「……うん、結構美味かった。店はイロモノだけどメニューはまともだったな」
出された生姜焼き定食を完食した修也は箸を皿の上に置きながらそう言う。
「……確かに。学食で出されるものと何の遜色もありませんでしたね」
鯖の味噌煮定食を完食した蒼芽が修也に続く。
「……蒼芽先輩もやたら渋いチョイスなのは突っ込んじゃダメなんですかね……?」
「そうか? 鯖の味噌煮うめぇぞ?」
「うんっ! 私も大好きだよー!」
「いや美味しいのは否定しないけど……」
難しい顔をして唸る亜理紗だが、千沙と由衣の顔を見てこれ以上の追及は諦めたようだ。
「まぁきちんとレシピ通りに作れば大概は外れはしないもんだ。オリジナリティを出すのは米崎妹レベルで料理を極めたやつだけが許される芸当だ」
「それ世の中のほとんどの人間がオリジナリティ出せないってことにならないか?」
「そ、そんなことはないですよ……私よりお料理が上手な人なんて、いくらでも……」
修也の言葉を聞いて詩歌がアタフタしながら否定に回るが……
「いやぁ詩歌以上に料理上手な人なんて私は今まで見たこと無いなぁ」
「あの美穂さんを唸らせられるんだから相当なレベルだぞ。だからそれは誇って良いし自慢して良いと思う」
「おにーさんもおねーさんも詩歌おねーさんの料理食べたことあるんだよねー? 良いなー私も食べてみたいなー」
「そういう風に言われると非常に気になりますね……詩歌先輩、今度機会があればその料理の腕を振るってみてくれませんか?」
「あ、あうぅ……」
蒼芽を起点として次々と褒めちぎられ、詩歌は顔を真っ赤にさせて縮こまってしまう。
「さて、それじゃそろそろ行くか。俺も自分のクラスの店があるしな」
「そういや土神、ここに来たの大分遅かったな?」
「次から次へと指名客が押し寄せたせいで昼を超過したんだよ……だから俺だけ昼休憩がずれ込んだんだ」
「お、おぉ……人気者ってのも大変だな……」
どんよりと陰が差している修也を見て狼狽える瑞音。
「まぁそれも今日までだ。明日からはまたいつもの日常に戻れるだろ」
「そうだな。じゃあ残り半日頑張れよ」
「相川もな」
そう言って修也は席を立った。
「行ってらっしゃいませご主人様がたー」
「夕飯までには帰ってきてくださいねー」
相変わらずあまり気持ちの籠っていない見送りをされながら修也たちは店を後にする。
「……いくら学園祭だからといっても、もうちょっとちゃんとした接客した方が良いんじゃねぇかな……?」
「でも最近はそういう脱力系とかダウナー系って言うんですかね? そういった感じのものもそれはそれでウケるらしいですよ?」
「……マジ?」
亜理紗の言葉に修也はやや引きながら尋ね返す。
「ほらアレですよ。猫って犬とは違って飼い主にそっけない態度を取る子もいるじゃないですか。でも普段はそういうツンツンした態度でも時折見せるデレの面が堪らんっていう人もいるわけで。いわゆるツンデレってやつですね」
「…………まぁテンプレ的に変に媚びたスタイルで来られてもリアクションに困るけどさぁ……俺にはその良さはあまり分からんかな。別にそういう需要があっても良いとは思うけど」
世の中には人の数だけ好みがあり需要がある。
修也はそう結論付けることにしてこの話題を終わらせるのであった。
守護異能力者の日常新生活記
~第7章 第16話~
「……さて、今日もありがとな蒼芽ちゃんに詩歌。店の前までついてきてくれて」
2-Eのメイド喫茶から出た後、修也たちはまっすぐ2-Cの店の前まで戻ってきた。
「いえいえ、これくらいならお安い御用です」
「は、はい……その……先輩の、為ですから……」
「由衣ちゃんたちもありがとな。この後も楽しんでってくれ」
