守護異能力者の日常新生活記 ~第2章 第5話~

蒼芽と詩歌が屋上で昼食を食べ始めた頃、修也たちはというと……

「へぇー、ここがこの学校の学食か。広いなぁ」

学食の入り口までやってきていた。

「と言うか、学食だけで1棟あるってどんだけだ」
「まぁ1階は購買なんだけどな」
「だから学食は実質2階と3階だけよ」
「それでも十分広いっての。前の学校はここの1階層分よりも狭かったぞ」
「え?それでよく全校生徒が入れたな」
「いや入れねぇよ。だから弁当持ってきたり外で買ってきたりする奴もいたんだ」
「そうなのね。ちなみにここは持ち込みも許可されてるから、お弁当を持ってきて食べる生徒も少なくないわよ。私も今日はお弁当だしね」

そう言って小さな巾着袋を見せる爽香。

「へぇ、自分で弁当作ってんのか」
「いや、これは爽香の妹が作ってるんだ」
「妹?」
「ええ、ここの学校の1年にいるのよ。昔から料理が好きでね。しかもこれが美味しいのよ」
「へぇー……」
「……オレ……ハヤク…………メシ……クイタイ…………」
「うわぁ! 霧生がなんか人様にはお見せできない顔になってる!」

空腹の限界を超えている戒の顔が物凄いことになっていた。
言葉も片言になっており、これ以上時間をかけるとヤバいことになりそうだ。

「じゃあ私は先に行って席取っておくわねー」

しかし爽香は気にした様子も見せず、席を取りに行こうとする。

「えっ、ちょっ、この状況で置いてく気かよ!」
「この状況だからでしょ。スムーズに食べ始める為には席の確保は必須。ならその役は既に昼食を確保している私が最適よ」
「む……それもそうか……」
「それじゃあまた後でね」

そう言って爽香はスタスタと歩いていった。

「……マイペース過ぎやしないか?」
「……爽香はああいう奴だよ」
「メシメシメシメシ…………」
「はっ!? ダメだこれ以上は霧生の理性が持たない! さっさと行こう!!」
「そうだな、そうするか」

彰彦に促され、修也は学食に足を踏み入れた。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第2章 第5話~

 

「えーっと……ここの学食のシステムはどうなってるんだ?」

入ったは良いものの修也はこの学校での学食の流れを知らない。
なので彰彦に聞いてみた。

「簡単に言うと、トレイに自分の食べたい料理を乗せていって、最後にご飯と汁物を任意で乗せて会計、だ」
「ご飯と汁物は任意なのか?」
「ああ。いらなかったら断れば良いし、逆に大盛りにしてほしい場合も言えば良い」
「なるほどねぇ……」
「汁物も、味噌汁や豚汁、すまし汁や日替わりスープなどから自由に選べる。これも量は自由だ。ちなみにどれだけ盛っても、断っても値段は変わらん」
「えらく至れり尽くせりだな」
「理事長の方針なんだよ。生徒が快適に学校生活を送れるように、私財を投じて作り上げたらしい」
「スゲェな理事長……」
「おばちゃーん! これで会計よろしく! メシはいつも通り特盛で!! 汁物は豚汁、これも大盛り!!」

いつの間にか正気に戻っていた戎が自分の分を確保して会計まで進めていた。
トレイの上には牛丼・豚丼・親子丼が並べられていた。
これでもかと言うほど肉料理だらけだ。

「……あれからさらに特盛の白米を食うのかアイツは」
「せっかく半額免除なんだから倍食わないと損だろ!」
「あ、学食も半額なのか……」
「ん? 土神、この町に住んでる人は諸経費半額って知ってたのか?」

彰彦は、修也がその事実を知っていたことに意外そうな顔をする。

「え? あ、あぁまあな。手続きに来た時に……」
「ああ藤寺先生に聞いたのか。あの人ふざけてるように見えてやることはちゃんとやるからなぁ」

本当は蒼芽に聞いたのだが、わざわざ訂正する必要性もなさそうなので、修也はそのままにしておいた。

(……というか、訂正したら蒼芽ちゃんとの関係性を問い詰められそうなのが面倒だしな……)

可愛い女の子と一つ屋根の下で暮らしてるとか、聞く人が聞けば顰蹙を買いかねない。
既に爽香という幼馴染兼彼女がいる彰彦や運動以外の事は頭に無さそうな戎なら大丈夫かもしれないが、念には念を入れておくことにする。

「……それよりも、別にそんなに食わんでも損にはならんだろうに」
「……というか、あれ倍じゃねぇだろ。3倍だ」
「いや仁敷、あれに白米特盛が加わるから4倍以上だ」
「……よく食うなぁ。しかも体育後に」

