守護異能力者の日常新生活記 ~第6章 第25話~

「…………とまぁ今日はこんなことがありまして」

その日の夕食の席で修也は紅音に先程あったことを話す。

「……最近妙な事件が多いとは思ってたけど……そんなことが起きていたんですね」
「いや俺もビックリですよ。あのブログの闇の組織の陰謀説も完全に的外れじゃなかったとは……高代さんが聞いたら得意気にドヤ顔しそうだなぁ」
「あ、あはは……」

修也の呟きに苦笑いする蒼芽。

「でもその主犯の人が自首して捕まったのならもう心配はなさそうですね」
「いや……それはどうでしょう」

微笑みながら言う紅音に修也は難しい顔で返す。

「由衣ちゃんの誘拐犯はスケルスに焚きつけられただけで元々そういう気質があったわけですし、駅前の鉈男は完全に無関係でした」
「そう言えば今日の相川さんの所に来た人も1回目は普通でしたね」
「うん、初めは普通のクズだった。で……多分あの後唆されたんだろうな。救いようのないドクズにクラスチェンジして帰ってきた。全くはた迷惑な……」
「それでも修也さんは私と由衣ちゃんを守ってくれましたよね。ありがとうございます」

道場破りの男に対して恨み言をブツブツと呟く修也に対し、蒼芽は笑顔で礼を言う。

「いや俺としたことが冷静になれなかったな。他にもやりようがあっただろうに」
「そうですか? 十分冷静だったと思いますけど」
「蒼芽ちゃんに矛先を向けたアイツがどうにも許せなくてな……」
「ということは修也さんは私の為に全力で怒ってくれたってことですよね。それはそれで嬉しいものですよ」
「……怒りで感謝されることってあるのな」

微笑んで修也を見つめてくる蒼芽に修也は何だか気恥ずかしくなって目線を明後日の方向にもっていく。

「良かったわね蒼芽。修也さんに愛されてるわよ?」
「あ、愛っ!?」
「ごふっ!!?」

唐突に飛び出した紅音のぶっ飛び発言に、今回ばかりは蒼芽だけでなく修也もむせ返る。

「お、お母さん何言って……」
「誰かの為に怒れるってなかなかできないことなのよ? それだけ大事にされてるってことよ」
「まぁ……蒼芽ちゃんは親以外で俺のこの『力』を目の当たりにしても引かなかった初めての人ですから大事な人で間違ってはいませんね。それに……」

そこで修也は一旦言葉を切り自分の手元に目線を下ろす。

「……蒼芽ちゃんみたいに『力』を理解してくれる人がそばにいないままだったら、俺もアイツみたいに道を踏み外していた可能性もあり得なくはなかったわけで」

修也とスケルスには『力』のせいで理不尽な目に遭ったという共通点がある。
そしてスケルスがああなった以上修也も同じ末路を辿ることも十分あり得た。

「でも修也さんはそうならず、今や町の英雄とまで言われるほどになったじゃないですか」
「それは結果的にそうなっただけで……」
「結果論で良い……と前にも言ったはずですよ?」

まだ言い淀む修也に微笑みかける紅音。

「たらればの話をしても仕方がありません。修也さんは今ここにこうして私たちと生活している。それが大事なことなんです」
「……そう、ですね」
「そしてそのまま蒼芽と幸せな未来を築いていく。それも大事なことなんです」
「お母さん!?」
「……うん、それでこそ紅音さんです」

良い話だったのにオチをつけていくいつもの紅音のスタイルにある意味安堵する修也であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第6章 第25話~

 

「全くお母さんはいつもいつも……」

夕食後、風呂に入ってあとは寝るだけとなった時、同じく風呂に入った蒼芽が修也の部屋にやってきた。
これは修也が舞原家に引っ越してきてからほぼ毎日やっていることである。
そして紅音のぶっ飛び発言に蒼芽が頬を膨らませるのもお決まりになってきている。

「でもこれぞ日常って感じがするんだよなぁ」
「違いますよ修也さん!? これを日常にしちゃいけません!!」
「いや、さっきまで滅茶苦茶非日常だっただろ? それも手伝っていつもやってるやり取りにありがたみを感じてなぁ」
「あ……確かにあれは……」

道場破りの男の襲撃にスケルスとの対峙。
どちらもとても日常と言えるようなものではない。

「あ、そう言えば修也さん。どうしても気になることがあるんですが」
「ん? 俺のスリーサイズとか?」
「え? 教えてくれるんですか?」
「…………測ったこと無いから分かんねぇや……」

軽くウケ狙いでボケてみたのだが、素で切り返されて撃沈する修也。

「じゃあ今度測って教えてくださいね」
「その時は蒼芽ちゃんも教えてくれよ?」
「はい、修也さんも教えてくれるなら」
「……ダメだ、勝てる気がしねぇ」

せめて一矢報いようともう一度切り込んでみたが再び余裕で返されてしまった。

「というかスリーサイズ教えるのとか抵抗無いの? 言い出した俺が言うのも何だけど」
「体重はちょっと恥ずかしいですけど、それ以外は修也さんなら別に……」
「……とりあえず本題に戻ろうか。脱線させた俺が言うのも何だけど」

