守護異能力者の日常新生活記 ~第7章 第9話~

「………………さぁ、洗いざらい吐いてもらうわよ土神君。先に言っておくけど、嘘や誤魔化しが通用するなんて甘い考えは捨てた方が良いわよ」

疑似結婚式の撮影会が終わって数日経った日の放課後。
ファミレスのテーブルを挟んで座っている優実はそう言って鋭い視線を修也に向けていた。

「……いやいきなり呼び出されてそんなこと言われても何のことだかサッパリ……」
「おいおいシラ切ろうってのかい? ネタは全て上がってんだ、さっさと吐いちまった方が楽になるぜぇ~?」
「何キャラなんですか高代さん」

優実の横で非常にあくどい顔をしながら詰め寄る瀬里に半眼で突っ込みを入れる修也。

「うぅ……あんなにクラスの中心の立ち位置で突っ込みが鋭くて可愛い女の子たちにも囲まれて突っ込みが鋭くて町中の人気者で突っ込みが鋭い土神君がまさかこんなことをしでかすなんて……」
「アンタも何キャラだ。そして『突っ込みが鋭い』って何回言ってんだ」

ワザとらしく涙を流しているようなアクションをしながらそんなことをぼやいている陽菜には強めの突っ込みを入れる。

「いぇーい2突っ込みゲットー! 私の勝ちだね瀬里!!」
「チクショーやっぱ付き合いの長さというアドバンテージは覆せないかー!!」
「……一体何を競ってるんですかあなた方は」
「あの2人は無視しなさい。私は今とても重要な話をしているんだから」
「あ、はい」

意味の分からないところではしゃいでいる2人に呆れる修也だが、いつもと違う優実の迫力につい背筋が伸びる。

「とは言ってもですね、一体何の話なのか俺には皆目見当が……」
「そう……じゃあこれを見ても同じことが言えるかしら?」

そう言って優実は1枚の写真を修也に向けて差し出す。

「これは…………」

写真の中身を見て修也は言葉が詰まる。
写っていたのはSNSのスクリーンショットだ。
内容はどこかの新婚の夫婦と思われるカップルが写っている画像だ。
しかし……よく見てみると、これは恐らく修也と蒼芽だ。
先日華穂と美穂に連れられて行った仕立て屋で試着してみた時に撮ってもらったものだろう。
店員の言っていた通り顔は加工されていて誰なのか分からないようにはなっているが、周りに写っているもの等を考えると間違いない。

「あの……この写真が何か?」

優実の真意を探るために修也は問いかける。

「言ったはずよ。嘘や誤魔化しは通用しないって。ここに写っているのはあなたと舞原さんなんでしょう?」
「いや、顔が分からないのに決めつけられても」
「私を甘く見てもらっちゃ困るな土神君! 顔が分からなくても自分のクラスの生徒の判別くらいはお手の物さ!」
「……そうだこの人そういう人だった……」

ドヤ顔で胸を張って言う陽菜に対して修也は額を手で覆う。
色々おかしい所はあるものの、陽菜が生徒思いであることに違いは無い。
そんな陽菜なら顔が写っていなかったり服装がいつもと違ったりしても判別できても不思議ではない。

「そして新郎側が土神君ってことは新婦側は舞原さんで間違いないっしょ! 体格的にも違和感無いし」
「土神君、あなたね……何か進展があったら教えてって前から言ってたでしょうが! それが何よ一足飛びで結婚式まで挙げてしまうなんて!! 警察が総力を挙げてサプライズでお祝いをする計画が台無しじゃない!」
「七瀬さんが怒ってるのそこなんですか!? てか総力を挙げて……って何やってんの警察!?」

今までに見たことの無い剣幕で詰め寄る優実に今日一番の突っ込みを入れる修也なのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第7章 第9話~

 

「…………とりあえず落ち着いてくれましたか?」
「えぇ…………ごめんなさいね土神君、柄にもなく取り乱してしまったわ」
「やれやれ……」

それからしばらく経ってようやく優実が落ち着いたので修也は安堵のため息を吐く。

「まったくー、ちょっと考えれば分かることじゃん。土神君はまだ16歳だよ? 結婚できる年齢じゃないって」
「というかSNSでもちゃんと説明されてるしね。『今年の新作はこのようなデザインになっております。宣伝の為の試着に協力していただいた本人たちの了承を得て撮影しております』って」
「つまりアンタがたは分かってるのに悪ノリしたと」

ジト目で睨む修也から示し合わせたかのように視線を逸らす陽菜と瀬里。

「しかしよくもまぁこんなもの見つけてきましたね」
「あぁん? 結婚なんて微塵も縁の無い私がそんなもの調べるなんて滑稽で烏滸がましいってか!?」
「チキショウリア充め! 君なんて爪を切る度に深爪になってしまえば良いんだ!!」
「んなこと言ってないでしょうが。訳分からん絡み方しないでください」

