守護異能力者の日常新生活記 ~第7章 第3話~

「……いや、マジでどうすんだよコレ……」

放課後、修也は頭を抱えながら廊下を歩いていた。
修也の悩みの種はもちろん先程陽菜が言い出した学園祭での出し物のことだ。

「学園祭でホストだのホステスだのなんざ聞いたこと無ぇぞ……毎度のことながらなんて提案をしやがるんだあの人は」

陽菜の全く悪びれない笑顔が修也の脳裏をよぎる。

「……あ、でも待てよ? もしかしたら俺が知らないだけでそこまで突飛な発想じゃないのかもしれないな?」

修也は前の学校での文化祭は全く参加してこなかった。
それに全国のこういったイベントの出し物の傾向も知らない。
白峰さんや黒沢さんも大して驚いた様子を見せなかったし、可能性が無いとは言いきれないのかもしれない。

「いや、でも……なぁ?」

あの3人を基準にしてはいけない。
引っ越してきてからの学校生活はそこまで長くは無いのではあるが、そのことを修也は散々思い知らされてきた。
他のクラスメイトもこれがおかしいことだと思わなかったのではなく、既に諦めの境地に至っていた可能性もある。

「……あっ! 修也…………さん……?」

その時修也の姿を見つけた蒼芽が笑顔で駆け寄ってきたが、修也が難しい顔をしていることで疑問顔に変わっていく。

「ん……? おぉ蒼芽ちゃんか」
「お疲れ様です修也さん。あの……どうかしたんですか? 何か難しい顔してますけど」

挨拶もそこそこに、蒼芽は自分が抱いた疑問を修也に尋ねる。

「いや、まぁ……うーん…………」

蒼芽の質問に対しても修也は煮え切らない態度を変えない。

「また何か厄介ごとでも起きたんですか?」
「うんまぁ……厄介ごとと言えば厄介ごとか」
「そんな、学園祭も近いのに……」
「その学園祭のことなんだけどな、厄介ごとは」
「え?」

修也の言葉に最初は不安そうな表情をしていた蒼芽だが、次の言葉で怪訝そうな表情に変わる。

「なぁ蒼芽ちゃん。君をごく普通の女子高生と見込んで、あくまでも一般的な概念で答えてほしいんだが……」
「はい、何でしょうか?」
「学園祭的なイベントでホストやホステスをやるって割とよくあることなのか?」
「は…………はい!?」

前置きの言葉で身構えていた蒼芽だが、修也の予想外の質問に何とも言えない顔で素っ頓狂な声をあげる。

「い、いやいやいやいや!? そんなの私聞いたことありませんよ!?」
「あ、良かった。一般的な概念でもそんなものは無かったか」
「そりゃそうですよ。普通学校のイベントでそんな夜のお店みたいなことしませんって」
「だよなぁ……もう俺、普通って何なのかよく分からなくなってきたよ」
「あ、あはは……」

疲れた表情で歩く修也の横顔を見ながら蒼芽は苦笑いを浮かべるのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第7章 第3話~

 

「でもどうして急にそんな話に……あの、まさかとは思いますけど」
「うん、そのまさか。俺のクラスではホスト&ホステス喫茶をやることに決まったらしい」
「え、えぇ……」

修也からもたらされた情報に表情を引きつらせる蒼芽。

「そのせいで色々と頭を悩ませていたってわけ」
「確かにそんなお店をやるなんていきなり言われたら悩みもしますね……でも、『色々』って、他にも悩む要因があるんですか?」
「まぁな……まず1つ目。華穂先輩になんて説明すりゃいいんだ」
「そ、それは……」
「そろそろ本気で先輩が笑い過ぎの呼吸困難で病院に運ばれかねんぞ。もしそうなったら俺は理事長や夫人に先輩のご両親、美穂さんに何て言えば良い?」
「どうにかはぐらかすことは……できないでしょうね……」

蒼芽も華穂がどれだけ修也のクラスの出店が何になるか楽しみにしていたのを見て知っている。
そんな華穂に適当にごまかすという手段は通じないだろう。
かと言ってそのまま正直に話していいものかどうか非常に悩ましいという修也の気持ちは痛いほど分かる。

「そして2つ目。俺そんな衣装持ってない」
「え? 普通に制服じゃダメなんですか?」
「学校の制服じゃあらしくないんだとさ」

あの後陽菜が『ホスト&ホステス喫茶ならそれらしい衣装も用意しないとね!』などと言いだしたのだ。

「流石に強制ではないんだけど、普通の制服だと逆目立ちしそうでな」
「修也さん目立つのあまり好きじゃないですもんね……でもわざわざ衣装を用意してくる人なんてそうはいないんじゃないですか?」
「……わざわざ自作することまで検討しているやつもいるのに?」
「え、えーと……」

修也の問いに言葉が詰まる蒼芽。

「でも、男の人だったら普通のスーツでもそれっぽく見えるんじゃないですかね?」
「それが無いから困ってるんだよ。だからと言ってこれだけの為に買うのも何か違う。金はあるけど」

