守護異能力者の日常新生活記 ~第2章 第18話~

「…………あの事件が、記事に……」

修也は紅音が送ってきたURLで表示されたブログをスクロールさせる。
このブログは、見た感じだとこの辺の地域のニュースをまとめた記事が多い。
事件だけでなく、個人経営の喫茶店などのレビューもある。
たまに執筆者の個人的なコラムも載っており、そこそこ人気のあるブログのようだ。

「……なんか、この辺のことを取り扱ってる記事が多いですね?」

修也の横で見ていた蒼芽も同じことを思ったらしい。そう呟く。

「みたいだな……この町の住人なのかな? 蒼芽ちゃんにもURL送るから自分のスマホで見てみるか?」
「いえ、お手数でしょうからこのままで良いです」
「いや、自分のペースで見た方が……」
「大丈夫です。私のことはお気になさらずどうぞ進めてください」
「そう、か……?」

修也は蒼芽にもURLを送ろうとしたが、蒼芽が固辞するのでそのまま読み進める。
蒼芽も修也の横で画面を覗き込む。
なので自然と腕が触れ合い、再び蒼芽が修也に寄りかかるような姿勢になる。

(うーん……蒼芽ちゃんが触れてる部分がじんわり温かいし柔らかいし、心地良い……)

修也は画面をスクロールさせながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

(……やっぱり修也さんに触れてるとなんだか落ち着くなぁ……ホントにこのまま寝れそう……)

蒼芽は蒼芽でそんなことを考えながら画面のスクロールを目で追う。

(……それにしても、修也さんスクロールさせるの早いなぁ。それで内容分かるのかな?)

修也は結構早い速度で画面をスクロールさせている。
それで内容を把握できているのか蒼芽は疑問だったのだが……

「あ、これっぽいな」

しばらく画面をスクロールさせた後、そう言って修也はスクロールを止めた。

「……え? 今のスクロール速度でよく分かりましたね?」

蒼芽が驚いた様子で修也に問う。

「前にも言っただろ? 俺、目は良いからな」
「こんな時にも役に立つんですね……」

蒼芽が感心したように呟いて、視線をスマホの画面に戻す。
修也がスクロールを止めた所の記事のタイトルは、『武器を持って学校に侵入して人質取ったのに、30分もしないうちに制圧されてて草www』だった。

「……なんだこの記事のタイトルは」

とてもニュースブログとは思えないタイトルに呆れ顔の修也。

「え、えーと……個人のブログですし……その辺は自由でも問題ないんでしょうね……?」

一応フォローする蒼芽。

「そりゃな。企業ブログでこんなことやってたら……いや、あえてそういう方向性で売り出すのもアリ……なのか?」
「何がウケるか分からない時代ですからね……と言うか、修也さんはこのタイトルを見てこれだと判断したのではないのですか?」
「『学校に侵入』って単語だけで判断したからな……」
「あ、なるほど……」

ツッコミどころの多すぎる記事タイトルはとりあえず置いといて、修也は記事の中身を見ることにした。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第2章 第18話~

 

『相手丸腰なのにマジでザコwwwwwwよっわwwwwwwwww』

「……記事の中身までタイトルと同じノリで進むのかよ」
「あ、あはは……」

記事本文までタイトルと同じ文体で書き進められていることに修也は表情を引きつらせ、蒼芽は苦笑いする。

「で、でも、若い人たちはこういう文体の方がとっつきやすいのかもしれませんよ?」
「……まぁ確かに、ニュースって堅苦しい文面で読む気失せるって言うのは分かるかもしれないが……」

修也は呆れ半分でさらに画面をスクロールさせる。

『しかもコイツ、前日にコンビニ強盗・万引き・ひったくりやってんのに全部撃退されてやがんのwww』

「……え?」

しかしこの一文を見た瞬間、修也の目が真面目なものに変わった。

「どうしたんですか修也さん?」

修也の目つきが変わった事を不思議に思った蒼芽が尋ねる。

「……なんでこの前日の事件にするほどでもない、未遂に終わった出来事まで把握してんのこの人?」
「え?」
「コンビニ強盗や万引き未遂はともかく、ひったくりは俺が事件を止めた当事者だ。その俺が通報も何もしてないんだからこの事を知っている人はかなり限定される」
「もう1人の当事者である理事長夫人が通報されたのでは?」
「無事鞄が戻ってきたのに通報する意味あるか?」
「んー……無くはないでしょうが確かにちょっと不自然かもですね……じゃあ他で可能性があるとしたら、不破さんと七瀬さんくらいですかね?」
「まあそれくらいか。でも……」