戎の胃の容量に呆れつつ、修也と彰彦も食べるものを選ぶ。
修也はカツカレー、彰彦は日替わりランチだ。
それぞれトレイに乗せ、会計に向かう。

「お会計の前にカツカレーのお兄ちゃん、ご飯はどうする?」

レジのおばちゃんが修也に尋ねてきた。

「いやカツカレーの時点で米あるのに追加で米頼んでどーすんの」
「でもさっきのお兄ちゃんは丼物なのにご飯特盛頼んでたし」
「あれは超例外でしょ」
「じゃあ後ろの日替わりランチのお兄ちゃんは?」
「あ、俺は普通で」
「はいよー」

おばちゃんが普通サイズの茶碗に白米を盛って彰彦のトレイに乗せる。

「汁物は?」
「普通の味噌汁で」
「あ、俺も」
「はいそれじゃあ学生証提示してねー」

味噌汁を修也と彰彦のトレイに乗せたおばちゃんが学生証の提示を求める。

「えっと……これで良いのかな」

修也が学生証を見せると、おばちゃんはハンディスキャナーを学生証にあてる。
ピッと機械的な音がした後、レシートが出てきた。

「はいありがとねー」
「なるほど、これがここの学食での流れ……!?」

一通り体験して流れを把握した修也だが、レシートを見てギョッとする。

(カツカレーが……40円!?)

打ち間違いかと思ったが、機械でそれは考えにくい。
おばちゃんはハンディスキャナーで学生証を読み込んだだけだ。
直前の戎や直後の彰彦に変わったリアクションが無いと言うことは、システム的なトラブルの線も無いだろう。

(確かメニュー表には400円と……いやそれでも安い気がするけど……えぇ……?)

修也はレシートを見直す。
そこには一番下に『特別割引 -90%』と書かれていた。

(り、理事長……ホントに9割引きにしたんですか……!?)

学生を識別し、割引率を個別に調整できるシステム自体は元々あっただろうから驚きはしないが、本当に9割引きを適用させてしまうのは予想外だった。
てっきりその場限りの冗談だと修也は思っていたのだ。

「おーい土神ー、終わったなら早く爽香達の所へ行こうぜー」

会計を終わらせた彰彦が修也を呼ぶ。

「あ、あぁ……」

まだ驚きが抜けないまま、修也は足を進めた。

 

「遅いぞ仁敷、土神!」

修也達が爽香と戎のいる場所を見つけ近寄っていくと、戒は既に食べ始めていた。
と言うか丼が一つ空になっていた。

「え?そんな時間かけたっけ?」
「いや、普通だと思うが……」
「霧生君が馬鹿みたいな早さで食べただけよ。さ、私たちも食べましょう」

そう言って爽香が弁当箱の蓋を開ける。
中には色とりどりのおかずが入れられており、目でも楽しめるようになっている。
栄養的なバランスもきっちり考えられているようで、健康にも良さそうだ。
どこぞの丼だけを3杯も食う脳筋の馬鹿とは大違いである。

「いつ見ても詩歌の弁当は美味そうだよなぁ。それでいて、ちゃんと栄養バランスも考えられてるのがスゲェ」

弁当の中身を見た彰彦が感心した様子でそう言う。

「しいか?」
「私の妹の名前よ。ポエムの『詩』に『歌』で詩歌」
「ああそうか、幼馴染と言うことは妹とも幼馴染になるのか……幼馴染姉妹と同じ高校で片方は彼女とか……どこのラノベ主人公だお前はっ!」
「いやそんな事俺に言われてもどうしようもねぇだろ!?」

言いがかりに近いレベルで彰彦に詰め寄る修也。

「でも量が少ないな。米崎さん、それで足りるのか?」
「私はこれで十分なのよ」
「小食だなぁ」

戎と比べたら誰もが小食になってしまう。
それでなくても普通の女子高生が食べる量としては十分である。

「あ、土神のカツカレー見てたら俺も食いたくなってきた……」
「「まだ食う気かお前はっ!!」」

戎の止まらない食欲にツッコむ修也と彰彦の声がハモった。

「……やっぱり霧生君もイロモノよねぇ」

そんな様子を見て爽香はボソッと呟いた。

 

