守護異能力者の日常新生活記 ~第4章 第2話~

「んー……こっちかな……?」
「んむむむむ……」

修也がカードの1つに手を伸ばして掴もうとすると難しい顔をする由衣。

「それともこっちか……?」
「んふふふふー♪」

手をずらして違うカードを掴もうとすると今度は笑顔になる由衣。

(いや由衣ちゃん、分かりやすすぎ……)

修也は心の中で呟く。
今修也たちはトランプのババ抜きをやっている。
蒼芽と由衣の2人だけだとすぐ終わってつまらないという理由から今までやらなかったのだが、今は修也を入れて3人になったのでやりたいと由衣が言い出したのがきっかけだ。
順番の関係上修也は由衣からカードを取っていたのだが、由衣の表情が目に見えて変化するので非常に分かりやすい。
しかし分かるからと言って容赦なく当たりのカードを引いても良いものかどうかと修也は葛藤しているのだ。
結局良心に負けて修也は外れのジョーカーを引くのだが、次の由衣のターンで再びジョーカーは由衣の元に戻っていく。
こんなやり取りを既に5回は繰り返していた。
ちなみに蒼芽は早々に上がっている。

「あの……修也さん、もう良いですよ?」

蒼芽がこっそり修也に耳打ちする。
どうやら修也の表情から今の心境を察したようだ。

「…………じゃあ、こっち!」

蒼芽の言葉で修也は意を決して由衣が難しい顔をする方のカードを取った。
結果、修也の持っているカードは揃い上がることができた。

「あーあ、負けちゃったー……」

そう言って由衣は残念そうな顔をして俯く。

「でも楽しかったねー!」

しかしすぐに顔を上げて楽しそうに笑う。

「ねーねーもう1回やろーよー」
「待った由衣ちゃん。もう夕飯の時間だぞ」

修也の指摘する通り、食卓には既に夕飯の支度が出来上がっていた。
恐らく由衣の家でもそろそろ夕飯の時間のはずだ。

「あ、ホントだー。もうこんな時間だったんだねー」

修也に指摘されて初めて由衣は今何時なのか把握したようだ。

「ねーおにーさん、また遊んでくれるー?」
「ああ、これくらいなら別に構わんぞ」
「ホント!? 約束だよー?」

修也の言葉に表情を輝かせる由衣。

「じゃあまたねー、おにーさんおねーさん!」

そう言って由衣は手を振りながらリビングから駆け足で出ていった。

「……ふぅ、いやはや中々騒がしかったけど何か充実した感じのする時間だった」

由衣が玄関から出ていった後、修也はそう呟く。

「そうですね、由衣ちゃんはいつも楽しそうですからこっちも楽しくなるんですよ」
「それに加えてトランプでババ抜きできたのも俺的には新鮮だった。今までは大体1人用のゲームか1人2役で」
「わーーーーっ!! さ、さぁ晩ご飯にしましょ修也さん!」

修也の言葉に不穏な空気を感じ取った蒼芽は無理やり修也の言葉を遮って夕飯に促すのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第4章 第2話~

 

「あれ……着信?」

夕食を終え、風呂が沸くまでリビングでのんびりしていた修也のスマホが着信を知らせる。

「相手は……高代さん?」

画面には瀬里の名前が記されていた。

「そう言えば以前カフェ行った時に連絡先教えてたっけな……」

先日カフェに行った時のやり取りを思い出す修也。

 

 

~回想~

 

 

「あ、そうそう土神君。君の連絡先を教えておいてくれるかな?」
「え?」

ひと通りの情報交換を終えてカフェを出る前に瀬里が修也にそう切り出した。

「今後何か分かった時にいちいちこうやって顔合わせるの面倒でしょ?」
「まぁ……それは確かに。でもなぁ……」

瀬里の性格的に何か裏が無いかが不安な修也。
悪用は流石にしないだろうがいたずらなら普通にあり得る。

「大丈夫だって! 情報を扱う記者としてその辺のモラルはきっちりわきまえてるから!」
「それは私も保証するわ。意外かもしれないけど瀬里はそういう所はしっかりしてるわよ」
「おいおい優実ー、意外ってなんだよ意外って」
「七瀬さんがそう言うなら安心ですね」

真面目な性格の優実がそう言うならば信頼できる。

「……まぁもし万が一の場合があったら私が責任もって全身全霊でシメるから」
「お願いします」
「えっ……私の信頼、低すぎ……?」

修也と優実のやり取りに愕然とした表情をする瀬里。
ただやたらとオーバーリアクションなので本気でショックを受けているわけではないのだろう。

「瀬里は一度自分の言動を振り返った方が良いわよ」
「まぁでも、何か新しいことが分かったら連絡してください」

そう言って修也は自分の連絡先をスマホに表示させる。

「……よっし! 私のスマホに男の子の連絡先が入ったー! 陽菜に自慢してやろーっと!」
「そういう所よ瀬里」
「あだぁっ!!?」

修也の連絡先を登録したことでテンションが上がり変なことを口走る瀬里の脳天に本日2度目の優実による容赦ない手刀が振り下ろされるのであった。

 

