「お疲れさまでした。到着いたしました」
美穂の指定した週末、修也は迎えに来た御堂の運転するリムジンに乗って姫本家にやってきた。
「ありがとうございました御堂さん」
「ありがとー運転手のおじさん!」
修也と一緒にやってきた蒼芽と由衣が御堂に礼を言う。
「送迎ありがとうございました御堂さん。あとは私が引き継ぎますので」
「ありがとうございます美穂お嬢様。それでは私は車を入れて参ります」
迎えに来ていた美穂に御堂は深々と頭を下げ、再びリムジンに乗り走り去っていった。
「土神さん、今日は急な申し出にも関わらずお越しいただきありがとうございます」
「いえそれくらいは……こちらこそすみません、蒼芽ちゃんと由衣ちゃんも一緒に連れてくることになって。ちゃんと連絡しとけよって話なんですがうっかり忘れちゃってて」
美穂との電話の後、蒼芽に電話の内容を話したら蒼芽も一緒に行きたいと言い出した。
由衣も今朝家を出るときに鉢合わせてその話をしたら一緒に行きたいとの言うので連れてきた次第だ。
「全然問題ありませんよ。そもそも蒼芽さんに関しては元から一緒に来られるということ前提でしたので」
「あれ? 蒼芽ちゃんも一緒に来るってこと言ってませんよね?」
「そうなのですが……土神さんと蒼芽さんはいつも一緒にいられることが多いので」
「そーだよー、おにーさんとおねーさんはとっても仲良しなんだよー!」
美穂の言葉に由衣が嬉しそうに頷く。
「ふふ、そのようですね。由衣さんについても問題ありません。人数が増えて困るようなことはしませんので」
「あ、そうだそもそも今日は何で呼ばれたんですか? 結局まだ何も聞いてませんけど」
美穂に呼び出された理由を修也はまだ聞いていない。
美穂のことなのでややこしいことにはならないだろうとは思っているのだが、そろそろ理由を確かめておきたい。
「ああそうでしたね。でもこのような所で立ち話するのも何ですし、中に入ってからお話させていただきます。どうぞお入りください」
そう言って美穂は修也たちを家の中へ促す。
「うわー……すっごいおっきいおうちだねー」
門をくぐり、姫本家を見た由衣が感心したかのように呟く。
「だよなぁ。俺も初めて来たときは同じこと思ったよ」
「美穂おねーさんと華穂おねーさんって、お金持ちなんだねー」
「いえ、私や姉さんではなく両親や祖父母の努力の賜物なのですよ。私たちはその恩恵にあやかっているだけです」
「ほぇー……」
美穂は謙遜などではなく本気でそう思っている。
口調と態度からそれは容易に窺える。
「……そういう嫌味ったらしさの無い所が先輩も美穂さんもお嬢様なのにそうと感じさせないんだよなぁ、良い意味で」
「ふふ、ありがとうございます土神さん」
修也の言葉に美穂は柔らかく微笑んで応えるのであった。
守護異能力者の日常新生活記
~第7章 第4話~
「あ、そういや先輩はどこに?」
家の中に入りしばらくした後、今日はまだ華穂の姿を見ていないことに気づいた修也は美穂に尋ねる。
「あ、姉さんは……」
「あれ、土神くんどうしたの? うちに来るなんて珍しいね」
美穂が修也の質問に答えようとすると同時に華穂が廊下の曲がり角からひょっこりと顔を出した。
「あ、姫本先輩おはようございます」
「華穂おねーさんおはよー!」
「蒼芽ちゃんも由衣ちゃんもおはよう。今日は遊びに来てくれたの?」
「いや……実は美穂さんに呼び出されただけで内容は聞いてないんだよな」
「先日姉さんが土神さんと電話していた時に笑い転げてスマホを放置してたことがあったでしょう? あの後私が電話を引き継いでたの」
「あっ、そうだったの? ゴメンね美穂ちゃん土神くん」
「いやそれは良いんだけど……先輩大丈夫か? この辺の話を掘り下げるとまた思い出し笑いしたりしないか?」
笑いの沸点が非常に低い華穂のことなので、先日のことを思い出すだけでまた笑い転げたりしないか修也は危惧したのだが……
「大丈夫大丈夫! 私も日々成長してるからね。思い出すだけで笑い転げたりはあははははははは!!」
「ダメじゃねぇか」
修也の懸念を問題ないと断言しようとした華穂だが速攻で笑いだしてしまう。
「だ、大丈夫大丈夫……! 流石に転げまではしないから」
