守護異能力者の日常新生活記 ~第6章 第26話~

スケルスとの邂逅があった週の土曜日。

「……感謝状。あなたはこの町を守るという活動に際し、多大なるご支援とご協力を賜りました。そのご厚意とご功績に対し、深く感謝の意を表するとともにここに感謝状を贈呈いたします」
「……ありがとうございます」

目の前に立っている、初老だが貫禄のある男性から書かれているであろう文面を読み上げてから感謝状を手渡され、修也はやや緊張しながらそれを受け取った。
今修也は警察署に来ている。
先日優実と不破警部から言われていた、感謝状が授与される日が正式に決定して呼び出されたからだ。
警察署についてすぐの受付窓口に名乗ったところすぐに応接室に通され、間もなくして大きな会議室に連れていかれた。
そして先述の通り感謝状を渡されたという訳だ。
感謝状を手渡された瞬間、カメラのフラッシュを焚く光が何度も辺りを照らす。
町を何度も守ってきた少年に警察が感謝状を授与するという情報を聞きつけて、いくつかの情報機関が駆けつけてきたのだ。

「良いよ良いよーその表情! 流石は町を危機から守った英雄、面構えが違うね!!」

その中には瀬里の姿もあった。
というか最前列のド真ん中に陣取っていつもの調子で写真を撮っていた。

「……何やってんですか高代さん」
「んー? 君が感謝状を受け取るという話を聞いてこりゃいの一番に行かねばということで駆け付けたんだよ。もっと嬉しそうな顔しなよ!」
「でも、マスコミの取材というよりグラビアアイドルの撮影みたいなノリに感じるんですが」
「お、それも良いね! いっそその方向で売り出してみる? その際は私の会社が全面的にバックアップするよ! 上もきっと二つ返事で了承してくれるよ?」
「やめてください」

おかしなことを言いだした瀬里を修也は一言で切って捨てる。

(……流石高代さんを雇用している会社だ……上層部もフリーダムすぎる)

最近は公式が頭おかしいんじゃないかと思うような企業が散見される。
それが企業のスタイルなのだろうから修也がどうこう言える問題ではないのだが、それで経営が成り立つのかと他人事ながら心配になってしまう。
瀬里を受け入れられるだけのキャパシティがあるのか、もしくは瀬里に染められてしまったのか……

「はぁ……全く何をやってるのよ……」

その様子を部屋の隅で見ていた優実が額に手をつき大きくため息を吐く。

「なんだよぅ優実ー! 需要に答えるのが我々ジャーナリストなんだよ!」
「土神君を見世物のように扱うなって言ってんのよ。あとここ職場なんだから過度の馴れ合いは控えなさい」
「えーでも土神君緊張してたみたいだしさぁ。それをほぐしてあげるのも大事だと思うな!」
「それはそうかもしれないけど……」

瀬里も陽菜のように相手を気遣う気持ちからこのような行動に出ていた。
そう言われると優実も強くは言えなくなる。

「それに別にこれは作るとしても公に出版するんじゃなくて舞原さんとかだけに配るつもりだよっ!」
「なら問題ないわね」
「いやあるでしょ」

瀬里の言い分に真面目に頷きだした優実を修也は突っ込み止めるのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第6章 第26話~

 

「お疲れ様土神君。どうだった? 感想は」
「緊張してほとんど何も覚えてませんよ。ある意味高代さんのおかげで何とかなりましたけど」

感謝状授与が終わり瀬里たち報道陣が帰った後、修也が控室で一息ついているところに優実が声をかけてきた。

「いやいやなかなか堂々とした立ち振る舞いだったよ、大したものだ。流石数々の修羅場をくぐってきただけはある」
「……そう見えましたかね?」
「もちろんだとも。署長相手にあそこまで堂々としていられる人はそうはいない」
「え……署長?」

優実に続いて控室に入ってきた不破警部の言葉に首を傾げる修也。

「えぇそうよ、あの人はここの署長。うちのトップよ」
「そ、そんな人がわざわざ俺の為に……」
「謙遜しなくて良い。君はそれだけのことをやってくれたということだ」

そこにさらにひとり人が入ってきた。

「あなたは、さっきの……」
「そうだ。そして先程不破と七瀬から紹介された通り、ここの署長を務めさせてもらっている」

修也の言葉に頷く署長。
警察組織のトップというだけあって威圧感が半端ない。
理事長のように見た目がいかつくても中身は気さくということも無く、言葉からも覇気を感じられる。