修也は様々な事情からお金が貯まりに貯まっているので、スーツの1着くらいなら安い物であれば買うのは楽勝だ。
しかしいくら安いとはいえ1回しか出番のない物の為にそれなりのお金を払うのはもったいない気がする。

「あっ! だったらお父様に送ってきてもらうとかはどうですか? 1着くらいは使わないものを持ってるでしょうし」
「まぁ大体のやつらはそうするみたいだが……俺の場合は無理だ。現時点で俺の方が体がデカい」
「あ……確かにそれだと無理ですね……」

妙案を閃いたとばかりに提案を出した蒼芽だが、即却下される。
極端に差があるわけではないが、それでも修也にはサイズが合わないのだ。
もし無理に着て破いてしまったりしたら笑えない。

「うちには男物の服がそもそも無いからお貸しできませんし……」
「……」

蒼芽の呟きを修也は無言で返す。
舞原家には父親がいない。
経緯は知らないし知る気も無いし、そもそも部外者である修也が踏み込んではいけないことのような気がする。

「……いっそのことホステスの方向で」
「やめい! どっちにしろそんな服無いだろ!!」
「あはは、分かってますよ冗談ですよぅ」

神妙な顔でおかしなことを呟いた蒼芽に突っ込みを入れる修也。
蒼芽も初めから冗談のつもりだったようで笑って受け流す。

「まぁ本当にどうにもならなくなったらモールで買うさ」
「あ、その時は私が見立ててあげますよ!」

冗談っぽい話の流れに蒼芽がしてくれたものの、これ以上この話を続けて舞原家の父親の話に戻ってしまうと気まずいので修也はさっさと打ち切ることにする。
蒼芽が修也の意図を察したのかどうかは分からないが、乗って来てくれた。

「で、最後の懸念なんだが……俺、ホストやるようなヴィジュアルしてな」
「それは無いですね」

最後の問題として自分の容姿を挙げようとした修也だが、食い気味に蒼芽に否定された。

「いやそんなかぶせて否定せんでも」
「こういうのは自分がどう思うかよりも周りがどう思うかなんです。私は修也さんは十二分に素敵な人だと思ってますから」
「いつの間にか二分程増えてないか?」
「修也さんですから」
「答えになってねぇ」

何故か自信満々に胸を張って言う蒼芽に修也は突っ込む。

「それに、不本意かもしれませんが修也さんは今物凄く人気者じゃないですか。そういう職業の人って一番大事なのはそこだと思いますよ? 見た目が良くても内面が酷いとやっていけないと思います」
「……確かに何度も通ってきてくれるリピーターの存在は大事なんだろうな。1回きりで後が続かなきゃ仕事として成り立たないだろうし」
「そういう意味では修也さんは天職じゃないですかね?」
「うーん……いややっぱり俺には向いてない。口八丁手八丁でおだて上げて高い酒注文させるとかガラじゃねぇ」
「それだけが仕事じゃないと思いますけど……まぁ学園祭の出し物としてやるくらいならともかく、私も本当に就職はしてもらいたくないですね」
「だろう?」
「だってそういう人たちってお店では良い顔してるけど私生活はかなり荒んでて一緒に暮らしている彼女さんに暴力振るったり外の女の人とも関係持ったりしているわけで」
「いや全員が全員そうってわけじゃないだろ。それに少なくとも俺は蒼芽ちゃんに暴力振るったこと無ぇし今後も振るうつもりは毛頭無ぇぞ」
「私生活も別に荒んでませんもんね」
「それはホント蒼芽ちゃんのおかげだよ。いつもありがとな。昼休みの時もさりげなくフォローしてくれたし」
「いえいえ、これくらいならお安い御用ですよ」

礼を言う修也に対し、今度は本当にそんな答えを返す蒼芽なのであった。

 

その後何事もなく舞原家に着いて夕飯を終え、後は風呂に入って寝るだけとなった時のこと。

「…………ん? 着信が……」

修也のスマホの画面が着信が来ていることを表示していた。
発信相手は……華穂だ。

「……何だろう、嫌な予感しかしない」

スマホの画面を見て頬を引きつらせる修也だが、出ない訳にはいかない。
修也は恐る恐るスマホを手に取り、着信に出る。

『……あっ、もしもし土神くん? こんばんは!』
「こんばんは先輩。どした急に?」
『いやー耳寄りな情報をゲットしちゃってねぇ。すぐにでも土神くんに確認しなきゃいけないなと思ったわけで』
「先輩、世の中には知らない方が幸せなことも思いのほかあるもんだぞ」

華穂の言葉を聞いて疑惑が強まった修也は先回りして釘をさす。

『それでおじいちゃんから聞いたんだけど、土神くんのクラスはもう出し物決まったんだって?』

……だが修也の気遣いは全くの徒労に終わってしまった。

「人の話はちゃんと聞こうぜ先輩……理事長も何で普通に喋っちゃうかなぁ」
『別に秘密にするようなことでもないじゃない。よくある家族団らんでの世間話だよ』

嫌な予感が見事的中してしまいため息を吐く修也に華穂が窘める。

『……で、何やることに決まったの?』
「あれ、理事長から直接聞いてないのか? そこまで聞いといて」
『いやーやっぱりこういうのは土神くん本人から聞かないと!』
「何が『やっぱり』なのかサッパリ分からんのだが……」
『そういう訳だから早く教えて! ほら早く早く!!』

