守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第5話~

「………………」

週末の球技大会当日、修也はグラウンドで眩しそうにしながら空を見上げていた。
今日の天候は晴れ。
空には雲一つない青空が広がっている。

「……あっ! 修也さーん!」

そんな修也を見つけた蒼芽が声をかけてくる。

「ん? おお、蒼芽ちゃんに詩歌」
「お、おはようございます……土神先輩」

修也が視線を戻すと、2人が修也に駆け寄ってきた。

「修也さん、今日は晴れて良かったですね。絶好の球技大会日和ですよ」
「んー……絶好かと言われると実はそうでもなかったりするんだよなぁ……」
「……え? そ、そうなんですか……?」

雲一つない快晴に対して微妙な表情をする修也に詩歌は首を傾げる。

「そりゃ晴れるのは良いことなんだろうけど、晴れ過ぎだ。少しくらい雲があって日差しが抑えられてるくらいが実はちょうどいいんだよ」
「あぁー……熱中症とか怖いですもんねぇ」

長時間日差しの下にいることになるのでそのあたりは気を付けないといけない。

「2人共こまめに水分取って気分が悪くなったらすぐ休むんだぞ」
「はい、お気遣いありがとうございます修也さん」
「せ、先輩も……水分だけでなく塩分もちゃんと取ってくださいね……?」
「ああ、そうだな。熱中症はホント怖いから」

詩歌の心配そうな声に修也は頷く。

「ところでさぁ、『熱中症』をゆっくり言ったら『ねぇ……チュウ、しよう?』って聞こえるよね」
「いきなり出てきて意味の分からんことを言わないでください藤寺先生」

急に横から現れて意味不明な発言をしだした陽菜に修也は突っ込みを入れる。

「いやー前々から気にはなってたんだよね。熱中症って単語が出てくるたびに『真面目な顔して何言ってんのコイツ』って思ってたもんさ」
「アンタが何言ってんだ」

相変わらずの陽菜節に修也の口調が荒くなるのももうよくある光景となりつつある。

「まぁそんなことはどうでも良いや」
「アンタが自分で言い出したんだろうに……」
「それよりも……舞原さんと妹の米崎さん、元気してた? しっかり学生生活を謳歌してるかい?」

自分で振った話題をぶん投げて蒼芽と詩歌に話を振る陽菜。

「はい、おかげさまで」
「あ……わ、私のこと……覚えててくれたんですか……」

蒼芽はちょくちょく顔を合わせていたが、詩歌はそこそこ期間が開いている。
なので自分のような自己主張の弱い人間は忘れられていると詩歌は思っていたのだが、そんなことは無かったようだ。

「もっちろん! 担当学年が違っても私は一度聞いた生徒の名前は忘れないよ? 同じ学校の大事な生徒だもん」

当然のことの様に言ってのける陽菜。

「……で、本音は?」
「私が良いブルマの素質がありそうな子のことを忘れるなんて世界が滅びようともあり得ない!!」

修也の問いに胸を張って堂々と言い切る陽菜。

「あ、あはは……」
「え、えっと……」

一切ごまかそうともしない陽菜の言動を見て蒼芽と詩歌は苦笑するしかないのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第5話~

 

「それにしても……うん、やはり私の目に狂いは無かった! 思った通り……いや、思った以上に良いブルマしてるね!!」

蒼芽と詩歌を見ながら陽菜は強く頷く。
今日は球技大会なので当然ではあるのだが、2人共体操服姿である。

「え、えーっと……ありがとうございます……?」

何と返せば良いのか分からず、とりあえず疑問形で礼を言う蒼芽。

「いや蒼芽ちゃん、礼は言わんで良いと思う。それよりも先生、そろそろ本格的にセクハラですよ」
「何をー!? ブルマを褒めることのどこがセクハラなんだよ? 最近の若い子は何かあるとすぐハラスメントって騒ぐんだから! それだってハラスメントハラスメントっていう立派なハラスメントなんだよ!?」
「ええいやかましいわ、ハラスメントがゲシュタルト崩壊する!」
「いやでもここだけは真面目な話だよ? 何でもかんでもハラスメントだって騒ぐのって結構問題になってるし」
「まぁ……それは確かに……」
「わ、私も……前にテレビで見たことあります……」

陽菜の言葉に蒼芽と詩歌が頷く。

「まぁその下地としてセクハラ以外にも色々あったからね。パワーハラスメントでパワハラでしょ? モラルハラスメントでモラハラ。アカデミックハラスメントでアカハラに、カスによるハラスメントでカスハラ」
「いや最後の違う。カスタマーハラスメントでしょ」
「でもあながち間違いとは言えなくない?」
「…………否定はできませんね」

陽菜の問いかけに修也は難しい顔で呻く。

「よくあるパターンは『お客様は神様』ってのをおかしな解釈したやつだよね」
「あれは店側がそういう心づもりで接客しようって意味であって客側が言って良いものではないと思うのですが」
「そうそうその通り。だから私はそういう奴らに声を大にして言いたい! 信仰の自由って知ってるか、と。他の神様(客)に迷惑だ、と!」
「おぉ、先生にしては珍しくまともなこと言いますね」

