守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第3話~

「おーいやってるかーい? 何か今日は賑やかだねーぃ」

興奮冷め止まぬ格技室に違う声が割り込んできた。

「ん? この声は……」
「ありゃ? 土神君じゃん。どしたのこんな所で。君たしか部活には所属してなかったよね?」
「それはこっちが聞きたいんですが……藤寺先生」

格技室に入ってきたのは、修也の担任である陽菜だった。

「そりゃ私はこの部活の顧問だからねぇ。顧問が部活の活動場所に来るのはおかしなことではないでしょ」
「え? 先生がこの部活の顧問なんですか?」

意外な事実に修也は目を丸くする。

「まーね。この格闘技クラブを設立するにあたって顧問を探してるって相談を受けたから、じゃあ私がなってあげるよ! ってことでね」
「はぁー……そういや仁敷と爽香が以前そんなこと言ってたような……」

白峰さんと黒沢さんによる非公式部活の話をしている時に、陽菜は既に違う部活の顧問をしているから2人の活動の顧問にはなれないという話は聞いていた。
何の部活かは気にしていなかったが、この格闘技クラブだとは修也は想定していなかった。

「困ってる生徒がいたら力になってあげるのが教師ってものさ!」
「はぁ……」
「それに運動部の顧問なら2年以外のブルマ姿の学生を堂々と拝めるからね!」
「聞いてねぇよ」

こちらはどうせそんなとこだろうと想定できた。
微塵も隠しもせず堂々と宣言する陽菜に修也は呆れかえる。

「なのに相川さん! 君は何故いつも部活の時はハーフパンツなのかな!? 体育の時はちゃんとブルマなのに!!」
「……部活なんだからなんだって良いでしょうに」
「はっ!? もしや君はブルマ・短パン・スパッツに続く第4勢力を立ち上げるつもりか!!」
「……ただ気に入ってるから使ってるだけですよ」

いつものテンションの陽菜に対してややげんなりしている瑞音。
いくら瑞音と言えども陽菜のこのテンションにはついていけないらしい。

「……お前も苦労してんだなぁ、相川」
「そういう土神こそ、霧生と同じクラスってことはあの人が担任だろ? 色々と察するぜ……」

妙な所で分かり合う修也と瑞音。

「それでそれで? 土神君がここにいる理由をまだ聞いてないけど。入部希望なら歓迎するよ?」
「あ、いや俺は……」
「君が入ってくれるなら舞原さんと妹の米崎さんも来てくれそうだしねぇ。新たなブルマ少女を視界に収めるチャンス到来だよっ!!」

そう言って蒼芽と詩歌を横目で見る陽菜。

「アンタの頭の中にはそれしかねぇのか」
「当たり前だよ! 私を誰だと思ってるのさ!!」
「堂々と言い切るところじゃねぇだろ!」

力強く言い切る陽菜に突っ込む修也。

「すげぇ……土神先輩、あの藤寺先生と互角にやり合ってる……」
「あの人に太刀打ちできる人、初めて見た……」

格技室のあちこちからそんな感嘆の声が聞こえてくる。
むしろさっきよりも尊敬の色が濃い気がする。

「……いやそこ褒められても何も嬉しくねぇ」

そんな声に対し修也はがっくりと肩を落とすのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第3話~

 

「……とまぁ、昨日はそんなことがあったわけで」

翌日の昼休み、もはや定番となりつつある屋上に集まっての昼食で修也は華穂に昨日あったことを話していた。

「えぇー、良いなー! 私も見たかったなぁ、土神くんの試合」
「いや、そんな大したもんじゃあ……」
「いえ凄かったですよ? 素人の私から見ても分かります」
「わ、私なんて……2人が何をやってたのかも……全然、分かりませんでした……」

