守護異能力者の日常新生活記 ~第6章 第11話~

「じゃーん! これはどーかなー?」

三度由衣の入っている試着室のカーテンが開き、中から由衣が出てきた。

「へぇー、そういう水着も似合うんだな由衣ちゃん」
「そうですね。さっきとは違う雰囲気だけどそれも似合ってますね」
「ただ……あの腰巻き? あれ泳ぐ時に邪魔になるんじゃあ……?」
「修也さん、あれはパレオと言うんです。泳ぐ時はもちろん外しますよ」

出てきた由衣の姿を見て思い思いのことを言う修也と蒼芽。
水着本体は今までとそう変わらない外観をしているが、パレオを巻いているせいか大分違った印象を受ける。

「で、由衣ちゃん自身はどうだ? 気に入ったか?」
「んー……可愛いのは可愛いと思うんだけどー……美穂おねーさんとかの方が似合いそうかなー」
「あーんー……何となく言わんとすることは分からんでもない気がするなぁ」

具体的には修也もうまく言えないが、確かに美穂のような人が着るのが一番似合うような気がする。

「そしてこれは俺の完全な先入観だけど……動きにくそうなんだよなぁ、それ。俺が着るわけじゃないから気にしても仕方がないけど」
「そういえば修也さん、服を選ぶときに重視するのは機動性でしたね」

初めてモールを2人で回った時に修也が言っていたことを思い出して蒼芽がそう言う。

「まぁ誰が似合うかは置いといて、一番大事なのは自分が気に入るかどうかだよ由衣ちゃん」
「んー……それでもさっきの水着の方が私は好きかなー」
「うん、由衣ちゃんがそう思うならそれで良いんじゃないかな」
「うんっ! それじゃあまた着替えるねー」

そう言って由衣は試着室のカーテンを閉めた。

「私も着れたわよ。どうかしら?」

それとほぼ同時に今度は爽香の入っていた試着室のカーテンが開く。

「わっ、凄い! 爽香さん大人っぽいですね!」

それを見た蒼芽が驚きと感嘆の声を上げる。
出てきた爽香はビキニ姿だった。
普段あまり露出の多い服を着ていないので分からなかったが、意外と似合っている気がする。

「……ん? これ、下の部分重ね穿きしてんの?」

上から下へと視線を流していた修也だが、ビキニの下の部分が二重になっていることに気づいて疑問を呈する。

「修也さん、これはレイヤードビキニと言うデザインなんですよ」
「…………今日だけで何種類の水着が出てくんだよ。覚えきれねぇ……」

蒼芽の解説に再び頭を抱える修也。

「まぁ買うかどうかは置いといてこういう水着も悪くないわよね。どうよ彰彦?」
「あぁそうだなぁ……今までそういう水着着てるの見たことなかったけど、それはそれでアリかもな」
「今まではどんな水着だったんだ?」
「大体ワンピースだよ。色とか柄は結構変わってたけど」

修也の質問に彰彦は普通に答える。

(……それってやっぱりさっき言ってたことが関係してんのかなぁ……?)

彰彦が来る前に爽香が言っていたことを思い出して何とも言えない複雑な心境になる修也であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第6章 第11話~

 

「あ、あの……私も、着替え終わりました……」

そう言って爽香の隣の試着室から詩歌が顔だけ出してきた。

「あっ、詩歌はどんな水着にしたの? 見せて見せて!」
「わ、私にはちょっと派手過ぎて似合わないかもしれないけど……」

蒼芽に急かされ詩歌はおずおずとカーテンを開ける。
詩歌は今までの由衣や爽香と違い、上下の繋がった水着を着ていた。
脇腹部分が開いているがそれでも露出面積は少ない。

「別に派手過ぎるってことは無いと思うぞ? 由衣ちゃんや爽香のやつと比べたら十分落ち着いてるだろ」
「うん、私もそう思うよ。かと言って地味過ぎでもなくて詩歌に合ってると思うな」
「そ…………そう?」

修也と蒼芽にそう言われ、詩歌はどこかホッとした様子で呟く。

「あら、それを最初に選んだの? てっきりさっき私が見せたやつ着ると思ってたけど」
「え、えっと……それは……」
「何? せっかく土神君が見てくれるからちょっと冒険してみたくなったとか?」
「そ、そんなこと…………!」

にやける爽香にそう突っ込まれて詩歌は顔を真っ赤にさせてしまう。

「まぁ詩歌だって色んなデザインに興味を持ったって良いだろ。それにしてもホントに色々な物があるなぁ。同じワンピースでも違いがあるみたいだし……」
「違いますよ修也さん、これはワンピースじゃなくてモノキニです」
「……何だって?」

詩歌をフォローしつつ同じ種類でも色々な物があると感心していた修也だが、蒼芽の訂正に眉根を寄せる。

「モノキニですよ。確かに正面から見るとワンピースに見えるんですけど、後ろから見たらビキニみたいに見えるデザインの水着です」
「や、ややこしすぎる……ビキニ系統だけで何種類あんの?」
「私も全部を知ってるわけじゃないですけど、こんなのまだまだ序の口ですよ?」
「マジかよ!?」