おかしな絡み方をしてきた瀬里と陽菜を修也は適当にあしらう。

「まぁそれは置いといて、今度雑誌の特集でブライダル関係を扱うんだよね。その為の情報収集をしていた時にたまたま見つけたって訳さ」
「あぁなるほど」

瀬里の職業はライターだ。
あの仕立て屋もブライダルフェアをやっていたということはそう言う時期なのだろう。
ならば瀬里の言うことも納得できる。

「でもどうして試着するなんてことになったの?」
「そこのフリーダムの権化が今度の学園祭でホスト&ホステス喫茶をやろうと言い出したのが事の始まりです」
「陽菜……あなたなんてことを……」

修也の言葉に優実もジト目で陽菜を睨む。

「だぁって普通じゃつまんないじゃん! 私は一生の思い出になるような楽しい学園祭にしたいんだよ!」
「それがどうしてホスト&ホステス喫茶になるのよ……まぁブルマ喫茶とか言い出さなかっただけマシかしらね」
「言い出しましたよこの人」
「…………あぁもう…………」

次の修也の言葉で今度は呆れたような目で陽菜を見る優実。

「そりゃ言うでしょ! ブルマは私のアイデンティティなんだから!!」
「堂々と言うことですかね?」
「そんなにやりたきゃ自分1人でやりなさい」
「え、良いの!?」
「…………」

冷たくあしらうつもりだった優実だが、目を輝かせて問い返す陽菜に手で額を覆う。

「それで、ホスト&ホステス喫茶やることと土神君と舞原さんの結婚式がどう繋がるのさ」
「だからそれはたまたまそういったイベントに鉢合わせて衣装を試着しただけですって。本来の目的はそっちじゃないんです」
「……なるほど、ホストっぽい衣装を探していたというのが本来の目的で、ウェディング衣装はそのついで……って訳ね」
「えぇそういうことです」

優実の推測に修也は頷く。

「でもこの店結構お高い所だよ? 言っちゃあ悪いけど学生の土神君には厳しいんじゃないのかい?」
「あぁやっぱり高いのか……流石姫本家御用達」

瀬里の問いかけに修也は納得がいって頷く。

「どうしてそこで姫本家が出てくるのかしら」
「先輩の件だとか何度もこの町を守ってきたことに対するお礼で作ってくれることになったんです。費用も姫本家持ちで。学園祭で着る服が無いことを話したらこんなことに」
「おぉスゲェ、姫本家御用達のお店でオーダーメイド! ……でも別に制服でも良いって言ったと思うけど?」
「逆目立ちしそうで嫌だったんですよ。自作までするやつもいるんだから」
「陽菜、あなた……」
「何だよぅ、これは私関係ないでしょー!? 自作するのはあくまでも本人の意思だし」

優実の冷えた目線にむくれてそっぽを向く陽菜。

「そもそも先生がホスト&ホステス喫茶やろうなんて言い出さなけりゃ良かったんですよ」
「だってさぁ、うちのクラスの個性を生かそうってならこれっきゃないでしょ!」
「いや他に絶対あるって」
「でも気になるなぁ。陽菜がそこまで言うってことは見目麗しい少年少女が揃ってるってことでしょ」
「ほら、瀬里も気になるでしょ? こういうのは最初のインパクトが大事なんだよ! 『一体どんな店なんだ?』と思わせ興味を持たせたら勝ちってことさ!」
「まぁ……商売の基本ではあるわね」

言ってること自体は間違っていないので優実も陽菜の言うことに頷いている。

「でもそこまで言うからには陽菜も参加するんでしょう? 生徒だけにやらせるなんてことはしないわよね?」
「ん? するよ? 私は言わばオーナーの立ち位置だからね。基本は生徒が主体になってやるもんだと思うんだよね」
「まぁ……そういうものなんでしょうかね」
「あれ? 土神君今まで学園祭やったことないの? 何かえらく他人事みたいな口ぶりだけど」
「引っ越し前の文化祭は微塵も面白くなかったのでブッチしました」

修也の距離を置いたような言い方に疑問を持ち瀬里が問いかけてくる。
それに対し修也は先日学校の屋上で蒼芽が作った理由を言い訳にする。

「あら珍しいわね。土神君がそういった学校行事をサボるなんて」
「別に良いんじゃない? つまらないイベントに無理やり出る必要も無いって」

そんな修也の答えに優実は意外そうな顔をし、瀬里は理解を示す。

「まぁ心配しなくても良いよ! 白峰さんと黒沢さんも言ってたじゃん。ここでの学園祭は全力で楽しいものにするから、退屈する暇なんて無いさ!」
「えぇまぁ、そこに関しては心配していません」

