「…………ふむふむなるほど、米崎殿はレイヤードビキニですか。センスの良さが垣間見えますぞ」
「そう言う黒沢さんが選んだワンショルダーのワンピースもおしゃれでしたわよ」
「あぁ2人も水着買いに行ったのね」
翌日修也が登校して教室に入ると、爽香と白峰さんと黒沢さんが集まって話をしていた。
「何か珍しい組み合わせで話してんのな」
「おぉ土神殿、おはようございまする」
「おはようございますわ土神さん。いえ今度の海への旅行が楽しみでいてもたってもいられなくなりまして」
「あーまぁ……旅行に心浮かれる気持ちは分からんでもない」
修也としては中学までの修学旅行などの学校のイベントでは碌な思い出は無いのだが、家族旅行ではそれなりに楽しかった記憶がある。
それに今回の旅行は参加メンバーを考えると騒がしくはなりそうだが、それでも楽しいものになるのは間違いないと見て良い。
そう考えると修也も楽しみになってきた。
(……となると、この旅行を目一杯楽しむためにもせめて目途は立てておきたいところだが……)
スケルスの件が片付かない限りは修也は十全に旅行を楽しむことはできない。
だが謎が多い上に底の知れないスケルスが相手だ。
しかも修也自身ができることはほとんど無い。
ただ状況が動くのを待つことしかできないのだ。
それが歯がゆい。
「それで白峰さんはどんな水着を買ったのかしら」
「私はシンプルに白の無地のビキニですわ」
「一見地味に思われますが、如何せん白峰殿は素体が限りなく素晴らしいですからな。敢えて水着は簡素であるくらいがちょうど良かったのですぞ」
「確かに白峰さんは何着ても似合いそうね。元が良いから」
悩む修也をよそに爽香たちは楽しそうに水着の話題に花を咲かせる。
「そう言えば土神殿はどのような水着をお買い求めになられたのですかな?」
「ん、俺? いや普通にハーフパンツ型の物を適当に……」
「なんと勿体ない! 土神さんも素体は良いのですから見栄えする一品を購入すればよろしかったですのに」
「そ……そうかぁ? 俺としてはそんな目を引くものは遠慮したいんだが……」
黒沢さんと白峰さんに詰められ、修也は怪訝そうに眉をひそめる。
「何を言うのですか、人の視線というのは重要なのですぞ! 視線を気にするからこそ身だしなみも整うものなのです」
「あー……何か似たようなことを前に聞いたことあるな」
引っ越してきて間もない頃、紅音から似たような話を聞いたのを修也は思い出した。
「それに今回の旅行は姫本家所有のコテージということでプライベートビーチ的なものなのでしょう? ならば必要以上の視線に晒されることもないので少々冒険してみるというのもまた一興というもの」
「……何か矛盾してねぇか?」
さっきの黒沢さんと正反対のことを白峰さんが言っているような気がして修也は首を捻るのであった。
守護異能力者の日常新生活記
~第6章 第17話~
「ちなみに彰彦も同じような物よ」
「あぁ、仁敷さんは納得できますわ」
「決して仁敷殿に非があるわけではない故、気分を害さないでいただきたいのですが……」
「大丈夫、気にしちゃいないわ」
「確かに仁敷はスタンダードなものが似合うよな」
彰彦への悪口になりかねない発言を気にして幼馴染兼彼女である爽香にフォローを入れる黒沢さんだが、当の爽香は大して気にした様子を見せていない。
彰彦に『普通』が似合うのは爽香が一番分かっているからだ。
「褒められてんのかどうなのか微妙な所だな……まぁそれは置いといて男用の水着なんてそう代わり映えもしないだろうに」
「確かに……私たち女性用に比べて殿方の水着はバリエーションに欠けますわね」
彰彦の言葉に頷き考え込む白峰さん。
「この前水着売り場でざっと見たけど、色とか柄はともかくとして形は大体同じだったぞ」
「おそらくは求める傾向が男性と女性で異なることからくるものではないかと」
「あーうん、少なくとも俺は見栄えをそこまで意識しないや。実用的であればそれで良い」
「俺も大体そんな感じだなぁ。氷室はどうだ?」
彰彦はついさっき教室に入って来て自分の席に着いた塔次にも話を振る。
「……ふむ、悪いが俺も土神や仁敷とそう大差は無い」
「そりゃそうだよなぁ。ウケ狙いでもない限りそんな変わり種なんて持ってる訳ない」
「敢えて言うならウェットスーツくらいか」
「え、何でそんなもん持ってんだ?」
塔次も修也や彰彦と変わらないことに納得しかけていた修也だが、追加で出てきた塔次の言葉に首を傾げる。