その後昼食を普通に食べ終え、5時限目と6時限目も何事もなく終わった。

「よっしゃ終わったー! じゃあ部活行くからまた明日なー!」

帰りの陽菜のホームルームが終わるとすぐに戎は鞄を掴んで教室を飛び出した。

「霧生くーん、人にはぶつかっちゃダメだからねー!」

その背中に向けて声をかける陽菜。聞こえたかどうかは微妙だが。

「人には……って、他に何があるんですか?」
「壁」
「扉」
「柱」

修也の問いに、陽菜、彰彦、爽香が順番に答えた。

「即答かい」
「ちなみに一通りやらかしてるからな、霧生の奴」
「道理で……にしても、あのガタイであのスピード……大丈夫だったのか? ……壁とかは」
「そこで霧生君の心配をしないあたり、土神君もうちのクラスに染まってきたねぇ」
「まだ初日ですけど」
「まあ慣れるのは早ければ早いほど良いってね! じゃあまた明日ねー!」

そう言って陽菜は教室を後にした。

「……とりあえず退屈はしなさそうってのは分かった」

それが今日一日授業を受けた修也の感想だった。
誰もかれも個性が強い。強すぎる。
ここまでくると、個性が無いと思っていた彰彦も『個性が無い』という個性なのだという気がしてくる。

「今日はもう帰ろう。そういや2人は部活やってるのか?」

鞄を持ち席を立った修也は彰彦と爽香に聞いてみる。

「私はやってないわ。あまり興味を引くものが無かったからね」
「俺もやってないな。強制じゃないから無理に入るのも何か違うと思って」
「そういうものかー……」

彰彦の言う通りこの学校は部活に入るのは強制ではない。
入らないという選択肢を選ぶのももちろん自由だ。

「白峰殿! 今週の部活のお題はなんですかな? 先週は『あどけなさと色っぽさは共存できるのか?』でしたな!」
「そうですわねぇ……では、『男の色気とは何ぞや?』について語ると致しましょう」
「むほぉー! それは自分の得意中の得意分野! テンション上がってきましたぞぉー!!!」
「それではさっそく……普段見えない所が見えるということに色気を感じる方は少なくありませんわ」
「成程、我々女子で例えると、太ももや二の腕、胸元やうなじあたりが当てはまりそうですな」
「その通り! しかしそれは男性でも言えること!!」
「何とっ!? 白峰殿、そのあたりもっと詳しく!!」
「黒沢さんは、体育の時体操服の袖を捲ってノースリーブのようにしている男子を見てときめいたことはありませんか?」
「あるっ! ありますぞ!! 心当たりがありすぎて語ると日が暮れるレベルでありますぞ!!」
「それは普段見えない肩に色気を感じたからに他なりませんわっ!」
「い、言われてみれば確かにっ……!」
「あと、胸元の色気は何も女子だけの特権ではありませんわよ」
「白峰殿、自分のように女子でも胸元に色気が無い人種もいるのですが……」
「気を落としてはいけませんわ黒沢さん! 何も外見だけが色気ではありません! 大事なのは心! 体の中で熱く燃えるハートなのです!!」
「お……おぉっ!」
「そもそも黒沢さんもそんな卑屈になるような大きさではないでしょうに」
「それはそうなのですが、白峰殿や陽菜教諭と比べると流石に見劣りしてしまうのであります」
「私はともかく、陽菜先生は規格外です。数に入れない方が良いでしょう」
「確かに、あれは反則ですな。手を限界まで広げても収まりきらないってどんだけ……」
「話が逸れましたわね。とにかく、男性の胸元にも女性のものとは別ベクトルで色気はあるのです!」
「その別ベクトルとやらをお聞きしても……?」
「女性の胸元の色気は『母性』……そして男性の場合は『逞しさ』!!」
「な、何いいいぃぃぃ!!?」
「黒沢さん、想像してみるのです! 普段はボタンが留められていて拝見することが叶わない殿方のはだけたワイシャツの胸元を……!!」
「ふ……ふぉおおおおお!!! み、ミナギッテキタ!!!」

慣れたくない、馴染みたくない言葉の羅列が修也の耳にねじ込まれていく。

「…………なぁ?」
「安心しろ、アレは非公式だ」
「いくら自由な校風がウリのこの学校でも、アレを公式の部活としては認めないわよ」
「だよな? それを聞いて安心し……」
「……と言いたかったんだけどね……」
「……え?」

白峰さんと黒沢さんの部活が公式でないと聞いて安堵の息を吐く修也であったが、どうやらこの話には続きがあるらしい。

「非公式なのは本当よ? でも、部として承認されない理由は、活動内容が学生として不適切だから、じゃないのよ」
「は?」
「単に顧問となる先生がいないってだけなのよ」
「……凄く適役なのが1人いそうなんだが?」

もちろん陽菜のことである。

「藤寺先生は既に別の部活の顧問をやってるから無理なのよ」
「だから部として認められず、非公式でああやってるわけ」
「えぇ……」

自由過ぎるのも考えすぎじゃないか? ……と非常に楽しそうに話題に花を咲かせている白峰さんと黒沢さんを横目で呆れた目で見る修也であった。

 

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