守護異能力者の日常新生活記 ~第3章 第5話~

翌朝、2-Cの教室にて。

「きのこたけのこ論争の膠着状態に一石を投じる為に第三勢力の投入を考えているのだが、何か面白い案は無いだろうか?」
「…………はぁ?」

登校早々こんな質問をぶつけられたら誰だって間の抜けた返事をするだろう。
現に修也もそんな返事しか返せなかった。

「む、どうした? そんな豆が鳩鉄砲喰らったような顔をして」
「いや逆だ逆。鳩鉄砲ってなんだ。鳩が飛び出す鉄砲か? それとも鳩の外観をした鉄砲か?」
「よし、いつもの土神だな」
「……俺ってどんな風に見られてんだ……」

いつの間にかよく分からない認識を持たれていたことに修也は溜息を吐く。

(気味悪がられるよりマシだが……いや、マシか? 避けられるか変な絡まれ方されるか……どっちもどっちな気がしてきたぞ)

この町に引っ越してきてからは気味悪がられて距離を置かれるようなことは一度も無いが、変な絡み方をされたことは何度もある。
どこぞの巨乳美少女教師(自称)が主な原因で。
本人なりに修也のことを気遣ってクラスの輪からはみ出ないようにしてくれているのは分かっているので無下にはできないのが余計にタチが悪い。

「で、話を戻すが、きのこたけのこ論争を知らないわけではあるまい?」
「いやまぁ、そりゃ聞いたことは何度もあるけど……」
「うむ、とある製菓会社が同時に販売した菓子の名称でどちらも一定数の支持者が存在する。しかしどちらの方が人気があるのかの論争は発売当時から絶えなかった。公式で人気投票も行い結果も出たのだが、それでも鎮静化の兆候は見られない」
「……そんな大げさなもんでもないような気がするが。せいぜい軽い話題のタネになるくらいだろう?」
「甘いぞ土神。あそこを見てみろ」

そう言って修也の目の前の男子生徒が指さした先では……

「ですからきのこの方が人気に決まっているでしょう黒沢さん! あの可愛らしいフォルム、チョコ部分とビスケット部分に分割して食べるなどの食べ方の豊富さ、どちらもたけのこには無い物ですわよ!?」
「何を仰りますか白峰殿! それならチョコとビスケットを別々に買って食べればよろしかろう! それよりもあの雄々しい佇まい、チョコとビスケットの絶妙なマッチ具合、これはとてもきのこでは表現できぬものでしょう! 人気があるのはたけのこの方ですぞ!」

白峰さんと黒沢さんが壮絶(?)なきのこたけのこ論争を繰り広げていた。
2人とも表情はとても真剣なのだが、言ってる内容は非常にくだらない。

「あのような論争が毎日全国各地で繰り広げられているのだ。それは一向に構わんのだが、話に進展が無いようではつまらん」
「どこまで行っても不毛な論争の気もするがな……」
「という訳だ。この論争に新たな風を呼び込めるようなアイデアを提供してほしい」
「いや、その前にそもそもお前誰だよ?」

まだ転校してきて日が浅い修也は、クラスメイト全員の名前を覚えられていない。
彰彦・爽香・戎・白峰さん・黒沢さんは覚えたがその他はサッパリだ。

(あ、でも白峰さんと黒沢さんの下の名前は知らないな……)

だからと言って改めて尋ねる気にはなれない修也だった。
どうせどこかで知る機会が来るだろうし、ただのクラスメイト程度の間柄の異性に『下の名前は何て言うの?』とは聞きづらい。
それがたとえ白峰さんや黒沢さんのような残念な人であったとしてもだ。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第3章 第5話~

 

「なんだ、転校してきて1週間も経つのにまだクラスメイトを把握していないのか?」

修也の問いかけに対し、目の前の男子生徒は呆れたような目をして修也に問い返す。

「いや1週間でクラスメイト全員は無理だろ」
「何を言う。俺は3日で同学年全員を覚えたぞ」
「3日!? しかもクラスじゃなくて学年!?」
「人間、やろうと思えばやれるものだ。無理だと決めつけてしまうとそれだけで可能性を狭めてしまうものなのだぞ」
「そういうもんかねぇ……?」

言いたいことは分かるが限度があるだろう、と修也は思う。
あと、同学年の生徒の名前を全員把握しておくことが役に立つ日は来るのだろうか? とも思う。

「かつて人類には空を飛ぶことなど不可能だと言われていた。しかし今はどうだ? 当たり前のように飛行機やヘリコプターなどが大空を駆け巡っているではないか。不可能だと切り捨てず、技術と知識を積み重ね進化し続けた結果だ」
「何かスケールのデカい話になってきたな……」
「俺は人間の可能性の行く先を見てみたい。どこまで不可能を可能に変えられるかを見てみたいのだ」
「お前が大層な夢を持ってるのは分かったし凄いことだと思うから、まずはお前の名前を教えてくれ」

