守護異能力者の日常新生活記 ~第4章 第10話~

「……さて行くか。確かモールの2階の喫茶店だったよな」

翌日の放課後、修也は永田さんに会う為にホームルーム終了後すぐ荷物を纏めて席を立つ。

「じゃあね土神君。また明日ね」
「じゃあなー!」
「ああ、また明日な」
「あっ土神さん、お帰りになる前に一つだけよろしいですか?」

爽香や彰彦と軽く挨拶をかわして教室を出ようとした修也を白峰さんが呼び止める。

「ん? 何?」
「土神さんはめんたいこさんの得物って何が似合うと思います?」
「……はい?」

急に意味の分からない話題を振られて唖然とする修也。

「あ、すみません説明不足でしたね。実は今黒沢さんときのこたけのこめんたいこでバトルものの漫画を描いているのですが……」
「あぁ、それでそれぞれが戦う際の武器の選択に悩んでいる……と」
「えぇ、その通りです」
「自分としてはやはり槍が似合うと思いますぞ! 普段の生活で銛を使っているから慣れているという設定で……」

黒沢さんも作業の手を止めて話に混ざってくる。

「あ、良いですわね! で、夜になると『俺のこのゲイボルグが火を噴くぜ!』とか言っちゃってきのこさんとたけのこさんとの狂乱の宴をほあああああ!!」
「ふぉおおおお!! 盛り上がってまいりましたぞおおぉぉ!!!」
「あーうん、よく分からんが良いんじゃないか? それじゃあまた明日」

何か勝手に盛り上がり出した白峰さんと黒沢さんを適当にあしらい修也は玄関に向かう。

「……バトルものって、少年漫画的な意味じゃなさそうだな……」

これは多分早々に記憶から消した方が良いやつだ。
修也は深く考えないことにして玄関に向かう。

「あ、修也さん。お待ちしてました」
「こ、こんにちは、先輩……」

玄関では蒼芽と詩歌が立っていた。
修也を見つけて声をかけてくる2人。

「あれ? 2人とも待ってたのか?」
「はい。昨日のアレの続きが気になったので」
「わ、私も……どうなるのか知りたかったので……」
「……へぇー」

その言葉に修也は感心したような相槌を打つ。
詩歌は基本的に受け身で自分から動くことはあまり無い。
その詩歌が自分で興味を持ったものにアクションを起こしている。
修也はその事実にどこか微笑ましさを感じていた。

(……って、いやいや……何目線なんだよ俺……)

だがしかし自分の立場を思い直して内心で首を振る修也。

「……あっ、おーい土神くーん! 良かった、まだ出てなかったんだね」

そんな修也の背後から声がかけられた。

「……ん? あれ、華穂先輩?」

修也が振り返ると、そこには大きく手を振りながらこちらに小走りで駆け寄ってくる華穂の姿があった。

「間に合って良かったー。こういう時は教室が4階にあるのが仇になるねぇ」
「どうしたの先輩、何か用事か?」
「いやー昨日のアレからどうなるのかが気になって気になって」
「先輩もか……」

3人同じ理由で自分を待っていたことに少し呆れる修也。

「あっ、やっぱり蒼芽ちゃんと詩歌ちゃんも気になってたんだね?」

2人に気付いた華穂が声をかける。

「はい。むしろアレで気にならない人の方が少ないと思いますよ」
「だよねー」
「はぁ……まぁ良いけど。とりあえず行くか」

そう言って修也は校門を出ようとする。

「あっ! おにーさんだー!!」
「げふぅっ!!?」

しかし学校の敷地を出た1歩目でそんな声と共に真横から何かが修也に衝突してきた。
まさか1歩目でそんなことになるなど予想すらしていなかった修也はその衝撃をまともに受けてしまうのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第4章 第10話~

 

修也に気配を悟られず飛びつくことができる人物など1人しかいない。

「……由衣ちゃん?」
「えへへー、当たりー」

そう言って由衣はにこにこと笑顔で修也の腰に抱き着いていた。

「どうして高校に? 中学校って少し離れた所にあるって言ってたような」
「んー? 高校まで来たらおにーさんたちに会えるかなーって思ったんだよー。ホントに会えたねー」

そう言う由衣の顔は本当に嬉しそうである。

「ねぇねぇ土神くん、この子は誰? 制服は中等部の物だけど」

華穂が修也に尋ねてくる。

「私の家の隣に住んでいる、平下由衣ちゃんです。小さい頃から仲が良くて一緒に遊んでたんですよ」

修也の代わりに蒼芽が説明する。

「おねーさんたちはおねーさんとおにーさんのお友達ー?」

由衣が詩歌と華穂を交互に見ながら聞く。

「うん。土神くんと蒼芽ちゃんの友達で、姫本華穂だよ。よろしくね由衣ちゃん」
「え、えっと……私は、米崎詩歌。よろしく、ね……?」
「うんっ! よろしくねー、華穂おねーさん、詩歌おねーさん!」

