守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第23話~

「……にしても本当に普通の写真ばっかりですねぇ……」

亜理紗がつまらなさそうな表情で修也のスマホの画面をスライドさせながらそんなことを呟く。
確か蒼芽にせがまれて写真を撮った時は普通の2ショットばっかりだったはずだ。
変わり映えはしないだろうがそんな不服そうな顔をされるいわれは無い。

「お前は一体何を期待してたんだよ」
「えーそれを私に言わせるんですかぁー? 仕方ないですねぇ教えてあげますよ。私が期待してたのはそれこそ表には出せずSNSにでも上げようものなら一気に人生が終わってしまいそうなそういう際どい構図の写真とかですかねぇ」
「お前は俺が蒼芽ちゃんのそんな構図の写真を撮るような鬼畜野郎に見えるのか」

普通に犯罪レベルのことをしれっと言い出す亜理紗を修也は半眼で睨む。

「あー……すみません流石にそれは言い過ぎました。ですよね、土神先輩は蒼芽先輩や由衣みたいな近しい人には優しい人でしたもんね。由衣が散々惚気てくれましたからねぇ癒し系癒し系と。けどお二人だけの秘密の写真とかがあっても良いんじゃないかなー……と思いましてね」
「仮にあったとしてそれを暴こうとするんじゃねぇ」
「二人だけの写真、かぁ……」

呆れる修也の横で亜理紗の言葉を繰り返し呟く蒼芽。

「いや蒼芽ちゃんもそんな真剣に考え込まんでも」
「いえ流石に長谷川さんの言うようなものはちょっと恥ずかしいですけど、二人だけの写真というのは惹かれますね」
「え……『ちょっと』なんですか蒼芽先輩……」
「だからどういうのを想像してたんだよお前は」
「…………ちょっと具体的にいうのは憚られますね……ここには18歳未満の人もいますから」
「お前も18歳未満だろうが。というかこの場で18歳越えてるやついねぇよ」

一番年上の修也でもまだ今年の誕生日を迎えていないので16歳だ。

「何言ってんですか! そんな年齢制限を軽くブッチするのが男子高校生っていう生き物じゃないですか!! あの手この手でそびえ立つ年齢制限という高い壁を越えようとしてくるのが年頃の男ってもんでしょーが!!」
「なんつー偏見を持ってやがる……」

力強くそう主張する亜理紗に軽く眩暈すら覚える修也。

「ほら想像してみてください土神先輩。露天風呂で男湯と女湯を仕切る壁……越えた先にあるのは一糸纏わぬ美女たちが跳梁跋扈する桃源郷! それがすぐ手の届く位置にあるというのに一目見ようと挑戦してみることすらせず目を背けるなんてそれでも男ですかーっ!!」
「何でお前が男目線で物を語ってるんだよ。あと『跳梁跋扈』と『桃源郷』は普通同じ文章では出てくること無いからな。跳梁跋扈と並ぶ言葉って魑魅魍魎とかだし」
「ねーねーおにーさん、『ちみもーりょー』って何ー? あと、『ちょーりょーばっこ』もー」

修也の言った言葉の意味が分からなかった由衣が尋ねてくる。

「ん? まぁ簡単に言えば『魑魅魍魎』ってのは妖怪や化け物のことで『跳梁跋扈』は各々が好き勝手に振舞うって意味合いかな」
「へぇー」
「確かにそれと桃源郷は合わねーわなー! 確か桃源郷って極楽的なニュアンスだろ?」

修也の説明に頷く由衣と千沙。

「そう? そういう表現がピッタリな人も中には」
「おいやめろ! そういうこと言うんじゃねぇ!!」

とんでもない発言をしようとした亜理紗を慌てて止める修也であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第23話~

 

「……まぁつまり私が言いたいのは世の中綺麗な物だけじゃないってことです。白鳥だって優雅に見えて水面下では必死に水をかいているでしょ? ギャルゲーとか乙女ゲーだって登場人物が美男美女ってだけでモブとかで目も当てられないキャラとかいるんですよきっと」
「そういう話だったか? ……というかそもそも何の話だったっけ」

