守護異能力者の日常新生活記 ~第7章 第1話~

「黒沢さん黒沢さん」
「む? いかがなされましたか白峰殿」

週明けの朝のホームルーム前の時間、白峰さんが黒沢さんに話しかける。

「黒沢さんはじゃんけんはご存じですわよね?」
「当然ですぞ。グー・チョキ・パーの3つを使って勝敗を決める遊びのことですな」
「その通りです。それぞれの3すくみの関係を使って勝敗を決める、勝ち・負け・あいこの確率が完全に3分の1となる遊びのことです」
「して、そのじゃんけんがどうかしたのでありますか?」
「私、この3すくみについて少々思うことがあるのです」
「ふむ……では話を伺いましょうか」

思いつめたような白峰さんの表情を見て黒沢さんも真面目な表情になり、自分の席に座っている白峰さんに向かい合う形で座る。

「グーは石、チョキはハサミ、パーは紙でたとえられるのは黒沢さんもご存じかと思われます」
「もちろんですぞ。誰が言い始めたかは分かりませぬが、それ自体は自分も熟知しておりまする」
「それでハサミで石は切れないのでグーはチョキに勝てる……これは良いのです」
「まぁハサミの刃が欠けてしまうのが関の山ですな」
「逆に紙はハサミで切り刻まれてしまうのでチョキはパーに勝てる。これも理解できます」
「ハサミで切れない紙というものも存在するようですが……そんな特殊な例を出していてはキリがありませぬからな」
「しかし! 紙は石を包み込むからパーはグーに勝てる。これは意味が分かりません! 何故包むだけで勝つことになるのですか!!」

そう言いながら机を強く叩く白峰さん。

「せめて包んで握り潰すなどなら分かるのです! しかし、包まれただけで負けを認めるなど愚の骨頂! その程度の弱い意思でどうするのです!」
「『石』の話だけに『意思』という訳ですかな?」
「えぇその通りですわ! 石もただやられるだけでなく中から突き破るなどすればよろしいでしょうに!!」
「なるほど……他の2つは相手を破壊しているのにパーとグーだけはそうでないのが不満なのですな白峰殿は」

白峰さんの主張に対し、黒沢さんは頷きながら要点を纏める。

「仰る通りです。先程も言った通り握り潰すのであれば納得できるというのに……」
「しかし紙の方が先に負けて破れてしまいそうですな」
「ではやはりパーとグーではグーの勝ちということに……」
「まぁお待ちくだされ白峰殿。ここはひとつ、自分が白峰殿も納得できるようなパーがグーに勝つ理由を提唱しようではありませぬか」
「な、なんですって!? そのようなことが可能なのですか黒沢さん!」
「いかにも。グーがパーに勝つという新説を打ち出すのは自分の話を聞いてからでも遅くないと思いますぞ?」
「そこまで言うのであれば……お聞かせくださいますか黒沢さん。あなたの言う、パーがグーに勝つ理由というものを」
「どぅふふふふ……お任せくだされ」

期待に満ちた表情の白峰さんに対し、黒沢さんは自信たっぷりに返すのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第7章 第1話~

 

「白峰殿、まずは『相手を破壊すれば勝利』という固定概念を取り払うのです。昨今では相手を倒さずとも勝利を収めるという話も少なくありますまい」
「しかし倒れたふりをして油断を誘って一撃死攻撃を放ってくるというとんでもないラスボスもいる以上、やはり戦闘不能になるまで徹底的に叩きのめすべきだと私は思いますわ」
「あぁそやつに関しては情け容赦なく最後まで攻撃の手を緩めず叩き込めばよろしい。しかし今回はじゃんけんの話ですぞ。白峰殿は『北風と太陽』の話はご存じですかな?」
「えぇ。北風と太陽が、どちらが道行く旅人のマントを剥いて裸体を晒しだせるか競うというイソップ童話のうちの1つですわよね?」
「然り。先攻の北風が吹きすさぶ風で無理やりマントをはぎ取ろうとしたけど、旅人は寒がって頑なにマントを離さなかった。逆に太陽は茹だるような熱気を旅人にぶっかけ、自らマントを脱がせることに成功した……というお話であります」

白峰さんの回答に深く頷く黒沢さん。

「この『北風と太陽』の話は、力で無理やり服従させるのではなく、自ら服従する意思を持つように仕向けることの重要さが説かれております」
「なるほど……制圧して屈服させるよりも説得して降伏させる方が良い場合もあるという訳ですわね? ただ私、前者のシチュエーションの方がそそる時もあるのですが……」
「それはそれで良きものなのは自分も否定しませんぞ。ただ『そういう場合もある』というくらいの考えを持っていただければ結構」
「分かりましたわ。それで、今の話がじゃんけんのグーとパーにどう繋がりますの?」
「白峰殿……想像してみてくだされ。幾度も他人に裏切られ固く心を閉ざしてしまった1人の青年。そんな青年に無償の愛で優しく包み込みその固く閉ざされた心を柔らかく解してあげるまた別の青年というシチュエーションを」
「はぅあっ!? そ、それは何とも垂涎ものの展開ですわね……!」

