守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第17話~

「…………今日はいつもと違って少々真面目な考察をしようと思いますわ」

球技大会が終わってしばらくしたある日の放課後、白峰さんは自分の席で机に肘をつき手を顔の前で組みながらそう呟いた。

「ほほぅ…………して、今日のお題は何ですかな?」

黒沢さんも同じ体勢で向かい合って白峰さんに尋ね返す。

「黒沢さん、昨今の数あるお話において人気のある悪役や敵役が何名かおられることはご存じですか?」
「えぇもちろん。時には主人公よりも人気が出るキャラもおりますな」
「ですわね。ちなみにその要因について考えたことはありますか?」
「なるほど……今日のお題は『何故悪役や敵役なのに人気が出るのか』といったところですか」

白峰さんの言いたいことを把握した黒沢さんが頷きながら言う。

「えぇそのようなものです。本来悪役や敵役などは正義側の主人公たちに真っ向から対向する嫌われ役と言っても過言ではございません」
「確かに。大抵は主人公に共感できるからこそそれに相反する悪役・敵役は嫌われて然るべきでありますな」
「しかし最近はその限りではなくなってきております。悪役なのにどこか憎めない、敵役なのに嫌いになれない……そんなキャラが出てきておりますわ」
「そうですなぁ。何とか主人公を妨害しようとあれこれ画策するものの当の本人がポンコツ過ぎて自滅したりとか、やってることがささやか過ぎて逆に微笑ましい事例なども見受けられますぞ」
「あぁ、それもそれで良いものですわね……」

そこで何故か慈愛に満ちた目になる2人。

「しかしそれは今回の主題からは少々外れておりますわ。良いものなのに間違いはございませんが!」
「ふむ……ではお聞かせ願えますか、白峰殿の主張を」
「分かりましたわ……私の見解では、そのような悪役の方々は主人公たちとは違う信念を持ち合わせている場合が多いと思われます」
「確かに……正義の対義は悪ではなく別の正義という話もよく聞きますな」

白峰さんの言葉に深く頷く黒沢さん。

「えぇ、ただ漠然と世界征服を企むのでは共感が得られにくいのは当然ですが、悪役に悪役なりの信念や美学がある場合、共感を得られることもある気がするのです」
「それは言えておりますな。時折その悪役を主人公にした作品なども公式や二次創作で出回ったりもしております故」
「そうです。新たな主人公としてサイドストーリーを作れるほどの当人なりの信念や正義がある場合、悪役でも人気が出るのではないかと思うのです!」
「なるほど、確かにそれは言えてますな!! 素晴らしい着想ですぞ白峰殿!」

そう声高に主張する白峰さんに黒沢さんは同調して賛辞を贈る。

「……後は容姿が整っていればそれだけで人気が出る場合もありますわね」
「おのれっ結局は顔でありますか! イケメンや美女ならば全て許されるのでありますかぁぁ!!」

ボソッと付け足した白峰さんの言葉にヒートアップする黒沢さん。

(いや……いくら顔が良くても中身が残念だとなぁ……?)

そんな2人を横目で見ながら呆れかえる修也であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第17話~

 

「……まぁそれはそれとして。敵なりに同情できる部分があったりすると支持を得られやすいという所はありますわね」
「ふむ……敵側が置かれた環境が劣悪である場合やその敵役以上に外道な役どころが配置されている場合にそのようなパターンに嵌りやすいですな」
「そう、ある意味その敵も可哀想な存在なのですわ」
「そして自分が持ち得なかったものを持っている主人公への劣等感を拗らせて……はもはやお約束とも言えましょうぞ」
「…………少々お待ちになっていただけますか黒沢さん」

