守護異能力者の日常新生活記 ~第6章 第23話~

……数年前。
元々はスケルスもなんてことはないごく普通の一般市民だった。
触れたものを『熱く』するという特殊な能力はあったものの、それ以外は他の人と何も違いは無い。
その能力も冬場に服を少しだけ熱く……というよりかは温かくして快適に過ごすとか電子レンジ無しで食べ物を温めるなど、平和的な使い方をしていた。
そして周りも特にスケルスの力について何か言ってくることも無かった。
学生生活も特に不満も無く、特に柔道は才能があったのかどんどん実力をつけていった。
中学時代は惜しくも全国大会でベスト16に行ったところで負けてしまったが、スケルスに不満は無かった。
それどころか高校でさらに上を目指すという目標ができてやる気が出た程だ。
高校に進学してから入った柔道部でもめきめきと頭角を現し、上級生相手でも引けを取らないほどだった。
……しかしそれを快く思わない輩もいた。
その上級生たちである。
むしろ素直にスケルスの実力を称賛した人の方が少なかったくらいだ。
自分たちより年下の癖に付けあがって良い気になっている……
そう僻んだ彼らは次の日から無視したり私物を隠すなど、嫌がらせを始めた。
単体では小さなことではあるが、積み重なっていくと段々ストレスになる。
しかしスケルスは意に介さなかった。

(そんなの実力の無いやつの僻みだ、悔しかったら実力で見返せば良い)

自分に言い聞かせる意味も兼ねて、スケルスは嫌がらせを受けるたびに鼻で笑っていた。
その態度がさらに不興を買ったらしい。
嫌がらせは段々エスカレートしていった。
不思議なもので、それだけ嫌がらせが長期間続くとそれが当たり前のようになり、初めはバレないようにコソコソやっていた嫌がらせも堂々としたものになってきた。
…………そしてそれを周りの誰もおかしいと思わなくなってきた。
それだけのことをされるようなことをやったのだと思われるようになってきたのだ。
それでもスケルスは放置していた。

(言いたいやつには言わせておけばいい。所詮は根拠のない妄言だ)

そう考えてスケルスは黙々と柔道の練習に打ち込んでいた。
ここまでしても効いてないように見えた、嫌がらせをしていた輩はついに一線を越えた。
スケルスに闇討ちをかける計画を立てたのだ。
スケルスが夜遅くまで柔道の練習をしているのは知っている。
その帰り道をこっそりとつけ、人気が無いところで複数人で暴行を加える。
流石に夜道を複数人で襲撃すれば自分の身の程を思い知るだろう。
計画に加担した面子はそう考えていた。
実行日はすぐにやってきた。
ある日の夜、1人で歩いているスケルスの背後から複数人で襲い掛かった。
しかしここで予想外のことが起きた。

「…………そろそろ来ると思ってましたよ」
「!?」

スケルスは襲撃されることに気づいていたのだ。
そして……

「……何人でかかってこようともその程度の実力じゃ僕の足元にも及びませんよ」
「なっ……!」

1対複数でもものともしないほどスケルスは強かったのだ。
一番前にいた襲撃者の襟元を掴み背負い投げ。
次にすぐ近くにいた別の襲撃者に大外刈り。
次々とスケルスは襲撃者を投げ飛ばしていった。
あっという間に辺りは死屍累々となる。
その様子を冷めた目で一瞥したスケルスはくるりと背を向けその場を去っていった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第6章 第23話~

 

翌日、スケルスが登校すると周りの空気が変だった。
何やら距離を置かれて自分に向けてヒソヒソと何かを呟く生徒が多数いるのだ。
妙な感じはしたがスケルスは自分の席に鞄を置く。
それとほぼ同時に担任が教室に入って来て、職員室に来るようにと言われた。

「…………昨日の夜、同じ学校の生徒に暴行を加えたのは事実か?」
「……は?」

職員室の担任の机の前に連れてこられてからの第一声がそれだった。

「昨日被害に遭ったと言う生徒たちからの訴えがあった。片方からの証言を鵜呑みにするわけにはいかないからお前にも話を聞いておきたくて……」

口ではそういうものの、この担任はスケルスの方に非があると決めつけている態度だった。
そもそも嫌がらせを受けているスケルスを見ても特に対策を取らず放置しているようなやつだ。
別にその態度に腹立ちはしない。

「よく考えてくださいよ先生。僕は1人、向こうは複数。それなのに僕が一方的に暴行を加えるなんてできますか? 逆ならまだしも」
「……でもお前、普通じゃない力を持ってるんだろう? それを使って……」

……呆れた。
スケルスは心底呆れた。
スケルスの力は触れたものを『熱く』するだけだ。
それでどうやって複数相手に一方的に暴行を加えることができるというのか。
柔道を理由に持ってこられた方がまだ理解できる。
実際柔道の技で1人ずつ投げ飛ばしたからだ。
結局この担任は何が何でもスケルスの方が悪いことにしたいようだ。

