「…………さて、モールに着いたわけだが……」
モールの入り口を前にして修也は再び足を止める。
「このまま5階に直行するのも何だし、ちょっと他の店も見て回ってみるか」
「あ、良いですね! じゃあまずは1階のイベントコーナーを見てみましょうか」
修也の提案に蒼芽は二つ返事で頷く。
「まぁでもその辺はまだ夏のレジャー特集じゃないか?」
「そうかもしれませんがそれでも楽しいですよ。それに水着だけがレジャー用品じゃありませんし」
「あーそういやこの前キャンプ用品とかもあったっけ」
そんなことを言いながら2人はイベントコーナーへ足を進める。
そこではやはり修也の予想通り夏のレジャー特集として海でのレジャー用品やキャンプ用品が多く陳列されていた。
「うーんやっぱ変わり映えはしないなぁ」
「そうですか? 色んな可愛い水着とかがあって華やかだと思いますけど」
「俺は目が痛いよ……」
相変わらず水着コーナーは修也的には刺激が強い。
ただ水着が陳列されているだけなのだが、どうしても視線をそちらに向けるのに抵抗が出てきてしまうのだ。
「もう……中に人がいないのにそんなんでどうするんですか修也さん。今後海とかプールとか遊びに行きにくくなりますよ」
「いや別によそに目を向けなければ良いだけの話では……?」
「でも今度皆で姫本先輩の家が所有しているコテージに行きますよね? そこで皆水着になりますよ?」
「う、確かにそれだとそういう訳にもいかないか……そこまで言うんだったら蒼芽ちゃんが克服できるように手伝ってくれよ」
「良いですよ。とりあえず毎日水着で修也さんの部屋にお邪魔するところから始めましょうか」
「ゴメンやっぱり今の無し」
蒼芽の出した提案を秒で切って捨てる修也。
「まぁそうですね……冬はそれだと寒いですし」
「そう言うことじゃねぇ……ってかこれから半年以上続ける気だったのか?」
「修也さんがどうしてもというのであれば」
「やめてくださいお願いします」
「あはははは!」
何故か乗り気の蒼芽に修也は敬語になって止める。
「……それにしても予想通りというか何というか……定番っちゃ定番なんだろうけど面白みに欠けるかなぁ」
話題を変えるために辺りを見回す修也だが、大体は似たようなスペースばかりだ。
「そうですねぇ……あっ、あそこはテイストが違いますよ!」
「お、どれどれ……?」
蒼芽が指さした方を修也も見てみると……
「………………『全国陶器市』……」
「…………え、えーーーーっと…………」
最初にモールを案内してもらった時に設置されていたものと同じ看板が視界に入り、修也と蒼芽は言葉に詰まる。
「え、何? 意外と人気なの?」
「もしくは理事長夫人の趣味……とかですかね?」
どの層をターゲットにしているのかよく分からない催しに、2人は怪訝な表情でお互いを見合うのであった。
守護異能力者の日常新生活記
~第6章 第29話~
陶器には修也も蒼芽も興味は無いので、早々に2階へエスカレーターを使って上っていく。
「そういやあの雑貨屋の店員さん元気してるかな」
「このネックレスを買ったお店の人ですか? せっかくなら寄ってみましょうか」
修也の呟きに蒼芽が応える。
大した遠回りにもならないので2人は雑貨屋へ足を向けた。
「いらっしゃいませー……あらいつぞやのお2人さん。お元気でしたか?」
雑貨屋に着くと店先で商品の手入れをしていた店員のお姉さんが修也たちに気づいて声をかけてきた。
「お久しぶりです。俺たちのこと覚えててくれたんですか」
「覚えてたというか、あなたの方が凄い有名人になりましたからねー。この町であなたのこと知らない人なんていないんじゃないですか?」
「あー…………やっぱそうなる感じですか……」
にこやかにそう言う店員のお姉さんに対し視線を外して頬をかく修也。
「そんなあなたに是非お勧めなのがこの木彫りの熊! いまなら特別価格の1000円でご奉仕しますよ!」
「それはいりません。てかまだ売れ残ってんじゃないですか」
だが次に店員のお姉さんが取り出してきた木彫りの熊に対してはきっぱりと断った。
「ふふふ……甘いですよ! この木彫りの熊は言わばマークⅡ! 前回のものからさらなる改良がくわえられた至高の一品なのです!!」
「え、マジですか?」
「マークⅡ……ということは前のは売れたんですね?」
「そう言うことになるな。誰が買ったんだか……」
「今なら前のと合わせた2体セットでお値段据え置きですよ!」
「売れてないんじゃないですか!!」
商品棚の陰からもう1つ木彫りの熊を出してきたお姉さんに修也は全力で突っ込む。
「そうなんですよねー、面白がって誰か買ってくれるかなーなんて思って仕入れたんですけどそんなことも無くて。いっそこの店の狛犬ならぬ狛熊にでもなってもらおうかなって思い始めてるんですよ」