 

~回想終わり~

 

 

「姫本先輩の件についてですかね?」

瀬里からの着信を知らせる画面を修也の横で見ていた蒼芽が尋ねる。

「だろうなぁ。そういや一応解決っぽいことになってたの言ってなかったな」

猪瀬の件はとりあえず解決したとしても良いだろう。
これ以上瀬里に調査を頼んでも意味が無い。
なので修也はそのことを伝える為電話に出る。

「もしもし」
『もしもしー! もっしぃー! これ土神君の番号で合ってる? 合ってるよね?』

開口一番テンション高めの瀬里の声がスマホ越しに聞こえてきた。

「何なんですか無駄にテンション高いなぁ……」
『おーその声はまごう事なき土神君! はろはろー、美人巨乳ライターの瀬里さんですよー!』
「……もしかして酔ってますか?」
『ぬふー、堂々と酒が飲めるってのは良いもんだねぇ。二十歳を過ぎた大人の特権ってやつさぁ! ……まぁ今は飲んでないけど』
「素面でソレですか。めんどくせぇ……」
『おぉー辛辣ぅ! でもそれが良い!』

修也の棘のある言葉にも全く意に介さない様子の瀬里。

「で、この電話の目的は何なんですか」

話が脱線しまくりで全然進まない。
なので修也は強引に軌道修正する。

『おーそうそう忘れてたよ。土神君、君って舞原さんと同じ家に住んでるよね?』
「ええ、まあそうですけど」
『あれからどんだけ進展した? やることやった? こっそりお姉さんだけに教えてほしいなー』
「……七瀬さんにシメられるのと俺が直接ブチのめすのとどっちが良いですか」
『おお! これが噂に聞く土神君の切れ味鋭いツッコミか! 良いね良いね、陽菜が気に入る訳だよ!!』

しかしまたしても脱線する。

「漫才の相手が欲しいだけなら切りますよ?」
『ああゴメンゴメン、ちゃんと用事はあるんだよ! 先日頼んできた件、そっちは何か進展あった?』

やはり猪瀬の件での確認の電話だったらしい。

「ああやっぱりその件ですか。実は結構な進展がありまして……」
『ほほぅ! じゃあ聞こうじゃないか』
「端的に言うと、問題が解決しました」
『結構どころの騒ぎじゃなかった!? 詳しく聞かせてくれたまえ!!』

修也の言葉を聞いて瀬里の声色が変わった。
興奮気味にまくし立ててくる。

「実はですね……」

修也は事のあらましを説明する。
ただ塔次のマインドコントロールについては伏せておいた。
修也自身理解が追い付いていないので説明のしようが無いからだ。

「……まぁそう言う訳で改心したみたいで、それから本当に言い寄るどころか視界にも入らなくなったんですって。なので解決したと思うんです」
『うーん……?』

修也は経緯をひと通り説明したが、瀬里の反応がなんだか煮え切らない。

「……? どうしたんですか高代さん」
『土神君、多分これまだ完全には解決してないよ』
「え?」

先程までとは違う瀬里の真面目な声に修也は訝しむ。

『確かに姫本さん周りの問題は解決したとしても良いと思うよ。でも、根本の問題がまだ残ってる』
「あー……猪瀬の手下が言ってた『消される』ってことについてですね?」

瀬里の言いたいことに察しがついた修也は先に瀬里に問う。

『そう。今の土神君の話だと、猪瀬家の息子のバックにはそんなことができる人物か組織がいるってことだよね』
「ええ、本人にそんな力は無いでしょうし」
『むしろあった方が話が単純だったんだけどねぇ』
「まぁ確かにそれは言えてます」
『これは私が提唱する闇の組織の陰謀説が真実味を帯びてきたわけだ!』
「それはどうかと思いますが」
『えぇー……その方が面白いじゃん』
「面白さを求める所じゃないでしょ」
『何事も楽しんだもの勝ちだよ土神君。でもまぁとりあえず直近の問題が解決したのは喜ばしいことだねっ!』

そう言いながら言葉のトーンを軽くする瀬里。

「……そうですね。まぁそう言う訳なんで猪瀬の調査はもう打ち切りでも良いですよ」
『ほいほーい。じゃあ約束通り報酬は土神君のゴシップネタで』
「ありませんよそんなもん。約束もしてないし」
『えー? あれだけ可愛い子たちが側にいるのに浮いた話のひとつも無いの? それはそれで問題だよ? もっと人生を謳歌しようよ土神君』
「十分謳歌させてもらってますよ」
『おっ! やっぱりやることやってんだね!? その辺の話も是非とも詳しく……』
「蒼芽ちゃん、七瀬さんの名刺出してくれ」

スマホを耳から離して蒼芽に呼びかける修也。

『ヘイ待ちな! ……なんだよぅ、ちょっとしたアダルティーなジョークじゃんかよぅ』

修也のスマホから不服そうな瀬里の声が響く。

『まったく、最近の若者はこれだから……』
「高代さんも若いでしょうが。藤寺先生と同い年なんでしょ?」
『お、嬉しいこと言ってくれるじゃないの~。そうだ私はまだ若いんだ! 誰だ中学生以上はババアなんて言うのはー!』
「いやそれは知りませんけど。とりあえずそんな嗜好の持ち主は色々とヤバいので距離を置いた方が良いと思いますよ」

何かやたら熱と実感の籠った瀬里の言葉を流す修也。
そのようなことを言われた過去があったのだろうか?