「とにかく向こうは謝ってくれれば大ごとにはしないと……」
「お断りです」

妥協にもなってない妥協案を出してくる担任の言葉をスケルスは冷たく切り捨てる。

「なっ……! しかしだな……」
「僕は襲われた被害者です。僕は自分の身を守っただけ。なのにどうして僕が謝らないといけないんですか?」
「だからそれは……」
「どうしてもというならまず向こうに謝らせてください。話はそれからです」

担任の言葉を遮りスケルスはそう言って職員室を後にした。
そのまま教室に戻り、机に置いていた鞄を掴んで再び教室を出た。
とても授業を受けるような気分になれなかったからである。

 

学校を出て家に帰ったスケルスを待っていたのは、母からの叱責だった。
てっきりこんな時間に帰ってきたことを叱られるのかと思ったがそうではなかった。

「アンタ昨日の夜学校の先輩たちを殴ったんだって!? 学校から連絡があったわよ!」
「……は?」

全くの予想外の叱責にスケルスは言葉が出ない。

「いやちょっと待ってよ。1対複数でこっちが一方的に殴るなんて無理に決まってるでしょ」
「でもアンタおかしな力持ってるじゃない! それを使って……」

……まただ。
結局のところ、スケルスの周りの人たちは普通とは違うこの『力』に嫌悪感を抱いているのだ。
実の親ですらも。
その事実にスケルスの心はどす黒く染まっていく。

(……もううんざりだ。いわれなき偏見の目に晒されるのも理解の無い周りの態度にも……こんな世界、滅びればいい……こんな社会、無くなってしまえばいい……)

そんな考えがスケルスの頭の中をぐるぐると渦巻いていく。

「全く、何でそんな気持ち悪い力を持って産まれてきたのかしら……」

……その言葉で、スケルスの頭の中で最後の一本の糸がぷっつりと切れた。

「ちょっとアンタ、聞いてるの!?」
「黙れ…………もう良い」
「っ!?」

話を聞いていないように見えたスケルスをさらに叱ろうとした母親だが、恐ろしく低く冷たい声で呟いた自分の息子に恐怖を覚え言葉を詰まらせる。
外見は同じはずなのに……声も、目つきも、雰囲気も、まるで別の何かになってしまったかのようだ。

「そんなに僕が悪いということにしたいのなら、望み通りにしてあげるよ……全部君たちの言う通りにしてあげるよ……そうして欲しかったんだろう?」
「え、ち、ちょっと……」
「それじゃあね僕の母親だった人。もうここには二度と帰らない。学校には退学届を出しておいてよ。それがあなたのできる親としての最後の仕事だからさ」
「ま、待っ……」

引き留めようとする母親の声を振り切ってスケルスはさっき入ってきた玄関から再び外に出る。

「……そうだ、せっかくなら他の人たちの望みも叶えてあげようかな。嘘は良くないもんね。嘘を本当にしてあげるとか、僕はなんて優しいんだろうね」

そう呟きどこかへ歩いていくスケルス。
……翌日、スケルスの通っていた学校の生徒の何人かが謎の高熱に倒れるという事態が発生した。
原因不明とは言えただの高熱だったので事件性は無しとされたが、中には後遺症が残った人もいたらしい。
これがスケルスが悪の道を進むことになった日……そして自分の持つ普通ではない力を他人に害を与える為に使うようになった日の始まりである。

 

その後スケルスはすぐに今住んでいる町から出ていき、遠く離れた別の町に拠点を置いた。
割り切り開き直れば案外どうとでもなるもので、生活に困ることは無かった。
生活費を稼ぐ方法も住む場所も選り好みしなければいくらでもある。
むしろ今のような生活をしているからこそ入ってくる情報というものもあった。
大抵そういうものはお世辞にも綺麗とは言えないものではあったがスケルスは気にしなかった。
むしろ悪人の自分にはちょうどいい……そう考えてすらいた。
そこで今の社会の裏や闇、そして人間の汚い部分などを散々見せつけられた。

(……僕が言えた口じゃないけど、こんなのが蔓延っているようじゃあ……ねぇ?)

悪は悪で別に構わないが、腐った部分は取り除くべきだ。
そう思ったスケルスは行動に移すことにした。
培った伝手を使って資金・物資を集める。
そしてそれを使って自分と同じく世の中に不満を持っている人間を唆して行動に移させる。
そうやってスケルスは人を使い捨ての消耗品のように扱って暗躍していた。
しかしある日から状況が変わってきた。
何度か拠点を移動してきた先の町でいつものように適当に人を見繕って唆して事件を起こさせたのだが、どうにも被害が少ない。
物的被害は多少あるもののほとんど影響がないレベルだ。
人的被害においてはゼロなんてこともあった。
想像とは違う展開になっていることにスケルスは少々戸惑いつつも興味を持った。

(良いね良いね、思い通りに行かないからこそ人生は楽しいんだよ)

何が起きているのかを確認するべくスケルスは次のターゲットを見つけ出し、いつもと同じように唆す。
唆された男はすぐさま行動に出て、1人の少女を誘拐した。
……が、すぐに1人の男子高校生に潜伏場所を特定されて制圧されてしまった。
その男子高校生……修也にスケルスは強く興味をひかれた。