「うんっ! おにーさんも頑張ってねー!」
「目指すはナンバー1ですよ! 土神先輩ならいけます!」
「だな。兄さんなら楽勝だろー!」
「まぁ無理の無い範囲で頑張るよ。それじゃあな」
蒼芽たちの応援を背に修也は出店の控室に戻る。
「戻ってきたわね土神君。じゃあ早速お客さん来てるからよろしくね」
「…………やっぱり人使い荒くねぇか? せめて俺が帰ってきてから客取ってくれよ」
戻ってきて早々に来客の対応に回す爽香にげんなりした表情で不満を言う修也。
「それだけ土神君が人気者ってことよ。さぁ行ってらっしゃい。また奥の部屋だから」
「やれやれ……」
控室を追い出された修也は奥の部屋に向かう。
「おぉー、来た来た! 待ってたよ土神君!」
「予想はしていたけど大人気のようね。お疲れ様」
気持ちを切り替えて修也が部屋に入ると、中から聞いたことのある声に迎えられた。
「あれ? 高代さんに七瀬さんじゃないですか。わざわざ来てくれたんですか?」
中にいたのは瀬里と優実だった。
瀬里はテンション高めで、優実は小さく手を振って迎え入れてくれる。
「そりゃー土神君がホストやってくれるなんて聞いたら行かずにはいられないっしょ!」
「私たちのような顔見知りだったら多少は気が楽でしょう?」
どうやら優実は修也を気遣って来てくれたらしい。
瀬里は純粋に興味本位のようだが。
「確かに全くの初対面だとちょっと気疲れしますね。だからありがとうございます七瀬さん」
「ふふ、どういたしまして」
礼を言う修也に対し、優実は軽く微笑む。
「あれ、優実だけ? 私は?」
「あなたは単に自分が来たいから来ただけでしょうが」
「でも私だって売り上げに貢献しに来たんだから感謝されても良いでしょー?」
「恩は無理やり押し付けるものじゃないわよ」
「……でも、こういういつものノリがあるとどこか安心しますね」
「そうだろそうだろー? じゃあお礼にドリンク1杯サービスしてよ!」
「それとこれとは別です。ちゃんと料金はいただきます」
「ちぇーしっかりしてんなー」
サービスを要求する瀬里を突っぱねる修也。
瀬里も本気で要求するつもりは無かったらしく、あっさりと引き下がった。
「それはおいといて、高代さんはともかく七瀬さんは仕事は大丈夫だったんですか?」
「大丈夫よ。今日は非番だったから」
「そんな、貴重な休みにわざわざ時間を割いてもらわなくても良かったのに」
「気にしなくて大丈夫だよ土神君! どうせ休みだからって何もやること無くて1日終わるだけだよ! デートに行くような彼氏がいる訳でもないし」
「……絞め落とすわよ?」
からからと笑いながら言う瀬里を優実は睨みつける。
「高代さん……それ諸刃の剣になってると思うんですが」
「ふっ……私と優実を同列に語っちゃいけないぜ土神君。彼氏のできない優実と作らない私とでは越えられない壁というものがあるのさ!」
「確かに高嶺の花である七瀬さんと残念極まりない高代さんとでは雲泥の差がありますね」
「ほほぅ結構ブラックなジョークも使えるようになったんだねぇ土神君」
何故か胸を張って威張る瀬里に修也はカウンターを浴びせる。
……が、あまり効いているようには見えない。
「……高嶺の花? 私が?」
「えぇ。前に警察の人と話す機会があったんですけど、七瀬さん結構同僚の皆様からの評判良いんですよ」
「へ、へぇ…………そう……」
修也の言葉に満更でもなさそうな表情をする優実。
「てか優実は高校時代から結構人気はあったんだよ? 本人は気づいてなかったみたいだけど」
「え?」
「あーまぁ七瀬さんなら納得できます。藤寺先生や高代さんだと信じられないですが」
優実は容姿も整っている。