珍しく全面的に共感できる陽菜の物言いに修也は感心する。

「それにセクハラって性別をネタにした嫌がらせってことだからさ、男の子が被害に遭う例もあるんだよ。女の子だけが受けるものじゃないから気を付けなよ?」
「……確かに女性だけが受けるものってイメージが強いですけど、言葉の意味を考えるとそうですよね……」
「『男の癖に~~』とか『女なんだから~~』ってのも広い意味ではセクハラになるってどっかで聞いたことあるな」
「それに男の子の場合セクハラに遭ったって言ってもまともに取り合ってくれないことも多いのがタチ悪いよね」
「痴漢冤罪に似通ったものがありますね……あれも冤罪を主張してもまともに取り合ってくれないことがほとんどって聞くし」

以前蒼芽との話でも出てきたことを思い出す修也。

「そう考えたらブルマを褒めるくらいでセクハラって騒ぐのはおかしいと思わないかい!?」
「えぇー……そうなるの……?」

陽菜の力強い主張に修也はげんなりとする。

「それともアレか! 土神君はブルマ姿で立ってるだけのこの2人を性的な目で見てるってのか!」
「んなわけあるか! それこそセクハラだろうが!!」

鬼気迫る表情で詰め寄る陽菜に修也は全力で切り返す。

「何ぃっ!? じゃあ土神君はブルマ姿のこの2人が全く魅力的ではないって言うのかい!!?」
「いやそれは何か語弊がある。服装が変わっても本人そのものの魅力は変わらんでしょ」
「あー……まぁそれはそうだね」
「……あれ?」

さらにヒートアップしていきかねない陽菜のテンションだったが、修也の言葉で不意に元に戻った。
そのことに修也は拍子抜けする。
修也はてっきりもっとめんどくさく絡んでくるものだと思っていたのだが、肩透かしを食らった気分だ。

「つまりアレだね。土神君は舞原さんや妹の米崎さんは元々魅力的で、ブルマでさらにその魅力が倍増していると言いたいんだね!」
「いや後半は余計です」

……と思ったら絡み方を変えただけだった。
目を輝かせて詰め寄る陽菜を修也はさらっと流す。

「えっ!? 修也さん、それ本当ですか!?」
「え?」

すると何故か蒼芽が食いついてきた。

「そうだよね、舞原さんもブルマは魅力的だと思うよね!?」
「いえ、そこではなくて……私や詩歌が元々魅力的ってところです」
「あぁ、まぁそりゃあな。人間誰しも何かしら魅力と言うか長所はある。俺はそう思ってる」

蒼芽の言葉に修也は普通に頷いて答える。

「えっ……で、でも……私には、そんな長所なんて……」
「いや詩歌には『料理が上手い』という立派な長所があるだろ」
「そうそう、詩歌のお料理凄く美味しいもん」

自信無さげに俯く詩歌に対して修也と蒼芽は即反論する。

「へぇー、2人がそこまで言うってことは本当に料理が上手なんだね。それは自慢して良いと思うよ」

さらに陽菜が優しく微笑みかけながらそう言う。

「あ……え、えっと……あ、ありがとう……ございます……」

赤くなって俯きながらも修也たちに礼を言う詩歌。
陽菜のこういう所は普通に良い教師っぽい。

「つまり纏めると、ブルマにエプロンつけて料理してもらえば最強ってことだよ!」
「違ぇよ!! 何をどうすればそうなる!?」

だがこういう発言で全てを台無しにしてしまっている。
またおかしなことを言い出した陽菜に突っ込む修也。

「私の中には『ブルマを外す』という選択肢は無い! それに考えてもみなよ土神君。ブルマとエプロン……日常にありふれているのに合わさることの無いこの2つのミスマッチから来る背徳感の破壊力がいかほどか! 私は想像しただけで3日はテンションぶち上げられるよっ!!」
「んなもん饒舌に語ってんじゃねぇ! アンタ仮にも教師だろうが!!」
「何言ってんのさ、教師だからこそ語るんだよ! 私程ブルマの良さを世に語るのに適した人材はいない! ならば私が先駆者となる!」
「もっと違う所でその情熱燃やしてくれないかなぁ……」

いつもよりテンションの高い陽菜に呆れるしかできない修也。

「それに私の性癖はとりあえず置いといて普通に合理的じゃないかなぁ、ブルマにエプロン。体操服なんだから多少の汚れは平気でしょ」
「大体エプロンがカバーしそうな気がしますが」
「背中とお尻はカバーしないでしょ」
「料理中に背中側が汚れるってどういう状況ですか」
「えぇっと………………?」
「あぁいや詩歌、無理に考えなくて良いから」

修也の問いかけに真面目に考え込みだした詩歌を修也は止める。

「まぁ私が言いたかったのは、大会である以上勝ちたいことに変わりは無いけど何より楽しむのが大事ってことだよ!」
「そんな要素今の話にあったか!?」

今の話を要約すると熱中症とブルマとハラスメントが大半を占める。
陽菜が言いたかったという内容とは似ても似つかない。

「何はともあれ土神君は良い戦力なんだから期待してるよ。それじゃーねー!」

そう言って陽菜は去って行った。

「……開始前から疲れるようなことを……メチャクチャ無駄な時間を使った気がする……」

がっくりと肩を落としながら修也は呟く。

(…………私はそうでもなかったですけどね)

