守護異能力者の日常新生活記 ~第7章 第10話~

優実たちとのひと悶着があってからは特に問題も起こらず学園祭の準備は進んでいった。
修也をはじめホスト&ホステス喫茶という前例を見ない出し物のせいで戸惑う生徒もいたが、慣れとは恐ろしいもので日が経つにつれて受けいれられていき、今では誰も気にする様子を見せない。
修也たちは万端の準備を整えて学園祭初日を迎えた。
尚学園祭は2日かけて行われ、1日目は学内向けということで客も同じ高等部の生徒だけだ。
そして2日目は学外向けなので中等部や生徒の身内などの関係者だけではなく、全く関係ないただ通りがかっただけの人も入ることができる。
それだと以前の不法侵入者みたいなやつが入ってきたりしないかと修也は危惧していたのだが……

「流石に最低限のチェックはするよ。あからさまに怪しい人は入れないから」

修也の懸念を察したのか陽菜がそう言う。

「でも流石に限度があるのでは? 由衣ちゃんの誘拐犯みたいにパッと見だけでは怪しいと分からないやつもいるだろうし」
「まぁ難しい所だよね。でも規制を厳しくし過ぎても堅苦しくなっちゃうし、かと言って問答無用でパスするのは流石に危ないし」
「まぁ、確かに……」
「ほらアレだ、何の規制も無くなっちゃったらブルマの子を見ただけで襲い掛かる輩も出てくるのと同じだよ」
「同じじゃねぇよ。何の話だ」
「だからと言ってただブルマというだけで問答無用で規制をかけるのも違うでしょ?」
「何でもかんでもブルマでたとえんじゃねぇ。でもそれは……」

陽菜の言うことは極端ではあるが、あながち間違いという訳でもない。
ブルマはただの体操服の1つだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
そう考えると、ただそれだけで規制をかけるのは確かにおかしい気がする。
それと同様、外部の来客を完全にシャットアウトするのもフリーで招き入れるのもどちらも違う。

「グラビアアイドルの写真撮影会とかでも規制を求める声があるって話も聞くけど、私はそれに真っ向から反論したい!」
「まぁ……それだって大体は本人が了承した上でやってるでしょうしね。本人がやるって言ってるのに外野があれこれ言うのは確かに違うような……」
「そうだよ! 写真映えするナイスバディを持ち合わせてるんならそれを仕事に使って何が悪いのさ!! 世の中の青少年たちと瀬里の活力源になることの何が問題なのさ!!」
「それに異を唱えるつもりはありませんが……仮にも女性が声を大にして言うことですかね? てか高代さんをピンポイントで指名して良いんですか?」
「何言ってんのさ土神君! 女だから言うんだよ! 男が言うより説得力が出るでしょ? あと瀬里はそういうの気にしないから!」
「うーん……そうなの、かな?」

確かにこういうことは男が言うよりは同じ立場である女の方が言葉に真実味が出てくる……のかもしれない。
とりあえず瀬里への名誉棄損になりかねない陽菜の発言はスルーすることにする。

「さぁそういう訳で学園祭1日目、張り切っていこうか!」
「いやどういう訳!?」

そんな陽菜の掛け声と修也の突っ込みを合図に2-Cの学園祭初日の幕が切って落とされたのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第7章 第10話~

 

「はぁ……ついに始まったか……」

修也はため息を吐きながらスタッフルームとして確保している空間で着替え始める。
今この場に女子生徒の姿は無い。
全員が一気に着替えられるだけのスペースは無いので、まずは男子から着替えることになったのだ。
修也の手元には前日に美穂から送られてきたスーツ一式がある。
美穂が言っていた通り、仕立て屋が学園祭までに間に合わせてくれたのだ。
服を作るのにどれだけの時間が必要なのか修也は知らないが、あまり余裕が無かったのは間違いないだろう。
仕立て屋の努力と善意に感謝しながら修也はスーツ一式を手に取る。

「おぉ、何かすっげぇ気合が入ってそうなやつ持ってきたな土神」

それを見た彰彦が声をかけてくる。

「ああ、姫本家御用達の店で仕立ててもらったんだ」
「マジかよ、意気込みハンパねぇな!?」
「あぁいや別にそういう訳じゃねぇよ。適当な服が無くて困ってたところに美穂さんが助けの手を差し伸べてくれたんだよ」
「え、美穂さんが?」

美穂の名前が出てきたからか、戒も会話に参加してきた。

「まぁ言い出したのは美穂さんだけど姫本家の総意って感じだな。俺が今までで何度も町を変な事件から守ってきた礼だとさ」
「なるほどそういうことか」
「確かに町の運営・経営に携わっている身からすれば、妙な事件が立て続けに起きて町自体の価値が下がるのは避けたいことだ。そうなることを何度も未然に防いでくれた土神に対して何かしらの形で礼をするのは自然だろう」

