守護異能力者の日常新生活記 ~第6章 第30話~

「……では、こちらの指輪でよろしいですか?」

場を仕切り直した店員が、修也と蒼芽がそれぞれ選んだ指輪を小さな台に乗せて確認してきた。

「…………はい、これで合ってます」
「私のも大丈夫です」
「サイズは問題ないですか? 別サイズの物も取り揃えておりますので遠慮なく仰ってください」
「え、指輪にサイズなんてあるのか?」

装飾品について全く詳しくない修也は店員の質問に首を傾げる。

「同じ人の手でも指が違えば太さも変わりますからね」
「あぁ、言われてみれば確かにそうか」

蒼芽にそう言われ、修也は自分の手を見る。
親指と小指では太さが全く異なる。
それぞれ指の太さが違うのであれば、それに応じて指輪のサイズも違いが出てくる。
今まで意識していなかったがよくよく考えれば当たり前の話である。

「では指のサイズを測ってみましょうか。まずは彼女さんの方から」
「あ、はい」

店員に促され、蒼芽は左手を前に出す。

「では失礼して……」

蒼芽の手を取り、店員は薬指のサイズを測ろうとする。

「あっ! すみません違います小指です!!」

それを見た蒼芽が慌てて訂正する。

「あらそうでしたか、失礼しました」

それに対し店員は慌てることなく蒼芽の小指を測り直す。

「……なぁ蒼芽ちゃん」
「あ、いえ薬指が嫌というわけではなくてですね!? いやいやそうじゃなくて、えっとその…………」
「指輪ってはめる指で何か違いとかあるのか? 蒼芽ちゃんは今小指を指定してたけど」

やたら慌てている蒼芽をよそに修也は気になったことを聞いてみる。

「え? あぁそうですね、小指にはめるのはいわゆるピンキーリングと言いまして、ファッション的な意味で使われる物なんです」
「左手の小指だと願いを叶えるとか変化を呼ぶという意味合いもありまして、お守り的に着ける人もいらっしゃるようですよ」

蒼芽の説明に店員が補足してくれる。

「へぇー……他の指にもそれぞれ意味があるんですか?」
「もちろんです。それに同じ指でも右手と左手で意味が変わったりもするんですよ。例えば今のピンキーリングも、右手だと魅力アップやチャンスを引き寄せるという意味になります」
「なるほど確かに意味が違うな」
「まぁそこまで深くは考えてなかったですけどね」
「だったら俺も左手の小指かなぁ。俺右利きだし何かの妨げになりかねないし」
「思考が物理的ですね……まぁ確かに修也さんだとそうでしょうね」

修也の場合、何か有事の際に使うのは右手だ。
もしまた厄介ごとに絡まれた時に動きを阻害されるようなことがあってはいけない。
スケルスの活動が無くなったと言っても、鉈男のような事件だって起こるのだ。
油断はできない。

「では薬指に着ける機会が来た時は是非また当店にお越しくださいませ」
「…………そうですね、その時が来ればお世話になるかもしれません」

さらりと営業トークを始める店員に対し、蒼芽はちらりと修也を横目で見ながらそう頷くのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第6章 第30話~

 

それぞれの指のサイズを測り、それに合う指輪をチケットと交換して修也と蒼芽が店を出た後。

「…………じゃあこれがあの指輪2つのお代ね」

そう言って夫人はさらさらと小切手帳に指輪2つ分の金額を書いて店員に渡した。

「……はい、確かに。お買い上げありがとうございました」

書かれた金額を確認して店員は小切手を受け取る。
実はあのチケットは、厳密に言うとモールの物と何でも交換できるものではない。
本当は交換すると指定した物の代金を夫人が肩代わりするものなのである。
いくら夫人がモールを経営しているとはいえ、モールに出店している店のことまでは関与できない。
数百円程度の駄菓子とかならともかく、今回の指輪のような高価なものを無償で渡すとなると店の売り上げに大きな影響が出る。
だからと言って直接夫人が代金を肩代わりすると言えば修也と蒼芽は間違いなく恐縮してしまうだろう。
なので夫人は『交換チケット』というワンクッションを置くことにした。
修也と蒼芽には言わなかったが、チケットを提示された時に夫人に連絡するのにはこういった理由もあったのだ。
…………それが有効だったかどうかは甚だ疑問だが。

「最近物騒な事件が多かったけど、ああいう子がいるなら安心ね」
「彼の噂は私も聞いています。パッと見ではそんな凄い子には見えなかったのですが……」
「あの子……土神君は私個人だけでなく主人の学校や孫娘たち……果てはこの町そのものを守ってくれたのよ。こんな指輪2つの代金程度では割に合わないくらいよ」
「そうなのですか……」
「うちの孫娘たちとも仲が良いみたいだし、良い縁になってくれればと考えたこともあるけど……既に先約がいるんじゃ仕方ないわよね」
「お互いに指輪を贈り合うくらいですからね」