修也は改めてスマホの画面に視線を落とす。

『ねぇねぇ犯人、どんな気持ち? 何ひとつ達成できず撃退されて遂には逮捕されちゃってどんな気持ち?』

「……こんな文面をあの2人が書くか?」
「え、えーっと…………百歩譲って不破さんならもしかして……?」
「まあどちらかをあえて選ぶなら不破さんだよなぁ。でも世代的な意味で無理があると思う。かと言って七瀬さんは性格的な意味で無理がある気がする」
「ですよねぇ……」

修也の推測に同調して頷く蒼芽。
不破警部は割と悪乗りする側面もあったので、もしかしたら……と考えられなくもない。
しかし修也には、不破警部がこんなネット掲示板で使うような文面を書く姿がどうしても想像できない。
さらに言うなら、世代的にブログとも無縁そうである。
まぁこれは修也の勝手なイメージだが。
かと言って優実がこのブログの執筆者と決めつけるのも無理がある。
優実はかなり真面目な性格だった。不真面目な不破警部を窘める場面も何度かあったから間違いないだろう。
そんな優実が、いくら犯罪者相手であろうとこんな煽り文章を書くだろうか?

「それにこれ、執筆者の名前が『SERI』ってなってる。2人の名前と全く関連性が無い」
「でも、ハンドルネームってそう言うものじゃないですか?」
「あー、それもそうか……うーん、分からん……まぁ別に俺たちに話すくらいだから、そこまで情報の規制がされているわけじゃないのかもな」
「そうですね。不破さんや七瀬さんの同僚とかから伝わってる可能性もありますね」
「それこそ調べりゃこれくらいの情報は出てくるのかもな……」
「普通に目撃者がいた可能性もありますね。少なくともひったくりに関しては、モール入口付近に結構人いましたよ?」
「あっ……言われてみればそうか」

考えてみると次々と可能性が浮かんできた。
こうなると、別にこのブログの執筆者が事件を知っていても特におかしくはないように思えてきた。

「……悪いな蒼芽ちゃん、無駄な時間を取らせた。俺の考えすぎだったみたいだ」

思考を打ち切り、蒼芽に軽く謝る修也。

「いえいえ、真面目な顔になった時の修也さん、カッコ良かったですよ? それが見れただけでも十分意味はあります」
「え……そ、そう?」
「はい」

面と向かってそんなことを言われ、修也はどう反応していいか分からず視線を泳がせる。

「なのでもう1回! もう1回私を見ながらあの顔をしてください!」
「やだよ! そう言われてからやるのは非常に気恥ずかしい!!」
「良いじゃないですか、減るものじゃないんですから」
「俺の精神力が減る!」
「じゃあ横顔! 横顔で良いですから!!」
「横顔でも正面でも大差ねぇよ!」
「じゃあ正面で! 出来れば15度程左向いてください!」
「注文細かいな!? てかやらないよ!」

やたら食い下がる蒼芽。
しかし口調が軽いので、恐らくは冗談半分なのだろう。
なので修也はあえてそれに乗り、軽い口調で応戦する。

「ところで蒼芽ちゃん、なんで自分のスマホ構えてんのかな?」
「それはもちろん、真面目な顔をした修也さんを写真に収めて待ち受けにする為です」
「やめて! そんな大層なものじゃない!」
「そんなこと無いと思いますけどねぇ……」
「はいはい、そういうのは良いから」
「むぅー、本当なのに……」

軽くあしらう修也に対して、頬を膨らませて不満そうにむくれる蒼芽。

「じゃあどうしても写真欲しいってなら、代わりに俺も蒼芽ちゃんの写真を撮らせて」
「え? そんな事で良いならいくらでも……」
「ゴメンやっぱ無しで」
「えぇー」
「ふふふ……ホント仲良しねぇ」

そんな2人のやり取りを紅音は少し離れた所で微笑みながら見守るのであった。

 

「うーん……」

あの後風呂が沸いたので順番に入り、自分の部屋に戻ってきた修也は、ベッドの上で寝転びながら唸っていた。

「修也さーん、失礼します」

その時、ノックと共に蒼芽が部屋に入ってきた。

「あれ? どうした蒼芽ちゃん」
「いえ、お風呂の後にこうやって修也さんの部屋であれこれお話するのが日課みたいになってまして……」
「あー、言われてみれば確かに……」

確かに蒼芽は、ほぼ毎日入浴後修也の部屋にやってきて少し話をしてから自分の部屋に帰っていく。

「何か考え事ですか? お邪魔でしたら帰りますけど」
「いや、そんなことは無いぞ?」

そう言って修也は体を起こす。

「それは良かったです。で、何を考えていたんですか?」
「いや、さっきの記事なんだけどさ……」

修也はスマホを取り出し、さっきの記事を開く。

「はじめこそあんな煽り文章だったんだけど、途中から真面目な考察に変わってたんだよ」
「え、そうなんですか?」

修也の言葉を聞き、蒼芽はまた修也の横に座り、画面を覗き込む。

『……まぁおふざけはこれくらいにして真面目に考察するよ。この犯人、警察の取り調べに対して、生活するお金に困ってやったって言ってるらしいんだ』

修也の言う通り、記事の序盤にあったふざけた文体は無くなり、真面目な文章に切り替わっていた。

「……まぁ、やったのがコンビニ強盗と万引きとひったくりだからなぁ……」

『でもどれもうまくいかず、段々イライラと不満が募っていって、近所の学校に押し入ったんだって』

「……あの、思考と行動が一致してない気がするんですけど……イライラしたからって近所の学校に侵入しますか?」
「人間、追い詰められたら思いもよらない行動をとるものなんだよ、きっと」