と、ここで待ったをかける白峰さん。

「おやいかがなされましたか白峰殿」
「今黒沢さんは『主人公への劣等感』と仰いましたわね?」
「えぇ……それが何か?」
「もちろんそういう場合もあるでしょうが……羨望や憧れを拗らせた場合というのもありますわよね?」
「ふむ……確かに。つまり『ずっとお前の事目の敵にしてたけどさ……実は俺……お前に憧れてたんだ。お前が羨ましかったんだ』みたいな感じということですな!?」
「もしくは『オレの事分かってくれるのはお前だけだ……オレをここまで昂らせてくれるのはお前だけだ。オレにはお前が必要だ』みたいなほあああああああ!!!」
「ふぉおおおおお!!! そ、それは反則ですぞ白峰殿!! 自分の内に秘めたる情熱がリミットブレイクを起こしてしまいますぞおおおぉぉぉ!!!」

何やら急にテンションが急上昇して奇声をあげる白峰さんと黒沢さん。

「という訳で土神さん! 今の私のセリフをそのまま復唱していただけますか!?」
「何が『という訳で』だよ! そのパターン前にもやったわ!! てかどの辺が真面目な考察なんだよ!」

突然話を振ってきた白峰さんを即切って返す修也。

「おぉ……さ、流石ですぞ土神殿……前回とは違う切り返しをしてくるとは……!」
「やはり球技大会のMVPに輝いたお方。ツッコミのキレ味にさらに磨きがかかっていますわね!」
「MVP関係あるかぁ!!」
「ぬほぉっ!? ここで更なるツッコミ! 堪りませぬ、堪りませぬぞぉぉ!!」

白峰さんと黒沢さんが変なことを言い出して修也が突っ込み、そしてさらに2人のテンションが上がる。
これが最早2-Cでのお約束の展開になりつつある。

「自分……もう我慢なりませんぞ! 今なら全速力でグラウンド10周もたやすくできそうなくらい全身に力が漲っておりますぞおおぉぉ!!」
「私もですわ黒沢さん! 共に行こうではありませんか!!」

そう叫んで教室を飛び出していった黒沢さんと白峰さん。

「……あの2人の精神構造はどうなってんだ……」
「半分くらい土神君が焚きつけてるような気もするけど?」

疲れた声で呟く修也に爽香が声をかける。

「じゃあほっとけってのか? そうするとあの2人際限なく暴走するぞ」
「まぁ否定はできないわね……」

修也の言葉に爽香は難しい顔をしながら呻く。

「……さて、じゃあ俺も行くとするか」

そう言って修也は自分の席から立ち上がる。

「あら、どこか寄り道?」

修也が『帰る』と言わず『行く』と言ったことに気付いた爽香が尋ねてきた。

「まぁな。この前相川が言ってた高校部活体験が今日あるらしいんだよ」
「あぁ、そう言えばそんなこともあったな。それ今日だったのか」

爽香の横で聞いていた彰彦が口を挟む。
部活をやっていない2人には縁の無い話だったので覚えていなかったのだろう。

「いくら頼まれたからと言ったって真面目ねぇ。断ることもできたんじゃないの?」
「……由衣ちゃんが楽しみにしてる手前断れんだろ。それに何だかんだ言ってもこういうイベントに参加できるのは楽しいからな」
「じゃあ詩歌がまた土神君とデートするのを楽しみにしてる……って言ったらデートしてくれるのかしら?」
「おい詩歌の思考を捏造すんな」

さらりとそんなことを口走る爽香を修也は止める。

「あらどうして捏造だなんて決めつけるのかしら」
「だって詩歌は男が苦手なんだろ? この前も霧生の声に驚いて竦み上がるくらいだったし。それは生まれ持った性格みたいなものでそんな簡単に払拭できるようなものじゃない。俺が例外みたいなのはありがたい話だけどいくら何でもまたデートしたいと思う程じゃないだろ。流石にそこまで自惚れちゃいない」
「え…………」
「え…………」

そう言う修也に対し、爽香と彰彦は素で言葉に詰まる。
爽香はてっきり茶化された修也が照れ隠しで言っているのかと思っていた。
しかし修也の顔は大真面目だ。
つまり修也は本気でそう思っているということになる。