このままだと話が脱線したまま戻ってこれなくなるので、修也はやや強引に軌道修正を試みる。

「良いだろう。俺の名前は氷室塔次(ひむろ とうじ)だ。覚えておくがいい」

そう名乗った塔次を修也は観察する。
背は修也よりも少し低い。
ただ修也が平均よりも少し高めなので、塔次はちょうど平均くらいと思われる。
透き通った銀髪に切れ長の目をしており、一般的に言う美形の部類に入ると思われる。
口調はやや上から目線に感じなくもないが、不快感は無い。

「それでどうだ? 何か面白そうなアイデアは浮かんだか?」

修也がそんな印象を抱いている間に、塔次は話を戻してきた。

「え? ああさっきのきのこたけのこ論争の話か。えっとだな……」

真面目に答えるのも馬鹿馬鹿しいのだが、答えないと終わらなさそうだ。

「あー……じゃあ、『めんたいこの港』とかどうだ?」

なので修也は超適当かつ投げやりで答えた。
特に深い考えなど全く無く、本当にただ何となく浮かんだ単語を並べただけだ。

「…………ほぅ、なかなか面白い」
「へ?」

しかし塔次的には興味を引く回答だったらしい。
そんなリアクションが返ってくるとは思っていなかった修也は面食らう。

「『きのこ』『たけのこ』の3文字・4文字に並べて5文字の『めんたいこ』を持ってくるとリズム感が良い。それにきちんと語尾を揃えて韻を踏んでいるから聞こえも悪くない。それでいて海という先の2つには無い要素を含んで差別化もされている……うむ、時には他人に意見を求めるというのも悪くない。1人で考えるとどうしても思考が偏るからな」
「あのー……そんな真面目に考察されても困るんだが……」
「いやいや、なかなかに興味深いアイデアだったぞ、土神に意見を求めたのは間違いではなかったな、礼を言うぞ。ではな」

そう言って塔次は自分の席に帰っていった。

「……何だったんだ?」
「おはよう土神君。どうしたの?」
「おはよう土神。何かあったか? 何か不思議な顔してるけど」

入れ替わりで爽香と彰彦が教室に入ってきた。
修也に朝の挨拶をしながら自分の席につき、修也が変な顔をしていることに疑問を呈する。

「ああおはよう2人とも。いや、今氷室という奴に話しかけられて……」
「あー……」
「あぁー……」

塔次の名前が出た瞬間、全てを察したかのような顔をする2人。

「え、何? 何なのそのリアクション」
「ついに氷室とコンタクト取っちゃったんだなー……」
「氷室君はね……見たなら分かると思うけどルックスは良いのよね。さらに頭も凄く良い人なのよ」
「高校に入ってから定期的にやってる全国模試で1位以外取ったことが無いというとんでもない奴だ」
「しかも全部満点でね」
「え、それメチャクチャ凄いんじゃね?」

全国模試で1位を取り続けるだけでなく全科目で満点を取るとか、並大抵の学力ではない。
俗にいう『天才』と呼ばれる部類の人間なのだろうか?

「そんな凄い奴がこのクラスに……イロモノだけじゃなくて真面目に凄い奴もいたんだな」
「いや、アイツもイロモノだ」
「むしろ氷室君はひときわ濃いイロモノよ」

修也の呟きに、彰彦と爽香は揃って首を振って否定する。

「え?」
「学力が高いのはまぁ良い。問題は学力以外の方向でもとんでもないんだ」
「学力以外……?」
「言葉で説明するのは難しいわね……まぁそのうち分かるわよ」
「まぁさっきの会話で何となく分かったような気がしなくもないが……今までが今までだから嫌な予感しかしねぇな」

大真面目にきのこたけのこ論争に投入させる第三勢力を考えたりするあたり、ただ頭が良い奴で終わりそうにはない。
含みを持った爽香の言い方に、何か言い知れぬ予感を抱いた修也であった。

「ええい埒があきませんわ! こうなったら周りの方々の意見を集めてどちらの方が人気があるか決めようではありませんか!」
「望む所ですぞ! 自分が勝った暁には白峰殿にはたけのこ×きのこで妄想小説を書いていただきますぞ! 400字詰めの原稿用紙で10枚ほど!」
「ならば私が勝った場合は黒沢さんにきのこ×たけのこで妄想小説を書いていただきますわ! 同じく400字詰めの原稿用紙で10枚ほど!」

ちなみに白峰さんと黒沢さんはまだきのこたけのこ論争を繰り広げていた。

「……あの2人にかかればきのことたけのこですらそう言う対象になるのか……」
「あの界隈では割とよくあることらしいわよ?」
「マジか……というかどっちも同じじゃあ……?」
「どっちが前に来るかで意味合いが違ってくるらしいわよ。知らないけど」

修也の疑問に対してどうでも良さそうに答える爽香。
変に関わって巻き込まれたらたまらないので修也たちは何も見なかった・聞かなかったことにして授業の準備を始める。

 

 

ガラッ!!