電話越しの声でも華穂の期待に満ちた表情が容易に想像できる。

「あーもぅ…………どうなっても責任は取らんぞ……」

これはごまかしはぐらかしても執拗に食いついてくる。
修也から話を聞かない限り絶対に引いてくれない。
なので修也はそう前置きしつつ、今日の授業後のホームルームで何があったか話すことにした。

「………………という訳なんだが……あれ? 先輩?」

てっきり華穂の大爆笑が電話口から聞こえてくるかと修也は思ったのだが、意外にも電話の向こうの反応は何も無い。

「…………? いや違うな、電話の遠くで何か音が……」

スマホを強く耳に押し当てて聞いてみると、遠くで何かが転がったりぶつかるような音が何度も響いている。

「もしもし? おーい、先輩?」

呼びかけてみるが華穂からの返事は無い。

『…………もしもし、電話のお相手は土神さんで合ってますでしょうか?』

そんな時間がしばらく流れた後、修也のスマホから華穂によく似た声が流れてきた。

「ん? 先輩……じゃないな。美穂さんですか?」

声こそは似ているものの言葉遣いが華穂とは全く違うので修也はそうアタリをつけて電話の主に尋ねてみる。

『はい、そうです。先程姉さんの部屋から何か大きな音が聞こえて来て、何事かと思って部屋の中を見てみたら姉さんがお腹を抱えて部屋の中を転がっていたもので……』
「あ、あぁー……」

美穂から状況を聞いて修也は表情を引きつらせる。

『差し支えなければ何の話をしていたのか教えていただきたいのですが……』
「いやまぁ、今度俺たちの学校でやる学園祭での出し物の話だったんですけどね。俺のクラスではホスト&ホステス喫茶をやることになりまして。その経緯を話したらそんなことに」
『まぁ、そうなのですね。時々姉さんから学校の話は聞きますけど、とても楽しそうで羨ましいです』

修也の説明に感心した風の口調で相槌を打つ美穂。
やはり美穂は華穂のように大笑いはしない。

『ところで土神さんのクラスがそのような出し物をするということは……戒さんもホストの姿で接客していただけるのでしょうか?』
「まぁ……そうなるでしょうね。アイツに接客ができるかどうかは分かりませんが。まぁそれは俺も同じか」
『ふふ、誰にでも初めてはあるものですよ。頑張ってください』
「美穂さんにそう言われると何だかやれそうな気になってきますよ。あ、でもその前に解決しとかないといけない問題があるな……」

華穂に話したことで1番大きな問題は解決したが、まだ懸念事項が残っていることを修也は思い出す。

『何か問題があるのですか?』
「あぁいや、大したことじゃないんですけどね。俺、適切な服を持ってなくてですね……」
『そうなのですか?』
「他のやつらは父親からスーツを借りるなり何なりするらしいんですが、俺今居候で父親が近くにいないうえにそもそもサイズが合わないんですよ」
『なるほど、そういうことですか……』

修也の言葉に相槌を打ち、美穂は何かを考え込むかのように黙り込む。

『……そういうことならお力になれるかもしれません』

そしてしばらく間を開けた後、そのようなことを言いだした。

「え?」
『土神さん、今度のお休みの日のご都合はいかがでしょうか?』
「今度の休みですか? まぁ今の所予定は無いですが」
『でしたらうちにいらしていただけないでしょうか?』
「それは構いませんが……何をするつもりなんですか?」
『それは来ていただいてからのお楽しみということで』
「はぁ……」

よく分からないが美穂は今の修也の悩みを解決するアイデアが浮かんだらしい。
美穂ならとんでもないことにはならないだろうし、話を聞いてみるのも良いかもしれない。

「分かりました。じゃあ今週末にお邪魔させていただきます」
『ありがとうございます。それではこれで失礼させていただきます。私はそろそろ姉さんを落ち着かせないといけないので』
「え、まだ笑い転げてるんですか先輩」
『えぇ、お恥ずかしながら……ほら姉さん、いくら自分の部屋だからっていつまでも笑い転げてないで。はしたないから』
『だ、だって……だって! 学園祭でホストとかホステスとか、どうやったらその発想になるの!? もうおかしくておかしくて……!』
『もう、姉さんったら……すみません土神さん、このような姉で』
「いえいえ、俺は気にしてませんので」
『ありがとうございます土神さん。それではおやすみなさい』

その美穂の言葉を最後に通話は切れた。

「何を思いついたんだろうな美穂さん……まぁ週末になれば分かるか」

とりあえず懸念事項が全て解決できる目途が立ったことに修也は安堵のため息を吐くのであった。

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