守護異能力者の日常新生活記 ~第5章 第26話~

「おはようございます、修也さん」
「おはようございます、紅音さん」

皆でボウリングに行くと約束した週末、修也はいつもと同じ時間に起きていつもと同じ時間に食卓についた。

「おはようございます修也さん、おはようお母さん」

そしてしばらくして蒼芽も食卓に顔を出した。

「あらおはよう蒼芽。今日は土曜日よ? なのに早いのね」
「今日は修也さんや由衣ちゃんとかと一緒にボウリングに行くから。それが楽しみで早くに目が覚めちゃった」
「あらそうなの。今まで何やっても土日は起きるのが遅かったのに……」

蒼芽の言葉に驚きつつも感心したような表情をする紅音。

「それもこれも全部修也さんのおかげかしら」
「いや別に俺何もしてませんけど」
「修也さんが家にいるからだらしない姿を見せたくないという思いが先に立った結果だと思いますよ」
「……そういうもん?」
「あはは……まぁ確かにそんな思いが無いと言えば嘘になりますけど……」

修也の問いに蒼芽は頬を掻きながら答える。

「うんまぁ気持ちは分かる。俺もあまりだらけた姿とか見せたくはないな」
「身内だからこそそんな気を抜いた姿を見せられるという考えもありますけどね」
「あーまぁそういう考えも無くはないでしょうけど……蒼芽ちゃんと紅音さんは厳密に言うと身内じゃないんじゃあ……?」

身内というと家族や親戚を指すものだと修也は考えている。
それだと同じ家で暮らしているとはいえ2人は当てはまらない。

「あら、そうでもないみたいですよ? 身内に明確な定義はなくて、精神的な繋がりを強く感じる人も含めるらしいです」

紅音がスマホを操作しながらそう言う。
恐らく今調べながら言っているのだろう。

「あー……それだと確かに……」

蒼芽と紅音には引っ越してきてから世話になりっぱなしだ。
それに『力』のことを知っても変わらず接してくれている。
そういう意味でなら2人を身内と言っても良いように思える。

(……そっか、修也さんはそう考えてくれてるんだ……)

一方蒼芽は修也の横でそう思いながら心を弾ませる。

(……ふふ、蒼芽ったら嬉しそうねぇ)

そんな蒼芽を見ながら微笑む紅音。

「それに修也さんは常に規則正しい生活をしているじゃないですか。だったら大丈夫ですよ」
「だと良いんですけど」
「蒼芽みたいにお風呂上がりに下着でうろついたりしないでしょう?」
「だから元からしてないってばそんなこと!」
「……大分前のネタを引っ張って来ましたねぇ」

相変わらずの紅音のぶっ飛び発言に蒼芽は声を荒らげ、修也は落ち着いた口調で突っ込む。

「それに修也さんもそろそろ蒼芽が青以外の下着を付けてるところを見たいでしょう?」
「いやそろそろも何もまず下着姿を見たこと無いんですが」

水着はあるけど、と付け足しながら呟く修也。

「え……蒼芽、まだ見せてないの?」
「いやそんな意外そうな顔をされても」
「そもそも見せることが当たり前のように言わないでよ!」

本気で予想外という顔をする紅音に修也は緩やかに、蒼芽は再び声を荒げて突っ込みを入れるのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第5章 第26話~

 

「全くもう……お母さんは相変わらずなんだから……」

朝食後それぞれ準備を終えて部屋から出て来ても蒼芽はまだブツブツと文句を言っていた。

「まぁいつも通りってのはそう悪いことでもないだろ」
「だからって毎回あんな弄られ方したらたまったものじゃありませんよ」

修也が紅音のフォローをしつつ宥めても蒼芽の不機嫌さは収まらない。

「てか下着を見られるのが嫌なのはまぁ分かるけど、色を公言するのは蒼芽ちゃん的には何の問題も無いのか」
「修也さん、それは論点がちょっと違います」

引っ越し初日の時と言い先日由衣たちが修也の部屋に遊びに来た時と言い、蒼芽は自分の下着の色を言うことに対し特に抵抗を感じていないように見える。
修也はそこが気になって聞いてみたのだが、蒼芽から出てきたのは不思議な回答だった。

