「…………しかし結構持ち運びに不便だなこれ」
修也は優実に手渡された祝儀袋を手に持ちながら舞原家への道を歩いていた。
金一封の入っていた祝儀袋は無駄に大きくて、修也のショルダーバッグには入りきらなかったのだ。
感謝状は丸めて賞状筒に入れてくれたので目立ちはしないのだがこちらはそうはいかない。
流石に中に入っていた封筒は普通のものだったので入れることはできたのだが。
「……というかこの中身の封筒だけ渡してくれりゃよかったのに」
それだったらここまで持ち運びに苦労することも無かっただろう。
しかし折り曲げてショルダーバッグに押し込むのは何だか気が引けた。
ましてやその場で捨てるなどもってのほかだ。
なのでこうして持ち帰っているという訳だ。
やたら豪華で目立つ祝儀袋なので、すれ違う人々が驚いて何事かという目で見てくる。
「うわっ、何だアレ! やたら豪華な祝儀袋だなぁ」
「結婚式でも見かけないわよあそこまで豪勢なのは」
「バラエティ番組の賞金入れる用に使ってるやつみたい。あそこまで豪華なの生で見るの初めてだわ」
「……あ、でも待って? アレ持ってるの、もしかして土神君じゃない?」
「ホントだ! なるほどそういうことなら納得ね」
「え、いや何で?」
通行人が祝儀袋に奇異の目線を投げつけてくるものの、持っているのが修也だと分かると皆納得していく。
そのことにむしろ修也の方が納得いかず首を傾げる。
「あぁーなるほど、彼の功績を称えて警察から感謝状が贈られてもおかしくないもんなぁ。その流れでもらったのかな、アレ」
「それかこの町を作った資産家のうちの誰かが個人的に謝礼を贈ったのかもよ?」
「あー、それも考えられるなぁ。何にしても良くやってくれたよ。私たちが今こうして平和な日常を送れてるのは彼のおかげね」
「うんうん、全くだ」
「えぇ……」
ついにただの町の住人にまでもてはやされるようになってしまったことに修也はげんなりと項垂れる。
確かに結果的にではあるが修也はこの町を様々な危機から守ってきた。
それにより町の住民たちが平和な日常を送れるようになったのは間違ってはいない。
しかしそれに反して修也自身が望む普通の日常とは遠い生活になってしまっている。
もちろん平和であるに越したことはないのだが、これはとても普通とは言えない。
せめてもの救いは以前のように1人で歩いていても人に囲まれるようなことにはならなくなったことくらいだろうか。
「……前みたいな疎外感は微塵も感じなくなったが、これはこれで居た堪れない……というのは贅沢な悩みなんだろうか、と思うのも何度目なんだか」
すれ違う人たちが1人の例外も出さず羨望の眼差しで見つめてくることに修也は少々戸惑いながら舞原家への道を歩いていくのであった。
守護異能力者の日常新生活記
~第6章 第27話~
「あっ、お帰りなさい修也さん!」
舞原家の玄関を開けるとたまたま通りがかったのであろう蒼芽が出迎えてくれた。
「あぁ、ただいま蒼芽ちゃん」
「早速ですけど感謝状を見せてくださいよぅ……と言いたいところなんですが……」
そう言う蒼芽の視線は祝儀袋に向いている。
「……うん、やっぱ目立つよなコレ」
「はい、物凄く……不破さんの仕業ですか?」
優実は性格上あり得ないと判断したのかそう尋ねてくる蒼芽。
「多分な。あの人ならやりかねん」
「あはは……でもよく許可が出ましたね? 警察ってお堅いイメージがありますしこういうのも事務的に茶封筒だけだと思ってました」
「うん、俺もそう思ってたけど、蓋を開けてみればこんなことに」
「いくら不破さんが……えっと…………その、おおらかな人でも不破さんにも上司になる方がいらっしゃるわけで」
「正直に『フリーダムが過ぎる人』と言って良いと思うぞ蒼芽ちゃん。本人ここにいないし」
「あ、あはは……」
言葉を選んで失礼のないように不破警部に配慮している蒼芽に修也はストレートにぶっこむ。
「まぁ私的には修也さんの功績がきちんと認められた感じがして嬉しいですけど」
「んーまぁ……トップがアレだからなぁ……」
修也は先程会った署長の顔を思い浮かべる。
顔と話し方は十分威厳のある人だったのだが、だからと言って常に杓子定規で堅苦しいわけではない。
優実や不破警部の悪ノリにも普通に乗ってきた辺りからそれが窺えた。
このやたらと豪華な祝儀袋に関してもGOサインを出しても違和感は無い。
(……ただあの嗜好はどうにかならんのか。いや人の好きなものにあれこれ言う気は無いけど)
趣味として持つ分には一向に構わないがせめて前面に押し出さないでほしいと修也は切に願う。
「まぁここまで持って帰ってきたならもう捨ててもバチは当たらんだろ」
「ですね。流石にずっと取っておくものでもないですし」