それに加えて陽菜や瀬里のように性格がぶっ飛んでいないので人気の出る要素は十分に兼ね揃えていると修也は思う。
「そーそー、男女問わず憧れの的だったんだよねぇ」
「それは気づかなかったわ……って、『男女問わず』?」
知らなかった自分の評判の高さにほくほく顔になっていた優実だが、瀬里の一言に眉を潜める。
「うん、『男女問わず』。同性からも結構恋愛対象に見られてたんだよね」
「それは……悪いけど遠慮したいわね……私にそっちの趣味は無いわ」
知りたくなかった自分のおかしな方向の評判の高さに今度はげんなりする優実。
「へぇ……女性同士でもそういう話ってあるんですねぇ。男同士で、しかもネタとしてしか知りませんでしたよ」
修也は普段から白峰さんと黒沢さんが盛り上がっているのを聞いているので、男同士の話なら一応知っている。
しかしそれらは所詮は架空で創作という考えが修也の中にはあった。
あの2人がほとんど実在の人物を題材にしていないというのも理由だろうか。
「あるよーうじゃうじゃあるよーそういうの。しかも女同士の方がえっぐいよー?」
「聞きたくねぇー……」
何故か楽しそうに語る瀬里を見て修也は嫌そうに呻く。
「まーでも君の周りにいる女の子たちはそういうのとは無縁だろうし気にしなくても良いんじゃない?」
「そうよくれぐれも今の瀬里の話を聞いて女性不信になったりしないようにね?」
そう言う瀬里の口調は軽いものだが、優実は割と目が真剣だ。
「流石にそれくらいではそんなことになったりはしませんが……」
「もしそんなことになったら私は瀬里を逮捕しないといけなくなるから」
「何で!? いくら何でも職権濫用しすぎでは!? そもそも何の罪で?」
「…………外患誘致罪とかかしら」
「それ日本で最も重い罪じゃないですか! 重すぎるがゆえに適用されたことも無いという……」
「おー土神君、よく知ってたね?」
優実に突っ込む修也を見た瀬里が感心した表情で呟く。
「たまたまどっかで耳にしたことがあるんですよ。でもどんな犯罪なのかまでは……」
「それじゃあ教えてあげよう! 外患誘致罪とは外国と通謀して日本に対して武力を行使させたときに適用される罪のことだよ」
「…………かすりもしてない気がするのは俺だけですか?」
「私的にはそれくらい重い罪ってことなのよ」
「えぇ……俺が女性不信になるだけで……?」
「ちなみに外患誘致罪の法定刑は死刑一択だよ。罰金も禁錮も無い」
「重い重い重すぎる!」
「大丈夫よ、土神君が女性不信にならなければ良いだけなんだから」
「むしろその発言でなりかねないんですがねぇ……」
相変わらず特定の話題だけは残念なことになる優実。
優実は普段から真面目な性格をしているので冗談にも聞こえない。
もし何かの拍子に修也が本当に女性不信にでもなろうものなら、容赦なく瀬里に手をかけてしまいそうである。
真面目過ぎるのも考え物なのではないかと修也は考えさせられるのであった。
「結果発表2日目ー!!」
閉店時間を迎えた後、昨日と同じように教壇の前に立った陽菜が指を2本突き出してそう高らかに宣言した。
「終わったか……こうしてみるとあっという間だった気がするなぁ」
「それだけ皆頑張ってくれたってことだよ。おかげさまで大成功さ!」
修也の呟きに対して満足そうな笑顔で返す陽菜。
「それじゃあ昨日と同じく貢献度ベスト3を発表するよ! 昨日とは客層が違うから結果も変わるかもね!」
そう言いながら陽菜はメモ用紙を取り出した。
「それじゃあ第3位! 氷室君!」
「ほぅ、俺か」
名指しされた塔次は口角をわずかに上げる。
「アンケートに寄せられた回答は『やっぱ美形は目の保養になるよね』『知的な男の子って素敵』ってのがあったね」