夫人の言葉に頷く店員。
店員の目にも修也と蒼芽は非常に仲睦まじく見えたらしい。

「…………あの、オーナー。お客様のことを詮索するのはいけないことだと分かってはいるのですが、その……」
「分かるわぁ、気になるわよねぇ、あの2人の関係。じゃあここからは店員とオーナーじゃなくて、ただのお茶友達として話しましょ」

やたらウキウキした表情で夫人は店員に提案を持ちかけるが……

「あ、でも私まだ勤務時間中で……」
「そんなのオーナー権限でどうとでもなるわよぉ」
「なりませんよ!?」
「それじゃああなたの勤務時間が終わるまで待たせてもらおうかしら。ちょうど見たいジュエリーもあることだし」
「あ、はい。ではこちらにどうぞ」

そう言って夫人を応接室に通す店員。
結局その店員は応接室に通された夫人の話し相手に指名され、今日の仕事はそれで終わってしまうのであった。
モールのオーナーである夫人たっての希望ということで店長から許可が下りたので店員も何も言えなかったのである。

 

「…………紙袋は小さいのにやたらと重く感じるのはなぜだろうか……」
「高級品独特の重圧というものでしょうかねぇ……?」

修也は指輪のケース2つが入っている紙袋を手に提げながら神妙な顔で呟く。
重量にすれば非常に軽いのだが、何故かずっしりとした重さを感じるような気がする。
蒼芽の言う通り、高級品故のプレッシャーみたいなものなのかもしれない。

「それはそれとして蒼芽ちゃん、自分の分くらいは自分で持てばいいのに」
「修也さんが持ってる方が安全じゃないですか」

確かに危険感知能力が尋常ではない修也ならスリにもひったくりにも遭わないだろう。
そもそも修也に対してそんな無謀なことを仕掛けようとする人間はこの町にはいない。
しかし……

「そんなんじゃ永遠に着けられる日が来ないぞ……」

いつまでも修也が持っていては蒼芽は指輪を着けられない。

「そうなんですよねぇ……ここはもういっそ神棚を作って飾るしか」
「やめなさい。ネックレスの時と同じじゃねぇか」

真剣な顔でおかしなことを言いだした蒼芽を修也は止める。

「あはは、冗談ですよぅ。ところで修也さん、そろそろお腹空いてきてませんか?」
「え? あ、もう少しで昼時か」

時計を確認すると11時前を指していた。
昼食にはまだ少し早いが、普通の時間に行くと混雑する可能性もある。
それにこの後アミューズメントパークに行くのであれば早めに食べておいても良いだろう。

「それじゃあ昼飯にしようか。蒼芽ちゃんは何か希望はあるか?」
「修也さんに合わせますよ? 特に強い希望は無いので」
「それじゃあ……和食にするか」
「あれ、イタリアンじゃなくて良いんですか?」

前回はシェアできるからという理由でイタリアンにしたが、今回は和食を選択した修也に蒼芽は首を傾げる。

「まぁ毎度毎度イタリアンってのもどうかと思うし……シェアは言えば蒼芽ちゃんがやってくれるからそんなこだわらなくても良いかなーってな」
「はい、修也さんがお望みならいつでもやりますよ」
「だったら色んな物食べてみたいじゃないか」
「じゃあ次回は洋食で、その次はフレンチで、さらにその次はスペイン料理なんて良いですね。それから……」
「待った待った。え? ここのモールのレストランってそんなにバリエーションに富んでんの?」

指を折りながらすらすらと候補をピックアップしていく蒼芽に修也は待ったをかける。

「ええ、まだまだありますよ」
「マジでか……でもなんか納得できるところもある」

以前にも理事長夫婦はB級グルメを巡る旅行に突如出かけたりしていた。
そして美穂は一般的な女子高生よりかなり大食いである。
姫本家は食に対するこだわりというか意識が高いのかもしれない。

「……いつか美穂さんと霧生の2人が食の世界一周ツアーとか言いだしてここのレストランを1日で制覇したりするんじゃなかろうか」
「あ、あはは……ありえなくは……ないんですかね……?」

修也の呟きを聞いて蒼芽が苦笑する。

「まぁそれは良いや。じゃあ今回は和食な」
「はい。……あの修也さん、それで……」
「そして次はフレンチかー。俺食ったこと無いからちょっと楽しみだわ」
「! 良いんですか?」

修也の言葉に蒼芽は目を輝かせて問い返す。
今の修也の言葉は、また蒼芽とデートすることを前提としないと出てこない。

「そりゃもちろん。蒼芽ちゃんが俺とのデートを楽しみにしてくれてるのと同様に、俺も蒼芽ちゃんとのデートは楽しみにしてるんだから」
「…………はいっ!」

修也の言葉に蒼芽は嬉しそうに頷き横に並ぶ。
そのまま2人は和食のレストランに足を進めるのであった。

 