華穂の言うことをやんわりと否定しようとした修也だが、それを蒼芽と詩歌に否定される。

「……うん、こうなったらリベンジだよ!」
「いや何が『こうなったら』なんだよ」

昼食を終えて力強く立ち上がる華穂に修也は突っ込みを入れる。

「土神くん、再戦だよっ! 私と初めて会った時にやったアレをやるよ!」
「アレ? あぁ……」

修也は初めて華穂と会った時にやったゲームを思い出す。

「でも何回やっても同じのような……先輩別に特訓とかしてたわけじゃないんだろ? そもそもアレに特訓も何も無い気もするが」
「ふふふ……でも対策はしたよ。今ね!」
「今かよ! で、その対策って?」
「蒼芽ちゃん、詩歌ちゃん、手伝って! 3人でやればきっと勝てるよ!」
「えっ?」
「わ、私たちも……ですか……?」

急に話を振られて驚く蒼芽と詩歌。

「数に物言わせてきた!!」
「いくら土神くんでも3人同時に相手するのはキツイでしょ」
「あれ? でも修也さん、複数人相手でも普通に捌いてたような……」

モールの近くで詩歌が絡まれていた時や猪瀬の元部下たちが襲撃してきた時のことを思い出す蒼芽。

「まぁまぁ細かいことは気にしない! じゃあ早速いくよ!!」
「ま、待ってください姫本先輩! 私たちルール知りませんよ!?」

早速始めようとする華穂を蒼芽が止める。

「あ、そうだっけ? でもルールは単純だよ。私たちが土神くんをタッチしにいく。土神くんはそれを避ける。それだけだよ」
「それで修也さんに触れられたら私たちの勝ちで、避けきれば修也さんの勝ちってことですか」
「で、でも……私たち3人でも、勝てないかと……」
「詩歌ちゃん、やる前から諦めちゃダメだよ。それにこういうのは楽しむのが大事なんだよ?」

及び腰の詩歌を華穂が説得する。

「そうそう、別に勝てなくても良いじゃない。と言うか勝てないこと前提だよ?」
「蒼芽ちゃん、ハードル上げないでくれるか?」
「じゃあ修也さん、私たちが勝ったら何かご褒美くださいよぅ」
「何が『じゃあ』なのか全くもって分からん」
「そうすればやる気出るじゃないですか。何事もそういう方が楽しいですよ」

げんなりする修也に対して食い下がる蒼芽。

「そうは言ってもなぁ……俺ができることなんてたかが知れてるだろ」
「たとえ何であろうとも修也さんにしてもらうってことが重要なんですよ」
「えぇ……」
「あっ、それじゃあ私たちが勝ったら1つだけ言うことを聞いてもらうってのはどう?」

名案だと言わんばかりに華穂がそんな提案を出す。

「もちろん土神くんが勝ったら土神くんの言うことを1つだけ聞いてあげるよ?」
「……本当に『聞く』だけってオチじゃないだろうな?」

魅惑的なことを言い出した華穂に対して修也はジト目で聞き返す。

「…………あ、その手があったね」
「ちょっ」
「あははは! 冗談だよ冗談!」
「で、でも……1つ言うことを聞くって…………せ、先輩は……その……変なことは言わないでしょうけど……」

華穂の提案に難色を示す詩歌。
確かに詩歌の性格上あまりこういうことは好まないだろう。
そうでなくても『言うことを聞く』系のことは怪しい雰囲気が漂うものである。

「それじゃあさ、俺が勝ったらまた何か料理を作ってくれよ。それなら大丈夫だろ?」

そんな詩歌の心情を察して修也がそう提案する。

「あ……は、はい……! それだったら……もし、万が一、私が勝ったら……新作のお料理を、食べてみて……欲しい、です」
「ははは、それじゃあ勝っても負けても俺に得しかないじゃないか」

詩歌の提案に修也は優しく笑う。

「あっ、良いなぁ詩歌ちゃんの新作料理! 私も食べたい!!」
「私も私も! 詩歌の料理ってだけで美味しいの決定だもん!!」
「さ、流石にそんなことは……私だって、失敗することもあるんだよ……?」

