守護異能力者の日常新生活記 ~第6章 第24話~

「……さて、警察に引き渡すか」

そう言って修也は『力』を解除してスマホを取り出す。

「あれ、良いのかい僕の拘束を解いて? この隙に逃げるなり何なりするかもしれないよ?」
「……いや、何となくだけどお前はそういうことしない気がする。さっきのやり取りでそう思った」

蒼芽たちに被害が及ばないように気を配ったり、あれだけ大層な計画をあっさり諦めたりしていたのを見てそう感じる修也。
スケルス本人が言うように、『悪人』ではあるが『下衆』ではないのだろう。
明確な違いを言葉にするのは難しいが、言うなれば悪いことはするが卑怯なことはしないという感じなのだと修也は予測する。
どのあたりで線引きしているのかは不明だが。

「それに『力』使い続けるのは疲れるんだよ。お前も分かるだろう?」
「あぁ、確かにそうだね。ずっと使い続けるのは同等の時間走り続けているようなものだからね」

修也の冗談じみた言い訳にスケルスは軽く笑って答える。

「…………あ、もしもし不破さんですか?」

スケルスとの話もそこそこに、修也は不破警部に電話を繋ぐ。

『おや土神君、どうしたんだね? 先日七瀬君から共有された件だったら……』
「あ、その主犯を捕まえたって話なんです」
『な、なんだって!?』

その言葉と同時に電話の向こうで何かが倒れた音がした。
恐らく不破警部が驚いて立ち上がったことで椅子が倒れたのだろう。

『あ、相変わらず仕事が早いねぇ……』
「自分からどうこうした覚えは無いんですがね。大体向こうから面倒事が来るので」
『と、とにかく分かった。応援をよこすから今どこにいるのか教えてくれるかい?』
「分かりました。地図アプリで現在地を指した画面をスクショすれば良いですか?」
『あぁー……えぇっと、それで構わないけど……送るのは七瀬君の携帯にしてくれるかな?』

修也の問いに気まずそうな声で返事をする不破警部。
恐らく不破警部はあまりスマホの操作に明るくないのだろう。

(もしかしたらそもそもスマホじゃなくてガラケーの可能性も……いやそれは偏見が過ぎるか)

不破警部がどのような携帯を使っているかなど修也には関係ないし、あれこれ言う筋合いも無い。

「分かりました、七瀬さんの方に送りますね」
『うむ、そうしてくれたまえ』
「あ、それと鉄パイプ持った男に襲われてこれも返り討ちにしてますんで人多めでお願いします」
『…………本当に君は巻き込まれ体質だねぇ……』

修也の要請に不破警部はやや呆れ気味な声をあげる。

「俺が巻き込まれた結果周りが平和になるなら安いものです」
『しかしそれでは君が平和でないだろう。君の犠牲の上で成り立つ平和なんて誰も喜ばないよ?』
「…………」

瑞音の父親と同じようなことを言われ修也は押し黙る。

『とにかく七瀬君には今事情を伝えた。だから場所を七瀬君に送ってくれるかな』
「はい、分かりました。それでは失礼します」

そう言って修也は優実に現在地の位置情報を送るために通話を切った。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第6章 第24話~

 

「…………君は色んな人に慕われているんだねぇ」

修也の通話を聞いていたスケルスがポツリとそんな言葉を漏らす。

「……たまたまだ。自分と周りの身に降りかかる火の粉を払っていたらこうなった」
「僕もそうだったはずなんだけど、どうしてこうなったのかなぁ……」

そう言って遠い目をするスケルス。

「……俺だってこの町に引っ越してくる前は周りから理不尽な目に遭っていたさ。でも俺はその周りに牙をむこうとは考えなかった。そこが違うんじゃないか」
「君は……理不尽な目に遭わせてきたやつらに復讐したい、仕返ししたいと思ったことは無いのかい?」
「遠巻きにされて腫れ物扱いされるだけなのに復讐も何も無ぇよ。それに今はこんなことになってるしな。昔のことはもうどうでも良い」
「……そう、か。そうやって受け流せるのも君の美点だね」

修也の返答を聞いてスケルスは微笑む。

「く、クククケケケ……なんだなんだ、偉そうなこと言っといてお前も負けてんじゃねぇか……」
「!」

そこに和やかな空気に水を差すようなセリフが割り込んできた。
声のした方を見るといつの間にか道場破りの男が鉄パイプを手にして立ち上がっていた。

「おやおや……僕以上にあっさりと、しかも2回も彼に叩きのめされた人が何か言ってるね」
「うるっせぇ! キサマらがやりあってる間にすっかり痛みも引いた。今度こそぶっ潰してやる!!」
「うわぁ、まだ恥の上塗りする気か……」
「引き際が分からないってみっともないねぇ」

