一方その頃、修也はというと……
「よく来たね土神君! 逃げずにやってきたその勇気だけは誉めてやろう!!」
「何でRPGのラスボス風なんですか」
職員室に入り、さっそく陽菜に絡まれていた。
「私は待っていた! 君のような若者がやってくるのを」
「あ、まだ続けるんですか?」
「どうだい? 私の仲間になるならクラスの半分を君にあげようじゃないか」
「規模ちっさ!」
「流石に学校全体の半分とかは私の権限じゃ無理だからねぇ」
「で、ここで『はい』って言ったらクラスの闇の部分を与えられて目が覚める所からやり直しってオチですか」
「あ、最近はそうなの? 私がやったのは問答無用のゲームオーバーだったよ? そこで与えられた復活の呪文でゼロからやり直してクリアまでやったもんだよ」
「ガチ勢過ぎる……先生本当に24歳ですか? 明らかに世代じゃないでしょ」
「24歳がレトロゲーム好きで悪いか!?」
「そうは言ってないでしょ。それはまぁさておき、昔のゲームって難易度調整おかしいところがあったりしますよね……」
「でもそこが面白いんだよ! 明らかにバグってんだろって言う難易度とか逆にバグ利用した裏技とか!! 後、昔のゲームは規制が緩いのも良いよね! 際どい画像とか見放題だよ!」
「先生本当に女性ですか?」
「女がエロ画像好きで悪いか!?」
「誰だよこの人に教員免許渡したの……」
授業が始まる前から疲労感が肩に乗っていくのを感じる修也であった。
「でもねぇ、最近のグラフィックが綺麗なゲームも捨て難いんだよ?」
「もうさっさと教室行きましょうよ。ホームルーム始まる時間ですよ?」
「あ、もうそんな時間? じゃあ続きは教室に行きながら話そうか」
「自重してください。生徒と先生でする話じゃないでしょうに」
「先生と生徒がゲームの話で盛り上がったらいけないなんて誰が決めたっ!?」
「はぁ……分かりましたよ、手短にお願いしますね」
そう言って修也は職員室を出た。陽菜も続く。
「でね、最近のゲームってキャラデザインも綺麗だよね。昔はドット絵しか無かったのに。あれはあれで可愛いけどね!」
「……まあ、ドット絵にはドット絵の良さがあるのは分かります」
「だよねだよね! 土神君なら分かってくれると思ってたよっ!」
修也の横を歩く陽菜が嬉しそうに笑う。
「でもね、最近は画質が綺麗だし色んな衣装あるし、それを色んな角度や倍率で見れるから……」
「なんだろう、嫌な予感しかしない」
「とりあえず女の子キャラの衣装を全部ひん剥いてカメラをグリグリ回して全身くまなく凝視するのは基本だよねっ! ちなみにひん剥けない場合はスカートの中を覗く!」
「やっぱり。そんな基本知りませんよ」
「えー? 男の子なら誰でもやると思うんだけどなー」
「先生アナタ女性でしょうが」
「当然だよっ! 土神君にはこの二つのデカい球体が目に入らぬかっ!!」
そう言って思い切り胸を張る陽菜。
「何度目ですかこのやり取り……」
ため息を吐きながら廊下を歩く修也であった。
守護異能力者の日常新生活記
~第2章 第2話~
そうこうしているうちに、『2-C』と書かれたネームプレートが付いている扉の前に着いた。
「じゃあ土神君はちょっとここで待っててね。私が呼んだら入ってきて」
そう言って陽菜は教室の中に入っていった。
「おはよー皆! 良い週末は過ごせたかな?」
扉越しに陽菜の声が聞こえる。
「さて、今日は皆に大事なお知らせだよ! 心して聞くが良い!」
「……何キャラなんだろうあの人は」
「もう気付いてるかもしれないけど、机がひとつ増えてるよね?」
「転校生ですかー?」
「こらそこー! 言うならもっと面白い答えを言えー!! 『先生、降霊術でも身につけてクラスの人数をかさ増しするつもりですか?』位言えんのかー!」
「先生流石にそれは無茶振りです!」
「……なんちゅうクラスだ」
上手くやって行けるのか早々に不安になる修也。色んな意味で。
「……ったく、まだまだ修行が足りん! そんな事ではこの動乱の社会で生きていくことはできんぞー!」
「……」
「……っていい加減入ってこーい!!」
「やりたい放題じゃないですか先生。呼んだら入ってこいって言うから呼ばれるまで待ってたってのに」
朝からかっ飛ばしてる陽菜に呆れながら修也は教室に入る。
「もう皆想像はついてるだろうけど、彼は今日から一緒に勉強することになった転校生だよっ! じゃあ自己紹介!!」
「はい、えーっと……」
「藤寺陽菜24歳、彼氏居ない歴=年齢、3サイズは上から……」
「なんで先生が自己紹介始めるんですか。しかもそれ先週も聞きました」
「趣味はブルマ鑑賞、将来の夢は七色のブルマを集めて曜日毎に履き替えること!」
「七色もあるの!?」
「今の所、紺・赤・緑・黄・黒・青までは揃えたんだけどねぇ」
「あるんだ、そんなに……」
「でも最後の白がレアリティ高くて中々手に入らないんだよ」
「無いでしょ白なんてっ!?」
「甘いよ土神君! サッカリンよりも、煮詰めたプリンのカラメル部分よりも甘いよっ!!」
「カラメルはどっちかっつーと苦いでしょ」