華穂と詩歌の自己紹介を受けて笑顔で返事をする由衣。

「……お姉さんって呼ばれるのは美穂ちゃんで慣れてると思ってたけど、何か違う響きがあるね」
「わ、私はいつも呼ぶ方なので……呼ばれるのは何だか新鮮です……」
「おにーさんたちはこれからどこかにお出かけするのー?」

自己紹介も終わったところで由衣がおもむろにそう尋ねてくる。

「うん、ちょっとモールの喫茶店に修也さんが用事があるんだよ」
「あっ! 私も行きたーい! 学校の帰りに喫茶店に寄り道って何だか大人っぽいしー!」

蒼芽の言葉に両手を挙げてそう返す由衣。

「おにーさん、私も行っても良いー?」
「まぁここまで来たらもう1人増えたところでって感じだな」
「やったー!」

修也の了承を得て、由衣はその場で飛び跳ねて喜ぶ。

「じゃ、そろそろ行きましょうか。約束の時間は4時でしたよね?」

スマホで時間を確認しながら蒼芽が言う。
現在時刻は3時半過ぎなのでそろそろ動き始めた方が良い時間だ。

「そうだな。まあここからモールならよほどのことが無い限りはゆっくり歩いても十分間に合うだろ」
「でもその『よほどのこと』が起きかねないのが土神くんだよね!」
「……否定できないのが辛いところだな……」

修也は今までいろんなフラグを立てられて、見事にそれらを回収してきた。
今回ももしかしたらもしかするかも? という考えが修也の脳裏を掠める。

「さ、流石に考えすぎですよ。ただモールに行くだけですよ?」
「ただ転入手続きをしただけなのに不法侵入からの銃撃事件に巻き込まれたわけだが」
「う……」
「ただ遊びに行っただけなのにアミューズメントパーク襲撃未遂に出くわしたわけだが」
「あ、あはは……」

修也の返しに何も言えず苦笑いを浮かべる蒼芽。

「まぁまぁ。流石にそんな事件がそう何度も起きたりしないよ」
「……だと良いんだが……」

宥める華穂に対してそう呟く修也の脳裏には、先日の瀬里の言葉がよぎっていた。

『土神君、多分これまだ完全には解決してないよ』

ふざけた発言の多い瀬里ではあるが、この時だけは声色が違った。
それに修也自身、猪瀬にまつわる一連の騒ぎが完全に解決したとは思っていない。
猪瀬自身は無害化しているが、猪瀬のバックにいたと思われる者の正体については何も分かっていないのだ。
しかし想像以上にきな臭い感じがするこの騒動に必要以上に自分から首を突っ込むのは気が引ける。
そう言うのは警察に任せるべきだ。
修也にできるのは自分や周りの人に降りかかってきた火の粉を払うことくらいである。

「……おにーさんたち、何のお話をしてるのー?」

事情をよく分かっていない由衣が不思議そうな顔をして首を傾げる。

「うーん……簡単に纏めると、修也さんは凄いねって話だよ」
「いやそれで纏まるか!?」
「だよねー! おにーさんは凄いんだよー!」
「うんうん、土神くんは凄い子だよ」
「は、はい……先輩は、凄い人だと……私も、思います……」
「あれ、皆納得しちゃうの!?」

話の纏め方がおかしくないかと突っ込む修也だが、普通に頷く華穂たちに面食らう。

「だってナイフとか拳銃とか持ってる人を素手で制圧しましたし」
「う……」
「トラックに撥ねられそうになっても……ひるまずに犯人に向かっていって、私たちを守ってくれましたし……」
「うぅっ……」
「猪瀬さんを人格が変わったんじゃないかってレベルで更生させてくれたし」
「いやそれは俺じゃねぇ!」

蒼芽と詩歌の指摘には何も言えない修也であったが、華穂の指摘についてはきっちり訂正する。
あれは塔次のマインドコントロールの結果である。
華穂のボディガードは請け負ったが更生そのものには関与していない。

「だったら……おばあちゃんが遭ったひったくりを阻止したのも土神くんだったよね?」
「あ、そう言えばそんなことも……」
「やっぱりおにーさんは凄い人だねー!」
「はい、そういうことで満場一致で修也さんは凄い人で決定です」
「数の暴力!」
「あははははは!」

修也の突っ込みに華穂が大笑いする。
こうして終始和やかな雰囲気でモールまでの道を歩いて行く修也たちであった。

 

「えーっと……うん、時間は間に合ったな」

修也たちは特におかしな事件の予兆に遭遇することも無く、モール2階の喫茶店の前に着いた。

「で……ここで待ってれば良いのか? それとも中に入って良いのかな?」
「電話では何て言ってたんですか?」
「いや……この喫茶店で打ち合わせするとだけしか言われてないんだよな」
「じゃあしばらくここで待ってみて、誰も来ないようだったら中に入れば良いんじゃない?」
「それが無難かな」