「それにあの時はあんなことになっちゃったしなぁ。むしろデートに対してトラウマ抱えたりしてないかそれが心配だ」
「いや流石にアレは超例外としても良いだろ。あんなの俺だって初めてだ」
「そうよ、あんなことがデートの度に起こってたら身がもたないわよ」

どこか遠い目をして呟く修也に突っ込む2人。

「まぁそういうこった。あまり詩歌に無理させるんじゃないぞ」

そう言って修也は教室を後にした。

「…………彰彦、どう思う?」
「うーん…………何て言ったら良いのか……」

修也が教室を出て行った後、爽香が彰彦に尋ねる。
爽香に質問を投げかけられた彰彦は難しい顔で唸る。

「別に土神君は詩歌を嫌っている訳じゃないわよね?」
「あぁ、それは無いな。時々舞原さんとかと一緒に昼飯食ってるみたいだし」
「そうよねぇ。何だかんだで顔を合わせる機会も多いもの」

彰彦も爽香も修也と詩歌が一緒にいる場面を何度も見たことはあるが、その際に修也が詩歌を邪険に扱っている様子は全く無かった。
むしろ気弱な詩歌に配慮して優しい対応をしているのが常だ。
それで実は嫌っています、なんてことはあり得ないだろう。

「でもなぁ……嫌っているってのは無いけど、何か壁みたいなものは感じるかもな」
「そうねぇ、それに土神君って賞賛を浴びたり持ち上げられるのを嫌がるし」
「いやそれは周りの方に問題があるだろ」

いくら修也の今までの功績が凄いとはいえ、今の修也の周りからの賞賛の声は過剰だと彰彦は思う。
自分が修也の立場だったら間違いなく気疲れする。

「何と言うかなぁ……土神は自分を集団から一歩引いた立ち位置でいようとしてるみたいなんだよな。一定の距離以上には踏み込まないというか」
「でも今日は高校部活体験に行ってるじゃない。矛盾してない?」
「そこが分からないんだよなぁ」

修也は決して他人と関わり合うのを嫌っているわけではない。
しかし人付き合いに関しては一定の距離を取っているように見える。
それが彰彦には何やらちぐはぐな印象を受けるのだ。

「……まぁ土神にも色々あるんだろ。あまり深く詮索しない方が良いんじゃないか?」
「そうね……人間誰にだって触れられたくないことの1つや2つあるものだしね」

彰彦の言葉に頷く爽香。

「それじゃあ詩歌にもっと積極的にアプローチするように念押ししとかなきゃ」
「……俺の話聞いてたか? 深く詮索するのはやめようと言ったばかりじゃないか」

自分の考えとは真逆の方向に進もうとしている爽香に彰彦は待ったをかける。

「詮索はしないわよ。でもそれとこれとは話は別よ。詩歌が土神君を怖がっていないというのは紛れもない事実なんだし」
「そりゃまあそうなんだろうけど……」
「ただでさえ詩歌は押しが弱いんだからもっと自己主張しないと埋もれてしまうわよ。彰彦みたいに」
「……痛い所を突いてくるなぁ……」

彰彦も自分が存在感が薄いことを自覚している。
別に自分はそれで何も困らないのだが、爽香がそれを良しとしないのだ。
爽香の気持ちも分からないでもないので無下にはできない。

「俺としては土神の意識を改善させる方が早いと思うけど」
「じゃあ彰彦はそっちやっといて」
「えっ?」

突然爽香がぶん投げてきたタスクに彰彦は一瞬言葉に詰まる。

「確かに詩歌だけをどうこうするよりは早いわね。ナイス着眼点よ彰彦」
「あ、そっちはそっちでやるのか……」
「当然! 詩歌の為にも土神君の為にもなる。一石二鳥よ!」
「…………まぁ程々にな……」

一人気合いを入れて気勢を上げる爽香を見て、ため息を吐きながらそう呟く彰彦であった。

 