黒沢さんの言葉を想像した白峰さんが頬を紅潮させ口元を緩ませる。

「そして置き換えるのです。心を閉ざした青年をグーに、その心を解す別の青年をパーに!!」
「ほあああああ!? そ、それはっ……! それはあああぁぁぁぁーー……!!」

黒沢さんの口調が強くなるにつれて、白峰さんが海老反りになってビクンビクン震えだす。
お子様にはちょっと見せられない光景だ。

「…………いかがですかな白峰殿? これならパーがグーに勝てると言われても納得できるというものでしょう」
「えぇ、えぇ! それならパーがグーに勝てるのも理解できますわ!」

したり顔でメガネの位置を整える黒沢さんに対して興奮した面持ちで詰め寄る白峰さん。

「……白峰殿、これでまた我々は1つ経験を積みましたな」
「ですわね黒沢さん。じゃんけんとはなんと奥深き遊び……」

うっとりとした表情で天を仰いでいた白峰さんだが、突如表情を戻す。

「あの……土神さん? そろそろ突っ込んでいただきたいのですが」
「土神殿の突っ込みが無いと場がしまらないというのは以前にも申したと思うのですが」
「俺ありきで話を進めるんじゃねぇ!!」

真顔でそんなことを言いだす白峰さんと黒沢さんに修也はたまらず突っ込みを入れる。

「はぁ…………やはり土神さんの突っ込みは癒されますわぁ……!」
「土神殿の突っ込みがあるからこそ我々も安心してボケられるというものですぞ」
「アンタらボケる意思ねぇだろうが!!」
「『石』の話だけに『意思』という訳ですかな?」
「やかましいわ!!」

話していくほど表情が生き生きしていく2人を見て修也は呆れるしかできない。
スケルスによるいざこざも落ち着きようやくいつもの日常に戻ってきたのは良いが、これを『普通』として良いのか修也としては悩ましい所だ。

「全く……俺の求めてた普通の日常ってのはこういうんじゃないんだよ……」
「話は聞かせてもらったよ!!」

頭を抱え修也が呟くと同時に教室の扉が勢いよく開いた。
そして教室に入ってきたのは……言うまでもなく担任の陽菜だ。

「おはようございます普通の日常から一番遠くかけ離れてる人」
「はいおはよう土神君。今日も突っ込みのキレが素晴らしいね!」

棘のある修也の言葉をさらりと受け流し陽菜は教壇に立つ。

「そんな普通の日常を求める土神君にタイムリーなお知らせだよ! 私がこれぞ普通の学校生活と言えるイベント情報を持ってきた!」

そう言って陽菜は力強く教壇を叩く。

「今日のテーマはコレ! 学園祭についてのお知らせだよ!!」
「あれ、ホントに普通のイベントだ……」

てっきりまた頭のネジが何本か吹き飛んだような話を持ってくるのかと修也は思っていたのだが、陽菜が言い出したのは学園祭についてだった。
確かに学校生活における定番のイベントと言えるだろう。
陽菜にしては至極まともな情報に修也は肩透かしを食らう。

「学園祭かぁ……ここは今の時期にやるんですね。俺てっきりそういう系のイベントは秋頃にやるもんだと思ってました」

実際前の学校では学園祭ではなく文化祭と名前が違っており、文化の日と合わせて秋に開催されていた。
各クラス色んな出し物や展示をしていて、準備などでは賑やかな空気になっていたと修也は記憶している。
ただ……修也はその文化祭には参加していなかった。
このようなイベントは全員参加が基本なのだが、遠巻きにされ除け者にされていた修也が入り込める余地が無かったせいだ。
クラスメイトだけでなく教師までもが修也が参加してこないことに何も言及せず、むしろそれが当然であるかのように準備を進めていたのだ。
それならばと修也は文化祭当日は学校に行きすらしなかった。
参加したところで楽しめる要素が微塵も存在しないからである。
それでも誰も何も言ってこないという、彩りの全くない記憶しか修也には無い。

(……何か嫌な記憶まで呼び覚まされてきたな……)

思い出したくないことを思い出してしまい、修也は憂鬱になる。

「まぁ開催時期は学校によってまちまちだろうからね。よそはどうだか知らないけど、ここではこの時期にやるのにはちゃんと理由があるんだよ?」
「理由?」
「うん、理事長が『こういうみんなが協力するイベントは早めにやっておいた方がクラスの団結力が強くなるから』って言ったらしいよ」
「なるほど……あの理事長が言いそうなことだ」