「スキューバとかでもやってんのか? まぁお前なら何やってても驚かんが」
「うむ。一時銛突き漁を嗜んでいた時があってだな」
「……想像の遥か斜め上だった」
どんな理由があろうとも驚かないつもりでいた修也だが、かなり想定外の理由が出てきたことに頭を抱える。
「案ずるな、地元の漁業組合の許可はきちんと取ってある」
「いや懸念してるのはそこじゃねぇ」
「自分で獲った魚を自分で捌いて食すというのもなかなか趣があるものだぞ」
「だったら釣りで良いじゃねぇか。何でわざわざ銛突きなんだよ」
「それでは安直でつまらぬではないか。凝り固まった発想は可能性の発展を阻害するぞ」
彰彦の問いに当然だと言わんばかりに返す塔次。
「まぁ……人の嗜好にあれこれ言うのも違うか。で、霧生は……」
「待つのであります土神殿! 霧生殿は問わずとももう答えは決まっているではないですか!」
修也が戒にも話を振ろうとしたところ、黒沢さんに制止された。
「え? ああまぁ……俺・仁敷・氷室と回答が似たり寄ったりだったから霧生も」
「霧生殿はビキニパンツ一択でしょう!」
「えぇ、それでいて色は黒! これは譲れませんわ!!」
「何でだよ!? 何で俺の水着をお前らに決められないといけないんだよ!?」
修也を遮り力強く主張する黒沢さんと白峰さんに戒が突っ込む。
「しかしその鍛え上げられた肉体を誇示するのであればそれ以外の選択肢はあって無いようなものだと思うのですが」
「別に見せるために鍛えてるわけじゃねぇからな!?」
「私だって見せるために今のプロポーションを維持しているわけではありませんわ。それでも私はビキニを選びました。なので霧生さんも是非!」
「『是非!』じゃねぇよ!! 何で合わせないといけないの!!」
「でも霧生……美穂さんビキニらしいぞ」
「え?」
白峰さんに詰め寄っていた戒だが、修也の一言でピタリと止まって修也の方に顔を向ける。
「いや昨日話の流れで華穂先輩たちが水着買いに行くってことになってその中に美穂さんもいたんだってさ。で、美穂さんはビキニを買ったとか何とか」
「へ、へぇー……」
「まぁ華穂先輩もビキニだって話だし、蒼芽ちゃんや由衣ちゃんも一応ビキニだわな」
「詩歌だって広い意味で言えばビキニよ」
「というか今俺の知る限りでビキニでないのは黒沢さんだけだな」
「おぅふ、自分まさかの少数派ですか!?」
自分以外がほぼビキニ型の水着を選んでいることを知りやや大げさに仰け反る黒沢さん。
「これは不覚……よもや皆様がそこまでアグレッシブな選択を取るとは……! ならば自分はさらしに褌で」
「いやどこに向かおうとしてるんだよ。余計に少数派に踏み入れるんじゃない。百万歩譲ってそれで行くとしてもそれは祭のスタイルだろ」
おかしなことを呟きだした黒沢さんを修也は止める。
「その際は法被もお忘れなきように、黒沢さん!」
「もちろんですぞ! ねじり鉢巻きも当然セットで」
「祭から離れんかい」
さらに便乗してきた白峰さんにも突っ込みの手を入れる修也。
「……まぁそれは置いといて、美穂さんがビキニだからと言って無理に合わせる必要は無いわけだが」
「だ、だよな! 別に仁敷も土神も合わせてないもんな!! 別に俺も美穂さんに合わせなきゃいけないってわけじゃないよな!」
一瞬何とも言えない顔をしていた戒だが、修也の付け加えた言葉に安堵のため息を漏らす。
「えー、せっかくだったらお揃いにすれば良いですのに」
「仲の良さを周りにアピールするチャンスですぞ!」
「そんなんでアピールになるかぁっ!!」
不服そうに口を尖らせる白峰さんと黒沢さんに突っかかる戒。
「……というか俺らにアピールしても仕方ないんじゃあ……?」
「そりゃそうだ」
彰彦の呟きに頷く修也。
戒と美穂が付き合っているのは既に周知の事実である。
それなのに今更仲良しアピールしたところで何にもならない。
「分かっておりませぬなぁ土神殿たち。我々女子はいついかなる時でも如何に自分が満たされているかを周りに振りまきたいものなのであります」
「いやまさか……」
「黒沢さんの言う通りですわ土神さん。ことあるごとに写真を撮ってSNSに上げておられる方もおられるでしょう?」
「中には中毒患者ってレベルの人もいるわね。流石にあそこまで行くのはどうかと思うけど」
「……そう言われると……」
黒沢さんの言うことをあり得ないと切って捨てようとした修也だが、白峰さんと爽香も追随したことで考えを改める。
修也もそう言った人種がいるのを耳にしたことは何度かある。