亜理紗がポンポンと話題を変えてしまうので元々は何の話だったか修也は分からなくなってきてしまっていた。

「今日のありちゃんのパンツが黄色だって話だろ」
「ちっがーう!!」
「今日のありちゃんはしましまパンツだって話じゃないのー?」
「それも違う! アンタら私のパンツから離れなさいよ!!」
「私と修也さんだけの写真を撮ろうって話じゃなかったですか?」
「あ、あれ? そうだったっけ……?」

千沙と由衣に突っかかる亜理紗を尻目にそんなことを言い出す蒼芽に首を捻る修也。
確かにそんな話も出ていたような気がするが、微妙に違う気もする。

「と言うか二人の写真ってならモールのプリクラで撮ったし、他にもスマホのメモリ容量を埋め尽くす勢いで何枚も撮っただろうに」
「それはそれ、これはこれです。思い出はいくらあっても困らないでしょう?」
「まぁ……確かに」

蒼芽の説明に修也は頷く。
引っ越してくる前の薄暗い灰色の思い出はいらないが、蒼芽との思い出ならいくらあっても良い。

「えー、良いなーおねーさん。おにーさん、私とも一緒に写真撮ろーよー」

そんなことを考えていると由衣がぐいぐいと修也の腕を引っ張ってきた。

「そうだ! それなら今から皆で遊びに出かけて色んな写真撮らねーか?」
「あっ! 良いねー! 行こ行こー!!」

そんな千沙の提案に由衣は目を輝かせて賛成する。

「ちょっと待った。写真撮りに行くってのは全然構わないけど、皆カメラ持ってんの? 俺と蒼芽ちゃんはスマホがあるけど」
「その点は大丈夫です! 私もスマホ持ってるので」
「あたしも持ってるぜー!」

そう言って自分たちのスマホを取り出す亜理紗と千沙。

「私もー! この前買ってもらったんだよー」

二人に続いて由衣もスマホを取り出した。

「あ、由衣ちゃんも買ってもらったんだ」
「うんっ! この前のことがあってから、何かあった時の為にって持たせてくれたんだー」

この前のこととは誘拐事件のことだろう。
なるほどGPS機能のあるものとかを持っておけば今後同じようなことがあっても追跡が容易になる。
もちろん何も無いに越したことは無いが、事前の対策をしておいた方が良いのは間違いない。

「何よ由衣、そういうことは早く言いなさいよね! 早速連絡先交換するわよ!」
「ゆーちゃんあたしも! あたしとも連絡先交換しよーぜ!」
「うんっ! 良いよー」

亜理紗と千沙の言葉に由衣は大きく頷き、連絡先を交換し合う。

「…………初めて持つ割には手慣れてるなぁ由衣ちゃん。詩歌は結構苦労してたのに」
「えへへー、買ってもらった日に嬉しくって色々弄ってるうちに使い方覚えたんだよー」
「あー、その気持ち分かるぜゆーちゃん。説明書なんてまだるっこしい! 実際自分でやって覚えるのが一番だよな!」
「いや、そういうことじゃないと思うぞ……?」

由衣の言うことに同調する千沙だが何かズレている感がぬぐえない修也。

「あっ! おにーさんとおねーさんの連絡先も教えてー!」

そうこうしているうちに亜理紗と千沙の連絡先の登録が終わったのか、由衣は修也と蒼芽のそばにやってきた。

「うん、良いよ。修也さんも良いですよね?」
「ああ、もちろん」

拒否する理由など無い。
修也は二つ返事で頷いて由衣に自分の連絡先を見せた。

「あのー、私も連絡先交換してもらっても良いですか?」
「せっかくだからついでにあたしのも登録しといてくれよー!」

そう言って亜理紗と千沙も由衣に続いてくる。

「良いけど……また女の子の連絡先が増えるな……」
「あ、あはは……」

修也の呟きに苦笑する蒼芽。
修也のスマホのアドレス帳は男女比の偏りがどんどん大きくなっている。
男は塔次以降まったく増えていないのに女の子の連絡先はガンガン増えている。