あれだけ修也にボコボコにされたのにまだ諦める気のない道場破りの男。
そのしぶとさはある意味称賛に値する。

「そもそもそれだけ食い下がっても俺に傷ひとつ与えられていない時点で察しろよ。格が違うって」
「まぁまぁ、相手の力量を推し量れない程度の実力でしかないんだよ。そこは君が察してあげないと」
「あぁ、それは悪かったな」
「ぐ、グギギギギ……」

修也とスケルスの煽りに男は歯をむき出し、表情を憤怒に染める。

「もう絶対に許さん! キサマら2人とも殴り殺してやる!!」
「えぇー……あれだけやってまだ俺にそれが無理だって分からないの……?」
「多少馬鹿の方が扱いやすいとは言うけれど……ここまでくると逆に扱いに困るねぇ」
「死ねえええぇぇぇ!!!」

呆れて呟く修也とスケルスめがけて突撃してくる男。

「ここは僕に任せてくれ。事の発端は僕だからね、責任はとるよ」

そう言ってスケルスが前に立つ。
それと同時に先程修也と対峙した時と同じような空気の揺らぎがスケルスの周りに湧き起こる。

「うぉっ、何だ!? 熱……」
「それくらいで怯んでいるようじゃまだまだだね」

突如熱気に襲われて怯み動きを止めた男の持っている鉄パイプを掴むスケルス。

「………………うぎゃああああああぁぁぁぁ!!?」

少し間を置いて男が絶叫ともとれる悲鳴をあげる。
そして持っていた鉄パイプを落とした。

「て、手が……手がぁっ!?」
「流石鉄だね。熱の通りが早い早い」

手を押さえ呻く男を冷ややかな目で見下ろすスケルス。

「お前まさか……」
「そうさ、コイツの持つ鉄パイプを『熱く』したんだよ。かなりの温度まで上げたから手は大火傷だろう。しばらくは……下手したら一生物を持つことすらままならないだろうね」
「またえっぐい使い方を……」
「本当はコイツ自身を熱くして再起不能にしてやりたいところだったけど……お嬢さん方の見てる前だしね」
「いや手の大火傷も大概だしそもそも俺にそれやろうとしただろお前」

しれっとした顔で言うスケルスを修也は半眼で睨み突っ込む。

「それにしても……誰かのためにこの力を使うというのも悪くないね。このことに早く気が付いていれば……それかもっと早く君と知り合っていれば別の人生もあったかもしれないね」

自分の手を見ながら自嘲気味に笑うスケルス。

「……過去は変えられん。今更どうのこうの言っても仕方がない。それより大事なのは今と未来だ。今の行動次第で未来は如何様にも変えられる。ある人の受け売りだけどな」
「良いことを言う人じゃないか。そんな良い人もいたから君は悪に染まらなかったんだね」
「いや……それはどうだろう」

修也の脳裏にブルマ姿で仁王立ちして高笑いする陽菜の姿が浮かび上がる。
良い教師なのは間違いないのだが、どうしても尊敬はできない。
そこに遠くからパトカーのサイレンの音が響いてきた。

「……あぁ、警察の到着か。名残惜しいけどこれでお別れのようだね」
「…………」
「ふふ、そんな顔しないでよ。悪がふたつこの世から無くなるんだよ? もっと嬉しそうな顔をしたらどうなんだい」

複雑な表情をしている修也を見てスケルスは敢えて軽い口調で笑う。

「……俺には、お前が本気で悪いことをしていたようには思えない。確かにやり方に問題はあったが、お前なりにこの世界を考えてたんじゃないかと思う」
「でも結果として僕のやったことは世間的には良くないことだ。悪いことをしたら罪になり罰を受ける……この日本では当然のことなんだよ」

そう言ってスケルスは到着したパトカーに向かっていく。

「警察の皆さん、お疲れ様です。僕が最近起きていた事件の主犯です。逃亡も抵抗もしません、どうぞ連行してください」
「お、おぅ…………?」

あまりにも正々堂々とした態度のスケルスに到着した警官たちは逆に戸惑う。

「警察!? ……ちっ、ここは引いてやる。だがいつか絶対ブチ殺してやるからな!!」

スケルスとは対照的に往生際悪くこの場から逃げ出そうとする道場破りの男。

「いや逃がす訳無いだろ」
「ぶべぇっ!!?」

しかし先に修也に回り込まれ足払いをかけられる。
今男は手が使えないので顔面から地面に突っ込んだ。

「すみませーん、コイツも連行お願いしまーす」
「くそっ……放せ、放せええぇぇーー!!」

逃げないように男を踏んづける修也とそれでも何とか逃げようともがく男。

「……ホント見苦しいよね。見ていて痛々しい」

その様子をゴミでも見るかのような目で見下ろしながらスケルスは自らパトカーに乗り込んだ。

「…………なぁ! ちゃんと罪を償ったら戻って来いよ! 待ってるからな!!」
「ふふっ……『悪人』の僕にそんな言葉をかけてくれるなんてね……ありがとう。君に会えて、本当に良かったよ」

