守護異能力者の日常新生活記 ~第7章 第6話~

「では次にこのようなデザインの物はいかがでしょうか?」
「うわー、おにーさん大人っぽくてかっこいいー!」
「そうですね、シャープなイメージで良いと思いますよ」
「……………………」
「次にこのようなデザインも似合うと思うのですが」
「おおー、うっすら縞模様になってるんだねー。私こーゆーのは全部模様が無いと思ってたよー」
「でも模様が主張しすぎてないからこれはこれでアリですね」
「……………………」

先程からずっと修也は色々な服を試着させられ、それを見た蒼芽と由衣に評価してもらっていた。
昼食を終えて御堂の運転する車で仕立て屋の店までやってきたまでは良い。
一般の入り口ではなくお得意様用と思われる特別な入口に通されたのも、姫本家のリムジンで来たのだから理解できる。
修也が想像していた以上の種類の服が取り揃えられていたのも、そんなもんだと納得できた。
しかし蒼芽と由衣の希望で片っ端から試着させられるのは予想していなかった。
もう何着目の試着になるか分からないくらいの服を着せられ、修也はややグロッキー状態になっていた。
ただでさえスーツというものは窮屈で堅苦しいものなのだ。
それに加え修也は普段動きやすさを重視した服装をしている。
着せられた服たちはどれもこれも動きにくくて仕方がない。
段々修也の目に気力が無くなっていっているのだが、蒼芽と由衣はそれには気づかない。
一方で蒼芽と由衣は色んな姿の修也を見れたからか大層ご満悦の様子だ。

「ねーねーおねーさん、おねーさんは何番目のおにーさんが一番カッコよかったと思うー?」
「そうだねぇ……2番目の時が一番似合ってたかな」
「あっ、おねーさんもそう思うー? 私も一緒だよー!」
「…………え、じゃあ今まで散々着せ替えられてきた意味は……?」

2人の言葉に軽く衝撃を受けた修也は震える声で尋ねる。

「そりゃあ……もっと似合う服があるかもしれなかったですし」
「こーゆーのは試してみないと分かんないんだよおにーさん!」
「えぇ……」
「まぁ色んな服着たおにーさんを見てみたいってのもあったけどー」
「むしろそっちがメインの気がします」
「ちょ……」

しれっとそんなことを言いだす由衣と蒼芽に突っ込む修也だが、気力が枯渇しかけているせいかいつものようなキレは無い。

「それじゃー次はー……」
「あ、待って由衣ちゃん。流石の修也さんも疲れて来てるから……」

次に修也に着せる服を見繕おうとした由衣を止める蒼芽。

(あ、良かった。蒼芽ちゃんは気づいてくれてたか)

それを見てやっとこの着せ替え人形状態が終わるのかと安堵のため息を……

「ちょっと休憩入れようよ」

……吐くことができなかった。

「いや休憩!? 終わりじゃねぇの!? もう蒼芽ちゃんたち的に気に入ったものはあったんだろ? それで良いよもう」
「でも、もっと良いものがもしかしたらあるかもしれないじゃないですか」
「そーそー」
「んなこと言ってたらいつまで経っても終わんねぇよ!!」

平然と言ってのける2人に修也は必死の抵抗を試みるのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第7章 第6話~

 

「や、やっと終わった……」

結局あれから5着ほど試着させられた後、ようやく気が済んだのか解放された。
普段着に戻った修也は大きくため息を吐きながら備え付けの椅子に座る。

「お疲れさまでした土神さん」
「大変だったねぇ。でも色んな服装の土神くんが見れて私も目の保養になったよ」

修也の両隣の椅子にそれぞれ美穂と華穂が座りながらそう言う。

「お疲れさまでした、お飲み物をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」

2人が座ったと同時に店員がやってきてオレンジジュースを持って来てくれた。
修也はそれを受け取り一口飲んで一息つく。

「……にしても、出発前に感じてたヤベェフラグを早々に回収することになるとは」
「まぁ女の子の買い物は時間がかかるってのがお約束だよ。これ買い物じゃないけど」
「数多くの煌びやかな衣装が多いと目移りするのは誰にでもあることですよ」

美穂の言う通り、今蒼芽と由衣は様々な衣装を手に取りはしゃいでいる。

「自分でやる分にはお好きにどうぞって感じなんですけどね……」
「まぁまぁ、蒼芽ちゃんたちも着飾った土神くんを見てみたかったんだよ」
「土神さんも綺麗に着飾った蒼芽さんたちを見てみたいと思ったことはありませんか?」
「んー……?」

美穂にそう言われるが、修也としてはあまり実感が沸かない。
むしろ修也はいつもと同じ方が安心できるタイプだ。

「それじゃあたまには違う服着て新鮮さを味わいたいと思ったことは?」
「あぁ、それなら何となく分かる気がする」

あまり納得のいっていない様子の修也を見て、華穂が言葉を変える。
確かにたまに変わる程度ならそれもアリだろう。
修也はそう思い頷く。

「蒼芽ちゃん由衣ちゃん、気に入ったのがあれば着てみて良いからねー!」
「遠慮せず店員さんに仰ってくださいね」
「はーい!」
「ありがとうございます。では早速なんですがこれを……」