そこに塔次も話に入ってくる。

「まぁそれも無くはないんだろうけど……あの人たちの人柄を考えると、単に恩には恩で報いているだけの気もするなぁ」

使用人を含めた姫本家の面々を見ていると、あまり打算的な考えを持ち合わせていないように修也は感じる。
そもそも『自分たちより周りに利益を』を信条にしている姫本家だ。
今回の修也に対する行動も完全に裏の無い本心から来ていると考える方が自然だ。
つくづく修也の持つテンプレの金持ち像の反対側を行く人たちである。

「まぁそれは置いといて……霧生お前、元々の体格もあってかホストというかどっかのSPみたいだぞ」

元から筋骨隆々でいかつい戒がスーツを着込むことで、いかつさがさらにアップしている気がする。

「えすぴー…………って何だ?」
「Security Policeの略称で、大統領や首相などの要人警護官のことだ。テレビなどで見たこともあるだろう」
「あーアレか! 特定のミッションをこなしながら逃げ回る人たちを捕まえる、サングラスをかけた人たち!」
「それは別物だ。確かに見た目は似ているけど」
「いっそ霧生はホスト役じゃなくて用心棒的な立ち位置になれば良いんじゃね?」
「確かに見た目だけならハマり役ではあるが……警護という観点ならばもっと適役がいるだろう」

そう言いながら修也を見る塔次。

「でも土神が用心棒役で接客しないとなると暴動が起きかねないな」
「いやいやまさか……せめてクレーム程度だろ」

流石に修也も自身が人気者であることはいい加減自覚した。
しかしいくら何でも暴動はあり得ないだろう、と推察する。

「いやむしろフォトスポットとして客を呼び込める可能性が」
「無い無い! いくら何でもそれはありえん!!」

おかしなことを真面目に考察し始めた塔次を修也は止める。

「もしもし男性陣の方々、着替え終わったのであれば交代していただけませんか?」
「我々はドレス故に着替えるのに時間がかかってしまうのであります」
「あ、あぁ悪い。今出る」

外から白峰さんと黒沢さんに声をかけられ、修也は慌てて着替えを終わらせる。

「……って仁敷、お前は着替えねぇの?」

修也たちと違い服装がいつもと変わっていない彰彦を見て修也は尋ねる。

「あぁ俺は裏方だからな。土神たちと違って際立った個性とか無いし」
「別に個性がありゃ良いってもんでもないと思うが……まぁ仁敷がそれで良いってんならあれこれ言うのも野暮か」

そう言って修也はスタッフルームから出る。

「むほおおぉぉぉーーーっ!!? 良い! これは良いですぞぉぉぉーーっ!!」
「な、何!? 何事!?」

それと同時に待機していた黒沢さんが奇声を発したので修也は驚いて聞き返す。

「英雄として名を馳せている土神殿! 鍛え上げられた肉体が輝く霧生殿! 知的でビジュアルが映える氷室殿!! 三者三様の魅力が濃縮されて自分の脳髄にクリティカルヒットですぞ!! 桃源郷はここにあったのですな!!」
「えぇ、えぇ! これはもう大繁盛間違いなしですわ! 私もスタッフ側でなければ通い詰めていたでしょうに!!」

興奮して早口でまくし立てる黒沢さんと白峰さん。

「そういう意味だと彰彦は裏方で正解ね。間違いなく存在が抹消されるわよ」
「存在感じゃなくて存在そのものかよ!?」
「では、我々も着替えて参ります」
「土神さんたちに比べて見劣りしないように気合を入れて参りますわ!」

爽香の言葉に修也が突っ込んでいるうちに黒沢さんと白峰さんをはじめホステス役の女子生徒たちはスタッフルームに入っていった。

「……着替えるのに気合いるのか?」
「土神君たち男性陣は本当に着替えるだけでしょうけど、女性陣にはメイクもあるのよ」
「あぁそういう……あれ? 爽香、お前は着替えねぇのか?」

爽香はスタッフルームに入っていかないのを見て修也は疑問を呈する。

「私も彰彦と一緒で裏方だからね。着替える必要が無いのよ」
「ふーん……仁敷はともかく、爽香は着飾れば映えそうなのにな」
「前にも言わなかったかしら。派手に着飾るのは趣味じゃないのよ」
「その理由で裏方が許されるなら、目立つのが好きじゃないって理由で俺も裏方にしてもらいたかったんだがなぁー」

そう呟きながら遠い目をする修也。

「土神君は無理でしょ。自分の置かれている立場を理解してる?」
「だからって見ず知らずの人と飲んで話すとか俺に求めんなよ。自慢じゃないがそういうのメチャクチャ苦手なんだからな」
「本当に自慢にならないわね……」

