守護異能力者の日常新生活記 ~第2章 第16話~

「……そうか、舞原さんとは無事連絡先交換できたのか」
「うん。舞原さんから交換しよって言ってくれたから……」

放課後、詩歌は昨日の約束通り連絡先を交換するため、彰彦と中庭のベンチに座っていた。

「直で話したことは無いけど、本当に良い子だな、舞原さん」
「……うん。本当に……」
「まぁそれは置いといて、だ。ほれ、これが俺の連絡先だ」

そう言って彰彦が自分のスマホに連絡先を表示させてくれる。

「え、えっと……確か、ここをこうして……」

先程の蒼芽の時よりは多少慣れた手つきでスマホを操作する詩歌。
いざ彰彦の連絡先を入力しようとしたその時。

「わ……わわっ!?」

スマホの画面に急に何か見たことの無いメッセージが表示された。
詩歌は驚いてスマホを落としそうになる。

「何だ、どうした?」
「あ、アキ君、急に何かが……」

そう言って詩歌は画面を彰彦に見せる。

「ん? あー……通知が来たんだな」
「……通知?」
「これは……チャットアプリのやつか。メッセージが届いたんだよ」
「え? あ……」

そう言えば朝、蒼芽がチャットアプリについて言っていた、と詩歌は思い出した。

「……でも、このアプリはまだ1回開いただけなのに……」
「それ、連絡先と同期されてるから、自動で登録されたんだろ」
「…………?」

彰彦が解説してくれるが、スマホ初心者の詩歌には何のことだかよく分からない。

「まぁ……連絡先を登録したらそっちのアプリの連絡先も一緒に登録されるって考えれば良いさ」
「そ、そうなんだね……ということは、このメッセージは……舞原さん、から?」
「まぁそうだろうな。まだ他には誰も登録してないんだろ?」
「う、うん……何だろう……私、何か気に障ることしちゃったかな……?」
「いや、それは無いと思うが……見てみれば?」
「そ、そうだね。えっと…………」

彰彦に言われて見てみようとした詩歌だが、その手が止まる。

「ん? どうした?」
「…………どうやって見るの?」
「ああ、そうかそこからか……」
「ご、ゴメンねアキ君……」
「良いって。昨日も言ったけどこれくらい爽香に比べたら可愛いもんだ」

彰彦は丁寧にひとつずつ詩歌に説明する。
そのおかげで詩歌はメッセージを見ることができた。
詩歌の予想通り、差出人は蒼芽だった。

『操作は慣れた? 私で良かったらいくらでも練習に付き合うからね?』

という内容が絵文字で飾られたメッセージだった。

「……流石は舞原さん、手慣れてるなぁ……」
「どんな内容だったんだ?」
「えっと……私の携帯電話の練習に付き合ってくれるって内容の……」
「良かったじゃないか。で、返事は返さなくて良いのか?」
「あ……そ、そうだね」

彰彦に促され、詩歌は返事を送ろうとするが……

「はいはい、今度はメッセージの送り方だな?」
「う、うん……ありがとう。流石アキ君、よく分かったね……?」
「何年幼馴染やってると思ってるんだ?」

詩歌が口を開く前に察した彰彦が助け船を出す。
おかげで詩歌は何とか蒼芽に『ありがとう』とメッセージを返信することができたのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第2章 第16話~

 

「……わっ!?」

詩歌がメッセージを送ってから10秒程度で再び蒼芽からメッセージが送られてきた。

「早いな舞原さん。今どきの女子高生って感じだ」
「これは……絵?」

今度のメッセージは文字ではなく、絵が送られてきた。
何かのキャラがサムズアップしている絵だった。

「ああ、それはスタンプだな」
「スタンプ……?」
「いわゆるテンプレ的なメッセージを送る時に使うものだ。文字打つよりも早いし色々面白いから便利だぞ」
「へぇ……」
「詩歌も気になるものがあればダウンロードしてみると良い。金かかるものもあるけどな」
「そうなんだね……」
「そう言えばそのスマホ、費用は誰が出してるんだ? 詩歌の小遣いからか?」
「うぅん、お父さんが出してくれるって……」
「おじさんが?」
「うん……私がこれでお料理の調べ物ができるって言ったら、お金は全部出すからって凄い乗り気で……」
「あー……詩歌の料理美味いもんなぁ。ま、それならおじさんと相談してからだな」
「うん。で、これの返事は……」
「それはもう良いんじゃないか? そのスタンプでやり取りは完結してるみたいだし」
「そ、そう? それじゃあアキ君の連絡先を……」

