いた。

「じゃあね。デート中にすまなかったね」
「えっ……デート?」
「学校が休みになったとは言え、昼間からこんな可愛い子と仲良さそうに町中を歩いていて、デートじゃなければ何だと言うんだい?」

そう言ってニヤニヤと笑いながら修也を見る不破警部の顔は、もうさっきまでの凛々しい警察官の顔ではなく、ただの悪趣味なおっさんの顔だった。

「舞原さん、ちょっと……」
「はい、何でしょうか?」

優実が蒼芽を手招きで呼び寄せる。
近寄った蒼芽に優実はこっそりと耳打ちする。

「……彼、顔も悪くないし中身も良い男だからきっと競争率高くなるわよ? まだ付き合ってないのなら早目に捕まえておく事をお勧めするわ」
「え、えぇっ!?」
「それじゃあね。あーあ、私も素敵な彼氏が欲しいなぁ……」

突然そんな事を言われて狼狽する蒼芽を残して優実は伝票を取って立ち上がる。

「はっはっはっ! 七瀬君、私とかどうかな?」
「……あーあ、私も『素敵な』彼氏が欲しいなぁ……」
「え? なんでもう1回言ったの? と言うかなんで『素敵な』を強調したの? ねぇ?」

スタスタとその場を去る優実の後を追いかける不破警部。

「……真面目なのかふざけてるのかよく分からない人たちだったなぁ……」
「そ、そうですね……」
「蒼芽ちゃん、最後に七瀬さんに耳打ちされてたけど、何言われてたの?」
「えっ!? い、いえ女同士のお話なのでちょっと……」
「ああ良いよ無理に話さなくても。怪しい事じゃないなら良いんだ」

修也が深く追及してこなかったことに安堵の息を吐く蒼芽。

「さて、休憩もできた事だし、俺たちもそろそろ行こうか」
「そうですね」

修也と蒼芽は席を立ち、ファミレスを後にした。

 

「そう言えば修也さん、お誕生日は10月だと言ってましたけど、日はいつなんですか?」

ファミレスを出て、元々行く予定だった公園に行こうという話になり、その道中で蒼芽が修也に聞いてきた。

「15日だ。特に目立たない、何も無い日だよ。蒼芽ちゃんは?」
「24日です。夏休みに被ったり被らなかったり、微妙な日なんですよ」
「あー、確かに微妙な位置だ」
「被らなかったら友達に祝って貰えるんですけど、被ったら祝って貰えなくて……」
「……俺はいつでも祝ってくれるのは親だけだったよ」
「……え?」
「『力』のせいで敬遠され遠巻きにされる日々だったからな……」
「あ……」

蒼芽は思い出した。
蒼芽自身は一切気にしていないが、修也はここに引っ越してくる前は普通の人には無い『力』のせいで怖がられ、周りには誰もいなかった。
もちろん誕生日を祝ってくれる人なんていなかっただろう。
無神経な事を言ってしまったと蒼芽は後悔した。

「だ、だったら私が全力でお祝いしてあげます!」
「え?」
「言いましたよね?私は何があっても絶対に修也さんの味方だって」
「ああ、言ってたな……」
「なので私が修也さんに誕生日の楽しい思い出を作ってあげます。今までの嫌な思い出を全て帳消しにできる位に! 好きな食べ物をまた教えてくださいね? 作れるようにしておきますから」
「……ありがとう、蒼芽ちゃん」

蒼芽の気遣いが修也は嬉しかった。
今年の誕生日は楽しい思い出になりそうだ。

「まぁでも、その前に蒼芽ちゃんの誕生日だな」
「はい。修也さん、お祝いしてくれるんですか?」
「もちろん。当然だろ」
「わぁっ! 嬉しいです!」

修也の言葉に花が咲いたような笑顔になる蒼芽。

「あ、修也さん! 公園が見えてきましたよ!」

上機嫌の蒼芽が、見えてきた公園を指差す。

「おお、広い公園だなぁ」

修也の言う通り、町中の公園としては相当広い。
修也はてっきり住宅街の中にあるようなこじんまりとした公園を想像していたのだが、実際目の前に現れたのは駐車場が併設されている大型公園だったのだ。

「もしかしてこの公園も……」
「はい、この町の資産家の人たちが共同出資して作ったと聞いてます」
「スゲェなこの町の資産家たち……」

ショッピングモール・利益度外視の学校・そしてこの公園。
モール以外は採算が取れないと思うのだが、この町の資産家たちは何を目指しているのだろうか?
庶民感覚しか持ち合わせていない修也に分かるはずもなかった。
ただ悪いことではないし、町のためになるならどんどんやってくれて良いと庶民ながらに修也はそう思うのであった。

「季節の花がいっぱい植えられてて、一周するだけでも楽しいんですよ。今は季節の変わり目なのであまり咲いてませんが」
「へぇー……」
「春は桜やチューリップで夏はヒマワリやアジサイ、秋はモミジやイチョウで冬はサザンカや椿が綺麗なんですよ」
「ちょっと待て秋はそれ花じゃねぇだろ」
「良いじゃないですか綺麗なんですから」

そんな言い合いをしながら公園に入ろうとした修也と蒼芽だが……

「……んん?」

修也の頬に冷たいものが当たった。
ふと空を見上げてみると、出かける前は晴れ間が見えていたのに今は雲一色だ。
しかもその雲も色は暗く、今にも本格的に降り出しそうである。

「うおやべぇ、雨が降りそうだ!」
「え、本当ですね。さっきまで晴れてたのに……」
「念のため折り畳み傘持ってきておいて良かったよ」

そう言って修也はショルダーバッグから折り畳み傘を取り出して広げる。

「はい、蒼芽ちゃん」
「え?」

そして蒼芽に手渡した。

「濡れて風邪ひいたら大変だろ?」
「でもそれだと修也さんが……」
「俺は丈夫だしこれくらいはなんてことはないって」
「でも……」
「気になるならさっきのコンビニで傘買うから」
「さっき見ましたけど売り切れてましたよ?」
「え? マジ?」
「だから………………二人でこの傘をさして帰りましょ?」

そう言って蒼芽は修也に傘を返した。
ちょうど傘で隠れてしまい、蒼芽の表情を伺い知ることはできない。

「えっ? でもこの傘、折り畳みだからそんなに大きくないよ?」
「その分近寄れば良いじゃないですか」

そう言って一歩修也に近づく蒼芽。
元々こぶし一つ分程度しかなかった二人の距離がさらに縮まり、肩が完全に触れるまでになった。

「さ、帰りましょう」
「あ、ああ……そうだな」

肩が触れてるので、蒼芽の温かさや柔らかさが直に伝わる。
修也はその感触にドギマギしながら舞原家への道を歩くのであった。

 

 

……実は蒼芽も折り畳み傘を持っていたこと、そしてコンビニの傘が蒼芽の言う通り本当に売り切れていたのかは、蒼芽本人のみが知ることである。

 

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