そんな修也の横顔を見ながら蒼芽は心の中でそう呟く。
今の修也と陽菜のやり取りの中で蒼芽が興味を引かれる箇所があった。
陽菜の『蒼芽や詩歌は元々魅力的』という発言を修也は否定しなかった。
つまり修也は蒼芽と詩歌を魅力的に思っているということである。
詩歌は料理の腕が魅力だと言った。
だったら自分は何だろう?
それが何であれ自分のことを魅力的に思ってくれているということに変わりは無い。
それを知れたことは蒼芽にとっては大きな収穫だ。

「……さて、気を取り直して程々に頑張るか」
「頑張ってくださいね修也さん!」
「お、応援してますから……」

軽く体を慣らし始める修也に蒼芽と詩歌はエールを送る。

「ありがとな2人共。それじゃあまずは…………そこでうずくまってる華穂先輩を何とかしよう」

そう言って修也はさっきからずっとうずくまって震えている華穂に歩み寄る。

「だ、ダメだ……腹筋が痙攣する……! お、面白すぎるよ土神くん…………! どれだけ私を笑わせれば気が済むのかな……?」

華穂がうずくまって震えているのは、もちろん笑いすぎによるものである。
実は陽菜が現れてから少ししたあたりで華穂はやってきていたのだ。
華穂は修也たちに声をかけようとしたのだが、それより先に修也と陽菜の言い合いが始まってしまった。
伝聞形で聞いても呼吸困難になるレベルで笑い転げる華穂だ。
そんな華穂が直接目の当たりにして笑わない訳が無い。
結局修也と陽菜の漫才にも近いやり取りをしている間、華穂はずっと笑いっぱなしだったのだ。

「もう、土神くんと知り合ってからお腹の底から笑うことがメチャクチャ増えたんだよ? それで腹筋が物凄く鍛えられちゃった。見てよこれ!」

そう言って体操服の裾をたくし上げて腹筋を見せてくる華穂。
言われてみると確かに引き締まってる…………ように見えなくもない。

「わっ……姫本先輩、お腹とっても綺麗ですね!」
「肌も綺麗で……しっかりくびれてて……羨ましいです……」

蒼芽と詩歌がまじまじと華穂の腰回りを見ながらそう呟く。

「あの……先輩? あまりそういうの外でさらけ出さない方が良いんじゃあ……?」

修也としては中々に刺激の強い光景に少したじろぐ。

「えー? 別に良いじゃない。私はこの鍛え上げられてスッキリしたウエストを土神くんたちに自慢したいだけだよ」
「そうですよ修也さん。そういうのは自然な心理ですよ」
「……え、そういうもんなの?」
「は、はい……私も、姫本先輩の気持ちは分かります……」

修也にはよく分からないが、詩歌もそう言うということはそういうものなのだろう。

「だったらそういうのはせめて女子同士だけの時にやってほしいなぁー」
「えぇー、土神くんのおかげでこうなったんだから土神くんに見てほしいんだけどなぁー」

修也の呟きに不満そうに口を尖らせる華穂。

「それにしても意外だなぁ。土神くんはこういうの見慣れてると思ってたけど」
「いや俺を何だと思ってんの先輩。そんなの見たことなんて……………………あんまり無いよ」

つい先日蒼芽と由衣との2人でプールに行った時のことを思い出し一瞬言葉に詰まる修也。

「いや今の間。あるんじゃない」
「つい先日私と由衣ちゃんとでプールに行きましたもんね」
「あっ、もしかしてアミューズメントパークの? 良いな良いなぁ! ねぇねぇ今度皆で行こうよ! 由衣ちゃんにも声かけてさ。美穂ちゃんも誘うし」
「あ、良いですね!」
「えっ……わ、私もですか……!?」

華穂の出した提案に蒼芽が乗り、詩歌が驚く。

「もちろん! あ、お金の心配はしなくて良いよ。言い出しっぺの私が払うから」
「あ、だったら俺フリーパス持ってるけど……」

修也は何度でも使える永年フリーパスを持っている。
しかも同行者にまで適用されるというとんでもなさだ。

「じゃあ決まりだね! 今度皆で遊びに行こう!!」
「でも移動手段がなぁ……電車メッチャ混むし」
「それなら私の家から車で行こうよ。それなら大丈夫でしょ?」
「まぁ…………そうだな」

やたらと遊びに行くことに前向きな華穂。
これも華穂の望む学生生活であるというなら無下にはできない。
そう思った修也は頷く。

「やったね! 楽しみにしてるよ」
「わ、私も……また先輩と遊びに行けるのは、楽しみです」

詩歌も控えめではあるが楽しみにしてくれているようだ。

「まぁとりあえずは目の前の球技大会だ。怪我しないように程々に頑張ろう」
「はいっ!」
「は……はい」
「うん、そうだね」

修也の言葉に蒼芽たちは頷くのであった。

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