華穂と美穂の言葉に由衣は手を挙げて応え、蒼芽は気になった衣装を見つけたのか店員に声をかける。

「さっ、着飾った蒼芽ちゃんたちを見てちゃんと気の利いた言葉をかけてあげるんだよ土神くん?」
「うーん……俺そう言うのあまり得意じゃないんだけどなぁ……」

店員に案内されて更衣室へ入っていく蒼芽の背中を見送りながらそう修也に声をかける華穂。
しかしそれに対し修也は難しい顔で唸る。

「あまり難しく考えず、土神さんの感じたことそのままを言えば良いと思いますよ」
「そのままを言い過ぎてフラグをへし折ったという話も無くはないんですが」
「大丈夫大丈夫! 土神くんはそんな無神経なこと言う子じゃないって私知ってるから!」
「照れ隠しにウケ狙いの発言をしてフラグをへし折るという方でないことも知っていますので」
「…………やっぱ姫本家って庶民派だよなぁ」

ラブコメ系の話の定番ネタに普通についてこれる華穂と美穂を見ながら修也は呟く。

「おにーーさーん! 見て見てー!」

そこに由衣の方が先に着替え終わったらしく、パーティードレスの姿で修也たちの前に現れた。
艶のある薄い緑色のドレスで、スカートの裾は床ギリギリの丈になっている。
あちこちにフリルやらリボンが付けられているがあくまでも飾りという本分から逸脱しておらず、主役である由衣を引き立てる効果に落ち着いている。
そしてドレスに合わせてか、頭にはいつものヘアバンドではなくドレスと同じ色の大きめのリボンが付けられていた。

「おぉー由衣ちゃん可愛いじゃないか」
「うんうん、色のチョイスも良いね。元気な由衣ちゃんのイメージにピッタリだよ」
「それでいて大人っぽい雰囲気も消していない、良い選択だと思いますよ由衣さん」
「えへへー」

修也たちに褒められ、由衣は笑顔満面でご機嫌だ。

「いつもヘアバンドだったんだけどー、こーゆーリボンも可愛くて良いよねー」
「お気に入りのようでしたらリボンだけでもご購入することは可能ですよ。いかがいたしますか?」

リボンを気に入った様子の由衣を見て店員がそう声をかける。

「ん-……お金持ってないからやめとくー」
「良いの? リボンだけだったらそこまで高くないよ?」
「何なら土神さんの服同様うちで費用を持つこともできますが」

リボンの購入を諦めようとしている由衣を見て華穂と美穂はそう声をかけるが……

「んーん、お金の貸し借りはどんなに仲の良い人でもやったらダメっておかーさんに言われてるからー。でもそう言ってくれてありがとー華穂おねーさん、美穂おねーさん」

そう言って由衣は首を横に振る。

「そっか。由衣ちゃんがそう言うなら私たちもこれ以上は言わないよ」
「でも取り置きはしておきますので、買いたくなったらいつでも仰ってくださいね」
「うんっ! じゃあそのためにお小遣い貯めとかないとねー!」

華穂と美穂の言葉ににこにこと笑いながらそう返す由衣。

「だからごめんなさい、今は買わないよー」
「そうですか。でも美穂お嬢様が仰った通り取り置きは可能ですので、買いたくなったときはいつでもご連絡ください」

断った由衣に対して店員は笑顔で応対する。

「あ、私も着替え終わりました」

そこに更衣室の向こうから蒼芽の声が響いてきた。

「おっ、蒼芽ちゃんはどんな感じかな? 見せて見せてー!」
「えっと……どこか変だったりしませんかね?」
「っ!」

華穂に急かされて更衣室から出てきた蒼芽を見て修也は息を呑む。
大まかなデザインは由衣の物と違いは無いが、蒼芽のドレスは薄い青だ。
リボンやフリルなどの装飾は無く、かなりシンプルなものとなっている。
しかしその分蒼芽自身が華やかに見える。
そして蒼芽の首元には以前修也がプレゼントしたネックレスが着けられていた。

「うわぁー、おねーさんすっごく綺麗だよー!」

蒼芽の姿を見た由衣が歓声を上げる。

「うんうん、すっごく綺麗だよ蒼芽ちゃん! オフショルダーでもきっちり着こなしてるね!」
「あはは、ありがとうございます。こういうデザインの服を一度着てみたかったんですよね」
「身に付けるものを全て青で揃えるコーディネートセンスも素晴らしいです。でも……そのようなネックレスはこのお店にあったでしょうか……?」
「あ、これは以前修也さんに買っていただいたものなんです」
「なるほどそういうことでしたか。ドレスの華やかさに負けない、素晴らしい品ですね」
「…………」

