守護異能力者の日常新生活記 ~第7章 第18話~

「皆学園祭はよく頑張ってくれたね! 全力で楽しめたんじゃないかな?」

学園祭も無事に終わり、翌週からはまた通常通りの授業が始まる。
朝のホームルームでは陽菜がいつも通り教壇に立っていた。

「……うんまぁ良い思い出になったなぁ。前の文化祭とは雲泥の差だ」
「うんうん、楽しめたのなら何より。私も嬉しいよ」

修也の回答を聞いて陽菜が満足気に頷く。

「そんな土神君に朗報だ! すぐにまた学校生活ならではのイベントが待ってるよ!」
「え、すぐに? 学園祭が終わったばかりなのに?」

陽菜の言葉に首を傾げる修也。
学園祭系のイベントと言えばどこの学校でもかなり規模の大きなものとなる。
それが終わった直後だというのにすぐに次のイベントなどやるものなのだろうか。

「じゃあ発表するよ。次のイベントは……これ! 期末試験!!」
「…………あー、確かにこれは学校生活ならではだわ」

そう疑問に思っていた修也だが、陽菜の言葉にどこか納得したかのように呟く。

「そりゃ学生なんだし、定期テストは切っても切れない関係な訳よ」
「まあそうだけど……こればっかりは前の学校でもそう変わらなかったな」

流石に試験関係は修也の『力』云々は関係無い。
試験で有利になるわけでもないし、完全な個人能力が試されるので爪弾きにされていようが何も影響しない。
友人と一緒に試験勉強をするということはできなかったが、むしろその方が少数だったので全く気にする必要は無かった。
それにいくら何でも試験の成績と修也の『力』をこじつけてやっかんでくる輩はいなかった。
ということなので、試験関係は修也が前の学校でも普通に受けられた数少ないイベントだったのだ。

「おや土神君、テストだと言われてもあまり嫌そうな反応しないね?」

修也にリアクションがあまり無いのを見て陽菜が不思議そうに尋ねる。

「まぁ…………テストは前の学校でも普通に受けられましたからね」
「あーなるほど。超能力者ならではの悩みって訳か」
「土神君には土神君の苦労ってものがあったのね」

修也の言葉を聞いて彰彦と爽香が頷く。

「にしても泰然としているな。俺はともかくテストと言われて大概の生徒は良い顔をしないものだがな」
「そりゃまあお前は全国トップだもんな……てか、全国トップなりのプレッシャーとか無いわけ?」

余裕の表情を全く崩さない塔次に修也は尋ねてみる。

「ふっ……たかが高校の試験程度でこの俺がプレッシャーなど感じる訳が無かろう。この程度頭の体操にもならん」
「流石ですわね氷室さん……」
「全国トップは伊達ではないという訳ですな。それに引き換え……」

塔次の態度に感心しながら、黒沢さんは別の方向に視線を向ける。

「……霧生殿、息をしておりますかな?」
「…………」

黒沢さんが視線を向けた先にいる戒は、魂の抜けたような顔で微動だにせず虚空を見つめていた。

「…………あー、これはダメね。テストが近いという現実が受け入れられずショック状態になってるわ」

そんな戒の様子を見て爽香がそう分析する。

「そこまで……?」
「常に飯と筋トレしか考えてないから勉強となるとキャパシティオーバーするんだろうな」
「でもこの前の球技大会の時は氷室のローマ数字の話を面白そうに聞いてたのに」
「興味を持てれば学術系の話でもついていけるのだろうな。ローマ数字の件では偶々霧生の興味を引けたのだろう」
「あー………………まぁ頑張れよ霧生」

今の戒に修也ができることはせいぜい応援することくらいである。
戒の耳に届いているかは不明だが修也はそう声をかける。

「じゃあこれから1週間はテスト準備期間ということで部活動も休止だからね。皆頑張って勉強するんだよー!」

陽菜がそう言い終わると同時に予鈴のチャイムが校舎内に響いた。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第7章 第18話~

 

「にしても試験かぁー……こっちに来てから起きたことが非日常過ぎたからこういう普通のイベントは逆に新鮮だな」

その日の授業が終わり放課後になったので、修也は背もたれに体重を預けながらそう呟く。

「そういや土神って成績はどれくらいなんだ?」
「んーまぁ……平均を上回りはするけど、そこまでずば抜けて良かったわけじゃないなぁ」
「そうなのですか? 自分は土神殿は現代文の成績は高いと思っておりましたぞ」
「あ、私もですわ」

修也の言葉を聞いて意外そうな顔をする黒沢さんと白峰さん。

「え、なんで?」
「あれほどの即レス突っ込みができるなど、よほどの語彙力と頭の回転が無ければできますまい!」
「私たちの求める突っ込みをピンポイントで狙い打てるなんて、相手の心情を細やかに理解できる証左ですわ!」
「それ現代文関係無ぇ!」