「ある事の証明は簡単だけど無い事の証明って難しいんだよっ! 『悪魔の証明』って聞いたこと無いかい?」
「ありますけど……そういう哲学的な話をそんな事に持ち出さないでくださいよ!」
「それに土神君が白のブルマが無いと断定するのは、ビジュアル面の問題だよね?」
「……まぁ、確かにそれはありますけど」
白のブルマとか、普通にパンツにしか見えない。
だからこそ修也はありえないと断定したのだが……
「ふっ……土神君、君も『女の子のパンツは皆白』とかいう幻想を抱いちゃってるクチかい?」
「えーっと……」
実を言うとそんなことは無い。
紅音情報で蒼芽が青系の下着を愛用していることは知っているし、何より先日半ば無理矢理蒼芽に女性用下着売場に連れていかれた事で、白以外も存在すると理解している。
しかしそれを言うと蒼芽のプライバシーを傷付けるどころの騒ぎでは無い。
それに修也自身にも『男なのに女性用下着に詳しい奴』という烙印を押されかねない。
なので曖昧に言葉を濁す事にする。
「うんうん、まーキミ位の年頃の男の子だったら仕方ないよ」
それを陽菜は、図星をつかれて返答に困ってると解釈したようだ。
「しかしそんなものはまやかしでしかないっ! このクラスにだって白以外のパンツを履いている子はきっといる! 今日のパンツが白以外って子、手を挙げてー!」
「やめろっ! 公開セクハラは!!」
「……と言うように、私のコント劇場に普通についてこれる逸材だよっ!」
教室内に『おぉ〜〜…………』とどよめきが起きる。
(このクラスは一体何を目指してるんだ……?)
「それじゃあ紹介も済んだところで……」
「待って待って、俺まだ一言も自己紹介してませんよ」
「今の一連のやり取りで土神君がどんな子か大体分かったでしょ」
「いや無理でしょ!」
「それにそう言う交流は個人でやる方が良いんだよ。だから今は名前と私のノリについてこれるかが分かれば十分!」
「名前はともかくそっちはいりますかね?」
「いるよ。それで変に取り繕ったりしない、素の自分が出るからね。その方が肩肘張らない気楽な学校生活を送れると思うんだよ」
確かに下手な自己紹介よりは性格が反映されやすいだろう。
変に外面を良く見せようとして逆に自分の首を絞めることになるという話は珍しくない。
ここにも陽菜の『隠すから後ろめたい。だからあえてオープンにする』という考えが出てきているのだろう。
「だから個人的な交流はこの後好きにやるがいいさ! はい、じゃあ今日のホームルームはここまで!! 一時限目の先生が来るまでは何をやろうが君達の自由だっ!」
そう言って陽菜は手をパチンと叩く。
「あ、土神君の席はあそこね」
そう言って陽菜は窓際の一番後ろの空いている席を指さす。
「……転校は初めてだけど、これ絶対普通の転校生の挨拶じゃねぇよなぁ……」
あまりにも型破りな陽菜の転校生紹介にため息を吐きながら、修也は自分の席と言われた椅子に座る。
「藤寺先生はいつもあんな感じだぞ。早めに慣れることをオススメしとく」
そんな修也の呟きに、前の席の男子生徒が返事をしてきた。
見た感じ中肉中背で体格も普通。
赤茶色の髪を無造作に散らした感じの髪形をした、よく言えば普通、悪く言えば特徴の無い男だ。
「うん、転校手続きの時もあんな感じだったしな……」
「でも悪い人じゃないのよね。変わった人だけど」
今度は修也の斜め前に座っている女子生徒が答えてきた。
明るい茶色の髪を肩の上まで伸ばしており、少々気の強そうな瞳をしている。
こちらも背丈・スタイル等はごく平均的な感じだ。
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私は米崎爽香(よねざき さやか)。よろしくね、土神君」
「俺は仁敷彰彦(にしき あきひこ)。爽香とは幼馴染みたいなもんだ。よろしく」
「改めて、土神修也だ。よろしく。幼馴染で高校も同じとは仲良いんだなぁ」
「まぁ十年以上の付き合いだからな。一緒にいるのが当たり前って感じだよ」
「私もそうね。多分これからもずっと一緒にいることになる気がするわ」
「おぉ……」
彰彦と爽香はもう長年の付き合いということで、お互いの事を知り尽くしているという印象を受ける修也。
もう恋人関係とかそういう段階を越えている絆のようなものを感じた。
「えっと、という事は二人は付き合って……」
「ああ、そういうことだ」
「ええ、そういうことね」
照れも隠しもせずはっきりとそう言う二人。
「なんか良いなぁ、そういうお互いを理解しあってるって関係」
「……爽香と付き合えるのなんて俺くらいしかいないからな……」
「…………んん?」
修也は今の彰彦の言葉に変な違和感があるのを感じ取った。
パッと聞いた感じでは、『爽香は他の男になびいたりしない。自分を絶対に選ぶ』という自信の表れのように聞こえる。
しかし修也には、自信というより何故か悟りの境地に至った者の言葉のように聞こえたのだ。
気のせいか、彰彦の背中には哀愁が漂っている気がする。
(何と言うか……纏ってる雰囲気が、高校生のそれじゃない……!)