蒼芽とのやり取りも完結したということなので、詩歌は本来の目的である彰彦の連絡先を登録しようとすると……

「ん? そこにいるのは仁敷と詩歌か?」
「ひゃうぅぅっ!!?」

急に背後から声をかけられ、詩歌は飛び上がりそうになる。

「あれ、土神?」
「つ、土神、先輩……!?」

バクバクと強く脈打つ心臓を押さえながら詩歌が振り向いた先には、修也が立っていた。

「……え? 何か、声かけちゃまずいタイミングだった?」
「い、いえ……その……急に後ろから声をかけられたので、驚いてしまって……」
「土神、詩歌に声をかけるときはちゃんと視界に入ってからゆっくりかけないと」
「それ、何かの野生動物みたいだよ、アキ君……」
「それよりどうしたんだこんな所で?」

今いる中庭は人通りが全く無いわけではないが、そこまで多くもない。
基本的に教室からまっすぐ帰るなら通る必要の無い場所だからだ。
彰彦が疑問に思うのも無理はない。

「いや、校舎内の配置をしっかり把握しておきたくて色々と見て回ってるんだ」
「あー、思いのほか複雑だもんなこの学校」
「で、仁敷と詩歌はどうしてこんな所に?」
「俺は詩歌にスマホの使い方をレクチャーしてたんだ」
「その……昨日新しく買ったんですけど、使い方が……分からなくて……」
「へぇー、詩歌スマホ買ったのか」

そう言って修也は詩歌の背後から覗き込む。

(あ、あわわわわわ……先輩が、こんなに近くに……!)

それだけのことなのに詩歌は顔が熱くなり、手が汗だらけになる。
目も回り、頭の中が真っ白になって思考が働かない。

「あ、そういや土神、お前はスマホ持ってんの?」

そんな詩歌の心境を知ってか知らずか、彰彦は話を進めて修也に何気なく尋ねる。

「ん? 一応持ってるぞ」
「一応ってなんだ」
「今の使用用途がほとんど蒼芽ちゃんとの連絡しかないからな……」
「羨ましいのか悲しいのか分からない事言うんじゃねぇ。まぁ持ってるなら俺とも連絡先交換しとこうぜ」
「ん? 良いのか?」
「ま、クラスで席も近いことだし、何かあった時のために交換しといて損は無いだろ」
「席近い事関係あるか? ……でもまぁそれもそうか」

そう言って修也は彰彦と連絡先を交換する。

(良いなぁ……アキ君……)

詩歌はその様子を羨ましそうに見ている。
その様子を横目で見ていた彰彦が……

「……そうだ、ついでだから詩歌とも交換しておいてくれないか?」

そう修也に提案した。

「あ、アキ君……!?」
「詩歌と?」
「そ。さっきも言ったけどさ、詩歌はまだスマホ持ち始めて間も無いんだよ。だから……」
「ああ、練習にってことか?」
「そんな、アキ君……先輩に迷惑だよ……」
「まあ俺は構わんけど」
「え……い、良いんですか……!?」

彰彦の提案に弱々しく抗議を入れる詩歌だが、修也が普通に受け入れた事に驚いて修也の方に振り返る。

「ん? ああ、さっき仁敷も言ってたけどさ、交換しておいて別に損は無いだろ。何かダメな事情があるなら仕方ないけど」
「そ、そんなの……無い、です。なので、お、お願い……します……!」

そう言って詩歌は自分のスマホの連絡帳を開く。

「んじゃ、これが俺の連絡先な」

修也も連絡帳を開いて詩歌に見せる。
自分から登録しないのは、彰彦からスマホを買ったばかりだと聞いたので、詩歌に操作を慣れさせる為だろう。
蒼芽と彰彦が詩歌に登録させたのも恐らくは同じ理由だ。

(こ……こここここれが、せ、せせ先輩の……連絡、先……!)

しかし詩歌はそんな気遣いに気付く余裕は無い。
表示された連絡先を見て登録しようとするのだが、不慣れから来るものとは違う理由の緊張でスマホを持つ手が震えて、しかも手汗で滑ってうまく文字入力ができない。
それでも何とか入力を終え、登録を完了させる。

「で、できました……!」
「……うん、合ってるみたいだな。一応確認しておくか?」
「あ……空メール、と……ワンギリ、ですよね……?」
「そうそう。良く知ってたな? 買ったばっかなのに」
「今朝……舞原さんに、教えてもらったんです……」
「ああ、なるほど」

納得顔の修也を前に、詩歌はぷるぷると震える指で空メールとワンギリを送り、連絡先を間違えていないことを確認する。

「それにしても、やっぱ最初はフリック操作とか戸惑うよな。俺も誤フリックよくやるから分かるよ」
「え……? あ……は、はい……」

どうやら修也は詩歌が緊張で手間取っていたのをスマホ慣れしてないだけだと思ったようだ。

(いや……それも無くはないだろうけど、メインの理由は多分違うな……)

彰彦はそう思ったが、口に出すのはやめておいた。
割と空気の読める男である。

(ふりっく……? 何だったっけ……? 説明書に書いてたような気がするけど……)

