守護異能力者の日常新生活記 ~第2章 第14話~

「ん? おや? そこにいるのはもしかしなくても土神君じゃないかい?」
「うわぁ……めんどくさい人に見つかった……」

陽菜が修也に気づいて声をかけてくる。
それに対して修也はめんどくさそうな表情を隠しもせずに呟く。

「おいおいそりゃないぜ土神君。せめて表情に出さないでかつ心の声はしまっておくもんだよ」
「つまり何もリアクションするなってことですか」
「何言ってんの、そんなのつまんないでしょ!? 何かしらリアクション取ってよ! 『うわぁ昼休みにも巨乳美少女教師の陽菜先生に会えたぜラッキー!』みたいな!!」
「……俺がそんなキャラだと思ってんですか?」
「んーん、全然思ってない。でもだからこそ面白いんだよっ! キャラ的に普段言わないようなセリフを言う。これがギャップ萌えってやつ?」
「多分違います」

もう『美少女』のくだりには突っ込まない修也。
突っ込んだところで前と同じ回答しか返ってこないと思ったからだ。

「えー……ってことは土神君は巨乳派じゃないって事?」
「……とりあえず昼休み学校で教師と生徒が話す話題ではないと思います」
「あー、逃げたー」
「やかましいですよ」
「まーそれは置いといて、土神君もここでお昼かな?」

これ以上掘り下げても面白くないと判断したのか、陽菜はさっさと話題を変えた。

「ええまぁ。昨日は学食だったんですけど、他の場所で食べるのも良いかなと思いまして」
「で、そんな可愛い子2人も連れて優雅に屋上でお昼? 羨ましいなぁー」

そう言って陽菜は修也の横に座っている蒼芽と詩歌に目線を向ける。

「あの、修也さん。こちらの方は……?」

話題が自分たちの方に向いたので、蒼芽は修也に問う。

「あれ、蒼芽ちゃんたちは会った事無いのか。この人は藤寺先生。体育教師で、俺のクラスの担任」
「どうもご紹介にあずかりました、初代ブルママイスターの藤寺陽菜です。あと教師もやってるからよろしくねっ!」
「……突っ込みどころが多すぎる……」

陽菜のぶっ飛んだ自己紹介に頭を抱える修也。

「あぁ、会った事無いのは私たちの体育の先生は別だからですね」

だが蒼芽は見事に必要な情報を抜き出してまとめて把握していた。

「と言うことは君たちは2年じゃないんだね? 2年だったら私が受け持ってるから見落とすわけ無いし」
「はい、私たちは1年です」
「良いなー、土神君。まだここに来て1週間経ってないのにどうやってこんな可愛い後輩たちと知り合ったのさ? 私にも分けてよ」
「そんな、仮にも教師が人を物みたいに……」
「ん? あ、違う違う。分けてほしいのは可愛い後輩じゃないって」
「じゃあ何なんですか」
「リア充度」
「意味が分かりません」

相変わらずの陽菜節に疲労感が両肩にのしかかっていくのを感じる修也であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第2章 第14話~

 

(ふわぁ……凄い綺麗な先生だなぁ……)

一方の詩歌は、ぼーっと陽菜の方を見ていた。
蒼芽とは違うベクトルで明るく、修也とのやり取りも楽しそうである。

(それに……)

詩歌は陽菜の顔から少し視線を下げる。
大きい。物凄く大きい。
服の上からでも分かる。もう次元が違う。多分だが桁も違う。

(あれに比べたら……私と舞原さんの差なんて、あって無いようなものだよね、うん……)

詩歌はなんだか吹っ切れた。
自分のしていたことはどんぐりの背比べ。
そんな個人差で片付けられるレベルでの胸の大きさの比較なんて何の意味もない。
そう思い直すことにした。

「さて、それじゃあお昼食べよっか。せっかくだし、私も一緒に食べて良いかな?」
「まぁ、それは構いませんが」
「でも流石に1つのベンチに4人は狭いですね」
「あ……じゃあ、私が別のベンチに行くね……」

そう言って詩歌は一旦立ち上がり、向かいのベンチに座りなおす。
たとえ間に蒼芽を挟んでいても、修也と同じベンチに座っていると緊張で身が持たなくなると思ったからだ。

「そんじゃ失礼して、と……そーいやまだ君たちの名前聞いてなかったね」

ベンチに座った陽菜が蒼芽と詩歌を見ながら言う。

「あ、私、1-Cの舞原です」
「えっと……舞原さんと同じクラスの、米崎です……」
「ん? 米崎ってことは、うちのクラスの米崎さんの妹?」
「あ、は、はい……」
「そーかそーか。妹がいたのかー」
「それにしても藤寺先生って凄いんですね?」
「ん? 何がかな?」
「2年の生徒全員の顔を覚えてるんですか? 結構な数がいると思うんですけど」
「あー、さっきの話? もちろんだよ。教師として当然の事だね」
「へぇー……」
「蒼芽ちゃん、それ多分正確には違う」