『今度は拳銃もあるし、うまくいくと思ったけどやっぱり失敗。コテンパンにのされて心が折れたみたいだね』

「コテンパンて……俺からは一撃しか与えてないハズなんだが」
「と言うよりも、心の拠り所だった拳銃が効かなかったことで心が折れたのでは?」
「あー……」

確かに起死回生の一手で繰り出した拳銃の銃弾を避けられたり素手で叩き落とされたりしたら、誰だって心が折れるだろう。

『でもねぇ、自分はちょっとここで疑問に思う点があるんだよね。生活に困るくらいの資金難であるこの犯人が、どうやって拳銃なんて調達したんだろうって』

「あ……この人、修也さんと同じ疑問を持ってますね」

ブログの一文を読んだ蒼芽が呟く。

『この国では拳銃なんてそう簡単には手に入らない。手に入れるとしたら裏ルートで極秘に入手するしかないんじゃない? 知らんけど』

「おいそこで投げんな! ちゃんと調べろよ裏を取れよ!」
「ま、まぁ……一個人ができることには限りがありますから……」

急に適当になってきた内容に憤慨する修也を窘める蒼芽。

『もしそうだとしても、子供の小遣いで買えるようなものじゃないハズ。生活に困って悪事に手を染めたって言ってるのに、その辺どうしたんだろうね?』

「そう言えば不破さんが調べてみるって言ってましたけど、どうなったんでしょうね?」
「まぁ……これは流石に分かっても俺たちみたいな一般市民には教えてくれないんじゃないか?」
「でしょうね……」

『自分の予想では、この犯人は闇の組織と繋がりがあるんだよ!』

「……は?」
「……え?」

唐突に始まった謎理論に気の抜けた声を出す修也と蒼芽。

『その組織は今の社会に不満を持つ者に近づいて言葉巧みに取り入って手駒にして全国各地で犯罪を誘発させて情勢を不安定にして現内閣を打倒後に自分達が擁立した人物を潜り込ませて内部から日本転覆を』

「もう良いや」
「あ」

そう言って修也はホームボタンを押してブラウザを閉じた。

「なんかバカバカしくなってきた」
「あ、あはは……」

呆れ顔でスマホをしまう修也に苦笑いする蒼芽。

「……でも、修也さんの活躍が全然書かれてませんでしたね……」

そう言って不満そうに頬を膨らませる蒼芽。

「いや、それで良いんだよ。俺は目立ちたくない。静かな学生生活を送りたいんだ」
「……既に大分雲行きが怪しくありませんか?」
「紅音さんにも言われたよ……」

そう言って修也は溜め息を吐く。

「せめてもの救いは目立つベクトルがマイナス方向じゃないって事位かな」
「むしろすごい勢いでプラスに振り切れてますよね」
「うん、もう意味が分からん。どうしてこうなったかなぁ……?」

そう言って天井を見上げる修也。
そんな修也に対して蒼芽はスマホを構える。

「……蒼芽ちゃん、何やってるのかな?」
「いえ、物憂げに天井を見上げる修也さんも絵になるなぁ、と思いまして」
「だからってすぐ撮ろうとするんじゃありません」
「えぇー……1枚位良いじゃないですかー」
「この前プリクラで撮ったのがあるだろ?」
「それはそれ、これはこれ、ですよ」
「どういうこっちゃ」
「あ、それじゃあこうしましょう」

そう言って蒼芽は自分の胸の前でパチン、と手を叩く。

「私と修也さんのツーショットで写真を撮るんです。そしてそれをお互い1枚ずつスマホに保存しておきましょう」
「え、何の妥協案なのそれ」
「私は修也さんの写真が持てる。修也さんも私の写真が持てる。これでwin-winですよ!」
「ああもう分かったよ。撮れば良いんだろ? でも今はダメだ。パジャマ姿だからな」
「あ……」

確かに、パジャマ姿でのツーショット写真を誰かに見られようものなら大騒ぎになりかねない。
蒼芽としてもそれは流石に望むものではない。

「……分かりました。でも約束しましたからね? 必ず一緒に写真撮りますからね?」
「……分かったよ」

こうして蒼芽はやや強引ではあるが、修也とツーショット写真を撮る約束を取り付けたのであった。

 

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