修也の言葉に微笑むスケルス。
その言葉を最後にパトカーの扉が閉められ、スケルスを乗せて発進していった。
最後まで抵抗していた道場破りの男も警察官3人がかりでパトカーに押し込められ去っていく。

「お疲れ様土神君。これで最近この町で起きていた事件は全て解決……ということで良いのかしら?」

この場に残っていた優実が修也に近寄りながら話しかけてくる。

「……だと思います。俺が関わってきた事件の大半はアイツが主導していたらしいんです。この前の駅前での鉈男事件はどうやら別枠のようですが」
「それにしてはやけに潔かったわね? 自分からパトカーに乗り込んでたけど」
「本人は『悪人』ではあるけど『下衆』ではないと言っていました。確かに悪いやつでしたが……何と言うか、えぇと……」
「今までの犯罪者たちとは違うと言いたいわけね?」
「そう、そんな感じです」

優実の言葉に頷く修也。
例えば今の道場破りの男や由衣を誘拐した男は『悪人』である上に『下衆』だ。
そんなやつがどうなろうとも知ったことではないし社会的に抹殺されようが何とも思わない。
しかしスケルスは主犯であるとはいえ、どこか同情的な部分もある。
たとえ自分の命が危機にさらされたとしてもだ。

「まぁ今後のことは私たち警察に任せて。何か分かれば連絡するわ」
「ありがとうございます、七瀬さん」

そう言ってパトカーに乗って去っていく優実に修也は頭を下げ礼を言う。

「あの……修也さん、どうかしたんですか?」
「え? 何が?」

優実を見送る修也に蒼芽が尋ねてくるが、その意味が分からず聞き返す。

「おにーさん、何か元気無さそうだよー?」
「由衣ちゃんの言う通りです。何か浮かない顔をしていますが……」
「あー、いや……」

蒼芽と由衣の言葉に言葉を濁す修也。

「……似てたんだよな、アイツ……俺と」
「えー、おにーさんの方がずっとカッコいいよー?」
「いや見た目の話じゃなくて……」

頬を膨らませて首を横に振る由衣に修也は突っ込みを入れる。

「でもおにーさんがカッコいいのはホントだもん!」
「容姿云々は個人の主観が入るから。それに今言いたいのはそういうことじゃ……」
「ホントだもん!!」
「あーはいはい、分かったからそういうことで良いから。話続けさせてくれるかな?」

頑として自分の主張を譲らない由衣を見て修也は早々に折れることにする。
話の内容的にも言い争ったところで不毛すぎる。

「あ、あの人も修也さんや相川さんみたいな力を持っていたことですか?」
「ああ、そしてそのせいで理不尽な目に遭っていたこともな。もしかしたら俺もああなっていた可能性も否定できない」

修也も『力』で理不尽な目に遭ってきた過去がある。
もしその状態が長く続けばスケルスと同様周りを恨んで事件を起こすようになっていたかもしれない。

「いや修也さんはそんなことにはなりませんよ!」
「あぁ、蒼芽ちゃん……君がいてくれたおかげでな」
「え? 私ですか?」

急に自分のおかげと言われ、蒼芽はきょとんとして首を傾げる。

「俺の『力』のことを見てもまずは俺が怪我してないか心配してくれて、『力』のことを知っても敬遠したりしなかっただろ?」
「私的にはそれが普通なんですけどね」
「理解してそばにいてくれる人がいる……それが支えになるんだよ。アイツにもそばにそういう人が1人でもいればこんなことにはならなかっただろうに……」
「ねーねーおにーさん、私は? 私はー?」
「あぁもちろん由衣ちゃんも支えになってるぞ」
「そっかー、えへへー」

自分の質問の答えを聞いて嬉しそうに笑う由衣。

「さぁ今度こそ帰ろうか。何だかんだで結構遅い時間になっちゃったからな」
「そうですね」
「うんっ!」

ようやく全ての事件が片付いた。
そのことに修也は安堵のため息を吐きつつ舞原家への道を蒼芽と由衣との3人で並んで歩くのであった。

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