「君のおかげで数多くの犯罪の被害を大きく抑えられた。それは誇っていいことだし警察としてそのことに対し感謝の意を表明するのは当然のことだ」
「は、はぁ……」
「君のような若者が警察に来てくれたら未来は明るいのだがな」
「署長の言う通り。君ならいつでも歓迎するよ?」
「いえ、流石にまだ将来の職業については考えてなくて……」
「そうか……まぁ君の人生だ。時間はたっぷりあるからしっかり考えると良い」

署長の覇気に押されつつも修也は言葉を濁して誤魔化す。

「ところで……アイツの処遇はどうなるんでしょうか」

そこで修也はずっと気にしていたことを尋ねてみる。
アイツとはもちろんスケルスのことだ。

「あぁ、彼のことか……不破、七瀬、説明してあげなさい。土神君になら守秘義務を気にする必要もない」
「分かりました。では……彼は一連の事件の首謀者ということで間違いない。本人も自供しているからね」
「取り調べも進めているけど、驚くほどスムーズに進んでいるわ。スムーズ過ぎて捜査の攪乱を狙ってるのかと疑ったけどそういう訳でもないし」
「そう、ですか……」

修也との戦いの後、スケルスはまるで憑き物が落ちたかのような爽やかな顔をしていた。
どうやら本当に世界に対する恨み辛みは消化しきったのだろう。

「ただ、だからと言って完全にお咎めなしという訳にはいかない」
「ですよね……」
「彼は銃刀法違反の容疑で書類送検される予定よ」
「……え?」

不破警部の言葉に複雑な表情で頷いた修也だが、続けて出た優実の言葉に首を傾げる。

「……銃刀法、違反?」

出てきた罪状が修也の想像とはかけ離れていたからだ。

「うむ。君が最初に解決した事件を覚えているかね?」
「えぇ、確かモールでのひったくり犯が学校に侵入して生徒を人質に立てこもった……」
「そう、その時に使われた拳銃は彼が渡したものだったのよ」
「あ、そうだったんですね」
「日本では正当な理由無く銃火器を持つことを固く禁じられている。不法に貸し与えることも立派に銃刀法違反なんだよ」
「まぁ……確かにそんな感じはしますけど」

普通に生活している限りでは銃など関わる機会すら出てこない。
それだけ取り扱いには厳重な規制が敷かれているということなのだろう。

「……ところでシンプルに疑問なんですけど、そこまで行くと逆に銃を持てる正当な理由って何なんですか?」
「一番代表的なのが狩猟目的ね。町に下りてきた害獣などの駆除の為に持つことを許可されるわ」
「それでも厳しいチェックがあるがね。あとは我々警察も職務上所持することが許可されている。だからと言って気軽に発砲などはできない。やむを得ない場合の最後の手段という訳だ」
「そして銃刀法違反の罪状もかなり重いものになるわ。1年以上10年以下の懲役になるの」
「情状によっては罰金で済む場合もあるが……今回はそれは通らないだろうね」
「……でしょうね」

そもそも不法に拳銃を譲渡して、しかもそれで学校に立てこもるという事件が起きてしまったのだ。
被害は軽微だったとはいえ情状酌量の余地はないだろう。

「でも……銃刀法違反だけなんですか? 七瀬さんが言った通りそれだけでも結構重い犯罪なんでしょうけど、他にもありそうな気が……」
「それがね、彼自身からも自供しているのだけれど立証が難しいのだよ」
「例えばアミューズメントパークでのトラックの暴走事件。あくまでも暴走事件を起こしたのは別の人であって、彼はトラックとハンマーを渡しただけなのよ」
「それで罪に問えるかというと……微妙な所なのだよ。拳銃と違って」

拳銃や刀剣などは厳しい規制が敷かれているものの、トラックやハンマー自体にはそんな規制は無い。
ハンマーに至っては修也だってホームセンターなどで簡単に購入できる。
ハンマーを渡しただけで犯罪に問えるならホームセンターは犯罪者だらけの巣窟になってしまう。

「消された猪瀬の部下についても明確な証拠は……無いな、そう言えば」

要は消されたという猪瀬の部下たちはスケルスの『熱く』する能力で重度の熱中症にされたようなもので、スケルスとの因果を証明することはほぼ不可能だ。
たとえ本人からの自供であっても認められない可能性が高い。

(……まぁ普通とは違うからな、俺の『力』も含めて)

こればっかりはどうしようもない。
幸運なことに今の修也の周りは理解があるが、それが世間一般に当てはまるかと言えばそうではない。
そこは修也も割り切っている。

「そして平下さんの誘拐事件だけど……これも事件を起こしたのはあの太った男であって、関連性があるかどうかが不明なのよ」
「自分が唆した……と彼は言っているが、片方からの言い分だけでは証拠にはならないのだよ」
「そしてその誘拐犯が意識不明の重体だからそもそも言い分を聞き取ることができない、と」
「そういうことよ。そしてその意識不明の重体についても同じく証明はできないわ」