蒼芽の同意も得られたので修也はずっと手に持っていた祝儀袋をゴミ箱に捨てた。
「さっ、それはそれとして感謝状を見せてくださいよぅ!」
「あぁ、これだよ」
蒼芽にせがまれた修也は賞状筒を手渡す。
「わぁっ、何だか本格的ですね! 卒業証書入れるような筒までついてくるなんて」
「……こっちを気遣えるんなら祝儀袋も気遣ってほしかったが」
「あはは……」
修也の言葉に苦笑いしながら蒼芽は感謝状を取り出し広げる。
「うーん……思ったよりシンプルで普通ですね。味気が無いというか堅苦しいというか……」
「賞状なんてそんなもんだろ。貰ったこと無いから知らんけど」
「せめて絵文字とか顔文字で本文とか周りを可愛く飾ってみるとか」
「それは何かありがたみが減る気がする。友達同士で送るメッセージじゃないんだからさ」
「あはは、ですよねー。はい、ありがとうございました」
修也の返しに軽く笑いながら蒼芽は感謝状を賞状筒に戻して修也に返す。
蒼芽も冗談半分の提案だったのだろう。
「あ、そうだ蒼芽ちゃん。急で悪いんだけどさ」
「はい、良いですよ行きましょう」
「…………まだ何にも言ってないんだけど?」
詳細を聞かずに頷く蒼芽を見てやや呆れる修也。
「大体分かりますよ。明日デートしようとかその辺りの提案でしょう?」
「………………何で分かんの?」
一切迷わず正解を言い当てた蒼芽に修也は首を傾げる。
「これだけ一緒に暮らしてたらそれくらいは分かりますよ」
「いや……いくら何でも無理だと思うんだけど」
提案を先読みした蒼芽に修也は驚きと感心と呆れが混ざった声で返す。
「それで、デートに関しては反対する余地なんて全くありませんけど、急にどうしたんですか? この感謝状を入れる額縁を買いたいとかでしょうか」
「それも無くはないんだけど……いい加減これの使い道を真面目に考えないか?」
そう言って修也は自分の財布から1枚のチケットを取り出す。
「あ、あぁー……それは……」
修也が取り出したチケットを見て表情が引きつる蒼芽。
それは修也が引っ越してきた初日、ひったくり犯から鞄を取り返した際に理事長夫人から1枚ずつもらったモールの商品との交換券だ。
未だに2人とも何と交換すれば良いのか分からず、そのまま放置していたのだ。
金一封を蒼芽の為に使うようにしつこく進言してきた優実たちにあてられたわけではないが、大きな事件が片付いたのでここらでゆっくりと蒼芽とどこか遊びに行くのも良いだろう。
修也はそう考え、この2つの目的を果たす為に蒼芽をデートに誘ったわけだ。
「いつまでも財布の中に爆弾があるような気がしてどうも落ち着かないんだよなぁ……」
「私はできるだけ考えないようにしてました……」
「だから思い切って明日で使ってしまおうと思ってな。それに俺は何と交換しようが今更感が湧いてきてな……」
「あ、あはは……」
修也は今まで学費完全免除やアミューズメントパーク永年フリーパスなどの特典を貰っている。
他にも細々としたものを謝礼として受け取っている。
更に今日警察から感謝状と共に金一封まで受け取った。
金額はまだ確認していないが、ここまでくると何と交換しようが報酬として受け取った総額は大して変わらない気がする。
「もうあのモール5階のジュエリーショップですら怖くないぞ俺は」
「あら、じゃあ修也さんに何かジュエリーを貰ったらどう、蒼芽?」
そこに紅音がリビングから顔だけ出して会話に混ざってきた。
「お母さん!? じ、ジュエリーって……!」
「……いや、意外とアリかもしれないな」
「えっ!?」
紅音の提案に抗議しようとした蒼芽だが、修也が割と前向きなことに驚いて言葉を詰まらせる。
「でもジュエリーって物凄く高いじゃないですか。案内した時も値札を見て若干引きましたし」
「いやそんなウン百万もするようなやつじゃなくてさ、高校生が頑張って小遣い貯めたりバイトすれば買えるレベルのものもあるんじゃね? それくらいなら価格的にもちょうどいいかなって思ってさ」
「で、でもそんなものを私が受け取って良いんですか?」
「いやむしろ蒼芽ちゃんに渡すから良いんだよ」
引っ越してきてからというものの蒼芽には世話になりっぱなしだ。
それくらいの物を日頃の感謝としてプレゼントしても問題ないだろう。
それに見合う、いやそれ以上に価値のあるものを蒼芽からは貰っていると修也は思っている。
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど……うーん…………あっ、だったら私の分のチケットはそれのペアになるものにします。それでお揃いにしましょう! それなら良いですよ」