「え、違うの?」
「はい。私的には自発的かそうでないかが大事なんです。だから人に言われるのは嫌ですけど自分から言う分には問題ありません」
「あー…………自分で言うならタイミングとかを計れるから……とか?」
「あ、そうそうそんな感じです。もちろん相手にもよりますけどね。誰でも良いってわけじゃありません」

修也の言葉に頷いて返す蒼芽。

「それに先日の七瀬さんみたいに自分からさらっと言っておけば信憑性がでないので適当なこと言ってると思わせることができるんですよ」
「……確かにさらっと軽々しくそんなこと言われてもにわかには信じがたいよな」
「ですです」
「…………で、実際の所はどうなの? 今日も青なの?」

目を細めながら修也はそう冗談めかして蒼芽に尋ねる。

「…………知りたいですか? 修也さんがどうしてもって言うなら……」
「いやいや冗談だからその手を止めなさい」

そんな冗談に乗ってきてスカートの裾をつまむ蒼芽に対して修也は手を振って止める。

「立場を入れ替えて考えてみなよ。俺の下着姿を見たいかって言われて見たいと思うか?」
「えぇ思いますね」
「思うんかい」

迷わず即答する蒼芽に突っ込む修也。

「あ、シンプルに興味本位ですよ。当然ですけど私は女性用下着しかちゃんと見たこと無いので、男性用ってどんなのがあるんだろうと思いまして」
「だったらモールのマネキンか通販のホームページでも見ときなさい」
「どうせなら顔も名前も知らない人よりも知ってる人の方が良いじゃないですかー」
「えぇー……と言うか何で俺の方が迫られてんの」

一般的にこういうのは立場が逆なのではないかと修也は思い首を捻る。

「女の子だけが下着姿や半裸姿を見られてきゃーきゃー言う時代は終わったんですよ。これからは男の人も着替え現場を見られる場面も出てくる時代です! 男女平等ですよ!」
「……もうちょっと他に男女平等の使い所ないのか? ……にしても……ははっ」
「? どうしたんですか修也さん」

急に笑い出した修也を見て不思議そうに首を傾げる蒼芽。

「いやさ、俺がここに来た初日にこういうちょっと踏み込んだ話もオープンにできる関係を目指したいって蒼芽ちゃんが言ってたのを思い出して。できてるなぁ……ってな」
「あっ……! そう言えばそんなこと言いました。確かにそうですね!」

自分の言ったことを思い出し、蒼芽がぱっと笑顔になる。

「思えば結構デートとかもしてるし」
「パジャマパーティや合コンもやりましたねぇ」
「アレを合コンとして良いのかは微妙だけどな」

由衣を含めた3人で修也の部屋でお菓子を食べただけなのを合コンにカテゴライズして良いのかは疑問が残る。
ただ楽しい思い出であることには間違いない。
この町に引っ越してきてからというものの、こういう楽しい思い出に溢れているのを再認識する修也。
一部変なのも混ざっているが、元は十分取れているように思える。

「じゃあ次は入籍ですね」
「それは段階がすっ飛びすぎです」

リビングから顔だけひょっこり出してきて会話に混ざってきた紅音の言葉に即切り返す修也。

「そうですか? 別に早くて困るものでもないと思いますけど」
「何事も順序ってもんがあるんです。と言うか法的に無理でしょ。俺まだ16歳ですし蒼芽ちゃんも15歳ですよ?」
「修也さん、大事なのは心意気と勢いとノリです。法律なんて二の次ですよ?」
「紅音さん、ここは法治国家です。法律は大事にしてください」