一方詩歌はまた新しく出てきた単語に頭を悩ませる。

「それじゃそろそろ俺は行くわ。頑張れよ詩歌ー!」

修也はそう言って詩歌にエールを送り、中庭を後にした。

「…………良かったな、詩歌」

修也の姿が見えなくなった後、彰彦が詩歌に言う。

「……うん、まさか……先輩の連絡先が、聞けるなんて……」

詩歌は今さっき修也の連絡先を登録したスマホを胸に抱きしめながら呟く。

「これで爽香の言う3人登録って課題クリアできるぞ」
「…………あっ! そ、そうだよね、どうなることかと思ったけど、何とかなったね……!」

詩歌は修也の連絡先を手に入れることができたのが嬉しくて、爽香から課題を出されていた事が頭から消し飛んでいた。
だから今の彰彦の言葉の意味をはき違えていたのだ。
その事に気づいた詩歌は慌てて取り繕う。

(……うん、まぁ詩歌的には土神の連絡先を聞けたのが大きいってのは分かるけどな)

しかし彰彦は詩歌がどうはき違えていたのか察していた。
でもあえて口に出すようなことはしない。
本当に空気の読める男である。

「それじゃあさっさと俺の連絡先登録してクリアと行こうぜ」
「あ……そう言えば、アキ君の連絡先……まだ登録してなかったね……」

ついでに修也から急に背後から声をかけられた衝撃で、彰彦の連絡先をまだ登録してなかったことも頭から消し飛んでいた。

「えっと、ここをこうして……できた……!」

詩歌は幾分か落ち着いた手つきでスマホを操作して彰彦の連絡先を登録する。
3回目ともなると慣れたものである。

「良かったな。ところで、課題達成出来なかったら何かペナルティでもあったのか?」
「う、うん……私の部屋着姿を土神先輩に見せるって……」
「……それ、ペナルティか? 下着姿や水着姿とかじゃなくて、部屋着だろ?」
「そ、それでも……恥ずかしいよぅ……」
「……そんな恥ずかしい恰好してんの? 詩歌も変わったなぁ」
「ち、違うよぅ……!」

彰彦の指摘に詩歌は慌てて訂正を入れる。

「分かってるって。真面目な詩歌がそんな恰好できる訳ないよな」
「うぅ……」
「まぁ何にせよそのペナルティも無くなったんだし良かったじゃないか」
「うん、まぁ……そうだね」
「じゃあ今日はもう解散かな」
「……うん、ありがとう……アキ君」
「こんなことで良いならいつでも頼ってくれて良いからな」

そう言って彰彦は中庭を後にした。
詩歌も特に用事は無くなったので帰ることにするのであった。

 

「それで詩歌、今日の首尾はどうだったの?」

夕飯時、爽香がおもむろに詩歌に聞いてきた。

「……え?」
「だから、私が課題として出した連絡先の件よ」
「あ……それだったら、3人……登録、できたよ……?」
「あらそうなの? 凄いじゃない、しいちゃん」

一緒に話を聞いていた母親が笑顔で詩歌を褒める。

「ほらね、やってみれば案外簡単にできるもんなのよ。これで分かったでしょ?」
「……これでも結構苦労したんだけど……」
「で、誰の連絡先をゲットできたの、しいちゃん?」

母親が興味津々と言った面持ちで詩歌に尋ねる。

「えっと……舞原さんと……」
「まあ順当ね」
「アキ君と……」
「あぁー……しいちゃん、彰彦君とだけは普通に話せるもんねぇ」
「…………土神先輩」

 

 

ガタッ!!

 

 

修也の名前を出した途端、母親と爽香が同時に椅子を後ろに倒しながら立ち上がった。

「えっ……な、何? どうしたのお母さん、お姉ちゃん……?」
「あらあら、あの奥手で恥ずかしがり屋さんなしいちゃんが彰彦君以外の男の子の連絡先をゲットしてるなんて、お母さん驚いちゃったわ~!」
「私もそれは予想外だったわ。せいぜいクラスメイトから何とかもう1人くらいに考えてたから。意外とやるわね詩歌」
「……え? あ、あのっ、いや、あ、アキ君が土神先輩に、頼んでくれて、それで……!」

どうやら二人は詩歌が自分から修也に連絡先を聞きに行ったと思っているらしい。
なので詩歌は慌てて訂正する。

「大事なのは過程じゃないわ、結果よ」
「お母さんの言う通りよ。これで一歩進展したわね。課題もクリアしたことだし、そうね……何かご褒美を用意してあげるわ」
「ご、ご褒美……?」
「クリアできなかったら罰ゲームだったんだし、クリアできたらご褒美があっても良いでしょ」
「あ……う、うん……で、何をくれるの?」
「それは後のお楽しみ。まぁ、楽しみに待ってなさい」

そう言って意味深に笑う爽香。
その笑顔を期待と不安が半分ずつ入り混じった感情で見つめる詩歌であった。

 

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