『土神君的に中学生はアリ? ナシ? ああでも君今高2だっけ。だったら別に中学生でも問題無いのか』
「何の話ですか」
『だってさぁ、仮に相手が中1でも4歳差だよ? そんなの社会に出たら些細な年齢差だよ』
「そう言うのは年齢差じゃなくて今現在の実年齢だと思いますが。仮に俺が高1だとしたら4歳下は小学生でしょ? 何か響きがヤバい」
『え……土神君、小学生をそう言う対象として見れるの?』

何か電話口で瀬里が引いたような気がした。

「違うっ! そんなこと言ってないでしょ!」
『だったら聞き方を変えよう! 土神君は何歳差までなら許容範囲?』
「んなこと考えたこともありませんよ」

今まで腫物のような扱いをされてきた修也なので、当然そんなことを考えたことすら無い。

『じゃあ今考えておくれよぅ! 直感で良いから!!』
「めんどくさいなぁ……じゃあもうプラマイ2~3歳くらいってことにしておいてください」

それでも食い下がってくる瀬里に段々やり取りが面倒になってきた修也は適当に答える。

『オッケーオッケー! じゃあ土神君は中学生もイケるクチってことだね!』
「誤解を招くような変換かけるんじゃねぇ!!」

とんでもない要約をする瀬里に修也はつい口調が荒くなってしまう。
ちょっと真面目な話をしたと思ったらすぐに脱線する。
陽菜の時とは違うベクトルで疲労感が溜まっていく修也。

『あはははは、やっぱ面白いわ土神君。君と知り合えて良かった』
「素直に喜んで良いんですかねこれ?」

瀬里の言葉に眉根を寄せる修也であったが、実のところそう言われて悪い気はしない。
長い間爪弾きにされる生活を送っていたので、『自分はいらない人間』という考えが無自覚に刷り込まれていたのだ。
なので形はどうあれ必要とされているのであればやはり嬉しいものなのである。
だが会話の流れ的に素直に喜べないのが複雑なところだ。

『んじゃそろそろ失礼するよ。有益な情報ありがとねー! 舞原さんと仲良くやるんだよっ!』

瀬里がそう言って通話は切れた。

「……真面目なのとふざけたのが入り混じった何とも言えない電話だったな……」
「あ、あはは……」

通話を終えたスマホの画面を半眼で睨む修也とそれを見て苦笑いする蒼芽。

「あ、修也さん。お風呂沸いてますよ」

どうやら電話中に風呂の準備が完了したようだ。

「お、そうか。じゃあお先に」

そう言って修也は自分の部屋へ着替えを取りに行くためにリビングを出る。

「……ふふっ」

修也がいなくなったリビングで蒼芽は1人静かに微笑む。
実は瀬里の言葉は修也の横にいた蒼芽にも聞こえていた。
つまり話の内容も把握している。
瀬里の年齢差の許容範囲はどれくらいかという問いに修也はプラスマイナス2~3歳と答えた。
自分と修也は1歳差。
余裕で範囲内だ。
修也が面倒くさがって適当に答えたことは表情から伺えたが、適当に答えたからこそ嘘偽りの無い本心ともとれる。

「あらご機嫌ね蒼芽」

その様子を見ていた紅音が声をかける。

「まぁね。お母さんが前に言ってた熟女が好きな男の人もいるって話、修也さんは当てはまらなかったよ」
「あらそうなの?」
「うん。修也さん的にはプラスマイナス2~3歳くらいが良いんだって」
「……そう。でも蒼芽、よく考えてみて?」
「ん?」

上機嫌の蒼芽に紅音は窘めるように言う。

「プラスマイナス2~3歳ってことは、学校の生徒全員が当てはまるわよ?」
「……あ」

紅音の指摘に蒼芽はぽかんと口を開けたまま思考が止まる。
修也は今高2である。
生徒は全員修也と同い年かプラスマイナス1歳だ。
よくよく考えればすぐ分かりそうなものだが、浮かれてた蒼芽はすっかり失念していた。

「……い、言われてみれば……あれ、これどうすれば良いの……?」

どうすれば良いか分からず右往左往する蒼芽。
そんな娘の様子を紅音は楽しそうに見守る。

「……ふふふ、慢心せず努力すればきっと報われるわよ。何だかんだ言っても今の修也さんにとって蒼芽が1番なのは変わらないんだから」

その紅音の呟きを蒼芽がきちんと聞き入れていたのかどうかは不明である。

 

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