言い切る陽菜に尊敬の目線を送る蒼芽に対して修也が訂正に入る。

「え?」
「顔と体操服姿を覚えてるんだよこの人。もっと正確に言うと男子は短パン、女子はブルマで覚えてる」
「え? 何言ってるのさ土神君」
「そ、そうですよ修也さん。いくら何でもそれは……」
「そんなの当たり前じゃん。私を誰だと思ってるの?」
「……え、えぇ?」

とんでもないことを言い出した修也を蒼芽は窘めようとしたが、まさかの本人からの肯定に戸惑う。

「2年なら短パンブルマだけ見せてもらえりゃ誰なのか分かるよっ!」
「す、凄い……んですかね? これって……」
「凄いのは凄いけど、ベクトルを完全に間違えてるな。一歩間違えたら通報案件だ」
「あ、あはは……」

呆れ顔の修也に、困った顔で苦笑する蒼芽。

「で、そんな私の見立てでは君たち2人とも良いブルマしてると思うんだよねー」
「えっ……あの……そ、その……」
「公開セクハラはやめろと言ったでしょうが。詩歌が困ってるでしょ。そもそも何ですか良いブルマしてるって」
「ブルマは単体でも尊いものだけど、履く人によって価値は数十倍から数百倍にまで上がるんだよっ! 可愛い女の子なら数千倍もあり得るねっ! 2人にはその素質があるっ!!」
「んなもん力説せんでください」
「そうなんですか。でも……すみませんが今日は体育が無いので持ってきてないんです」
「蒼芽ちゃんも真面目に答えなくて良いって」
「えー、土神君は気にならないの? こんな可愛い子たちのブルマ姿」
「だから公開セクハラはやめろと言ってるでしょうが。そろそろ訴えられますよ?」
「あー、そかそか。土神君は胸派か」
「っ!」

陽菜が出した話題に詩歌が僅かに反応する。

「え、何これ公開処刑? 俺の嗜好が捏造されていってるんですけど」
「じゃあここだけの話にしといてあげるからさー、ぶっちゃけちまいなよ、ユー」
「いや、学校の昼休みに教師と生徒でする話じゃないでしょ。何度も言ってるけど」
「合コンではよくやるよ?」
「知りませんよ……てか、合コンでも胸とかブルマとかそんな話ばっかりしてるんじゃないですか? あまりあからさまだと逆に引くと思うんですが」
「異議ありっ! 今の発言の訂正を要求する!」
「あ、すみません。いくら藤寺先生でもそれはない……」
「胸とブルマじゃない! ブルマと胸だよ!!」
「順番の問題!?」
「当たり前だよっ! ブルママイスター舐めんなっ!!」
「な、なんて言うか……漫才を見てるみたいだね、詩歌」
「え、えっと……」

修也と陽菜のやり取りを見た率直な感想を詩歌に振る蒼芽。
詩歌はどう返して良いか分からず、言葉を濁す。

「じゃあさじゃあさ、これだけ教えて? 土神君は女の子を見る時、何を基準にしてる? 別に変な意味じゃなくて、単純に人物評価として」
「えぇ……そんなもん聞いてどうするんですか……」
「良いじゃん、私だって高校生の青春を身近で感じたいんだよ! ついでに今後の合コンの参考にする」
「後者が本音っぽいんですが。そうですねぇ……」

何やら蒼芽と詩歌からも興味を持った視線を向けられてるのを感じた修也は、少し考える。

(と言うか蒼芽ちゃんには一昨日似たようなことを話した気がするが……ああそうか、それ話せば良いのか)

もちろん『力』のことは詩歌と陽菜には話せないのでそこは伏せることになるが。

「俺が気にするのは、外観的な特徴よりも内面ですね」
「あれ、見た目は良いの? 背が高いとか低いとか、ナイスバディとかぺったんことか、地面に届きそうな超長髪とかスキンヘッドとか、百貫デブとか骨と皮だけとかでも良い訳?」
「いや後半極端だな!? まぁ、本人の信条だったりどうしようもない理由とかでその人の良し悪しを決めるのは何か違うでしょ」
「まあそれはそうだねー。私もブルマ好きだけど、だからってスパッツ派や短パン派の人とは付き合わない! ……ってわけじゃないし」
「そのたとえはどうなんだ……」
「じゃあ土神君は体型とか髪形みたいな外観的要素は気にしないってことだね」
「まあそうですね。それよりも蒼芽ちゃんみたいに見返り無しで初めて来た町の案内をしてくれたり、詩歌みたいに些細なことでもきちんとお礼を言いに来たりする子の方が好感持てますよ」
「あ……」

修也の言葉を聞いて、詩歌は心の中に漂っていた暗雲が綺麗に霧散していくのを感じた。
それは蒼芽も同じだったようで、笑顔がこぼれている。

(そっか……先輩は、スタイルは気にしない人なんだ……)

詩歌が心の中で安堵の息を吐いていると、ふと横から視線を感じた。
そっと横を見てみると、陽菜が横目でこっちを見ていた。
詩歌が陽菜の方を見たのを見て、陽菜はぱちりとウィンクして見せた。

「!」

陽菜のその行動に詩歌ははっとする。

(もしかして藤寺先生……私が気にしてること、気づいてたのかな……?)