「お、おい、仁敷……」
「はーい授業始めるぞー」
何があったのか彰彦に尋ねようとした瞬間、一時限目の授業の教師が教室に入ってきた。
(……まぁ良いか。と言うか簡単に聞いてはいけない話の様な気がする……)
教師が来た事で話が打ち切られた。
修也も気持ちを切り替えて授業に臨む事にした。
一時限目終了後。
「……授業の進行度合いは前の学校と大して変わらなかったな」
「そうなのか? 良かったな大きくかけ離れてなくて」
「進級してまだ一ヶ月とちょっと位じゃない。そんなに変わる訳無いわよ」
転校して初の授業を終えた修也が彰彦や爽香と雑談をしていると……
「よぅっ、土神、ちょっと良いか?」
彰彦とは違う男の声が修也の後ろから聞こえた。
「ん?」
修也が振り返ると、そこには一人の男子生徒がいた。
背はかなり高い。修也もそこそこ背は高い方だが、その上を行っている。190cmに届きかねない高さだ。
髪は短く刈り上げられていて、筋骨隆々なのが制服の上からでも分かる。
超が付くほどの体育会系男子だ。
「ば、馬鹿な……霧生が人の名前を覚えてる、だと!?」
「ちょっとやめてよ霧生君! 明日雪でも降ってきたらどうしてくれるの!?」
彰彦と爽香が、驚愕の表情でそう言う。
「お、お前ら……俺の事を何だと思ってる訳!?」
「馬鹿」
「脳筋」
「ちょっとは言葉選んでくれよ! さすがの俺も傷つくよ!?」
霧生と呼ばれた男子生徒が涙目で訴える。
「……で、何か用か?」
「……あ?あ、あぁスマン。でもその前に自己紹介。俺の名は霧生戒(きりゅう かい)だ」
「ば、馬鹿な……霧生が自分の名前を言える、だと!?」
「ちょっとやめてよ霧生君! 明日槍でも降ってきたらどうしてくれるの!?」
「自己紹介しただけでなんでそこまで言われないといけないんだよ!?」
再び涙目で彰彦と爽香に訴える戒。
「おーい話を進めてくれー」
「あ、あぁ、重ね重ねスマン。で……土神、お前良い身体してるなぁ」
「え……」
戒にそう言われた修也は半歩程身を引く。
彰彦と爽香も引いた。
「え、何? どうした?」
「俺、人の趣味にどうこう言うつもりは無いけど……ソッチの気は無いから」
「霧生……お前、ソッチの趣味があったのか?」
「大丈夫、霧生君にどんな趣味があっても、私たちはクラスメイトよ?」
そう言いつつも微妙に距離を取る三人。
「お聞きになりました黒沢さん? 霧生さんは同性を愛するタイプの殿方の様ですわよ?」
「ええ、しかと聞き届けましたぞ白峰殿。よもや我々の妄想を掻き立てる御仁がこの様な身近にいるとは……この妄想だけでご飯三杯はいけますぞドゥフフフフ」
少し離れた所で、ウェーブのかかった金髪のお嬢様風の女子(白峰殿と呼ばれてた方)と黒髪おさげのメガネ女子(黒沢さんと呼ばれてた方)が何やら盛り上がっている。
「…………ち、違ーーーーう!!!」
周りがとんでもない勘違いをしている事に気が付いた戒は慌てて全力で否定に回るのであった。
もちろん全員冗談で言っているだけで本気にはしていない。
……白峰さんと黒沢さんだけはガチっぽいが。
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