穏やかな顔でとんでもないことを言う紅音に修也は半眼で呆れながら呟く。

「………………」

そんな修也を無言で見つめる蒼芽。

(………………ふふっ)

しかし内心ではかなり喜んでいた。
表情にこそ出さないように抑えているが、今蒼芽の心の中は相当浮かれている。
今の紅音の入籍発言に対して修也は突っ込みこそしたものの否定はしていない。
『無理』とは言ったが『嫌』とは言っていないのだ。
つまり修也はそういったことに対して後ろ向きではないと言える。
先程もあんな冗談めかしたノリで笑い合うことができたのだから関係は良好と見て良い。

(やっぱり好きか嫌いかで言うなら好かれてる方が良いよね、うん!)

修也が自分に対して悪感情を持ち合わせていないと見て取れたことで蒼芽は上機嫌になる。

(……あれ、珍しいな? 蒼芽ちゃんが紅音さんの発言に突っ込みを入れないなんて)

一方で修也はいつものパターンと違うことに首を傾げる。
大体こういう時は蒼芽が即行で突っ込みを入れるのがいつもの展開だ。
朝食の時もそのいつもと同じパターンだった。
なのに今は何も言わずにこにこと笑っているだけだ。
さっきまでぶつぶつと不機嫌そうに紅音に対し文句を言っていたのに、その不機嫌さもどこかへ吹っ飛んでいるようだ。

(……これは、アレか。ついに蒼芽ちゃんもスルースキルを身に付けたか)

色々思案した結果、修也はその結論に行きつく。

(そりゃそうだよな、蒼芽ちゃんも成長してるんだ。いつまでも同じパターンに嵌ったりなんかしないか)

一人納得して頷く修也。

「それじゃあ行ってきます。昼は多分外で食べてくることになると思います」
「分かりました。夜はどうですか? 何だったら夜も外で食べてきても良いですよ」
「そうなったら連絡します」
「はい。で、そのまま朝帰りに」
「ならないから!!」

紅音の言葉にかぶせ気味で遮る蒼芽。

(ありゃ、スルースキル身に付けられたと思ったけどそうでもなかったか。まあ一朝一夕では身に付かんわな)

今度はしっかり突っ込みを入れる蒼芽に対して修也はそう結論付ける。

「ほら行きますよ修也さん!」

そう言って蒼芽は修也の手を取り、玄関の扉を開けてずんずんと外へ出ていくのであった。

 

「…………あっ土神くーん! こっちこっちー!」

舞原家を出てすぐ由衣と合流した修也と蒼芽は待ち合わせ場所である駅前の時計台にまでやってきた。
そこには既に華穂と美穂、そして戒と瑞音がやってきていた。

「あっ! 華穂おねーさんだー! おっはよー!!」
「うん、由衣ちゃんと蒼芽ちゃんもおはよう」
「おはようございます、姫本先輩」
「美穂おねーさんと瑞音おねーさんと霧生おにーさんもおはよー!」
「おはようございます由衣さん。朝からお元気ですね」
「おはよう平下。気合は十分みたいだな」
「おはよう平下さん。元気な挨拶は聞いてて気持ちいいな」

由衣の挨拶に対してそれぞれが笑いながら挨拶を返す。

「早いなぁ。まだ約束の時間の30分くらい前だぞ?」

修也は時計を見ながら言う。
時計の長針はまだ本来の約束の時刻のほぼ反対側を指していた。

「いやー楽しみでいてもたってもいられなくなってねぇ。つい気が急いて家を飛び出しちゃったよ」
「こうして皆さんで遊びに行くというのは私も姉さんも滅多に無いことですので」

確かに華穂と美穂の立場を考えたらそれも仕方のない話なのだろう。

「あー……猪瀬の件が片付いてもやっぱ無理なのか」
「まぁね。猪瀬さんが一番の大きな原因であったことは間違いないけど、問題は猪瀬さんだけじゃないからね。仕方ないよ」
「不埒なことを考える人は少なからずいるということです。残念ですけれど……」