その後和食レストランで昼食を食べた修也と蒼芽は、すぐに電車に乗ってアミューズメントパークへと向かった。
相変わらず乗客が多いが、昼過ぎという時間だからか以前よりは落ち着いている。
アミューズメントパークのチケット売り場も、開園時間直後に比べれば人の数も少ない。
まぁ永年フリーパスを持っている修也にはそこの混雑具合は関係ないのではあるが。

「……そしてやっぱり顔を出すのかあの人は」
「あ、あはは……またスタッフルームに通されましたね……」

またしても現れたオーナーに呆れる修也と苦笑いする蒼芽。

「まぁ夫人もオーナーはそういう人だって言ってたし、気にするだけ時間の無駄か」
「そうですよ。それよりも半日だけですけど目一杯遊びましょうよ」
「……そうだな! じゃあ何から行こうか」
「そうですねぇ…………アレはとりあえず除外で」

そう言って蒼芽が指さしたのは……最凶ジェットコースターだ。
今日も相変わらず絶叫にも近い悲鳴が辺りに響いている。

「うん、アレは俺も嫌だ。乗った人間のなれの果てを何度も見てるし」

爽香に連れられて何度も乗せられグロッキー状態になった彰彦を見てきた修也としては、よほどの理由が無い限りは遠慮したい。

「蒼芽ちゃんは絶叫系はそんな得意な方じゃなかったっけか」
「ウォータースライダーのエンタメコースくらいの物なら平気ですけどね。もしくは修也さんにしがみついていれば」
「ジェットコースターでそれは無理だろ。余計危ないわ」

そんなことを言い合いながら2人はあちこちのアトラクションを巡る。

「ここに来るのはプールの時を除いても3回目だけど、それでも行ってないところがまだまだあるなぁ」
「本当に広いですからね。あ、そうだ修也さん。今日はもう日も傾いてきてますし、最後にアレに乗りませんか?」
「アレ? ……あぁ観覧車か。これもデートの定番って感じだな」

蒼芽の提案に修也は頷き、観覧車の乗り場に向かって歩く。
幸いそこまで混雑はしておらず、2人は割とすぐ乗り込むことができた。

「わっ、凄い! まだ半分くらいなのにかなり遠くまで見えますよ!」
「そうだなぁ、あの辺が俺らの住んでる町かな」

高度が上がり見晴らしがよくなったことではしゃぐ蒼芽。

「うーん、やっぱりこういう所でのデートの締めと言えば観覧車ですよね!」
「そういうもんなの? まぁ定番って感じはする……かなぁ」
「ですよね。で、一番上に来た時に何かしらのイベントがあるのもお約束ですよ」
「イベント……ねぇ? 例えば……」

そう言いながら修也は今日ずっと持っていた紙袋をあさる。
そして指輪の入っている箱を取り出し……

「蒼芽ちゃん……俺と、結婚してください」

そう言いながら指輪の箱を蒼芽に向けて開けた。

「え? えっ? えええぇぇぇぇぇ!!?」

突然のことに蒼芽は目を見開き顔を真っ赤に染めて驚きの声をあげる。

「……みたいな感じか?」
「あ、ああぁぁ……! な、なんだたとえですかビックリしたぁ」
「流石にこの指輪でプロポーズは何か違うだろ」

ファッション目的で買った(というよりは交換した)ピンキーリングでプロポーズはいくら何でもしまらない。

「あ、でもせっかく開けたんだし着けとくか」
「えっと……それじゃあ、お願いします」

そう言って蒼芽は左手を修也に差し出す。
修也は箱から指輪を取り出し、蒼芽の小指にはめた。

「ありがとうございます。では修也さんの指輪は私が着けてあげますね」

ピッタリ指輪が着けられたことを確認して、蒼芽が紙袋からもう1つの箱を取り出し開ける。
そして中に収められていた指輪をつまんで修也の左小指にはめる。

「ふふ、似合ってますよ修也さん」
「蒼芽ちゃんもな。ただこれも学校には着けていけんな……」

ファッション目的のピンキーリングとはいえお揃いの指輪を着けていたら変な噂が立ちかねない。

「それは仕方ありませんね。でも……今日はこのままずっと着けていても良いですか?」
「良いとも。そもそも俺に許可を求めるもんでも無いだろ」
「あはは、それもそうですね」

そう言いながら蒼芽は左手を頭上にかざして指輪をみつめる。

(…………いつか修也さんに薬指に着けてもらえる日が来れば良いなぁ……そしてさっきみたいに……)

蒼芽がそんなことを考えているとは修也は露知らず、これだけ気に入ってもらえたのならチケットを指輪に使うという選択は間違っていなかったと安堵のため息を吐くのであった。

 

 

……その後デートから帰ってきた2人を見て、なんで朝帰りじゃないのか、なんで指輪が薬指じゃないのかと本気で不思議そうな顔をする紅音に対して蒼芽は先程よりも顔を赤くして怒鳴り散らしたという。

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