「売れてないのに何で2つ目を仕入れちゃうかなー……よくそれで経営が成り立ちますね」
「この木彫りの熊はネタ枠ですからね。他の商品は真面目に需要を考えて仕入れてますよ」
「ネタって言っちゃったよこの人」
「あ、あはは……」
さらっと店の裏事情を暴露するお姉さんに呆れる修也と苦笑する蒼芽。
「その証拠にほら、お2人さんうちで買ってくれたネックレス着けてくれてるじゃないですか」
「あ、えぇまぁ」
お姉さんに指摘されて修也は自分の首元に視線を落とす。
そこにはこの店で蒼芽が買ってくれたネックレスが輝いていた。
「あの、私は服の下に着けてるんですけど……」
蒼芽はネックレスの飾りがあるであろう場所に手を置いて尋ねる。
確かに蒼芽の方は服の下に付けているのでパッと見では分からない。
なのにお姉さんは蒼芽がネックレスを着けていると見抜いた。
「彼に買ってもらってすぐ着けるくらいのお気に入りみたいでしたし、だったらデートで着けないわけが無いでしょう?」
「あはは……図星です」
「それだけ気に入っていただけたのなら私も嬉しいです」
そう言ってお姉さんは微笑む。
「そんな私に免じて木彫りの熊買っていきませんか? 今なら3体目の予約権も同時に進呈しますよ」
「それはいりません」
「てかまだ売れてないのに3体目の入荷を視野に入れないでくださいよ」
もはや定番となりつつあるやり取りをしながら修也と蒼芽は雑貨屋を後にするのであった。
雑貨屋を後にした修也と蒼芽は、3階と4階を飛ばして5階にやってきた。
今回はその2つに特には用事が無かったからである。
「しかし……ここだけ店の雰囲気が他と全く違う気がする」
「まぁ……ジュエリーを扱ってるお店ですからね」
そして2人は店の前に立っているのだが、店の醸し出す雰囲気に二の足を踏んでいた。
当然ではあるが修也はこの手の店に入ったことは無い。
案内された時も店頭に並んでいる商品の値札を見ただけなので中には入っていないのだ。
その時とは違い値段を見てもビビることは無くなったが、それでも店の独特の空気には慣れていない。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
そんな修也たちを見て、店員が中から出て来て声をかけてきた。
流石高級品を扱っているだけあって店員にも気品が感じられる。
「あ、えっと……高校生が着けても違和感が無いくらいの物を探してまして……」
「そうですか。ご予算はどれくらいを想定していますか?」
「それなんですが……これってこの店でも使えるんですか?」
そう言って修也は夫人に貰った交換チケットを店員に見せる。
「こ、これは…………!」
それを見た店員が目を見開く。
「あ、何かデジャヴ」
「も、申し訳ありません。少々お時間を頂いてもよろしいですか?」
「えっと……もしかして使えないとか、偽造を疑われて通報されるとかそんな感じですか?」
「とんでもございません! 問題なく使えますし、偽造を疑うなどあり得ません」
「じゃあ何故……」
「その質問には私が答えてあげるわ」
「え?」
首を傾げる修也の背後から店員とは別の声がかけられる。
「ふふ、お久しぶりねお2人さん」
「あ、理事長夫人!」
「お久しぶりです夫人」
修也と蒼芽が振り返ると、そこには理事長夫人が立っていた。
「で、質問の答えだけど……私が頼んでいたのよ。そのチケットを使う子が来たら私を呼ぶようにって」
「あ、やっぱり……」
修也は以前アミューズメントパークのフリーパスを使った時も同じようなことになったのを思い出した。
「それにしても早すぎじゃありませんか? 私たちがこのお店に来て数分しか経ってませんよ?」
「あぁ、それは本当に偶然なのよ。たまたま用事があったついでに立ち寄ったらあなたたちの姿が見えたから」
蒼芽の疑問にそう答える夫人。
「にしてもフットワーク軽すぎじゃありませんか? アミューズメントパークのオーナーもすぐにやってくるし」
「あの人はねぇ……人を驚かせたり楽しませたりすることに全力を尽くす人だから。その為ならどんな苦労も厭わないのよ」
オーナーはアミューズメントパークだけでなくボウリング場など遊戯施設の経営もしている。
人を楽しませたいという思いが高じた結果だというのであれば凄いことだし尊敬できる。
(……ただ限度ってもんがあると思うんだけどなぁー……)
修也がオーナーの経営する施設に行くたびに顔を出しに来るのはいささかやりすぎではないかと修也は思う。
「でもね、あの人の場合はそう言う理由だけど私の場合はちゃんとリスク管理の上での指示なのよ」
「リスク管理……?」
「そう、もしあなたたちがそのチケットを落としたり盗まれたりしたら、他の人に悪用されるかもしれないでしょう?」