そう言ってやや表情に陰を落とす華穂と美穂。

「でも! 今日は問題無いんだよ。何たって土神くんがいるからね!!」
「ええ、土神さんがいらっしゃるなら安心できる、と父も母も快く送り出してくれました」

だがそれも一瞬のことで、すぐに笑顔に戻る。

「おおぅ、責任重大だなぁ……ところで相川も早いんだな?」
「そうか? 何かトラブルがあった時に備えて時間前に行動するのは基本だろう?」

そんな華穂と美穂に対して瑞音は単に自分の意識の問題で早く来たようだ。

「そうそう、時間前行動は基本中の基本だぜ」
「霧生もか。体育会系って意図せずそういう考えがしみこむもんなのかね」
「確かに時間に厳しいイメージはありますね。何となくですけど」
「だなぁ。相川はともかく霧生は単に時計を読み間違えて早く着きすぎただけだと思ったんだが、俺の思い違いか」
「……………………ソンナコトネェヨ?」

修也の言葉にそっぽを向いて片言で答える戒。
心なしか冷や汗をかいているようにも見える。

(…………読み間違えたのか……)

戒の様子を見て察する修也。
しかし美穂の手前あまり戒を貶すような発言をするのも気が引ける。

「まぁ……要は約束の時間に間に合ってりゃ良いんだ」
「そうだな。別に早く来ることで誰かに迷惑かける訳でもないし」
「そ、そうそう! そうだよなー!」

修也と瑞音のフォローにこれ幸いと乗っかってくる戒。
戒の性格を知っている瑞音も恐らく察してはいるだろうが深入りする様子は無い。

「おぉー! そこにいるのはゆーちゃんじゃないかー!」
「あー、ちーちゃんだー!」

そこにもう1人の体育会系である千沙もやってきた。
由衣の姿を見つけて一直線に駆け寄ってくる。

「会いたかったぜゆーちゃーん!」
「私もだよーちーちゃーん!」

早速楽しそうにはしゃぐ2人。

「来て早々テンション高いなぁ……」
「ん? おぉー師匠! 師匠も来るのかー!」

この場に戒もいることに気付いた千沙が戒にも駆け寄る。

「……ふふ、随分と可愛らしいお弟子さんですね、戒さん」

その様子を見て美穂は柔らかく微笑む。

「ぬ、ぬおおぉぉーー!? 何だこの高貴なオーラを纏わせているお方はー! 師匠の知り合いか?」
「あ、あぁまぁな……」
「初めまして、私は戒さんとお付き合いをさせていただいている姫本美穂と申します。どうぞお見知りおきを」

千沙の問いかけに戒は気圧されながらも頷き、美穂は丁寧にお辞儀をしながら自己紹介をする。

「そっかー、あたしは新塚千沙! 師匠の一番弟子だぜー!」
「そうなのですね。よろしくお願いいたします、千沙さん」
「おうよ! にしてもやっぱり師匠はスゲーぜ! 付き合う女の人まで豪快とはなー! 流石だぜー!」
「そ、そうか……?」

豪快に笑い飛ばす千沙のテンションに振り回され放心気味の戒。

「……いや、新塚も新塚で凄いと思う。美穂さん相手にあのテンションを維持できるんだから」

その様子を見て誰に言うでもなく呟く修也。
修也も今でこそ普通に話しているが、初対面の時は美穂のお嬢様オーラに当てられて気後れしていた。
しかし千沙にはその気配が一切無い。

「あー……千沙は何事にも物怖じしないと言えば聞こえは良いが、それは言い換えれば空気を読まないやつってことだからな……」
「……長所にも欠点にもなり得るなそれ……」

瑞音の言葉を聞きながら呆れと感心が混ざった目線を千沙に送る修也であった。

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