「それは大丈夫とは言わん」
腹を押さえてひくつきながらそんなこと言われてもとても信じられない。
修也はそう思い半眼で華穂の言うことを切って捨てる。
「……それで土神さんが学園祭で使えるような服を持っていないと仰るから、それならお力になれそうということで声をかけたの」
「何か外に出ないニートの言い訳みたいに聞こえますが……まぁそういうことだ先輩」
さっさと先に行った方が良いと判断したのか、美穂が話を進める。
「ふーん、そういうことなんだね。で、美穂ちゃん、どうするつもりなのかな?」
「うちが懇意にしている仕立て屋さんにお願いして土神さん用にスーツを作ってもらおうと思ったの。ちょうど今日来ていただいてるし」
「あ、なるほど。無いなら作っちゃおうってわけだね」
「え? いや、ちょっと待ってください」
美穂の考えを聞いて納得する華穂だが、修也としてははいそうですかと納得するわけにはいかない。
「? どうかなさいましたか土神さん?」
「いや、1から作るとなると時間も費用も結構掛かる気がするんですが。姫本家御用達の店ともなると特に」
「確かにお時間はいただくことになりますが……学園祭には必ず間に合わせますのでご安心ください」
「それにお金の問題も大丈夫だよ。うちで負担するつもりなんだよね、美穂ちゃん?」
「うん、もちろん」
「ほら、これで問題解決だよ土神くん!」
「いやいやいやいや…………」
晴れやかな笑顔で言い切る華穂に突っ込む修也。
「あの……修也さんは先輩たちが費用を負担することを懸念していると思うんですけど」
「うんそうそう。流石蒼芽ちゃん、俺の言いたいことをバッチリ言ってくれた」
「あーそういうこと? それも大丈夫だよ。お金を出すのは私たちじゃないから」
「え? じゃあ誰が……」
「僕たちさ」
華穂の言葉に疑問を呈した修也の背後から別の声がしてきた。
「え……あっ! 姫本家のご当主様!!」
修也が振り返るとそこには華穂と美穂の父親が立っていた。
「はっはっは! そんな堅苦しい呼び方しなくてもいいんだよ」
「あ、はい……でも何とお呼びすれば」
「フランクに『オッサン』とでも呼んでくれたら良いさ」
「いやいくら何でもそれは……」
豪快に笑いながらおかしなことを言う父親に待ったをかける修也。
姫本家はやたらと気さくな人が多いのは知っているが、流石にその呼び方は失礼すぎると思ったからだ。
「ふふふ、ごめんなさいね。うちは娘2人だから同じくらいの年の男の子を見るとテンション上がっちゃうのようちの人は」
「は、はぁ……」
父親の横にいた母親にそう説明され、修也は曖昧な相槌を打つ。
「でも流石に『ご当主様』はよそよそしすぎるわ。娘たちの友達なんだから普通におじさんおばさんで良いのよ?」
「それは馴れ馴れしすぎるような……」
「はっはっは! 人間関係なんて馴れ馴れしすぎるくらいがちょうど良いのさ! 変に距離を取るとせっかくの縁を繋げられるチャンスを見逃してしまうじゃないか。人生ってのは人との縁が多ければ多いほど楽しいものなんだよ」
「そういう所は流石は資産家って感じがしますね」
何だかんだ言ってもこの町を作り上げた資産家の1つの当主というだけはあることに修也は感心する。
人との繋がりが多ければ多いほどビジネスチャンスも発生しやすい。
そういった人との繋がりを多く持ったことで今の姫本家があるのだろう。
「話を戻して……費用に関しては僕が出すから気にしなくて良い。スーツ1つくらいどうってことないさ」
「いやでも、そこまでしてもらうようなことは何も……」
「何言ってんだい。娘たちと友達になってくれた上に危機からも何度も救ってくれたじゃないか」
「でもそのお礼は理事長から……」
「うん、父からは学費免除してもらってるんだろう? でも僕たちからは何もしてないよね?」
「だからそのお礼と考えてくれれば良いわ。学費免除や永年フリーパスよりは可愛いものでしょう?」
「そりゃまあそうなんですけど……」
色々とお礼と称した贈り物の規模が大きすぎるせいで修也は自分の金銭感覚がマヒしてしまわないか心配になる。
(確かに学費免除や永年フリーパスに比べれば金額は小さいかもしれないけど、それでも安いものではない……はずだ、よな?)
