守護異能力者の日常新生活記 ~第7章 第15話~

「……で、今日もこんな感じになるわけか」

昼休みを大分超過した時間に修也は疲れた表情で廊下を歩いていた。
何となく予想はついていたが、やはり修也目当てで客が押し寄せてきたのだ。
その為修也はほぼ休む時間無く接客応対に追われていた。
2~3人纏めて応対しても昼休みまでには間に合わずこんな時間になってしまったという訳だ。

「あ、あはは……お疲れ様です修也さん」
「先輩のお話は……学校の外でもよく聞きますから……」

その横を蒼芽と詩歌がねぎらいながらついてくる。
詩歌の言う通り客が学内だけだろうが学外も含もうが修也には関係無かったようだ。

「もー、遅いよおにーさん。私お腹ペコペコだよー」
「しかしよくもまぁあれだけの数を捌き切りましたね? 出店の外に結構な行列が並んでましたけど、アレほとんど土神先輩目当てなんでしょう?」
「まーでも納得だよなー。詩歌さんも今言ってたけど兄さんの人気はマジパネェからなー」

今日はそこに由衣・亜理紗・千沙の姿もある。
尚華穂と美穂はここにはいない。
華穂は自分の出店があるし、美穂の目的は戒だ。
それにいくら修也が囲まれる危険性を回避するために女性陣の誰かといた方が良いとは言え、これだけいれば十分だ。
むしろ大人数になりすぎて通行の妨げになる可能性がある。

「さて、今日はどこに行こうかな……昨日と同じで華穂先輩の店でも良いけど、せっかくだったら違う店も見てみたいよな」
「そうですねぇ……どこにしましょうか?」

そう言いながら修也と蒼芽はパンフレットを眺める。

「なーなー兄さん。そーいや瑞音ちゃんの所って何やってんだ?」

そこに千沙が横から声をかけてきた。

「相川の所? そう言えば気にしてなかったな……えぇと確かアイツは2-Eだから…………!?」

2-Eが何をやっているか確認した修也だが、その表情が怪訝なものに変わる。

「え、何でそんな表情になるんですか土神先輩? 瑞音先輩の所は何やってるんですか?」
「…………メイド喫茶って書いてある……」

亜理紗の問いに修也は絞り出すような声でそう答えた。

「え? メイド? メイド喫茶ってアレですか? 繁華街とかでやってる『お帰りなさいませご主人様~』とか言って出迎えてくれる喫茶店のことですか?」
「あぁ、多分それだと思う……」
「メイドさんってー、この前華穂おねーさんのおうちに遊びに行ったときにいたような人たちのことー?」
「うんまぁそんな感じかな……?」
「メイドっつーとアレか! 敵に追い詰められて大ピンチの時にどうせもう助からないだろうと敵が余裕ぶっこいてあれこれ情報を漏らしてくれるやつのことか!」
「それ『冥土』な。冥土の土産に……ってやつだろ」
「おー、流石兄さん! 兄さんならきっちり突っ込んでくれると思ってたぜ!」

亜理紗・由衣と続いて3段目に落としてきた千沙に律儀に突っ込む修也。
それを見て千沙は満足そうな顔をして豪快に笑うのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第7章 第15話~

 

「……しかしまぁ、メイド喫茶とは大分尖ったチョイスをまた……俺は人のことは言えんが」

2-Cはホスト&ホステス喫茶という大分ぶっ飛んだチョイスをしている。
それに比べれば一時期流行りに流行ったメイド喫茶は大分マイルドなのかもしれない。

「なーなー兄さん、行ってみようぜこれ! 何か面白そうだ!! もしかしたらメイド服の瑞音ちゃんを拝めるかもしれねーんだろ?」
「いや、相川が接客してるとは限らないんじゃないかな……?」
「それを確認するために行ってみようってことじゃないですか。土神先輩も男ならそういうもてなしをしてほしいって願望が少なからずあるんじゃないですかー?」
「無ぇよんなもん」

半眼でにやけながら肘で小突いてくる亜理紗を秒で切って捨てる修也。

「ありゃ即答。土神先輩はメイド趣味は持ち合わせてないってことですか。男の人なら誰もが持ってる願望なのかなとか思ってましたが」
「『男』で一括りにすんな。普段から蒼芽ちゃんが俺の身の回りの世話してくれてるから今更そんなもん求める気になれないっつの。いやホントもう申し訳なくなるくらい。これ以上求めたらバチ当たるわ」
「良いんですよ私がやりたくてやってるんですから」
「あーなるほど既に専属メイドがいるようなものでしたかー」

修也と蒼芽のやり取りを見て平坦な声で亜理紗は呟く。

「じゃあ蒼芽先輩にメイド服着てもらうとか」
「これ以上求めたらバチ当たるっつってんだろうが。元々そんな趣味も無ぇし。蒼芽ちゃんも嫌だったらいつでもやめてくれて良いんだからな?」
「大丈夫ですそんなこと絶対ありえませんので」