修也の言葉にしばらく考え込んでいた蒼芽だが、妙案を閃いたと言わんばかりの顔でそんなことを言い出した。
「え? いや別に無理に俺に合わせんでも」
「無理してるわけじゃないですよ。修也さんがそうするならこれが私にとっての最適解なんです」
修也の言葉に笑顔で首を横に振って返す蒼芽。
「それに私は本当にただ立ってただけなのにこんな凄い物貰ってしまいましたし、修也さんの功績に便乗させてもらっちゃった感じがするんですよね。それを私が個人的に欲しいものに使うのも何か違うと言いますか……だから使うなら修也さんの為になるものが良いという結論に私の中でなりまして」
「あぁ……前に下着が良いかもって言ってたけど結局それは却下か」
「そうですね、それが順当です。明らかに私だけの為の物ですから」
「あら、それもある意味修也さんの為になると思うけど」
「え?」
「お母さん!?」
さらりとぶっこんだ紅音の発言に修也は首を傾げ、蒼芽は大声をあげて抗議する。
「え、どゆこと? どうしてそれが俺の為になると……」
「修也さんも自分の気に入った物を蒼芽に着てもらいたいでしょう?」
「いや俺には女性用下着の良し悪しとかこだわりとか分かりませんし、そもそも見えないのに気に入るも何も無いかと」
「蒼芽なら修也さんが頼めば見せてくれると思いますよ?」
「いやいやそういう問題じゃないでしょう。それにいくら何でも流石に嫌でしょうに」
軽やかにとんでもないことを言い出す紅音に突っ込む修也。
以前冗談半分で言ったら普通に乗っかってきた過去があることは伏せておく。
「というか自分の娘に対してどういう認識持ってるんですか」
「あらあらうふふふ」
「いや笑って誤魔化さないでよお母さん!」
「えーっとまぁそれはこれ以上触れない方が良さそうなので……じゃあアレですか? 以前蒼芽ちゃんが言っていた、見えないところのお洒落ってやつ」
「ふふ、それも無くはないですが……いざという時にいつでも備えておくのが嗜みということです」
「……? あぁラブコメ界ではもはやお約束と化してるハプニング的な」
「お母さんもう良いから!! 修也さんも気にしないでくださいね!?」
「お、おぅ……?」
割って入ってきた蒼芽のあまりの剣幕に修也は少し引きながらも頷く。
「……というか紅音さん、それ下手したら犯罪になるらしいですよ? 俺も先日知ったんですが」
「え、そうなんですか?」
修也の言葉に意外そうな反応を見せる蒼芽。
「ああ、スカートをめくるにせよ自分からめくって見せつけるにせよ、相手が不快に感じたらアウトらしい」
「自分からめくって見せつけるってどういう状況ですか……?」
「さぁ? 俺には想像もつかん」
蒼芽の質問に対して修也は首を横に振る。
「とりあえず下着云々の話はもう良い。話を戻して……蒼芽ちゃんがそれで良いってなら良いんだけど、それはそれとして改めてモールの中をじっくり巡ってみるのも良いかもな」
「そうですね、それで良さげなものがあればそっちに切り替えるというのもアリだと思います」
「それじゃあ明日修也さんは一日蒼芽と一緒にモールでデートですね」
「はい、そうなりますね」
紅音の問いかけに修也は頷いて返す。
「あ、いやモールの散策だけだと多分……というか絶対時間が余るな」
「最初に案内した時も3時くらいで終わりましたもんねぇ。いっそモール巡りは午前で終わらせて午後からはアミューズメントパークに遊びに行くというのも良いと思いますけど」
「そう言えば2人では行ったこと無かったし、それも良いなぁ。ちょっと色々考えてみるか」
「はいっ!」
修也の言葉に蒼芽は楽しそうに頷く。
「普通に遊園地スペースで遊び回るのも良いな。まだ行けてないところもあるし」
「修也さんは絶叫系は……平気でしたねそう言えば」
「まああのウォータースライダーくらいなら。あ、そうだまたプールに行くのも良いな。今度は2人で」
「それも楽しそうですね。他にもスケートとかビリヤードやダーツなんかもありますよ?」
「……夏が近いのにスケートできるのか? ああでもプールも年中営業してたな。じゃあスケートリンクが今解放されてても不思議じゃないか」
「はい、そういうことです」
「でも……スケートはともかく、ビリヤードとかダーツは俺には合わなさそうだなぁ」
「そうですか? 修也さんなら様になっててカッコいいと思いますけどねぇ」
「で、それをこっそり写真に収めようって算段か」
「もちろんですよ!」
「いやそんな堂々と言われても」
ああだこうだと色々意見を出し合う修也と蒼芽。
そんな2人の様子を紅音は微笑みながら見守るのであった。
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