「……あっ! 修也さーん!」

教室を出て格技室に向かう為に階段を下りる修也の背中に声がかけられた。

「……ん? お、蒼芽ちゃんに詩歌」

修也が振り返ると、踊り場から手を振ってこちらに向かってくる蒼芽とそれについてくる詩歌の姿があった。

「今から格技室ですよね? 今日は高校部活体験の日ですし」
「あぁうん、由衣ちゃんが楽しみにしてたからなぁ」
「それ、私たちも見に行って良いですか?」
「え? まぁダメな理由は無いだろうけど……詩歌もか?」

そう言って修也は蒼芽の横にいる詩歌に目線を向ける。

「あ……す、すみません……そ、その……わ、私は……ダメ、ですか……?」

修也の視線を受けて、詩歌は申し訳なさそうに体を縮こまらせる。

「あ、いやそうじゃなくて、あまり詩歌の興味を引きそうなことはやらないだろうからつまらなくないかなってな」

そんな詩歌の様子を見て慌てて取り繕う修也。

「いやいや、あの修也さんの身のこなしは素人目でも凄いのが分かるので見てて面白いですよ。しかも部活の立ち合いなので変な緊張感もありませんしね」
「うんうん、だから私も見たーい! なんだかんだで一度だけしか土神くんの立ち回り見たこと無いし」
「あれ、華穂先輩?」

いつの間にかやってきていた華穂が話に混ざってきた。

「……良いのかなぁ? 俺も含めてこうも関係無い人が何人も押しかけて」
「大丈夫だよ。球技大会の時に瑞音ちゃんが言ってたでしょ? 在校生の勧誘も兼ねてるって」
「まぁ先輩が大丈夫だって言うなら……」

何よりも部長である瑞音が許可しているなら特に問題にはならないだろう。
そう結論付けて修也は改めて格技室へ向けて歩き始める。
蒼芽たちもそれに続く。

「……ところで修也さん」

と、しばらく歩いたところで蒼芽が声をかけてきた。

「ん? どうした蒼芽ちゃん」
「あそこで横たわってるのって……修也さんのクラスの人ですよね?」
「え?」

蒼芽に指摘されて蒼芽の視線を追うと、そこには見覚えのある金髪と黒髪の女子生徒が横たわっていた。

「ぜひゅー、ぜひゅー…………わ、私たちの体力が……ミジンコ並だってことを…………ついうっかり、失念しておりましたわ……」
「…………テンションだけで…………乗り切るのは……流石に無謀が、過ぎたようでありますな…………ゴフッ!!」

言うまでもなく先程超ハイテンションで教室を飛び出した白峰さんと黒沢さんだ。

「……さっ、行こ行こ」
「えっ……? あ、あの……放っておいて、良いんですか……?」

無視して立ち去ろうとする修也を見てオロオロしながら詩歌が尋ねてくる。

「良いんだ。ああなったのは自業自得だからな」
「そ、そうですぞ……こうなったのは、我々の……自己認識不足が原因、ですからな……」
「お、お気遣い……ありがとう、ございますわ……どうぞ……私たちの、ことは……お気に、なさらずに……」

息も絶え絶えになりながらそう言う黒沢さんと白峰さん。

「で、でも……」
「と、ところで黒沢さん……私のスカート……捲れあがりすぎて、おりませんわよね……?」
「……えぇ、問題ありませんぞ……ギリギリ見えておりませぬ……自分はどう、ですかな……?」
「黒沢さんも……あ、いけませんわ。私からの位置では少々……」
「……心配、無用ですぞ……そんな角度から見れるのは、今は白峰殿しかおりませぬ故……」
「……案外余裕そうだね」

そんな2人の様子を見てそう呟く華穂。

「うん、だからもう放っといて行こう」

そう言って今度こそ立ち去る修也。
詩歌は最後まで心配そうに振り返りながらも修也たちについていくのであった。

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