胸を張って言い切る修也を爽香は呆れたようにジト目で見つめる。

「心配はいりませぬぞ土神殿! 土神殿はいつも通りにしていればいいのであります!」
「黒沢さんの言う通りですわ! 自然体でいることが土神さんの魅力を最大限に引き出すのですから!」

そこにスタッフルームから顔だけひょっこりと出して黒沢さんと白峰さんが励ましてくる。

「……何でも良いけどちゃんと着替えてから出て来いよ」
「あいやこれは失礼! しかし話のやり取りというものは常に流れゆくもの。着替え終わってからでは間に合わないと判断した故のことなのです」
「今回も土神さんがクラスの中心になるのは必定。そんな土神さんのモチベーションを向上させるためならば着替え中のこの身を晒す程度のことなどどうということはありませんわ」
「体張りすぎだろ2人とも。良いからさっさと着替えろっつの」

2人を見ないようにしながら手で追い払う仕草をする修也。

「……まぁあの2人の言うことももっともよ。変に気負う必要は無いわ」
「そうそう、これは『祭』なんだぜ? 楽しむのが一番だ」
「俺だってこまっけぇことは考えてないんだからさ、土神も今日くらいはあれこれ考えなくても良いんじゃねぇか?」
「球技大会の時とは違い勝ち負けも無いのだ。ただ純粋に楽しんでもバチは当たるまい」
「……そういうもんか」

この場にいる爽香たちからもそう言われ、修也は気を持ち直す。

「そうともさ! 皆の言う通り楽しめば良いし、そこに成功も失敗も無いんだよ。敢えて言うなら、この学園祭を心から楽しめなかった時が失敗だね」
「あ、藤寺先生」
「それにこの私がいるんだ。楽しめなかったなんて言わせないよ? この前も言ったけど、退屈と思わせる隙すら与えてあげないからね!」
「……この人が言うとホントにそうなりそうだからな……」

仁王立ちでそう言い切る陽菜を見て呆れる修也。
しかしどこか嬉しくもあった。
陽菜の言動はアレだが、生徒のことを思いやるという根本は全く揺らいでいない。

「お待たせしましたわ!」
「着替え終わりましたぞ! いかがですかな我々の渾身の一作は!!」

そこに着替え終わった白峰さんと黒沢さんがスタッフルームから出てきた。

「おぉー良いね白峰さん! 元がモデル級にスタイルが良いし、艶のあるパールのドレスも豪奢に見えるよ!!」
「うふふふ、ありがとうございますわ陽菜先生」

陽菜の言う通り、白峰さんは純白とは違う艶のあるパールのドレスを身にまとっていた。
スタイルも良いし金髪とも絶妙にマッチしている。

「黒沢さんはシックに纏めたね! 黒をうまく着こなせるってのはそれだけで自慢できる才能だよ!!」
「どぅふふふふ、お褒めにあずかり至極恐悦」

それに対して黒沢さんは黒のドレスだ。
黒は地味で飾り気のない印象を与えかねないが、要所にリボンなどの装飾でそれを打ち消している。
それにいつものおさげを解いているので、普段とは違う印象を与えている。

「髪型変えるんだったら眼鏡も外してみたらどうなんだ? それ確か伊達眼鏡だったよな?」

黒沢さんが髪型は変えたが眼鏡はそのままかけているのを疑問に思い修也はそう尋ねてみる。

「なんと! 土神殿、自分に眼鏡を外せと仰るのですか! これを外すなんてとんでもない!」
「そうですわ土神さん! 眼鏡っ娘から眼鏡を取るなど酢豚から豚肉を外すようなものですわ!!」
「おおぅ…………言いたいことは何となく分かったけど、そのたとえはもう少し何とかならなかったのか?」

詰め寄る2人に狼狽えながらも修也はそう呻く。

「ショートケーキからイチゴを外す、とかかしら?」
「あー、ショートケーキのイチゴはある意味メインだもんな」
「将棋から王を取り除く、とか?」
「それだと対局自体が始まんねぇな」
「天丼からエビ天を外す、とかか?」
「うん、天丼にエビ天は欠かせん。俺もエビ天は好きだ」
「某青タヌキからポケットを取り上げる、とかだろうか」
「それはいくら何でも本体に失礼かつ可哀想だからやめて差し上げろ」
「私からブルマを無くするようなものかな? そんなの許せるわけ無いでしょうが!!」
「自分で例を出しておいて勝手にキレるんじゃねぇ!!」

それぞれが思い思いのたとえを出してきたことに応える修也だが、陽菜にだけは突っ込みで返す。

「よーし土神君の突っ込みも入って気も引き締まったね! さぁ2-Cのホスト&ホステス喫茶、開店だよ!」

陽菜の号令を合図に表にかけていた『準備中』の札をひっくり返し『営業中』に切り替え、2-Cの出店は起動するのであった。

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