球技大会もあれだけ楽しいものになったのだ。
学園祭だってきっと楽しいものになるだろう。

「それにどうしてもってんなら私も参加するよ。ブルマ姿で呼び込みとか」
「やめてください。何の店か本気で分からなくなるから」
「よーし、じゃあ陽菜がブルマで呼び込みするなら私はスパッツで殴り込みを」
「やめなさい。土神君のクラスの出し物を滅茶苦茶にする気?」

それぞれおかしなことを言いだした陽菜と瀬里を修也と優実は止める。

「にしても、土神君がホスト姿で接客してくれるのかー……それはシンプルに興味あるね!」
「確かにね……今や町の英雄とまで言われてる土神君の接客とか、話題を呼びそうね」
「ひっきりなしに指名が来るだろうね。ナンバーワンは間違いなしだ!」
「……何か俺、過労死する未来が見えた気がするんですが」

陽菜の言葉にげんなりする修也。
修也は元々人付き合いがそこまで得意な方ではない。
普通……だと自分では思っていたのだが、蒼芽や由衣のような例を見ると自信が無くなる。
そんな修也が何時間も知らない人の接客をしなければならないと思うと気が重くなるのも無理は無い。

「接客って考えるから気が重くなるんだよ。さっき陽菜が言った通り楽しめば良いのさ!」
「そーそー、いつもみたいな鋭い突っ込みを見せてくれればそれでOK!」
「それはそれで疲れる……」
「突っ込み云々は置いといて……楽しめば良いというのは賛成ね。仕事じゃないんだから土神君のやりたいようにやれば良いのよ」
「俺のやりたいように、か……」

優実にも励まされ、修也は少し気を持ち直す。

「それに考えてみなさいよ。陽菜がいるのよ? 土神君が多少はっちゃけるくらい、いつもの陽菜に比べれば可愛すぎるものじゃない」
「それもそうですね」

説得力のありすぎる優実の言葉に修也は強く頷く。

「おっ、やる気になったね! じゃあ無事終わったら皆で売り上げで打ち上げやろうぜ打ち上げ!」
「良いね良いね! 私高級焼肉店に行きたい!!」
「いや高代さんは部外者でしょ。しかも高級焼肉店てどれだけ稼がせる気なんですか」
「良いじゃんかよー売り上げに貢献してあげるからさー」
「それじゃあ瀬里が土神君のクラス全員を高級焼肉店に連れていけるだけの貢献をすれば解決ね」
「あ、なるほど」
「待てーい! それは私が破産するわ! 借金のカタに泡風呂に沈められるー!!」
「……泡風呂?」

瀬里の口から出た聞き慣れない単語に修也は首を傾げる。

「ありゃ土神君は泡風呂知らないのか。良いかい、泡風呂ってのは」
「未成年の男の子に何を教えようとしているのよ。教育的指導!」
「あだぁっ!?」

泡風呂の解説を始めようとした瀬里の脳天に容赦ない優実の手刀が突き刺さる。

「あつつ……なんだよぅ、知識として持ってても損は無いじゃないかよぅ」
「自分で調べて知る分には文句は言わないけど、無理やり教え込もうとするなら警察官の立場として阻止するわ」
「ならば土神君! 自分で調べるんだ!! 知ることは人間としての成長する第一歩だよ!」
「七瀬さんが止めるということはロクでもないことで間違い無さそうなので記憶の彼方に投げ捨てておきます」
「なんだとー!?」
「それが賢明ね」

修也の返答に愕然とする瀬里と微笑む優実。

「……にしても前から思ってたんだけどさぁ、私や陽菜と優実で信頼度に差がありすぎじゃない?」
「そう思うのなら普段から言動に気をつけなさいよ」
「やだね! 言いたいことも言えない世の中なんて願い下げだよ!」
「それに言いたいことを包み隠さず話せるからこそできる繋がりというものもあるんだよ!」
「……まぁそれは否定しないけど」

実際に言いたいことを言い合えるからこそ高校を卒業した後も付き合いが続いているという実例を自ら体現している優実としてはそこは否定できない。

「確かに七瀬さん、不破警部と話してる時と比べて楽しそうですもんね」
「そりゃ仕事とプライベートは分けるわよ。……でもそうね、楽しくないわけではないわ」
「土神君もそういう人を見つけたら大事にするんだよ? その繋がりは一生モノになるからさ」
「……そうですね」

瀬里の言葉に修也は頷く。
陽菜たちの物とは意味合いが少し異なるが、修也にとってのそういう間柄の人と言えばやはり蒼芽だろう。
『力』のことも含め、蒼芽にはほとんど隠し事をしていない。
それなのに蒼芽はずっとそばにいてくれている。
そんな人が今後新たに現れることはきっと無い。

「つまりさっさと舞原さんと結婚しなさいということよ。分かったわね?」
「今日のオチ担当は七瀬さんなんですか?」

何やら微妙に怪しい目で諭してくる優実に修也は半眼で突っ込みを入れるのであった。

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