蒼芽からもたらされた情報に本気で驚く修也。

「す、すみません……そんなややこしい水着を着て……」
「い、いやいやいや!? 別に詩歌に悪いところなんてないだろこれは!」
「そうよ、それにあの詩歌が背中とはいえ露出させてみようという気になったのは大きな進歩よ! だったらもう一歩踏み込んでこのマイクロビキニを……」
「そ、それは絶対無理……!」
「本当にまだあった……てか自分の妹にそんなもん着せようとするんじゃねぇ」
「あ、あはは……いくら可愛くてもあれはちょっと私も人前では着られませんねぇ……」

爽香が引っ張り出してきた布地のほとんど無い水着を見て全力で手と首を横に振って拒否する詩歌。
その横で修也はビキニだけでも本当にまだ種類があったことと、それを使って無茶振りをする爽香に呆れかえる。
蒼芽も困った顔で引きつり笑いをすることしかできないようだ。

「流石に蒼芽ちゃんでも無理か」
「ええ、あれが似合うようなスタイルは持ち合わせていませんので……分不相応と言いますか」
「え、そういう理由? まぁ……着れると言われてもそれはそれで困るけど」

正直今の水着でも少し目のやり場に困るくらいだ。
それなのにマイクロビキニなんて着られた日には蒼芽を直視できなくなってしまう。

(それにそんな姿を衆目に晒すのは、何と言うか良い気分はしない……ってのは自分勝手が過ぎるかな、流石に)

由衣とかだけならともかく、不特定多数の赤の他人には見せたくない。
しかし自分には口出しする権利なんて無い。
そんな葛藤が修也の脳裏に浮かび上がる。

「うーん……土神君のウケが悪いんならこれはナシね」
「ほっ……」

修也のリアクションが芳しくなかったのを見てマイクロビキニを没にする爽香。
というかあっさり引いたところを見ると元々受け狙いの冗談だったのだろう。
それを見て詩歌は安堵のため息を吐く。

「じゃあ土神君的にはどんな水着が好み?」
「!?」

だが続けて出てきた爽香の言葉に息をのむ詩歌。

「いや俺を基準にしてどうする。それに俺は今日までビキニとワンピースとスクール水着くらいしか知らなかったんだぞ? そんな俺に意見を求めんじゃねぇ」
「私のはセパレートですよ?」
「…………ビキニと何か違うの?」
「えぇとですね……端的に言うと露出面積の違いです。セパレートの方が露出面積が少ないんですよ」
「……アレで少ない方なのか?」

蒼芽の説明に怪訝な表情をする修也。
修也的にはあれでも十分すぎる程露出面積が多かったように思えたのだが……

「……あ、待ってください。分類的にあれもビキニっぽいです。というかそもそも境界が曖昧なようですね」

自分の主張が正しいことを裏付けようとしたのかスマホで検索をかけていた蒼芽が訂正に入る。

「私が最初に着たのもビキニだよねおねーさん?」
「うん、タンキニっていうビキニの一種だね。それに詩歌のも爽香さんのもビキニの一種です」
「じゃあもう全部ビキニで良いじゃねぇかめんどくせぇ」
「でも土神、さっき爽香が持ってたマイクロビキニと詩歌の着てるモノキニを同じ種類の水着として見れるか?」
「…………それはちょっと厳しいなぁ」

彰彦にそう言われ、両方を見比べながら難しい表情で唸る修也。
そんな修也の視線を受けた詩歌は少し恥ずかしそうに身を捩らせるのであった。

 

「良い物が買えて良かったね由衣ちゃん」
「うんっ!」

買い物を終えて詩歌たちと別れてモールから家への帰り道、由衣はずっと嬉しそうに水着の入った袋を抱えながら歩いている。

「結局最初に着てみた水着にしたんだな」
「やっぱりこれが一番可愛かったんだよー」
「そうだね、色々見たけどその水着が一番由衣ちゃんに合ってたと私も思うな」

あの後も色々な水着を試着してみた由衣だが、最初に着てみたものが一番気に入ったらしい。

「にしても……爽香の言ってたことは本当だったな」
「あ、あはは……あれは私も目を疑いました……」

遠い目をする修也を見て苦笑する蒼芽。
目を引く色や柄の水着を着た爽香が彰彦の隣に立つと、不思議と彰彦が霞んでいるように見えたのだ。
爽香の水着姿が目を引いたという理由もあるにはあるのだろうが、それだけでは説明がつかない気がする。