身を乗り出す華穂と蒼芽に少々狼狽える詩歌。

「そうそう、そういうことだよ詩歌ちゃん。どれだけ上手な人でも失敗することもある。だからもしかしたらワンチャン土神くんに勝つこともありえるんだよ」
「あ、話が戻ってしまった……」

良い感じに話題が詩歌の料理にシフトしていっていたのだが、元に戻ってきてしまったことに修也はため息を吐く。

「だから一緒に頑張ろうよ! 私もリベンジを果たして土神くんとまた一緒に学校の帰りに寄り道して買い食いとかしてもらうからさ!」
「……あ、その程度なのか……」

もし勝ったら一体何を頼むつもりなのか危惧していた修也だが、その程度だったらどうということはない。
それで華穂の高校生活の思い出が増えるのであれば喜んで協力する。

「よーし、それじゃあ……」

 

 

がちゃ

 

 

「……ん?」

いざゲームを開始しようとしたところで、校舎内に続く扉が開く音がした。

「……おっ、いたいた! 本当に屋上で昼飯食ってたんだな」
「……相川?」

そう言って校舎内から出てきたのは、昨日知り合ったばかりの瑞音だった。

「いやーお前のクラスに顔出しに行ったんだけど姿が見当たらなかったんでな。クラスの奴にどこにいるのか聞いたらここだって教えてくれたんだよ」
「あーまぁ別に秘密にしてる訳でもないからなぁ……」

恐らくは彰彦か爽香あたりにでも聞いたのだろう。

「あ、そういや相川って俺と同じ2年ってことは聞いてるけど、クラスはどこなんだ?」
「E組だ。で、こっちも聞きたいんだがそっちの人たちは誰だ? そこの2人は昨日もいたが」

瑞音が蒼芽たちを見ながら尋ねてくる。

「あ、私は1年の舞原蒼芽です」
「わ、私は……舞原さんと同じクラスの、米崎詩歌……です」
「私は3年の姫本華穂だよ、よろしくね」
「あ、先輩でしたか。それは失礼しました。私は2年の相川瑞音です」

華穂が3年と聞いて頭を下げる瑞音。
先輩相手ということでぞんざいな口調も鳴りを潜めている。

「……うーん、霧生くんの時もそうだったけど運動部って上下関係厳しいんだねぇ」

そう言って困ったように笑う華穂。
華穂としては修也のように気軽に接してほしいのだが、強制もできないしそれはなかなか難しい。

「いや普通は先輩に対しては多少なりとも敬意を払うもんなんじゃね?」
「えぇー……ちょっと先に生まれただけで偉くも何ともないのになぁ。それに言葉遣いだけが敬意を示す方法でもないと思うけど」
「そりゃそうなんだろうけど無理強いするもんでもないだろ」
「まぁね」

いくら本人が希望しているとはいえ、修也のように敬語を使わないでくれる方が稀なのだ。
その辺は華穂も割り切っているようであっさり引き下がる。

「で、土神たちは何やってたんだ? 昼はもう終わったみたいだが」

修也たちの状況を見て瑞音が聞いてくる。

「お昼ご飯も食べ終わったことだし、ちょっとしたゲームでもやろうと思ってね」
「へぇ……どんなゲームですか?」

『ゲーム』と聞いて瑞音の目が光る。
勝負事が好きな瑞音としては聞き逃せないことなのだろう。

「私たちは土神くんをタッチしにいく。土神くんはそれを避ける。ただそれだけだよ」
「なるほど……反射神経と身のこなしを鍛えるトレーニングも兼ねてるって訳か……」

華穂の説明を聞いて頷きながらそう呟く瑞音。

「よし、ならば勝負だ土神! 私も混ざって……」
「いやいや待て待て、お前まで混ざられたら流石に無理だ」

蒼芽たちとは違い瑞音は体術の心得がある。
1対1ならともかく蒼芽たちと一緒になられると触れさせずに避けきるのはいくら何でも厳しい。

「じゃあ私たち3人対土神くんと、瑞音ちゃん対土神くんの2部編成でどう?」
「俺だけハードワークじゃねぇかそれ……」
「土神くんは体力あるんだから文句言わないの。それじゃあ行くよ!」