修也の言葉に対してきっぱりとそう言い切る蒼芽。

「まーそれはそれとしてだ! 瑞音ちゃんがメイドやってんなら良し! やってなくても喫茶店なんだから兄さんの昼飯になるものくらいあるだろうから良しだろ!」
「今日は私たちもまだ何も食べてませんから付き合えますよ」
「んじゃまぁ2-Eの出店に行ってみるか」

話がまとまったので修也たちは2-Eが出店をやっているスペースへ足を進めることにした。

 

「えーっと…………この辺か」

パンフレットを頼りに修也たちは2-Eが出店をやっているスペースの近くまでやってきた。

「いらっしゃいませー! 2-Eではメイド喫茶やってますよー! 是非寄ってってくださーい!」

そこではメイド服を着た2-Eの生徒が呼び込みをやっていた。

「……ホントにメイド喫茶なのか……この目で見るまで信じられなかったが」
「あ、でも結構本格的ですよ修也さん。フリルとかふんだんにあしらってますし」
「ホワイトプリムまで着けてますし……こだわりを感じます……」
「ホワイトプリム…………って、何?」

詩歌の口から出てきた知らない単語に修也は首を傾げる。

「ほら、あの頭に着けてる飾りのことですよ修也さん」
「あぁ、あれ……しかし詩歌も蒼芽ちゃんもよくそんなこと知ってんな? 知る機会なんて無いと思うけど」
「女の子ならそういったお洒落用品を知ってるのはおかしくないですよ土神先輩。むしろ多数派だと思いますよ。当然私も知ってました」
「えー? 私知らなかったよー?」
「あたしも知らんかったなそんなもん! まぁ知らなくても死にゃしねーだろ!」
「やかましいわ少数派ども!」

首を傾げる由衣と何故か胸を張って堂々と言い切る千沙に亜理紗は半眼で突っ込む。

「…………あっ、土神君じゃーん! どう? うちのメイド喫茶、寄ってかない?」

そんな言い合いを修也たちがしていると、呼び込みをしていた女子生徒が気づいて声をかけてきた。

「え? えっとー……悪い。名前が分からん」

声をかけられたは良いものの、修也は言葉に詰まる。
向こうは自分の名前を知っていたのに自分は向こうの名前を知らないからだ。
そのことに修也は申し訳なくなり頭を下げる。

「いーよいーよ、クラスも違うし君と違って私なんてただのモブだし仕方ないって」

しかし女子生徒はそのことを全く気にする素振りを見せず、軽く笑いながら手を振って応える。

「いや自分で自分のことをモブって言っちゃうのはどうなの」
「まぁ私のことなんて置いといて、どう、寄ってかない? 土神君ならお値段10割でおもてなししちゃうよ?」
「それ一切値引きしてないじゃねーか」
「流石にモブの私にそんな権限無いからね」
「まぁ実際値引きされても困るだけだし……変なサービスはもう十分だよ」
「あ、あはは……」

修也の呟きに苦笑する蒼芽。
修也は今までに色々なサービスと呼べるものを受けてきている。
やる側としてはこれでも足りないと言うのだが、修也としては過剰にも程があると思っている。

「まぁちょうど行こうと思ってたところだし。でも6人もいるけど大丈夫か?」
「んーどうだろ? ちょっと待ってもらうかもしれないけど」
「……だそうだが、どうする?」

そう言って修也は蒼芽たちの意見を募る。

「あたしは行ってみてぇな! 多少時間がかかっても気にしねぇ!」
「私もー! 皆で待つんならそれも楽しいよー」
「まぁこの後別に急ぐ用事もありませんからねぇ。ちょっと待つくらいだったらどうということはありませんよ」

中等部組は少し待つことになっても全く気にしないようだ。

「私は修也さんに合わせますよ?」
「わ、私も……特にどっちかにしたい、という強い希望もありませんし……」

蒼芽と詩歌は修也に任せるようだ。

「んじゃまぁ行きたいという意見が多いから行ってみるか」
「はーいそれじゃあ6名様ごあんなーい!!」

修也の言葉に元気よく返答した女子生徒は先導して歩き出した。
修也たちもそれに続く。

「おーいお客さん連れてきたよー。6人いける?」

しばらく歩いた後、1つの出店の前で呼び込みの女子生徒が同じメイド服を着ている別の女子生徒に声をかける。

「うん大丈夫…………って、土神君じゃん! 凄いお客連れてきたね!」

返事をした女子生徒が修也の顔を見て驚きの声をあげた。

「へっへーん、そうでしょそうでしょー? 私を称えろー!」
「これでうちも『土神君が利用したお店です』ってステッカーが貼れるね!」
「そんなのあんの!?」

2-Eの女子生徒たちからもたらされた新情報に修也は驚いて聞き返す。

「いや、あったら集客効果あるかなーって」
「そんなもん無いしもし仮にあったとしても残り半日しか効果無いから!」
「まぁそれは良いや。6人だね? お帰りなさいませご主人様がたー」
「そこの席に座ってねー」