どうやってもこの手の話し合いには蒼芽に敵いそうもない。
修也は諦めて話の軌道を修正する。

「で、気になることって?」
「ええと……修也さん、あの人の力が修也さんには効かなかったのはどうしてなんですか?」
「え?」
「あの人は本当に修也さんを熱くさせて由衣ちゃんを誘拐した人みたいに意識不明にするつもりでした。だからこそ効かなかったことに驚いたんだと思うんですけど」
「あぁ、あれな……マジで新塚には感謝だな」
「え、新塚さん?」

千沙の名前が出たことに不思議そうに首を傾げる蒼芽。

「そうか相川の家でお茶飲んでた時、蒼芽ちゃんと由衣ちゃんは少し席外してた時があったな」
「あ、はい。由衣ちゃんがお手洗いに行きたいと言って私もついでに行ってた時ですね」
「その時の話なんだが……」

 

「なーなー兄さん、兄さんの『力』って瑞音ちゃんと何か違いあるのか?」

蒼芽と由衣がトイレで席を外した時におもむろに千沙がそう尋ねてきた。

「違い? 俺は『硬くする』で相川は『重くする』という違いがあるだろ」
「それ以外にも何か違う点とかがあったら面白ぇなーって思ったんだよ」
「そうは言ってもなぁ……」

今までこのような『力』を持っている人と会ったことすら無いのだ。
違うところがあるかどうかなど分かる訳がない。

「そういや土神、お前の『力』って気体や液体にも使えるのか? 私は使えないんだよな」
「え、そうなのか? 俺普通に使えるぞ」

そう言って修也は以前蒼芽に見せた時と同じように空気を拳大に固めて千沙の手に乗せる。

「おぉーっ、すげぇー!! 見えないのに何かが乗ってる感触がある!!」

今まで体験したことのない事象にはしゃぐ千沙。

「マジでか。空気に『力』使うってどういう感覚なんだ?」
「形をイメージして使うとその形に固まるんだよ。所詮イメージだから複雑な形は無理だけど」
「……………………ダメだ。やってみたけど何も起きねぇ」

瑞音は修也の言ったことを実践してみようとしたようだがうまくいかなかったらしい。

「あーでもそうか……重い空気とか重い水ってどんなんだって話だよな」
「硬い空気も大概だがな……硬い水は氷でイメージつけやすいが」
「確かに……にしても似たような力だと思ってたけど違うところもあるんだなぁ」

そう言いながら修也は『力』を解除して元に戻す。

「あっ、消えた。もうちょっとこの新感覚を楽しませてくれよ兄さーん」
「ずっと使い続けるのは疲れるんだよ。それに俺が直接触れてないと効果は無くなるし」
「え、そうなのか? 私は手を離しても効果は続くし、時間差で発動させることもできるぞ」
「……マジ? どうやってんの?」
「時間差の発動は『力』を切り離して設置してリモコンでスイッチを入れる感覚だな」
「…………ダメだな、俺は手が触れてる間しか効果が出ない」

瑞音の言う通りにやってみたのだが、どうしても手が離れた瞬間に『力』の効果が切れる。
確かに千沙の言う通り、同じような『力』ではあるが細かい所に結構違いがあるようだ。
そのことに修也は感心する。

「じゃあさじゃあさ、兄さんと瑞音ちゃんの力を混ぜたらどうなるんだ!?」
「混ぜる?」
「そうそう、兄さんの『力』で硬くしたものを瑞音ちゃんの『力』で重くしたらスゲェ必殺技ができるんじゃねぇかな!?」
「何で必殺技にこだわるんだお前は……でも、ふむ……」

千沙の言うことに呆れつつも修也は少し興味が湧いた。

「例えばこの大福に『力』を使って……」

そう言って修也はお茶請けとして出されていた大福に『力』を使う。
当然大福は鉄のように硬くなる。

「そこからさらに私が『力』を使うわけか」

そう言って硬くなった大福に瑞音が手を添える。

「…………あれ?」

大福をつまんで持ち上げてみた修也だが、重さが変わったようには思えないことに首を傾げる。

「普通の大福と変わらんな?」
「えー? 瑞音ちゃん本当に『力』使ってんのかー?」
「ああ、本来ならダンベルくらいの重さになってるはずだが……」
「じゃあ今度は先に相川が『力』使ってみろよ」

そう言って修也は『力』を解除する。
瑞音だけが大福に触れて少しすると、大福が少しだけ平たく潰れた。

「……ああ、自重で潰れてんのかこれ」
「柔らかい物に『力』使うとこうなるんだよな」
「いつ見ても面白ぇなーこれ」
「まぁ分かりやすくて助かる。で、ここに俺の『力』を使うと……」