何故か得意気に胸を張って言う2人に修也は突っ込みを入れる。

「おふぅっ!? やはり土神殿の突っ込みのキレは堪りませぬなぁ!」
「全くですわ! 特に意識して鍛えたわけではないというのであるならば、それは生まれ持った才能という訳ですわね?」
「やだよそんな才能!」

瞳を輝かせて詰め寄ってくる2人を修也はめんどくさそうにあしらう。

「おーい土神! いるかー?」

そこに瑞音が割り行ってきた。

「あれ、相川? どうしたわざわざこっちの教室に来るなんて」
「おお、いたな土神。私がお前に用があると言えば理由はひとつだろ」
「…………また何か勝負を挑みに来たのか」
「そういうこった」

呆れ気味に呟く修也に対し屈託のない笑顔で応える瑞音。

「安心しろよ。今回挑むのはお前だけじゃないから」
「それのどこで安心しろと。俺だけじゃないとなると……」
「今回の勝負相手は……霧生と氷室以外のお前ら全員だ!」

そう言って瑞音は爽香たちにも目を向ける。

「はい? 何だってまたそんな……」
「そりゃあ今回の勝負内容がテストの点数だからな。学生の勝負と言えばこれが基本中の基本だろ?」
「ああなるほど。それで霧生と氷室は除外したのか」

瑞音の人選に納得のいった修也はそう言って頷く。
何せ塔次は今までのテスト全てで全教科満点を叩きだし続けてきた全国トップの頭脳の持ち主だ。
どれだけ頑張っても引き分けに持ち込むのが限界で、勝つことは不可能だろう。
逆に戒は体を鍛えることに重きを置きすぎたせいで学業の成績は壊滅的だ。
たとえ半分寝ていても勝てる可能性がある相手に勝負を挑むのも違うと瑞音は考えたのだろう。

「……ふむ、お前らしくも無い。お前はどんな相手であろうとも決して引かず勝負を挑むやつだと思っていたが」
「テストは数字として目に見える勝負だからな。だから常に全教科満点で一分の隙すら無いやつに勝負をけしかけるのはただの無謀だ。勝ちを狙うということはつまりお前の失敗を願うということになるだろ? そんなゲスい真似をする気は無い」

塔次の問いかけに瑞音はそう答える。

「じゃあ霧生を外したのは?」
「手を抜いても余裕で勝てる相手なんざ勝負にならん。氷室にも言えることだが、勝負とはある程度実力が近くないと面白くないからな」
「あぁ、やっぱりそういう理由なのか……」

当然だと言わんばかりの瑞音の態度に修也は納得する。

「しかし霧生よぉ、ここまで言われて腹立たねぇの?」
「そうは言ってもなぁ……テストで相川と勝負にならないのは事実だし」
「いやそれで良いの? このままじゃいつまで経っても馬鹿キャラ扱いよ?」
「別に馬鹿だからって死にはしないから大丈夫だって」

彰彦と爽香が戒に勉強に対してやる気を出させようとしても、効果はイマイチのようだ。

「……でもさぁ、あまりにも成績が悪いと赤点になるんじゃね? ここの学校でそんなシステムがあるかは知らんが」
「はい、ありますわよ。校風故に大分基準が緩くはありますが、あるにはあります」
「あ、そうなの?」
「よほどのことが無い限りは赤点にはなりえませぬが……霧生殿の場合はその『よほどのこと』がありえるのがなんとも」
「だよなぁ……」

修也の疑問に白峰さんと黒沢さんが答えてくれる。

「そして赤点の場合は補習があると言われています」
「放課後や夏休み等に個別に行われるらしいですぞ」
「全部推定形なのな」
「先程も言いましたが、赤点の基準がうちの高校は相当緩いのですわ」
「なので前例を聞かないのであります」
「はー、なるほど……補習となると部活の時間とかが削られるだろうな」
「う、それは困る……」

修也の呟きに戒は神妙な顔をして唸る。

「それで済めばまだ良い方ね。最悪夏の旅行に行けなくなるわよ」
「まぁ普通に考えれば補習優先だもんな」
「そ、それは補習の無い日に予定を組んでくれれば……」
「そこまで合わせてやる義理は無い!」
「冷てぇ!!」

言い切る修也に不満の声を上げる戒だが……

「いや、これは土神が正しい。赤点を取り補習となったとしてもそれは霧生の落ち度であろう。その尻拭いをしてやる謂れは土神には無い」
「う……」

塔次にバッサリと切り捨てられてしまい項垂れる。

「もしそうなった場合霧生は置いていくことになるわけだが…………美穂さんがっかりするだろうな」
「!!?」

そして美穂の名前を修也が出した瞬間、戒の体が雷に打たれたかのように跳ね上がる。

「確かに言えてますわね。『まぁ、戒さんは参加なさらないのですか? 私一緒に旅行に行くのを楽しみにしてましたのに……』と寂しそうに呟く顔が容易に想像できますわ」
「『せっかく旅行の為に新しい水着を買ったので見ていただきたかったですのに……』と残念そうに呟く姿も想像できますな」
「ややややややべぇ、美穂さんを悲しませるわけにはいかねぇ! それだけは何とか阻止しないと!! ど、どうするどうすればいい!?」