華穂の提案に修也は頷く。
ここで待っていれば、もし永田さんがまだ来ていない場合確実にここで顔を合わせることができる。
時間になっても現れない場合は先に喫茶店に入っている可能性があるので中に入れば良い。

「あ、あの……ところで先輩……」
「ん? どうした詩歌」
「その……今から会う人って……どんな人なんですか……?」
「………………アレ?」

詩歌の質問に数秒固まった後、修也は首を傾げる。

「どーしたのおにーさん?」
「そういやどんな人なのか知らないぞ俺……」
「え?」

詩歌に指摘されて、修也は今から会う永田さんがどんな人なのか全く知らないことに気が付いた。
電話でのやり取りで女性ということは分かるが、それ以外の情報は無い。

「どうするんですか修也さん? これではその永田さんが来ても分かりませんよ?」
「う、うーん……」

人と待ち合わせをするという経験がこれまでほとんど無かった修也はすっかり失念していた。
以前アミューズメントパークへ行くときに彰彦たちと待ち合わせをしたときは、既に彰彦たちを知っていたから問題無かった。
今回もそんな感覚でいたのが敗因だろう。
さらに言うなら、ここからどうすれば良いかもさっぱり分からない。

「……喫茶店に入ろうとする人に手あたり次第声をかける、とか……?」
「いや、普通に電話すれば良いんじゃない? 着信履歴残ってるでしょ」
「あ、そうか」

華穂に言われて気が付いた。
修也のスマホにはきっちりと昨日の電話の履歴が残っている。
それを元にこちらから電話をかけ直せばいいのだ。

「それじゃあ早速……」

修也はスマホを取り出し履歴から電話をかける。

「ご足労ありがとうございます土神様。お待たせして申し訳ございません」

しかし繋がる直前に後ろから声をかけられた。

「え?」

その声に振り返ると、そこにはタイトスカートのスーツを着た茶髪のセミロングの女性が立っていた。
年齢層は陽菜たちと同じくらいだと思われるが、陽菜や瀬里のように無駄にテンション高めの印象は無い。
かと言って優実のようにちょっと尖った雰囲気も感じられない。
まさに営業向けの柔らかい優しさを醸し出している人だ。

「初めまして、めんたいこの港販促プロジェクト広報担当の永田澄香(ながた すみか)と申します」

そう言ってスーツの内ポケットから名刺を取り出して修也に差し出す女性。
名刺には確かに『広報担当 永田澄香』と書かれていた。

「あ、どうも……あの、よく分かりましたね?」

名刺を受け取りながら修也は疑問を呈する。
修也が向こうの特徴を知らないのと同様に、向こうだって修也の特徴を知らないはずだ。
なのに永田さんは一切迷わず修也に声をかけてきた。

「代理人である氷室様より特徴は伺っておりましたので」
「あ、なるほど……」

そう言われて修也は納得する。
頭の切れる塔次ならこうなることを見越してあらかじめ対策をとっていても不思議ではない。

「他の方々は土神様のお友達ですか?」

永田さんが蒼芽たちを見回しながら尋ねる。

「あ、はい。まぁそんなものです」

その問いに対して修也は曖昧な返事でごまかす。
というのもこの面子で修也的に堂々と友達と言えるのは実は華穂だけなのである。
蒼芽は明らかに友達の範疇を越えているし、詩歌は蒼芽の友達ではあるが修也とは友達と言って良いのかは微妙なラインだ。
というか男が苦手な詩歌に対して、いくら自分は平気だからって友達なんて名乗って良いのかという懸念が修也にはある。
由衣は『おにーさん』と呼ばれていることもあってか、どうにも友達というよりも妹という意識の方が強い。
それに対して華穂には猪瀬のボディガード料の話の際に『友達からお金を取るのはおかしい』と明言している。
なので華穂だけは友達だとはっきりと言えるのだ。

「でしたら皆様もご一緒にどうぞ。費用は弊社で負担いたしますので」

そんな修也の裏事情など知る由もない永田さんは深くは気にせずそう言って喫茶店に入る様に促す。

「えっ? いや流石にそれは……」
「は、はい……私たちはついてきただけですし……」
「それでお金を出して貰うってのはちょっと……」
「うん、自分の分は自分で払うよー」

今回蒼芽たちはいわばおまけの立場だ。
修也はともかくとして自分の分は自分で払うつもりでいた蒼芽たちは遠慮しようとする。

「お気になさらなくて結構です。きちんと接待費として経費で落ちますので」
「そうは言いましても……」
「本当に気にしなくても大丈夫ですよ。せっかくの機会なので私もちょっと良いもの頼むつもりですので」
「結構ちゃっかりしてるぞこの人!?」

冗談めかしてぶっちゃけた永田さんに突っ込む修也。
そのおかげか場の空気が少し緩んだ。
初対面時特有の緊張感も薄れたところで修也たちは喫茶店の中に足を踏み入れるのであった。

 

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