「ねぇねぇ、皆の所では学園祭の話ってもう出てきた?」
昼休み、いつものメンバーでいつものように屋上で昼食を食べた後、おもむろに華穂がそう尋ねてきた。
「あ、私たちのところでは朝のホームルームの時に出てきましたよ」
「で、でも……1年はお店はやらないで、見るだけだって……言ってました……」
「あぁそうなんだよね。出店をやらせるにはいくら何でも荷が重いだろうから観客として学校に慣れ親しんでもらう為だって昔おじいちゃんが言ってたよ」
詩歌の言葉に対して華穂が頷きながらそう答える。
「うーんそれは惜しいなぁ。1-Cで飲食関係の出店やったとしたら詩歌の料理を食べることができてただろうに」
「あー、それはあるね。私リピーターになっちゃうよ」
「私は同じクラスの特権で作ってもらってたかも」
「私なら1対1での料理ガチバトルを挑んでたかもな」
「あ、あの……全員色々と、ちょっと……その……」
本気とも冗談とも取れない修也たちの言葉にアタフタする詩歌。
「話を戻して……私のところでも出ました。今は出店を何にするか案を募っているところです」
「俺のところもそんなもんだな。流石に今朝話が出てきたばかりで具体的に何やるかまでは全然決まってないが」
瑞音の言葉に修也も続く。
「先輩の所は?」
「私も土神くんや瑞音ちゃんと一緒だよ。でもさ、こういうのって準備段階からお祭りの空気が出て来て楽しいよね」
「あー……まぁ、うん……そうなんだろうな……」
表情が弾んでいる華穂に対して修也は曖昧に頷くことしかできない。
「……? 先輩、どうしたんですか……? あまり浮かない顔をしていますが……こういうお祭りとか……あまり好きじゃない、とかですか……?」
「え? いやそういう訳じゃなくて……えっと……」
その様子を見て不思議に思った詩歌が尋ねてくる。
しかし『力』のことは話したが、そのことによる前の町での扱いについては蒼芽以外には詳しくは話していない。
修也としてもあまり話したいことではない。
蒼芽にネタとして振るならともかく、他の人に対してはどうしたものかと躊躇してしまう。
「……! 修也さん、さては引っ越し前はそういうイベントはめんどくさいからってサボってましたね? ダメですよ、お祭りは準備の時点から既に始まってるんですから」
「! ははは、蒼芽ちゃんには隠し事できないなぁ。今回はちゃんとやるから許してくれよ」
「もう……約束ですよ?」
そんな修也を見て察したのか、蒼芽が適当な理由を作って窘めてくれる。
蒼芽の意図に気づいた修也がそれに乗っかる。
「えー、珍しいね? 土神くんがそういうのサボるなんて」
「面倒事は嫌いなんだよ。前の学校では文化祭って言ってたけど本気で面白くなかったからな。夢と希望が木端微塵になるほど」
「そ、そんなに……ですか……?」
「まぁ詳しくは聞かんが……そこまで言うほどの物なんだったら浮かない顔するのも納得か」
修也の言葉にやや引きながらも理解を示す詩歌と瑞音。
そもそも参加していないので面白いかどうかは分からないのだが、興味を全く持てなかったので面白くなかったと評しても良いだろう。
とりあえずどうにか誤魔化すことはできたようだ。
(ふぅー……何とかなったか。蒼芽ちゃんのおかげで助かった)
助け舟を出してくれた蒼芽に修也は感謝の意を込めて視線を送る。
(いえいえ、これくらいならお安い御用ですよ)
その視線に対し、軽いウィンクと共にそんな答えが返ってきた……気がした修也であった。
守護異能力者の日常新生活記
~第7章 第2話~
「……さて! それじゃあそんな面白くない話を吹き飛ばすくらい面白い話をしようよ!!」
場の空気を切り替えるように華穂が大きな声で言いだした。
「面白い話……ですか?」
「いや急に言われたって思いつかないってそんなもん」
「何言ってんの、あるでしょ土神くんは」
突然の華穂の提案に蒼芽は首を傾げ修也は切って捨てようとするが、華穂は確信めいた様子で修也に詰め寄ってくる。
「いやそんな決めつけられても」
「だって土神くんのクラスだよ? そんな話が出て来て面白くならない訳が無いじゃないっ!!」
「えぇー……先輩は俺たちのクラスに一体何求めてんの……?」
胸を張ってそう言い切る華穂にやや呆れる修也。
「という訳だからほらほら話して。学園祭の話で何があったの? 別に面白い話をしようと思わなくても良いからさ」
「えーっと……」
華穂に急かされて修也は朝のやり取りをはじめから話し始める。
その数分後…………