「確かにルックスと知識量はマジハンパねぇもんな氷室は……」
更に言うなら今日は学校外部からが客層のメインなので、普段の塔次を知らない人も多かったというのも理由だろう。
「あとは『次こそは絶対負けませんからね! 首を洗って待ってやがってくださいよ!!』っていう熱いコメントもあったよ」
「……絶対長谷川だろこれ」
投稿者が一瞬で分かるコメントを聞いて修也は脱力してしまう。
「続いて第2位! 白峰さん!」
「あら、私ですの?」
名前が挙がったことで白峰さんは少し驚いた表情を見せる。
「見事であります白峰殿! 自分のことのように嬉しいですぞ!」
「うふふ、ありがとうございますですわ黒沢さん」
「白峰さんに寄せられたコメントには『すっげぇ美人! 高校生とは思えない!』『お嬢様っぽい口調だけど庶民的でそのギャップが良い』ってのがあったよ」
「私はなんちゃってお嬢様でただのキャラ付けですので」
「そうあっさり言ってしまえるところも人によっては好感触になるんだろうなぁ……」
塔次と同じく人目を惹く容姿をしているからこそ白峰さんも上位に食い込んできたのだろう。
「あとは『僕もきのこ派です!』『次の新刊楽しみにしてます!』ってのもあったねぇ」
「…………新刊?」
「あら、以前即売会にお越しくださった方でしょうか? ならばその期待に応えなければいけませんわね」
「てか昨日の黒沢さんもそうだったけど、きのこたけのこの話をしてたのかよ」
「当然ですぞ! 昔から応援している球団と政党ときのこたけのこは話題作りとしては最適というではありませぬか!」
「……それはむしろ変な確執を生みそうなんだけどなぁー……」
力強く主張する黒沢さんだが、修也としては逆効果な気がしてならない。
「さてさてお待ちかねの第1位は……土神君だよっ!」
「まぁそりゃそうだろうなー。今日も行列作ってたし」
陽菜の発表を聞いて普通に彰彦が頷く。
「コメントも大体昨日と似たような感じだねー。『英雄が身近にいるとかファンタジック!』『貴方のおかげで町が平和になりました。この場でお礼を言わせてください』みたいな感じ」
「まぁ学外にも噂が広がっちゃってるからなぁ……」
「あとは『まだ私は長生きしたいんだ! だから頼むよ土神君!』『私に友人を逮捕させるようなことはしないでね、お願いよ』ってのもあったけど」
「……高代さんと七瀬さんだな。てか七瀬さん本気なのかよ」
瀬里と優実と思わしきコメントを聞いてがっくりと項垂れる修也。
「という訳で土神君が二冠達成だ! おめでとう!!」
「おめでとうございますわ!」
「お見事ですぞ!!」
「……まぁ称賛は素直に受け取っておきます」
陽菜たちを皮切りにクラスメイトたちから次々と拍手と称賛の言葉を浴びせかけられ、修也は照れくさくなりながらも礼を返す。
「どうだい? 退屈する暇なんてない楽しい学園祭になったでしょ?」
「……ですね。今までの中で一番楽しいものだったと思います」
「そうでしょそうでしょー! しかーし! まだ学園祭は終わりじゃない!」
修也の返事を聞いて満足そうに頷いていた陽菜だが、突然目を見開き叫ぶ。
「え?」
「これから後夜祭があるんだよ。グラウンドでクラス学年関係無く全員で楽しく騒ぐのさ。お疲れ様会みたいなものだね」
「へぇ、そんなものが……」
「まぁ参加は任意だけど、土神君には是非参加していってほしいな」
「……分かりました」
今年の学園祭は文句なしに楽しいものだった。
だったら最後の最後までしっかり楽しみたい。
そう思った修也は陽菜の言葉に頷くのであった。
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