平たくなった大福に修也は『力』を使う。
しかし……

「…………柔らかいままだ。硬くならねぇ」

どれだけ『力』を使っても大福の硬さは全く変わらない。
大福本来の柔らかさだ。
多少重さで潰れてはいるが。

「……つまり『力』の共存はできないってわけだな」
「そして先にかかっている方が優先される。後から別の『力』をかけても効果が出ない、と」
「えぇー……合体必殺技とかできると思ったのになー」

そう言って千沙はつまらなさそうに口を尖らせる。

「んー……だったら兄さん! 兄さんは一部分だけ『力』入れることってできるか?」
「それは腕だけに使うとかそういうことか? それならできるぞ」
「お、そこは一緒か。私も部分的に使うことはできる」
「それなら、右半分は兄さんの『力』で、左半分は瑞音ちゃんの『力』とかできたりするのか?」
「どうだろ? やってみるか」

乗り掛かった船ということでこれも試してみるが……

「……さっきと同じか。先にかけた方だけ効果が出て後からかけた方は効果が無い」
「ちぇー、やっぱ無理なのかー合体必殺技」

どうやろうとも1つの物体に2つの『力』をかけることはできない。
それが分かり千沙は残念そうに項垂れる。

「じゃあ色々弄ったこの大福は責任もってあたしが食べるとするか!」
「いや待て。何でそうなる」
「ほらアレだよ兄さん! テレビでよく『使われた料理は後でスタッフがおいしくいただきました』ってテロップが出るだろ? アレと同じだ!」
「いや単に千沙が食いたいだけだろ」
「そうとも言うな!!」

そう言って実験に使った大福を掴んで口に放り込む千沙。

「……んめぇー!! やっぱ疲れた体に甘いもんは良いなぁー!!」
「この中で一番疲れてないやつが何言ってんだ……しかもそれ俺の大福……」

実に幸せそうな顔で大福を食べる千沙を修也は呆れた目で見つめるのであった。

 

「……ということがあってだな、『力』を使ってる物に対して別の『力』は働かないということが分かったんだ。だからスケルスに右手を掴まれてあいつの力を使われる前に左手を『力』で固めてたってわけ」
「なるほど、それで修也さんには効かなかったんですね」
「あいつの力にまでそれが適用されるかどうか分からなかったからバクチみたいなもんだったけど……うまくいって良かったよ」
「……本当に、うまくいって良かったです……」

修也の言葉に頷き自分の手元に目線を落とす蒼芽。

「ん? どうした蒼芽ちゃん」

蒼芽の言葉に力が無くなっていくのを感じて修也はそう尋ねる。

「前に修也さん言ってたじゃないですか。修也さんの『力』は刃物や銃弾ですら効かない、でも熱や光には全くの無力だって」
「あー……確かに言ったな」

蒼芽と紅音に『力』のことを説明する時にそんなことを言ったのを修也は思い出す。

「そしてあの人の力は触れたものを『熱く』する。熱や光が弱点の修也さんには相性が悪いでしょう?」
「弱点って程でもないが……そりゃ熱した何かで殴り掛かられたら『力』で防ぐことはできないけど」
「それに直接触れられて『熱く』されたら防ぎようがないだろうと……だから、あの時は……」
「…………あぁ……あれは俺も肝が冷えた。ホントうまくいって良かったよ」

実験は瑞音としかしていないし、対象は無生物の大福だった。
他に似たような能力を持っている人がいないので仕方がないと言えばそれまでなのだが、情報が少なすぎた。
それなのにぶっつけ本番で、しかも命の危険まであるのに試すというのはリスクが大きすぎる。

「……もしかしたら……修也さんがいなくなってしまうんじゃないかって、思うと……私、怖くて……」
「蒼芽ちゃん……」

段々声が震えてくる蒼芽に修也はかける言葉が見つからない。

「私、嫌ですよ……修也さんがそばにいないなんて。修也さんがいない生活なんてもう考えられません」
「それは……俺だって……」
「という訳なので私を優しく抱きしめてください」
「…………何で?」

いきなり訳の分からない要望を出されて修也の目が点になる。

「私を不安にさせたからです。あーこれは修也さんに抱きしめてもらわないと不安が治まらないなー」
「えぇ……俺が悪いのかそれ……」

蒼芽の言い分に呆れる修也だが、よく見ると蒼芽の手が震えている。
軽口で誤魔化しているが不安になったのは本当なのだろう。

「はぁ……分かったよ。気の済むまでやったろうじゃねぇか」
「あっ、言いましたね? では早速……」

そう言うとほぼ同時に蒼芽は修也に抱きつく。

「本当に…………本当に、無事で……良かった…………生きてて……良かった……」
「…………」

震える声で蒼芽がそう呟いたような気がしたし蒼芽の顔の辺りがじんわりと濡れているような気がしたが修也は敢えて何も言わず、言われた通りに蒼芽を優しく抱きしめるのであった。

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