「うわぁそこだけ聞くと物凄いチャラ男っぽいですね土神先輩」
「言うな……俺も自分で何かそんな気がしてきたところだ……ほんの少し前は蒼芽ちゃんと連絡を取り合うだけだったのになぁ」
「あはは……そんな時もありましたねぇ……」
「感傷に浸ってるところワリィんだが兄さん、瑞音ちゃんにこの連絡先教えても良いか? 瑞音ちゃんなら絶対欲しがると思うんだ」
「だろうなー……ここまで来たらもう一人増えようが関係無いや。もし本当に相川が欲しいって言ったら教えてやってくれ」
「おうよ!」

修也の了承を得た千沙は満足そうにスマホをしまう。
帰ってから直接瑞音に教えるつもりなのだろう。

「それじゃあ準備もできたことだし、早速しゅっぱーつ!!」

亜理紗の号令で修也と蒼芽はドアから、由衣と亜理紗と千沙は窓から修也の部屋を後にするのであった。

 

「はーい撮るよー! ありちゃんちーちゃん笑ってー!」

由衣がスマホの画面越しに亜理紗と千沙に呼びかける。

「…………うんっ! 撮れたー!」
「どれどれ……うん、中々良いじゃない」
「そーだなー! ゆーちゃん写真撮る才能あるんじゃねぇか?」
「えへへー」

今撮った写真を見ながらわいわいとはしゃいでいる由衣と亜理紗と千沙。
修也たちは揃って公園にまでやってきていた。
そこでお互いの写真やら風景やらを色々と画面に収めているのだ。

「ねーねーおにーさん、おにーさんはどんな写真を撮ったのー?」
「俺? 俺は風景とか野鳥とか季節の花とかかな」
「えぇー、何か先輩のキャラじゃないですねぇ。もっと女の子を撮らないんですか? ここにこんなにいっぱいいるのに」
「どういう認識持たれてるんだよ俺」

冗談めかして言う亜理紗に対して呆れたような声で返す修也。

「蒼芽さんは何撮ったんだー?」
「私も修也さんと似たようなものかな。あと由衣ちゃんたちが楽しそうに遊んでるところも撮ったよ」
「そういう千沙はどんな写真を撮ったのよ」
「あたしか? あたしはゆーちゃんとありちゃんを撮りまくったぜー!」

そう言って千沙は自分のスマホの画像フォルダを開く。

「わー凄いちーちゃん! いっぱい撮ってるねー!」
「確かにこの短時間でこれだけの数をよく撮れたわね…………んん?」

千沙の撮った写真の数に感心している由衣と亜理紗だが、亜理紗が何か疑問が出てきたようで眉根を寄せる。

「ん? どーしたありちゃん」
「ねぇ千沙……何か由衣の写真の割合が多くない?」
「あー確かにそうかもなー。ゆーちゃんいつもにこにこ笑顔だからシャッターチャンスが多いんだよなー! あ、別にありちゃんが映えないってわけじゃないから誤解しないでくれよー?」
「いや別に気にしてないわよ。千沙の言うことももっともだし」

由衣は大体笑顔で楽しそうにしていることが多い。
人の写真を撮るなら笑顔を撮りたいと思うのはごく自然なことだろう。

「…………あら? そこにいるのは土神君と舞原さんかしら」

そこに修也たち以外の声が割り込んできた。

「……その声は、七瀬さん?」

修也が声のした方を見てみると、そこには予想通り優実が立っていた。
警官の制服を着ていないということは今日は非番なのだろう。

「あっ! 警察のおねーさんだー!」

優実の顔を見た由衣の表情がぱっと明るくなる。

「あらあなたは……久しぶりね、元気だった?」
「うんっ! 私はいつでも元気だよー!」

優実も由衣に気付いたようで柔らかく微笑みながら話しかける。

「何だい何だい土神くぅーん……また新しい女の子がいるじゃないの。そういうスキャンダラスなネタはお姉さん大歓迎よーん」

そこに妙に粘っこい声を出しながら優実の影からひょっこりと瀬里も顔を見せた。

「うわぁ……」
「ちょいちょーい! 何だよぅそのめんどくさい人に会った時に使うようなリアクションは。ここは『イヤッホゥ偶然美人巨乳ブロガーの高代さんに会えたぜラッキー!!』って喜ぶところでしょうが!」
「そういう所がめんどくさいのよ」