「うーん、謎だ……謎過ぎる……」
「多分どれだけ考えても答えは出ませんよ……」

難しい顔をして考え込む修也を蒼芽が諫める。

「ねーねーおにーさん、またプールに行こうよー。この水着着て遊びに行きたーい!」
「ん? あぁそうだな、せっかくだったら爽香たちも誘うか」

詩歌たちもそれぞれ水着を買っていた。
だったら使う機会があった方が良いだろう。

「あっ! じゃあありちゃんとちーちゃんも誘っていいー?」
「うんまぁ誘うだけ誘ってみなよ。だったら華穂先輩とかにも聞いてみるか……」

そんな予定を立てながら帰り道を歩いていると……

「あっ土神さん! お疲れ様っす!」

道端で座り込んでいた男に突然声をかけられた。

「ん? あ、猪瀬の元部下の……」

修也はその顔に見覚えがあった。
猪瀬の部下の中でリーダー的な立場にいた男だ。

「何やってたんだこんなところで」
「今は仲間の皆と日課になってる清掃活動をしてたところだ」
「日課になってんのか……」
「昔迷惑ばっかりかけてたからこれくらいはしねぇと。彼女さんもあの時はすまなかった」

そう言って蒼芽に頭を深く下げる男。

「あ、いえ……私はもう気にしてませんから」

それに対し蒼芽は首を横に振る。

(……彼女じゃねぇんだけど……訂正して話の腰を折るのもなんだかなぁ)

蒼芽も流してくれているのにわざわざ突っ込みを入れるのも違う気がしたので修也は追及しないことにする。

「あ、そうだ忘れてた。この前は捜索を手伝ってくれてありがとな」

由衣が誘拐された時、この男たちは総動員で由衣の捜索を手伝ってくれた。
しかもその後は行方を眩ませた誘拐犯の捜索も買って出てくれたのだ。
そのことに修也は礼を言う。

「そんなとんでもない! 俺ら結局ほとんど役に立てなかったし……」
「いや俺はその心意気を買ってるんだよ。それに結果的に深刻な被害が出なかったんだからそれで良いだろ」
「そーだよー! それにねー、あの時はおにーさんがすぐに助けに来てくれたんだよー」
「すげぇ……流石土神さんだ! 俺ら全員が探し回っても見つからなかったものをいとも簡単に……」

そう言って尊敬のまなざしで修也を見つめる男。

「にしても……お前らも変わったなぁ。あの頃からは想像もつかないくらいに爽やかになっちゃって」

まだ猪瀬の部下だった頃は絵に描いたようなテンプレの半グレ集団だったのに、今ではそんな雰囲気は微塵もない。
顔がいかついのは相変わらずだが、目が非常に澄んでいるからか威圧感が無い。

「へへっ、最近は町の人からも応援の声を掛けてもらえるようになってよ。人から感謝されるってこんなに嬉しい物なんだな」

そう言って照れくさそうに笑う男。

「いやぁホント生きてるって素晴らしい! 猪瀬さんの下にいていつ廃人にされるか分からない恐怖と隣り合わせになりながら周りを威嚇してた頃とは大違いだ!」
「…………!」

実に清々しい顔をしている男の言葉に修也の中で閃きに近いものが走った。

(前に高代さんと話した時に感じた引っ掛かり……人格が壊れかねないヤバいクスリ……そして廃人にされてしまったというこいつの仲間……もしかして……)

先日瀬里とファミレスで話した時にそんな話題が出てきたのを修也は思い出した。
修也の中で点と点だったものが線でつながったような感じがする。

「なぁ……ちょっと聞いて良いか?」

修也は確証を得るために男に尋ねかける。

「ああ良いぜ。俺で分かることなら何でも答えるぜ!」
「前にお前の仲間が廃人になってしまったって言ってたよな?」
「あぁ……でも俺も直接見たわけじゃないしあくまでも噂で聞いた程度の話だけどな」

修也の質問を受けて渋い顔になる男。
いなくなってしまった仲間のことなのでやはりやりきれない心境なのだろう。

「あの時、猪瀬の後ろにそういうことができるやつがいるかもしれないって話だったが……」
「ああ、あの人本人にそんなことができるとはとても思えねぇ。だがこれもそうなんじゃないかってだけで、実際に見たやつはいねぇんだよ」
「そうか……」

男の回答を聞いて修也は考え込む。

「どうしたんですか修也さん。何か気になることでも?」
「いや、気になるというか……もしかしたら一連の騒動に猪瀬も関わってたのかもしれないって思って」
「えっ?」

修也の呟きに蒼芽は短く聞き返す。

「まぁ想像の域を出ないけどな。何の根拠も無いし、もしそうだったとしてもそれが何なんだって話だしな」
「すまねぇ、力になれなさそうで」
「いや、気にしなくて良い。悪かったなお前にとっても辛い話だろうに」
「それこそ気にしないでくれ! 土神さんが気に病む必要はねぇよ!」

謝る修也に慌てて首を横に振る男。

(……何にせよもう少し情報を集めないといけないな……)

そう考えながら修也は清掃活動を再開するという男と別れ、蒼芽と由衣に挟まれながら舞原家への道を歩いていくのであった。

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