常に生徒のことを考えている理事長ならではの理由に修也は納得し深く頷く。
入学・進級してある程度経ち、人間関係もある程度構築できているであろうこの時期にそういうイベントを行うという理事長の考えは理にかなっている。

「しかし先日球技大会やったばかりなのにイベント詰め込み過ぎじゃないですかね?」
「楽しいものはいくらやっても良いじゃん!」
「楽しく……なるのかなぁ……」

引っ越し前のことを思い出してしまったせいで修也はあまりプラスの印象を持てない。

「何を言ってるんですの土神さん。楽しく『なる』のではありません。楽しく『する』のですわ!」
「白峰殿の言う通りですぞ土神殿! 楽しいものになるか否かは参加する我々次第! ならば全力で楽しくするのが筋というものでしょうぞ!!」
「!」

そんなやや後ろ向きになっていた修也に活を入れるかのようにそう力強く主張する白峰さんと黒沢さん。
その言葉に修也はハッとさせられる。

(そうだな……それに、ここでなら絶対に楽しいものになる)

それは期待ではなく確信だ。
今の修也の隣には蒼芽がいる。
蒼芽がいて楽しいイベントにならないわけがない。
蒼芽以外にも仲の良いクラスメイトもいる。
違うクラスや学年・学校にも仲の良い人がいる。
少なくとも引っ越し前のようなことにはならないだろう。

「2人とも良い事言った! ならば全力で楽しい学園祭にするためにもクラスの出し物を何にするかじっくり話し合おうじゃないか!」
「承りましたわ!」
「御意!」

陽菜の言葉に力強く頷く白峰さんと黒沢さん。

「私としましては基本かつ王道で執事喫茶とかが良いですわね。もちろん全員ロマンスグレーの髪と髭にして渋めのメイクを施してうふふふふ」
「執事喫茶には異は唱えませぬが自分はベクトルを変えて新人風もしくはお手伝いしている少年スタイルなぞやってみたいですなどぅふふふふ」
「私は全ての原点を追及するという意味でブルマ喫茶なんか良いと思うんだけどねぇ。もちろん店員は全員ブルマで」
「お前ら自分の欲望を最優先するんじゃねぇ!」

怪しい笑みを浮かべながらそれぞれの希望を述べる3人に修也は突っ込みを入れる。

「というかそもそも喫茶店って決めるのも早計じゃないか? 確かに定番っぽいイメージだけど」
「あと定番と言えばお化け屋敷とかそういう系か?」

修也の呟きに彰彦が追随する。

「なるほど、お化け役を全て渋いおじさま系に統一したお化け屋敷というもの乙なものですわね」
「ショタっ子が群れを成して迫りくるお化け屋敷……想像しただけで涎が……じゃなくて寒気が止まりませぬな」
「右を見ても左を見てもブルマだらけのお化け屋敷とか作ったら多分全国初になれるね!」
「だから欲望を最優先するなっつの! 先生に至ってはそれもうお化け屋敷じゃねぇよ!!」

ネタを引っ張る陽菜たちに修也は眩暈がしてきた……気がする。

「でも普通の喫茶店とかお化け屋敷じゃつまらなくありませんか?」
「それに定番ゆえに他のクラスでもこれらの案が採用されるやもしれませぬ。となると差別化は避けては通れますまい」
「それは、まぁ……そうなんだろうなぁ」

黒沢さんの言う通り、出し物が被った場合は個性が必要になってくるだろう。
このクラスならではの特色が無くては集客は望めない。

「このクラスならではの特色と言えば……やっぱり土神君かしら」
「いやちょっと待て爽香、それはおかしい」

おかしなことを言いだした爽香に修也は待ったをかける。

「いやそうでもないぞ? 2-Cは土神のいるクラスだって学校内で周知されてるし」
「えぇ……」

しかし彰彦がもたらした追加情報に唖然とさせられる。

「じゃあ土神の特徴を生かした出し物をやるんだな? でもそれって何なんだ?」
「土神と言えば動体視力と反射神経と護身術だが……身を守る講習会でも開くか?」
「いやそれ俺以外何やるんだよ」

戒の疑問に出した塔次の回答に呆れる修也。
しかし少し嬉しくもあった。
塔次は修也の特徴として『力』のことを挙げなかった。
どうしても『力』のことが付きまとう修也としては、そういったもの抜きで自分を見てくれる存在というのは貴重かつありがたいのだ。

「それでは今までの話を纏めますと、まず土神さんにイケオジメイクを施しまして……」
「それでいてショタっぽい言動を身に付けていただきまして……」
「そしてブルマで接客する喫茶店で決まりだね!」
「決まり、じゃねぇよ! どこにも需要ねぇよそんなゲテモノ喫茶店!!」

おかしな意見を通そうとする3人を修也は全力で止めるのであった。

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