由衣に続いて華穂と美穂も蒼芽を褒めたたえる中、修也だけはずっと無言だ。

「……? 修也さん、どうしたんですか?」

全くリアクションの無い修也を不思議に思って蒼芽が問いかける。

「えっ!? あ、いやえーと……適切な言葉が見つからなくてだな……」

蒼芽が近寄ってきたことで修也は少し焦り後頭部を掻きながら言葉を濁す。

「あぁー分かる、分かるよ土神くん! 本当に綺麗なものを見た時って言葉を無くすよね」
「えぇ、言葉にできない美しさというものがあるんですよね。その気持ち、分かります」

そんな修也の様子を見て華穂と美穂がそう言う。
2人とも恐らく修也のフォローをしてくれているのだろう。

「そうなんですか、修也さん? ……私、綺麗ですか?」
「何でどこぞの怪談風なんだよ」
「あはは、修也さんならこういう突っ込みどころのあること言えばいつも通りになると思いまして」

少し呆れる修也に蒼芽は笑って返す。

「なんだそりゃ……でも、うん。綺麗だと思うぞ」
「そうですか。良かったです」

修也のその一言だけで満足したのか微笑む蒼芽。

「……? 蒼芽ちゃん、ここは『これでもぉ?』って言ってマスク外すところじゃないの?」
「いえそこまでネタ仕込んでませんよ姫本先輩」
「そもそもマスクしてねぇよ」

不思議そうな顔をして尋ねる華穂に蒼芽と修也は同時に突っ込む。

「どうでしょうか? お気に召したでしょうか」
「あ、はい。こんな服今まで着たこと無かったので新鮮でした。修也さんにも綺麗だと言ってもらえたし」

店員の問いかけに蒼芽は頷きながら返す。
その顔は本当に嬉しそうに見える。

「それは良かったです。ところで今当店ではブライダルフェアをやっておりまして、その試着もできますがもしよろしければいかがでしょうか?」
「えっ!? ブライダルフェアでの試着ってことは……」
「はい、ウェディングドレスです」
「う、ウェディング……!?」

店員の言葉に驚いて聞き返す蒼芽。

「あー、そう言えばそんな時期だね。毎年これぐらいの時期にやってたっけ」
「このお店はウェディング業界にも力を入れてまして、毎年新作を発表されているのですよ」

一方で華穂と美穂にとってはいつものことのようで大して驚かず補足してくれる。

「で、でもそれだったら姫本先輩や美穂さんが試着した方が……」
「私たちはもう試着したことあるからね」
「せっかくでしたら蒼芽さんが試着してみるのも良いかと」
「うんっ! 私もおねーさんがウェディングドレス着てるの見たーい!」

華穂と美穂だけでなく由衣も蒼芽がウェディングドレスを着ることに賛成のようだ。

「いや……流石にプレッシャーというか威圧感が半端無ぇだろ。そう気軽に着れるもんじゃないと思うがな」

それに対し修也は慎重な姿勢だ。

「土神くんは女心が分かってない! 女の子なら誰であろうともウェディングドレスに対して憧れは少なからずあるもんだよ!!」
「……人それぞれじゃね?」

力強く反論する華穂に対しても修也はどこかドライに返す。

「……まぁ最終的に尊重されるのは蒼芽ちゃんの意思だろ。着たいと言うなら止めないし、止めとくというならそれもアリだ」
「え、えっと…………」

修也の言葉に視線をあちこちに巡らせて考え込んでいた蒼芽だが……

「じ、じゃあ……修也さんが一緒にいてくれるなら……着てみたいです」

顔を赤くさせながらそう呟いた。

「…………え、俺もウェディングドレス着るの?」
「うーん、土神くん結構背高いからなぁ……着れるやつあるかなぁ?」
「その前に男性と女性では骨格が違うから単純にサイズが合ってても着れるかどうかは分からないんじゃないかな、姉さん」
「ご心配には及びません。そう言った多様なニーズに応えるため、弊社は男性も着れるウェディングドレスも常備しております」
「そんな需要あんのか。世の中分からんものだなぁ」
「ほえ?」
「いやいやいやいや違います、違いますって!!」

店員まで含めて真面目に議論しだした(由衣は不思議そうな顔をしていただけだが)修也たちを慌てて止める蒼芽。

「修也さんに結婚式用のタキシードを着てもらって横に立ってほしいってことですよ!」
「え?」
「ほ、ほらアレですよ。1人だけそんな格好していたら浮いて恥ずかしいですけど、2人ならそれも薄れるじゃないですか」
「なるほど、2人で晒し物になろうってか。でも俺で良いのか?」
「修也さん『で』じゃないです。修也さん『が』良いんですよ」
「むしろ土神くん以上の適役はいないと思うよ」
「やはり土神さんと蒼芽さんはセットだと私は思います」
「そーだよー、おにーさんとおねーさんはとってもとーっても仲良しなんだからー!」
「まぁ皆がそう言うなら……ただもう俺の服は基本に忠実なシンプルなやつにするからな!?」

口々に皆にそう促され、修也は席を立つのであった。

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