今思えば、陽菜の言動は修也を誘導していたようにも取れる。
やたらと胸の話題に持っていっていたのも、詩歌の言動からコンプレックスに思っていると判断していたのかもしれない。
先程のウィンクも、『ほらね、土神君のように女の子を胸の大きさで判断したりしない子もいるんだよ?』という意味があるのかもしれない。

(…………ふふっ)

全ては詩歌の想像でしかない。
それでも、詩歌は昨日から抱えていた鬱屈とした気持ちを振り払うことができた。

(ありがとう……ございます、藤寺先せっ……!!?)

詩歌が心の中で陽菜にお礼を言おうとしたのだが……

「でもさでもさ、多少なりとも見た目要素でこういう子がタイプだってあるでしょー? 髪はロングが良いとかショートが良いとかさ」
「ええい絡むな! 質の悪い酔っ払いですか!」
「ブルマは赤が似合う子が良いとかさぁー!」
「それ気にするのアンタだけだよ!」
「ねぇー、舞原さんも気になるよねぇー!?」
「え、えーと……」
「蒼芽ちゃんにまでウザ絡みするのヤメイ!!」
「あ、あれ……?」

陽菜は修也にめんどくさい方向で絡んでいた。
それを呆然と見つめる詩歌。
あれを見ていると、単純に自分が聞きたいから聞いただけと言う気もしてきた。

(……ま、まぁ……心が軽くなったのは事実だし……)

そう思い、詩歌は自分を無理やり納得させる。

「ほら、早く食べますよ! 時間が無くなる!」
「仕方ないなー、じゃあ続きは次の機会ってことで」
「そんな機会来ないことを願いますよ、マジで」

修也の溜息交じりの言葉を締めとして、ちょっと遅めの昼食を始める4人であった。

 

「あ、来た来た」

放課後、詩歌が帰る支度を整えて校舎を出ると、校門で爽香が待っていた。

「ご、ゴメンねお姉ちゃん。待った……?」
「大丈夫よ。私も数十秒前に来たところだし。じゃあ早速行きましょうか。お母さん待ってるだろうし」
「え……お母さんも来るの?」

母親も同席することに意外そうな顔をする詩歌。

「そりゃそうよ。保護者が同席していないと契約できないわよ」
「あ……言われてみれば、そうだよね……で、どこに行くの……?」
「モールよ。そこの1階に出張所のスペースがあるのよ」
「へぇー……」
「で、どこの携帯にするか決めた?」
「え? どこって……どういうこと……?」

爽香からの質問に首を傾げる詩歌。

「どういうことって、携帯会社は複数あるのよ? 会社によってサービスとか料金とか変わってくるんだから」
「え……そうなの……?」
「……まぁ良いわ。とりあえずは私と同じところを見てみましょ。それで気に入らなければ別のところを見てみれば良いんだし」

そう言ってモールへの道をスタスタと歩く爽香。
詩歌もそれに続く。
途中で母親とも合流し、3人はモールの1階にある各携帯会社が合同で開いているスペースにまでやってきた。

「うわぁ……こんなところがあったんだね……知らなかったよ……」
「そりゃしいちゃんは地下1階か4階しか行かないからじゃないかしら?」
「それと時々5階」
「う……そ、それは……」

母親と爽香の言う通り、詩歌はモールに来ても大体その3階層にしか用事が無い。
食材を買うために行く食品売り場がある地下1階。
普段着る服などを買うための婦人服売り場がある4階。
そして料理の本を買うために行く本屋がある5階だ。

「さて、それじゃあさっさと決めましょうか」

爽香はそう言って、自分が契約している携帯会社のスペースに足を進める。

「いらっしゃいませー! 本日はどのようなご用件ですか?」
「妹の携帯の新規契約を考えてるのよ」
「そうですか。弊社をお選びいただきありがとうございます!」
「まだ決めた訳じゃないけどね」
「……やっぱりこういうことはさやちゃんが一番強いわねぇー」
「そ、そうだね……」

爽香は思ったことを遠慮なく言う方だ。
相手も営業トークで色々勧めてくるが、いらないものはいらないとバッサリ切り捨てる。
なのでこういった場面では非常に心強い。

「ほら詩歌、こっちに来なさい。最終的に決めるのはあなたなんだから」
「あ……う、うん」

爽香に呼ばれ、詩歌は隣に座る。
あれこれと見せられて実際に自分で手に持ってみて、詩歌は自分の手に合う大きさのものを選んだ。
契約は母親にしてもらい、遂に詩歌もスマホデビューを果たした。

「……これが、私の……携帯電話……」

詩歌はスマホの入った箱を大事そうに抱える。

「おめでとう、しいちゃん」
「あ、ありがとう……お母さん」
「じゃあ早速詩歌に課題を与えるわ!」

母親と一緒に眺めていると、突然爽香がそんなことを言い出した。

「か、課題……?」
「ええ。詩歌、まずは3人連絡先を入手するのよ!」
「え……えぇ!?」

爽香から出された課題に、詩歌はらしくない大声をあげるのであった。

 

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