「あはははっはははは!! あははあはあはあはははは!! げふっごふっ……あははははは!!」
案の定華穂は腹を抱えて大笑いしだした。
途中笑い過ぎてせき込む程である。
「なんというか……即落ち2コマ漫画よりヒデェ……」
「ほらやっぱり面白いじゃない……! じゃんけんのグーとパーでそこまで話が広がるなんて予想できる訳ないでしょ……!」
「あと……私の知ってる『北風と太陽』と少し違う気がするんですが」
「ダメだ蒼芽ちゃん、その辺りは突っ込み始めたらキリが無い。いやもうこれ、俺は先輩の前でクラスの話をしてはいけない気がする」
「それはダメっ! 目の前にこんなに面白い話があるのに私にスルーしろと言うの土神くん!? それはあまりにも酷ってもんだよ!!」
呆れながらそう呟く修也に再び詰め寄る華穂。
「そうは言ってもだな……いつか先輩が呼吸困難か腹筋吊って倒れるんじゃないかと」
「それで倒れるなら本望だよ!」
「やめてそんなどこぞの武士(もののふ)みたいな考え方!?」
何故か力強くそう宣言する華穂を修也は慌てて止める。
「で……修也さんのクラスでは本当にそんな喫茶店をやるんですか?」
「やらないよ!? やってたまるかそんなゲテモノ喫茶店! これが本決まりしたら俺は当日は登校拒否して引きこもる!」
「いやそんなことを断言するんじゃねぇよ……気持ちは分かるが」
蒼芽の問いに全力で否定する修也を見て瑞音が半眼で呟く。
「ですよねぇ。修也さんは今のままでも十分素敵ですもん」
「いやそういう理由でやらないって言ってるわけじゃねぇよ?」
「でも土神くんがいい男の子なのは事実だと思うな」
蒼芽の言葉に突っ込む修也だが、その蒼芽に華穂が同調する。
その横で詩歌も小さくではあるが何度も頷いている。
「そうだぜ、何度も言うがお前は私のライバルなんだ。もっと自信持てよ」
「それとこれとは話が別だろうが。やるならせめて正々堂々、変な小細工無しでいいじゃねぇか」
「そうだ、それでこそ私の見込んだ男だ!」
その言葉に気を良くしたのか、瑞音は笑いながら修也の肩を叩く。
それからほぼ間を置かずして昼休み終了の予鈴が鳴る。
「それじゃあ今日はここまでだね。土神くん、面白いお店に決まったら真っ先に教えてね!」
「面白いの前提かよ」
ベンチから立ち上がりながらそんなことを言う華穂に修也は呆れながらため息を吐くのであった。
「……という訳でうちのクラスはホスト&ホステス喫茶店をやることになったよ!」
「オイコラそこのセクハラ教師、何でそんな結論に勝手に至ったのか誰にでも分かるように説明しやがれ」
放課後前のホームルームで開口一番意味不明なことを言いだした陽菜に修也は睨みを利かせて詰め寄る。
「おうおう今の土神君の突っ込みはエッジが効いてるねぇ」
「それでいて後の残らないサッパリ感もありますわ」
「しかも香ばしくてフルーティーであり、非の打ちどころがありませんな」
「何か途中から食レポみたいになってんぞ」
しかし全く怯まない陽菜(とそれに追随する白黒コンビ)を見て呆れの方が強くなる修也。
「でもね、こうなったのには訳があるんだよ。何も私が独断と偏見で押し通した訳じゃないんだよ?」
「だからその理由を話せってんだよ」
「まぁまぁ慌てなさんな。朝のホームルームの後、私は早速理事長室にブルマ喫茶の許可を取りに乗り込んだのさ」
「オイ早速独断と偏見を押し通そうとしてんじゃねぇか。正当性を主張したいならせめて執事の話も入れろよ」
しみじみと呟く陽菜に修也は突っ込みを入れる。
「だって考えてみなよ土神君! 呼び込みする子もブルマ、注文を取る子もブルマ、調理をする子もブルマ、レジ係の子もブルマ! そんな桃源郷を実現させる機会が目の前にあるんだよ! それをスルーするなんて藤寺陽菜の名が廃る!!」
「廃ってしまえそんなもん」
「でさ、理事長は私の主張をちゃんと聞いてくれたんだよ。怒りもせず諫めもせず咎めもせず」
「理事長も大変だな……」
理事長からすれば陽菜は一応部下のような立場になる。
こんな頭のネジが吹っ飛んだような意見もきちんと聞き入れないといけない。
上の立場に立つというのはそういう苦労も付きまとうものなのだろうか。
「そして聞いた上で『それも面白そうだけど、せっかくのお祭りなんだからもっとハジケても良いんじゃないかな?』ってアドバイスをくれたのさ」
「理事長ーーーーーー!!?」
しかし続けて出てきた陽菜の言葉に修也は理事長をねぎらう気持ちが吹き飛ぶ。