あまり気持ちの籠っていない出迎えをされたが、学園祭の出し物なんてそんなものだろう。
修也は深くは考えず、指定された席に着いた。

「なーなー、この店指名制やってんのか? やってんなら瑞音ちゃん呼んでくれー!」

修也に続いて席に着いた千沙がそんなことを言いだす。

「いや俺らの店じゃないんだからそんなもん無ぇだろ」
「土神の言う通りだ。そんなものは無い」

千沙の発言に修也が呆れていると、後ろから瑞音の声が聞こえてきた。

「おぉ相川、お前も接客を……」

そう言って修也は後ろを振り返り……

「………………」
「………………」
「………………」

そして3人とも数秒間固まり……

「……あっはははははは!!」
「だははははははは!!」
「ははははははは!!」

大笑いを始めた。
千沙も瑞音も修也と一緒になって大笑いしている。

「ち、ちょっと修也さん失礼ですよ!?」
「そうですよ土神先輩、千沙! 瑞音先輩の格好を見た途端笑うなんて」

今瑞音は他の女子生徒同様メイド服を身に纏っている。
それを見て大笑いした修也と千沙を蒼芽と亜理紗が咎めるが……

「ははははは! ……いや、良い良い。むしろ土神と千沙みたいな反応が欲しかったんだ」
「え、えぇ……?」

瑞音が全く気にしていないどころかこれこそが求めていた回答だと言われ、蒼芽は戸惑う。

「クラスの皆は似合ってるだの可愛いだの言ってくるが、そう言うのは私のガラじゃねぇ」
「だなー。瑞音ちゃんは可愛い系が似合わない訳じゃねーんだが、カッコいい系が似合い過ぎるんだ」
「えー、瑞音おねーさんとっても可愛いと思うんだけどなー」
「は、はい……とてもお似合いだと、思います……」
「いやいやよしてくれ。似合うかどうかよりも私が気に入るかどうかだ。今言った通りこの手の物は私よりも舞原とか米崎妹とか平下みたいなやつの方が合ってる」

由衣と詩歌の言葉に対してもひらひらと手を振りながら首を横に振る瑞音。

「なーなー瑞音ちゃん、あたしは? あたしはー?」
「千沙はこっち寄りだろ」
「まーなー。あたしもフリルのドレスとかは似合う気がしねーな!」
「えー、ちーちゃんもきっと似合うよー」
「お、そう言ってくれるかー! サンキューなゆーちゃん!」

由衣の言葉に豪快に笑って返す千沙。

「それに私も土神の今の格好を見て大笑いしたからな。お互い様だ」
「いやいやこちらこそ大笑いしてくれて助かった。俺もそういう反応が欲しかったんだよ」

それに対し修也も実に清々しい表情で応える。
蒼芽をはじめとして誰もこのホスト風衣装に突っ込まずスルーするばかりだったことに修也はフラストレーションが溜まっていたのだ。
一部無駄にテンションが上がっている人もいたが、それもまた修也の求める反応ではなかった。
だが瑞音が大笑いしてくれたおかげで溜まっていたフラストレーションが全て吹き飛んだ。

「なんだお前もだったのか。流石私のライバルなだけはあるな!」
「ライバルは関係ないが……今だけは間違いなく同じ気持ちではあるな」

そう言ってお互い示し合わせたかのようにハイタッチする修也と瑞音。

「それじゃあこれがメニューだ。好きなのを注文してくれ」
「えっと……じゃあ俺は生姜焼き定食で」
「ちょっ!? ちょーーーーーっと待ってください!! 何で? 何でそんな渋い定食メニューがあるんですか! ここ仮にもメイド喫茶ですよね? だったらせめてそれにちなんだメニュー名にしたら良いじゃないですか! それにこういう場所ならオムライス頼んでケチャップで絵を描いてもらって『美味しくなぁれ』とか言って意味の分からないおまじないするのがお約束じゃないんですか!!」

修也のチョイスに亜理紗がテーブルを強く叩いて立ち上がりながら文句を言う。

「じゃあありちゃんだったらどんなメニュー名にするのー?」
「え? えーっと……『ぶたさんのごきげん♡ジンジャープレート』……とか?」
「うわぁ……」
「うわー……」
「うっわぁ……」
「そんなドン引きしないでくださいよ土神先輩千沙瑞音先輩!」
「あ、あはは……私は可愛いと思うよ……?」
「う、うん……悪くないと、思うな……」
「中途半端な優しさはいらないんですよ蒼芽先輩詩歌先輩……あぁもう由衣が急に変な事言うから……!」

由衣の無茶振りに何とか答えた亜理紗だったが、その結果この場にいる全員にドン引きされてしまった。

「大体何頼もうが俺の勝手だろうが。それにオムライスは昨日華穂先輩の所で食べたし」
「オムライスに絵も描いてもらいましたよね。姫本先輩の絵上手でしたねぇ」
「おまじないは止めたがな」
「え? 姫本先輩の所もメイド喫茶やってるんですか?」
「いや、和風喫茶。オムライスもごく普通のスタンダードなやつ」
「何で!? 何で和風喫茶でオムライスが出てくるんですか! そこはせめて和風オムライスでしょ!!」
「……突っ込みが他にいると楽だなぁ」

ヒステリー気味に叫ぶ亜理紗にそう呟きながら生暖かい視線を送る修也なのであった。

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