「でも美穂さんもそうとは限らないし、服装を合わせることだけが仲良しアピールってことにはならんだろ」
「まぁそれはそうね」
「ああっ! 米崎殿、そこで折れないでくだされ! うまいこと霧生殿をおだて上げてビキニパンツを穿かせる作戦が頓挫してしまいまする!!」
「頓挫してしまえそんな作戦!」
「こうなれば私も黒沢さんに合わせてリオのカーニバル衣装に」
「祭はもういい!!」
話の方向性が段々と混沌としてきたことに修也は呆れつつもどこか楽しさも感じるのであった。
何だかんだ言いつつも修也はこの空気を気に入っているのである。
「おーい土神、いるかー?」
授業をつつがなく終えて放課後になって間もなく、瑞音が教室に顔をのぞかせてきた。
「あれ、相川? どうしたこっちの教室まで来て」
「ああいたな。何、ちょっとお前の今週末の予定を聞いておきたくてな」
「週末? 現時点では特に何も無いけど」
「じゃあちょっと付き合ってくれよ。うちの教室に顔を出してほしいんだ」
「相川の家の教室?」
全く予期していなかった誘いに修也は首を傾げる。
「何だって急に。勧誘なら悪いがお断りだぞ」
「違ぇよ。……でもまぁ気が変わったらいつでも言ってくれ。お前なら歓迎するぜ?」
「気が向いたらな。で、勧誘じゃないなら何だってんだ?」
「いやー家で話の流れでお前のことが話題に出た時、親父がお前に興味を持ってなぁ。1回会ってみたいから連れて来てくれって頼まれたんだよ」
「……何かそういうの最近多くないか?」
つい先日も由衣の母親である由紀に似たようなことを言われて顔を合わせたばかりだ。
他にも詩歌や華穂の両親とも同じような機会があったのを修也は思い出す。
「もちろん舞原や平下を連れて来ても構わん。むしろ平下は連れて来てくれた方が千沙が喜ぶな」
「ああそうかお前の教室に新塚もいるんだっけか」
「ああ、しかも一番の古株だ」
「確かに新塚、基礎はしっかりできてたもんなぁ」
先日軽く立ち会った時、千沙にそれなりの技術と経験が備わっているのを修也は感じ取っていた。
あれは数年単位で練習を積まないと身につかないものだ。
「……だからこそ勿体ないと思うんだが。あんな大技ばっかりなのは」
「私も口を酸っぱくして言ってるんだがな……1週間もすれば元に戻っちまうんだよ……」
修也の苦言に対し瑞音も難しい表情で首を横に振る。
「なまじそれでも何とかなってきたのが痛いな。でもあれじゃ勝てない相手が今後絶対に出てくる。お前みたいなな」
動きが大きな技は当然隙も大きくなる。
それでは見切り能力が非常に高い修也には通用しない。
いくら威力の大きい技でも当たらなければ何の意味も無い。
「でも別に何かの大会があったり対外試合をしたりするわけでもないんだろ?」
「まぁな。でもせっかくなら強くなりたいと思うのは自然なことじゃねぇか?」
「確かに」
格闘技に限らず上達したいと思うのはごく普通のことだ。
その為に明らかな弱点を潰すのは常套手段である。
「でも新塚も分かってはいると思うぞ? 俺に何度かアドバイスを求めて来てるし」
「長年かけて染み付いていった癖はそう簡単には抜けないってことか……」
修也の言葉に納得して頷く瑞音。
「まぁ千沙の話は良い。週末来てくれよな。場所は後で送っておくから」
「あぁ分かったよ。蒼芽ちゃんと由衣ちゃんにも話して……ん?」
瑞音の誘いに頷きかけた修也だが、気になることができて首を傾げる。
「ん? どうした土神」
「いや……由衣ちゃんに声をかけるのは良いとして……何で蒼芽ちゃんまで?」
由衣は千沙の為ということで理解できるが、蒼芽まで誘う理由は無い。
特に親しい人がいるわけでもないし、蒼芽が体術に興味を持っているという話も聞いたことが無い。
修也の疑問ももっともだ。
「…………あっ! そういやそうだよな。いや土神と舞原はセットというか、2人で1つみたいな意識があってだな」
修也に指摘されて今気づいたかのような顔をする瑞音。
「あーまぁ……そう思われても仕方がないところもあるのか」
思えば大体修也の隣には蒼芽がいる。
先日3年の教室に行った時もそのことを指摘されたことを修也は思い出す。
複数人で遊びに行く時なども蒼芽は修也の隣の位置を確保していることが多い。
「まぁ今更か。それじゃ週末になー」
ただそれは事実に間違いないし別に困ることでもない。
なので修也はそのことを深く考えず軽く受け流すのであった。
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