 

 

「話は聞かせてもらったよっ! だったら今日のホームルームはきのことたけのこ、どっちが真に人気があるのか徹底討論だよ!!」
「真面目にホームルームやれぇ!!」

だが、勢いよくドアを開けて乱入してとんでもないことを言い出した陽菜にツッコミを入れずにはいられない修也だった。

「おー、土神君は今日も絶好調だねぇ」

そんな修也を見た陽菜は満足そうに頷いている。

「いやツッコミで人の調子を測らないでくれますか」
「でもさぁ気にならない? 一時は世間を賑わせたきのこたけのこ論争。この討論でクラスの誰がきのこ派で誰がたけのこ派なのかが分かるんだよ!?」
「割とどうでも良いです」

修也としては誰がどっちであろうとどうでも良い。
なので興奮気味の陽菜の言葉に冷めた口調で返す。

「そして白峰さんか黒沢さんのきのことたけのこによる艶めかしい妄想小説も読めるんだよ!!?」
「それは心底どうでも良いです」

そっちは本気でどうでも良いのでバッサリと切って捨てる。

「てか艶めかしいの確定なんですか」
「もちろんですわ!」
「当然でございましょう!」
「いやそこ当たり前のように言わないでくれる!?」

当たり前のように言ってのける白峰さんと黒沢さんにツッコミの矛先を変える修也。

「土神殿、我々を誰だとお思いでいらっしゃる?」
「腐った脳をお持ちの残念コンビ」
「あら、分かっておられるではありませんの」
「良いのかよそれで!?」

軽く意趣返しのつもりでツッコミ待ちの回答をした修也だが、普通に受け入れられてしまい結局自分が突っ込んでしまった。

「ふっ……諦めな土神君。君はツッコミの星のもとに生まれた、生粋のツッコミストなんだよ。君にボケは似合わない」
「でもそれを恥じる必要はありませんわ。おかしい物をおかしいと突っ込めるのは素晴らしい才能ですのよ?」
「足りない所は他の人がカバーすれば良いのです。それがチームワークというものですぞ」
「……言ってること自体は至極真っ当なのが逆に腹立つなぁ……」

かくして今日も2-Cはいつも通りの騒がしい始まり方をするのであった。

 

「ん? あれは……華穂先輩か?」

昼休み、昼食を学食で食べ終えた修也は教室に戻る途中で昨日屋上で出会った先輩の姿を見かけた。
それと同時に男子生徒の姿も視界に入る。
どうやら2人で何かを話しているようだ。
距離があるので内容までは聞き取れない。

「……まぁ昨日話した感じだと、誰とでも気さくに話せそうな人だったからな……」

邪魔するのも悪いと思った修也は華穂に声をかけずにその場を立ち去ろうとする。

「……あっ! 土神くーん、待って待って!」

だが華穂の方が修也に気づいて声をかけてきた。
声をかけられた以上はスルーするわけにはいかない。
修也は足を止めて振り返った。
華穂は小走りで修也の元までやってきて、修也の目の前で止まる。

「こんにちは、土神くん」
「こんにちは、華穂先輩。俺に何か用でもあったのか?」
「うぅん、特には。あえて言うなら土神くんの姿を見かけたから声をかけておこうかなと思って」
「でも先輩、今誰かと話してなかったか?」
「ん? そんな言葉が出てくるってことは、土神くんは私の姿を見かけたのに声をかけてくれなかったってこと? ひどいなぁ、見かけたら声かけてって昨日言ったのに」

冗談っぽく笑いながらそう言う華穂。
実際に冗談なのだろう。非難する意思は微塵も感じられない。

「いや、先輩が1人だったら声かけてたって。でも先輩、誰かと話してたみたいだし邪魔するのも悪いかなと思って」
「……私としてはむしろ邪魔してほしかったんだよねぇ」

そう言う華穂の表情は微妙に曇っているように見える。

「……え? それってどういう……」
「酷いじゃないですか華穂さん。僕が話している最中だというのに勝手に離れて行ってしまうなんて」

修也が華穂の言葉の真意を尋ねようとしたのを遮るかのように第三者の声が割り込んできた。

(……ん? 何だアイツは)

声のした方に視線を送る修也。
そこにいたのは……やや小太りで目元と口元がだらしなく垂れ下がり、それでいて所持品や装飾品は無駄に高級感があるなど諸々が見事にバランスよく融合して不快感を形成している先程華穂と話していた男子生徒だった。

 

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