修也のリアクションに不満の声をあげる瀬里とそれを制止する優実。

「代弁ありがとうございます七瀬さん」
「良いのよこれくらい。長い付き合いだし」
「ところで今日はどうしたんですかお二人で」
「いつものプチ女子会よ。途中で瀬里に会ったから同行してるだけ」
「私と優実は住んでる場所が近いからこうやって鉢合わせることが多いんだよね!」
「本当に仲良いですねぇ」

高校を卒業して進路が分かれてもこうして定期的に顔を合わせる場を作る。
そんなことができる優実たちが修也は凄いと思うし羨ましいとも思う。

「ところで土神君や。ちょいと聞きたいことがあるんだけど」
「……何ですか?」

にじり寄ってきて耳打ちするような仕草で瀬里が修也に話しかけてくる。
とは言っても声量が普通なので蒼芽たちにも普通に聞こえるのだが。
その瀬里の行動に修也は怪しげな目を向けながらも尋ね返す。

「何さそんな人を疑うような目を向けちゃってさー! 真面目な話だから大丈夫だよぅ!」
「真面目にふざけるのがあなたと藤寺先生でしょうが」
「おぉっ! 土神君も私たちのことが分かってきたねぇ。嬉しいよ!」
「褒めてません」

嬉しそうに笑う瀬里にジト目を向ける修也。

「安心して土神君。もし瀬里がふざけ倒すようなら私がシメるから」
「助かります七瀬さん。で、聞きたいことって何ですか」
「いやさぁ、ブログのネタの為に色々調べてたらやたら太った男が小さな女の子を無理やり連れ回してたのを見たって話が耳に入ってねぇ」
「!」

瀬里の言葉を聞いて修也の目が一瞬で真面目なものになる。

「おっ、その反応は……何か知ってるね?」

修也の変化に目ざとく気付いた瀬里が詰め寄る。

「知ってるというか……」
「それってこの前おにーさんが私を助けに来てくれた時のことー?」

修也の言葉にかぶせるように由衣が瀬里に問い返す。

「おおっ! やっぱり知ってるだけじゃなくて関わってたか! しかも当事者の子までいるとは!」
「ちょっと瀬里、無神経に踏み込むのは……」
「あ、大丈夫ですよ七瀬さん。由衣ちゃん的には誘拐されたけど修也さんが颯爽と助けに来てくれたという美談になってるみたいなので」
「あら、そうなの? そういえばあの時もそう言ってたわね」

由衣に配慮して瀬里を止めようとした優実だが、蒼芽にそう言われ言葉を止める。

「いやぁ当事者に話を聞けるってのは情報収集としては一番楽だよね! という訳で話を聞かせておくれよ! 話せる範囲で良いからさ。報酬はそこの自販機のジュースで良いかい?」

そう言って瀬里はすぐそこにある自販機を指さす。

「じゃあ私はオレンジジュースー!」
「俺はスポーツドリンクにするかな」
「オッケー! 舞原さんたちは何にする?」
「え、私たちも良いんですか? 当事者じゃないですけど」
「いーよいーよ。子供が遠慮なんかしなさんな!」
「それじゃあ……水で」
「だったら私はこの乳酸菌飲料を」
「あたしは兄さんと同じスポーツドリンクで!」

蒼芽に続いて亜理紗と千沙もそれぞれ欲しい飲み物を挙げる。

「なら私は微糖のコーヒーで」
「いやアンタは自分で払え! 良い大人でしょうがー!」

ちゃっかり便乗しようとする優実に突っ込みを入れる瀬里であった。
前にもやっていたあたり、どうやらこれは優実たちの定番のやり取りとなっているようだ。

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