(良い……彼は良いね)

自分の計画を邪魔されたというのにスケルスは修也に対して悪感情を持たず、むしろ気に入ってすらいた。

(彼なら、もしかしたら……)

アミューズメントパークの駐車場で面と向かって話した後、スケルスの中に小さな感情が生まれた。
それはあの時自分の母親と決別した時に捨て去り、二度と持つことは無いと思っていた感情。

「ふふ……楽しみだなぁ。『期待』してるよ?」

修也たちの前から立ち去った後、スケルスが誰に向かって言うでもなくそう呟いた。

 

「……それじゃあ、さよならだ」

修也に掴まれた腕を掴み返し、スケルスはそう呟く。
実際に対峙してみて分かった。
間違いなく修也はスケルスが計画を進めていく上で最大の障害となりうる人物である。
修也を排除できればこの計画は成就したも同然となる。

(もう少し楽しみたかったけど……仕方がないね。僕が計画を進める為に排除させてもらうよ)

多少の寂しさのようなものを感じつつスケルスは掴んでいる修也の腕に力をこめる。
程なくしてスケルスの能力の影響で修也の体温が上がり、全身の皮膚が赤く…………

 

……ならない。

 

「…………え?」

自分の予想と違う展開にスケルスの思考が一瞬停止する。

「な、何故だ!? 僕は間違いなく君を『熱く』したはず! なのに何故何も起きない!?」

ここで初めてスケルスの口から焦りの感情が入った言葉が出てきた。

「…………どうやら俺は例外だったみたいだな」
「そんな馬鹿な!?」
「ところで良いのか? お前が俺に触れているということは……俺がお前に触れているということにもなる」
「はっ!?」
「遅いっ!!」

修也の指摘に気づいたスケルスが手を離そうとするが、それよりも修也の方が先に動いた。
修也は『力』でスケルスの周りの空気を固める。
窒息されると困るので顔周りの空気は固めてはいないが。

「なっ……! 動けな……」
「お前の能力の正体を教えてもらったからな、俺も教えておこう。俺の『力』は触れたものを『硬くする』ことだ」
「そ、そうか……! それで……」

修也の言葉でハッとした様子のスケルス。
恐らく直接能力で鉄パイプを弾いたのではなく、実際は腕を固めたことで弾き飛ばしたのだということに気づいたのだろう。

「ふ、ふふふ……負けたよ、降参する……僕の完敗だ。指一本動かせないこの状況から逆転するのはいくら何でも無理だからね」

そう言って自分の負けを認めるスケルス。
負けたというのにその表情はとても清々しい物だった。
スケルスの周りに漂っていた空気の淀みも感じられない。

「君が勝ったから約束通り大人しく引き下がろう。僕の進める計画はここで終了だ」
「……えらく諦めが良いな? 世界を思い通りに変えるなんて大それた計画だったのに」
「さっきも言っただろう? 僕は君のことを個人的に気に入ってるんだ。君みたいな人がいるならこの世界も捨てたものじゃない……そう思ったのさ」
「……」
「それにもしかしたら、君なら僕の計画に真っ向から立ち向かって……『そんな馬鹿なことは止めろ』と言ってくれるんじゃないかという期待もあったんだ」
「ん? 計画を止めてほしかったのか? 自分で始めておいて?」

要領を得ないスケルスの言葉に修也は首を傾げる。

「スムーズに事が運びすぎても面白くないだろう? それに僕を止めることで計画はさらに一段階進む……世の中の腐った部分を取り除く、というね」
「え? 世界を思い通りに変える……じゃなかったのか?」
「ある意味思い通りだよ。腐った部分の無い世界……それが僕の目指してたものさ。他の人たちがどう思っていたのかは知らないけどね」

つまりスケルスの目的はこの世界の腐った部分を取り除くというものだった。
だがその方法は社会そのものを潰すという、お世辞にも綺麗事とは言えない、悪に染まったものだった。
その計画でスケルスが唆した人間が目的を果たせれば社会に被害を与えられるので良し。
果たせず潰されたとしても、それはそれで下衆が消えてなくなるからまた良し。
どちらにしてもスケルスの望む方向に事が進む。
そしてスケルス自身が潰されるということは、世界の悪がまたひとつ駆逐されるということを意味する。
それもまたスケルスの計画が進むということだ。

「僕としては計画を進めるのが誰であっても良いのさ。それが僕の気に入った君なら言うこと無しだ。これからは君がこの世界を思う通りに変えていって欲しいな」
「やだよ、俺は普通の生活がしたいんだ。世界を変えるなんて大それたことをせずに俺の近くにいる大切なものを守れればそれで良い」
「…………ふふっ、そうか……なるほどね。君に勝てなかった理由が、何となく分かった気がするよ……」

修也の言葉にスケルスは少しキョトンとしたあと、何かを悟ったかのように穏やかに微笑むのであった。

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