不平を訴える修也を無視して華穂が号令をかけてゲームが開始された。

 

「あー……今日は何か疲れた……」
「あはは……お疲れさまでした修也さん」

校舎を出て校門に向かって歩く修也の横で蒼芽がねぎらいの言葉をかける。

「でもやっぱり凄いですね修也さん。私たち3人はもちろんのこと、その後の相川さんとの一騎打ちでも見事に避けきったじゃないですか」
「相川の時はホントギリギリだったけどな……」

そう言いながら修也は昼休みの出来事を振り返る。
蒼芽たちの身体能力は普通の女子高生とさして変わらない。
それに3人同時とは言っても、よほどお互いで連携が取れていたりしない限りは1人ずつ相手にするのとそう大差は無いのだ。
華穂は時々フェイントを入れてきたのだが、『今からフェイントを入れる』と言う意思があからさまに見て取れたので対処も簡単だった。
銃弾すらも見切れる修也の動体視力は伊達ではない。
それに対して瑞音はやはり体術の心得があるので蒼芽たちと同じようにはいかなかった。
昨日とは違い触れられるだけでアウトなので、全く持って油断ならなかったのだ。
予鈴がなるまで避けきれたのは運の要素も少なからずあったと修也は思う。

「で、修也さんが勝ったわけですけど私たちに何をお願いするんですか?」
「いや別に何かやってもらうつもりなんて無かったんだけどなぁ……詩歌にはああ言えば変に気負わずに済むだろうって思っただけだし」

修也はたとえ自分が勝っても蒼芽たちに何か言うことを聞かせようというつもりは無かった。
せいぜい『これからもこの付き合いを続けてくれ』と言う程度に留めておくつもりだったのだ。

「えぇー……私は修也さんにだったら何をお願いされても良いんですけどねー」
「こらこらそういうことを言うもんじゃない」

冗談めかしてそんなことを言う蒼芽を諫める修也。

「まぁ何はともあれゲームは俺の勝」
「おにーーーさーーん!!」
「ごっふううううぅぅぅ!?」

自分が勝てたことに安堵しながら校門を出た修也だが、その直後に真横からの衝撃にセリフを強制中断させられた。
言うまでもなく高校に遊びに来た由衣が修也を見つけて飛びついてきたのだ。
銃弾すら見切れる修也なのに、何故か由衣だけは見切れない。

「……という訳でゲームは由衣ちゃんの一人勝ちですね」
「いやいや由衣ちゃんは参加してなかっただろ!?」

予想外の纏め方をする蒼芽に突っ込む修也。

「ゲーム? おにーさんたち何かして遊んでたのー?」
「うん、修也さんにタッチできたら勝ちで、ご褒美に修也さんにひとつ言うことを聞いてもらえるってゲームをしてたんだよ」
「あっ! じゃあ私タッチできたから勝ちだねー!」

蒼芽の説明に嬉しそうにはしゃぐ由衣。

「じゃあ由衣ちゃんは何をお願いするの?」
「んっとねー……じゃあ一緒に帰っておうちで遊ぼーよー!」
「……由衣ちゃんらしいというか何というか……」
「本当ですねぇ」

由衣のあまりにも平和的なお願いにどこかほっこりとする修也と蒼芽。

「あっ! おねーさんも一緒にだよー」
「えっ? 良いの?」
「もちろんだよー!」
「それじゃあさっさと帰ろうか。そう言えば長谷川は?」
「ありちゃんは自分のペースで行くからって言ってたよー。だから私だけ先に来たんだよー」
「アイツも懲りんなぁ……」
「むしろ氷室さんに会うのが目的になってるんじゃないですかね?」
「あー……まぁその辺に不用意に踏み込むのは野暮ってもんだろ」
「私は是非ともお話を聞いてみたいですね」

そんな話をしながら修也たちは家路につくのであった。

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