そう思いつつも今一つ自信を持てない修也。
「だったら僕たちを助ける為とでも思ってくれないかな?」
「え? どういうことです?」
「いやーこのままだとね、『娘を助けてもらったのにお礼もしない非常識な親』という見方をする人もいないとは言い切れないんだよ」
「近しい人にはそのような人はいないけど、皆様がそういう人ばかりという訳ではないので」
「そういう重箱の隅をつつくような人も少なからずいるんだよ。人付き合いってめんどくさいよねぇ」
「あのさっきと言ってることが真逆なんですが」
修也の疑問に答える姫本夫妻だが、さっきと言ってることが全く違うことについ突っ込みを入れてしまう。
「ただまぁ……そういうことなら分かりました。受け取らせていただきます」
「うむ、任せたまえ! 世界に1つしかない至高の一品を作らせようじゃないか!!」
「いやあの……普通ので良いんですけど」
「いやそれがね、『娘を助けてくれたお礼として贈るのに上質なものを用意できない非常識な親』という見方をする人もいなくはないからね」
「めんどくせぇなぁもう!!」
「そう、めんどくさいんだよ! この界隈は見栄とか格式とかそういうのがホントめんどくさいっ! 分かってくれるかい土神君!!」
我慢できずついに荒い口調で突っ込んでしまった修也だが、何故か目を輝かせた父親に手を握られ詰め寄られる。
「あっははははは!! お父さんも土神くんも面白過ぎるよ!!」
「ふふ、お父様がこれだけ生き生きしているのを見るのは初めてです」
「本当にね。年の離れた友達ができたって感じね」
その様子を他の姫本家の面々は笑顔で見つめるのであった。
華穂だけは腹を抱えての大笑いだが。
「それでは採寸させていただきます。変に力まず肩の力を抜いてくださいね」
その後応接室で待っていたらしい仕立て屋がやって来た。
そして服を作るために必要な個所の寸法を手早く測っていく。
「おにーさんの服、どんなのになるんだろーねおねーさん?」
「どうなんだろうね。でも修也さんだからどんな服でもバッチリカッコよく決めるよ」
「うんっ! きっとそーだよねー!」
「……変にハードル上げないでくれるか蒼芽ちゃん」
部屋の隅ではしゃぐ蒼芽と由衣を横目で見ながら修也はため息を吐く。
「ふふ、あなたがたの期待に応えられるよう精いっぱい頑張らせていただきますね」
「いや普通で良いんですからね普通で」
「そういう訳にはいきません。旦那様直々のご依頼で中途半端なものを作ってしまうと、旦那様の顔に泥を塗ってしまうことになります」
「ホンットめんどくさいなぁ……」
姫本家当主の体裁というものがあるのだろうが、修也としては面倒以外の何物でもない。
「あと蒼芽ちゃん由衣ちゃん、期待しているところに水を差すようで悪いんだが今日は採寸だけだからスーツ姿を見ることはできないぞ」
「えぇーーーっ!? 見れないのー!?」
修也の言葉に不服そうな声をあげる由衣。
「申し訳ございません。私どもも全力で取り掛からせていただくつもりですが、今日すぐという訳には……」
その由衣のリアクションを見て仕立て屋の店員は申し訳なさそうに謝る。
しかしこればっかりはどうにもならない。
「あっ、でしたらこうするのはいかがでしょうか?」
……と思ったら店員は何か閃いたようで提案を出してきた。
「もしお時間があるようでしたらこの後私どもの店舗までお越しください。サンプルとなる衣装を多数取り揃えておりますので」
「えっ、良いんですか?」
「もちろんでございます」
蒼芽の問いににっこりと笑って返す店員。
「それに店舗なら女性用の衣装もありますので、あなたがたも試着できますよ」
「ホントー!? 私行きたーい!!」
続けて出てきた店員の言葉に由衣は興味津々のようで瞳を輝かせている。
「でも私たちは何か買う訳じゃないのに、試着なんてさせてもらっても良いんでしょうか……?」
「良いよ良いよ。買わないなら試着させない、試着したなら買えとか言い出したらそれはとんでもない悪徳業者だよ」
「そうですよ蒼芽さん。私たちはそのような業者との付き合いはありませんので」
心配そうな蒼芽に対して華穂と美穂が問題ないと太鼓判を押す。
「だったら……せっかくですし、私も行ってみたいです。良いですか修也さん?」
「あー……まぁこの後別に用事があるわけでもないしな……」
蒼芽の問いかけにそう答える修也ではあるが、内心ではあまり気乗りしていない。
「じゃあお昼食べたら皆で行こうよ!」
「さんせー!」
そんな修也の心情は露知らず華穂の提案に由衣が両手を挙げて応じる。
「ふふ……色んな服があるので、思う存分堪能していってくださいね」
「……何かヤベェフラグが立った気がするのは俺だけですかね?」
柔らかい笑顔でそう言う美穂に対し、修也は『女の子の服の買い物にかかる時間は生半可ではない』というお約束が脳裏をよぎり背筋がうすら寒くなるのであった。
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