修也の言葉に頷きながら大きくため息を吐く優実。

「そして鉈男については完全にアイツ関係ないみたいだし、鉄パイプの男もなぁ……」

2回目の襲撃にはスケルスが関わっていそうだが、それを証明する手立てはない。
その後手に大火傷を負わせた件も、スケルスの能力によるものなので立証は難しい。

「だから明確に罪に問えるのは最初の事件での拳銃の不法譲渡による銃刀法違反だけ……ということになるのよ」
「……でも、犯罪をするように唆すのもまた犯罪なんじゃあ……?」
「教唆犯のことだね。確かに当てはまりそうだが……これも難しい」
「例えば直接犯罪を犯すように唆せば教唆犯に当てはまるわ。でも、本人の供述によると『ここにあるものを好きに使って良い』としか言ってないのよね」
「それで犯罪に使うと予見できただろうというのは流石に乱暴すぎるんだよ」
「そういうものなんですか……色々と複雑なんですね」

不破警部と優実の説明を聞いてため息を吐く修也。
しかしどこかでホッとしたような気持ちにもなる。
スケルスのやってきたことは紛れもなく悪いことなのだが、そうすることになった経緯を考えると修也としては強く糾弾したくない。

「…………さて、暗い話はここまでだ。ここからは楽しい話をしようじゃないか」

そんな修也の心情を悟ったのか、不破警部がパチンと手を叩き明るい声で話を切り替える。

「楽しい話……ですか?」
「そうとも。前にも話しただろう? 感謝状だけでなく金一封も進呈されると」
「あ、そう言えばそんな話も……」
「という訳で……はい、これが金一封よ。あまり公にするのも良くないからあの場では渡せなかったのよね」

そう言って優実が取り出したのは……バラエティ番組の賞金などでよく目にするやたらと豪華な祝儀袋だ。
表にはでかでかと『目録』と書かれている。

「む、無駄に豪華ですね……俺てっきり茶封筒で渡されるものだと思ってました」
「こういうのは見栄えが大事なんだよ。土神君の今までの功績に対する我々の感謝の気持ちだと思ってくれたまえ」
「感謝されたくてやったわけではないですが……気持ちはありがたく受け取らせていただきます」

そう言って修也は優実から祝儀袋を受け取る。

「それで……どうかね? 使い道は決めたのかな?」
「え? えぇと……」

不破警部の質問に修也は言葉を詰まらせる。
というのも正直な所、現在修也はお金には困っていないからだ。
学費その他諸々が完全免除になっているし、遊びにアミューズメントパークに行っても諸費用がほとんどかからない。
それに居候の身である以上無駄に物を増やす訳にもいかないので、買い物もほとんどしない。
なのに生活費という名目で両親からお金が振り込まれるし、めんたいこの港の売り上げの一部も振り込まれている。
何故かめんたいこの港は大ヒットして売り上げも相当なものになっているらしい。
1%とは言っても馬鹿にできない金額になっている。
という訳で修也の預金口座の中身は増える一方なのだ。

「舞原さんとのデート費用かしら? それとも舞原さんへのプレゼントとして何か買うつもり?」
「……何で蒼芽ちゃんに限定するんですか」

無駄に目を輝かせて問い詰めてくる優実に修也はため息を吐きながら言葉を返す。

「どれ、ここは私が女の子が喜びそうな贈り物の案を出してあげようじゃないか」
「待ってください不破警部。そういうのは同じ女性である私の方が」
「いやいや、私の長年の経験を嘗めてもらっては困る」

変な所で言い合いを始める優実と不破警部。

「いやあの2人とも、署長もいるのにそんなことで言い争いしないでくださいよ」

修也はさっきから黙って様子を見守っている署長を引き合いに出して場を収めようとするが……

「……いや、私に遠慮する必要は無い。むしろもっとやってくれ」
「…………はい?」

全く予想していなかった署長の言葉に修也は耳を疑う。

「というか私も混ぜろ、不破、七瀬。必要であれば金一封の増額も検討に入れるぞ」
「ちょちょちょちょ、何言ってんですか署長!?」

そして真顔でしれっとおかしなことを言いだした署長に突っ込みを入れる。

「あぁ……言い忘れてたけどね土神君、署長はこの手の話が大好きなのだよ」
「愛読書は少女漫画で時には自分で描いたりもしているらしいわ」
「ここにはそんなんしかいないのか!?」

どこに行ってもイロモノにぶち当たる。
その現象に今更ながら辟易とする修也であった。

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