「なるほど、このモールの物となら何とでも交換できてしまいますもんね」
蒼芽の言う通り、このチケットはモール内の物ならどれでも交換が可能というとんでもないものだ。
それこそ高級家具や貴金属なども対象だ。
もし他の人……しかも不埒な考えを持つ人の手に渡ってしまった場合、よからぬ使い方をされる可能性は十分ある。
「だからもしそのチケットを使われた時に私を呼んでくれれば、他の人に使われるというリスクは無くなるという訳よ」
「そうか、夫人は俺たちの顔を知っているから……」
そのような策を講じておけばもし修也たち以外の人がチケットを使おうとしても阻止できる。
そう言ったリスク対策をきちんとできるかどうかが経営者としての素質を問われるということなのだろう。
「それで、何と交換するか決めたの?」
「ジュエリーにしようかというところまでは決めたんですが具体的には……高校生でも頑張れば買えるくらいの物にしようとは思ってるんですけどね」
「あら遠慮しなくていいのに。このプラチナとダイヤのイヤリングとか良いんじゃない?」
「いや、ちょっ!? ゼロがいくつあるんですかこれ!!」
夫人が指さしたイヤリングの値札を見て顔が引きつる蒼芽。
「流石に一般的な高校生が着けて良い物じゃないでしょそれは」
「あらそういうものかしら。だったら土神君はどういうものが彼女に似合うと思う?」
「え? そうですねぇ……」
夫人に問われ、修也はショーケースに並べられているジュエリーに視線を送る。
(そういったものの良し悪しとかサッパリ分からんぞ……ここはシンプルに、蒼芽ちゃんに似合いそうなものというだけで考えてみるか)
判断基準をそう定めて修也は視線を流していく。
「………………あ」
しばらく視線を巡らせていた修也だが、ある一点で止まる。
「すみません、この指輪を見せてもらうことってできますか?」
そう言って修也はショーケースの中にある1つの指輪を指した。
「はい、少々お待ちください」
店員はすぐにショーケースを開けて、修也の指した指輪を取り出してくれた。
「わぁっ、綺麗……!」
それを見た蒼芽の目が輝く。
「それもプラチナみたいだけどさっきのイヤリングよりはお手頃価格みたいだし。それに何より内側に小さな青い宝石が埋め込まれてるんだよ」
「その通りです。これは指輪の内側にアクアマリンを埋め込んだものとなっております。彼女さん、青が好きなんですか?」
「はい、私の一番好きな色です」
店員の問いに蒼芽は頷きながら答える……が、視線は指輪に釘付けだ。
「よし、じゃあ俺のチケットの使い道はこの指輪で決まりだな」
「だったら私は……この指輪のペアになるものってありますか?」
「はい、こちらになります」
そう言って店員は隣に置かれていた指輪を取り出す。
デザインはほぼ変わらないが、内側に埋め込まれた宝石は緑色になっている。
「内側の宝石は変更が効きますがいかがなさいますか?」
「いや、このままでいいです。これも緑なので」
店員の問いに対して修也は首を横に振り、今自分が着けている緑色のチャームが付いたネックレスに手を当てる。
「あら素敵なネックレスですね。緑が好きなんですか?」
「いや、そういう訳では……蒼芽ちゃんが選んでくれたから気に入ってると言った方が近いかな」
「修也さんが気に入ってくれたのなら良かったです」
修也の言葉を聞いて蒼芽が微笑む。
「本当に仲が良いのねお2人さん。チケットもお互いのプレゼントに使うほどだし。私だったら自分の趣味に使っちゃうわ」
「夫人は何が趣味なんですか?」
「私はね、陶器を集めるのが趣味なのよ」
「え…………陶器?」
「陶器ってあの……食器とかで使うアレですか?」
陶器集めが夫人の趣味と聞いて修也と蒼芽は唖然とする。
「…………な、なぁ蒼芽ちゃん……それじゃあイベントコーナーの全国陶器市って……」
「い、いやいやまさか……いくら何でもそんな個人的な趣味で開催できるものじゃないと思うんですけど……」
「普通ならそうだろうけど……夫人は資産家である姫本家の人間でこのモールの経営者だぞ? あり得ないとは言い切れん」
夫人に聞こえないように小声で話し合う2人。
「え、えっと……じゃあ夫人の用事って1階の……」
「そうそう! 今全国陶器市をやってるのよね~! あなたたちも興味があったら是非覗いてみてね」
「あ、はい…………」
それとなく聞き出そうと試みた修也だが、夫人のこの回答からはっきりと判別するのは難しい。
屈託のない笑顔で言う夫人から真相を直接聞き出す訳にも行かず、修也と蒼芽は曖昧に頷くだけに留めておくのであった。
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