修也に続いた白峰さんと黒沢さんの言葉を聞いて戒はあからさまに動揺している。

「どうするって、勉強すりゃ良い話じゃねぇか」
「どこから勉強すりゃ良いか分からないから困ってるんだよ!」

呆れたような瑞音の言葉に突っかかっていく戒。

「…………ふむ、ならば俺が指導してやろうではないか」

そんな戒を見て塔次がしばらく考えるそぶりを見せてからそう言いだした。

「え?」
「こういうパターンの場合は得てして何を勉強して良いか分からず闇雲にやるから労力の割に効果が出ないのだ。何をやれば良いか明確にしてやれば思いのほか結果は出てくるものだ」
「それは助かるけど……お前自身の勉強は良いのか?」
「教えることもまた勉強だ。無駄にはならん」
「氷室……」
「それに赤点予備軍のお前がここからどれだけ成績を伸ばせるのか……それを見て人間の可能性の面白さを知るのも一興だ」
「なんだお前の知的好奇心を満たしたいだけかよ」
「無論だ。それなりに俺にも利のある話でなければやるわけが無かろう。それに教えることが勉強になることも嘘ではない」

ジト目で呟く修也に悪びれもせず正直に答える塔次。

「でも興味はありますわ! 全国トップの頭脳を持つ氷室さんがどのような指導をなさるのか」
「そしてそれを受けた霧生殿がどれほど成績を伸ばすのか。土神殿は興味は湧きませぬか?」
「…………そう言われてみると確かに気になるな」

確かに2人の言う通り、塔次が戒に勉強を教えた結果どうなるかは非常に興味深い。
それに塔次がどのような指導をするのかも興味を惹かれる。

「……なぁ、それ俺も参加して良いか?」

なので修也は塔次にそう提案した。

「む? それは構わんが、土神も学業の成績が芳しくないのか?」
「いやさっきも言った通り平均よりちょっと上くらいだ。でもどうせなら良い成績を取りたいじゃないか」
「あ、だったら皆で勉強会という名目でやらない?」

修也の話を聞いて爽香がさらなる提案を挙げる。

「良いですわね! 1人だとどうしても気が緩んでしまいますものね」
「それに先程氷室殿が言っていた通り、教えるのも勉強となりまする。教え合い高め合う効果も見込めそうですな!」

爽香の提案に白峰さんと黒沢さんも乗り気だ。

「良いじゃねぇか。ライバル同士が切磋琢磨するってのも私は好きだぜ」

瑞音もやる気満々の様子で頷いている。

「となるとそこそこ広い場所が必要になるな。どこが良いかな……」
「そう言うことならこの教室を使いなよ!」

場所をどうするか修也が考えようとしたら、突然陽菜が顔だけニュッと出して割り込んできた。

「……また急に話に入って来て……いつから聞いてたんですか」
「ふふふ、生徒が困ってる時に力になるのが教師ってものさ」
「答えになってねぇ……」

何故かドヤ顔の陽菜に修也はため息を吐く。

「まぁそれは置いといて、勉強会って名目なら問題なく使用許可も出せるから遠慮なく使いなよ!」
「え? 先生が許可を出す立場なんですか?」
「この教室ならね。だって私このクラスの担任だし」

意外そうな顔をする修也に対しそう答える陽菜。

「私は2-Cの生徒じゃないですがそれでも良いんですか?」
「全く持って問題無し! 放課後ならクラスは関係無いよ!」

瑞音の疑問も陽菜はあっさりと一蹴する。

「それなら今日から早速始めるか? 霧生と相川も今日から部活は休止だろう」
「そうだな、氷室さえ良ければ私はいつでも良いぜ」

塔次の問いかけに瑞音はそう言って頷く。

「私たちも問題ありませんわ」
「そもそも自分たちの部活は非公式故に融通を利かせやすいですので」
「……あ、そういや2人で部活っぽいことやってたんだっけか」

続けて頷いた白峰さんと黒沢さんを見て、修也は転校初日にそう聞かされていたのを思い出す。

「あ、そういや仁敷は?」
「俺も参加するよ。自分の為になるのは間違いないからな」

修也の問いかけに彰彦は頷く。

「……それに爽香が言い出した時点で俺に拒否権なんか無いしな……」
「お、おぉ……?」

何やら哀愁が漂いだした彰彦を見て修也は少々狼狽える。

「すまん皆ありがとう! 俺の為に勉強会まで開いてくれて。俺今回のテストは頑張るよ!」
「まぁ俺たち自身の為にもなるからな」

気合の入った戒を見て修也はそう答える。

「よーしやるぞ! 目指せ、赤点回避!!」
「いや目標低いな!?」

しかし戒が掲げた目標があまりにも低かったことに修也たちはズッコケるのであった。

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