よくよく考えれば理事長はあの華穂の祖父で、見た目によらず結構ノリの軽い人だった。
何だかんだでブルマ喫茶を止めてくれたのはせめてもの救いだろうか。
「まぁブルマは捨てがたかったけど、理事長の言う通りせっかくのお祭りなんだし普段は見れないような衣装も良いんじゃないかって思ってね」
「だったら執事でも良いんじゃないですか? 執事服なんてそう目にするもんじゃないですよ?」
修也は華穂の家の運転手である御堂で執事服を見ているが、逆に言うとそれくらいでしか見たことがない。
物珍しさという点では申し分無いと思うのだが……
「それじゃ華が無い!!」
「バッサリいきますねぇ」
修也の案をバッサリ切り捨てる陽菜にある意味清々しさすら感じてしまう。
「あぁ誤解の無いように言っておくけど執事が悪いって言ってるわけじゃないからね? あれはあれで良い物さ!」
「流石はキャパシティが太平洋より広い陽菜先生!」
「陽菜教諭ならそう言ってくれると信じておりましたぞ!!」
陽菜のフォローに歓声を上げる白峰さんと黒沢さん。
「そして陽菜先生の仰ることも分かります。執事だけではどうしてもシックというか枯れた雰囲気になってしまいますわ」
「学園祭でそれは些か異色を発しすぎておりますな。フレッシュさに欠けるというか……」
「だったら女子はメイド服にすればいい……そんなことを考えた人も何人かいるんじゃないかな?」
そう言って陽菜は教室内を見回す。
「嘆かわしい……嘆かわしいよっ! 私はそんなオーソドックスかつテンプレ通りの思考を持つような教育をした覚えは無いよっ!!」
「アンタテンプレの裏を行くような人だもんな」
教壇を叩き熱く主張する陽菜を修也は冷めた目で見つめる。
「ミニスカフリフリの媚びたメイドさんも悪くは無いけどね? でもそれじゃあ基本に忠実過ぎてつまらないんだよ!!」
「どっちかっつーとそっちが派生形だけどな。本来のメイドってそんなもんじゃないだろ」
イメージ的には華穂の家の使用人たちが近いと修也は思っている。
そしてその姫本家の使用人に、そんなミニスカフリフリの衣装の人などいなかった。
メイドと使用人で何か違うのかもしれないが、少なくとも衣装に差は出ないはずだ。
「だから私はホスト&ホステス喫茶の案を打ち出した訳さ!」
「そこでどうしてそうなるのかが理解に苦しむ」
ちゃんと説明されても理解できない陽菜の考えに修也は頭を抱える。
そもそもフリーダムすぎる陽菜の考えを理解しようという方が無理があるのだ。
「これなら男子も女子も楽しめるし煌びやかだしうちのクラスの個性も生かせる! いいことずくめでしょ!?」
「煌びやかしか納得できそうな点が無いんですが」
「えーそう? 男女ともに出番があるし他のクラスには到底思いつかないアイデアだと思うんだけどねぇ?」
「まぁ思い付きはしないでしょうね……」
普通の思考をしていたらそんなぶっ飛んだ案は出てこないだろう。
そういう意味では確かに2-Cらしいと言えなくもない。
「ちなみに、最初に言ったけどもうこれで決まってるからね? 理事長からもお墨付きをもらってるし」
「え、ちょっ、おいっ!!?」
「それじゃあ皆で頑張ってナンバーワンを目指そう! 狙うは夜の帝王&女王!!」
「高校生にそんなもん狙わせるな!!」
無理やり話をまとめ上げて先に進めようとする陽菜に対し、修也はそう突っ込みを入れることしかできなかった。
「ホステスの衣装と言えば……やはりナイトドレスとかになるのでしょうか?」
「でしょうなぁ……しかしどこで入手できるのか皆目見当が付きませんぞ」
「パーティー用のコスプレショップとかが良いんじゃありません? この後覗きに行ってみませんか黒沢さん」
「良いですな、良さげなものをいくつか見繕ってみましょうぞ。白峰殿はスタイルが良いので映えそうですな!」
「いざとなれば自作すれば良いのですわ! 先日の即売会でもそのような方々もいらっしゃいましたし」
「うひょー! 創作意欲が掻き立てられますぞぉーー!!」
既に乗り気な白峰さんと黒沢さんはこれからの予定の話に花を咲かせる。
(あぁもう……これ、華穂先輩の腹筋がデッドエンドする未来しか見えんぞ……)
一方で修也の脳裏には、華穂がスカートであるにも関わらず腹を抱えて地面を転がり回りながら大笑いしている姿が浮かび上がり再び頭を抱えるのであった。
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