守護異能力者の日常新生活記 ~第7章 第22話~

「…………うん、昨日もそうだけど我ながらよくあの環境下で普通に勉強できたもんだと感心してしまう」
「あ、あはは……」

今日の分の勉強会が終わり、舞原家に帰ってから蒼芽と2人で勉強する準備をしながらそう呟く修也に蒼芽は苦笑いで返す。
単純に人数が増えたというのもあるが、今日もまた白峰さんと黒沢さんが非常にテンション高く奇声を発しながら机に向かっていたのだ。

「俺らは慣れてるけど……蒼芽ちゃんたちは気が散って仕方が無かったんじゃないか?」
「いえそれが、私は不思議とそこまで気にならなかったんですよね。環境音くらいの感覚でした」
「アレが環境音て。いや……俺も人のことは言えんのか」

よくよく考えてみれば修也もアレを意識の外に置いて普通に蒼芽たちと勉強していた。
慣れとは恐ろしいものである。

「……さて、昨日は数学だったから今日は現代文でもや」
「おにーーさーん!!」
「んごっふぅっ!?」

今日勉強する科目を現代文に定めて準備しようとした修也の横腹に衝撃が刺さる。
言うまでもなく由衣が横から修也に飛び付いてきたのだ。
部屋に入ってきた気配を一切感じなかったのはもう今更なので気にしないことにする。

「あれっ由衣ちゃん? いつの間に……」
「あれー? おねーさんもおにーさんと遊んでたのー?」

蒼芽も修也の部屋にいることに気づいた由衣が不思議そうに首を傾げる。

「うぅん、遊んでたんじゃなくてテスト勉強だよ。中等部もテスト期間なんじゃないの?」
「あー…………うん、来週テストがあるよー……」

テストと聞いた由衣のテンションが一気に落ちる。

「あれ、珍しいな。由衣ちゃんが元気無くしてる所なんて初めて見た気がするぞ」
「うー……私勉強苦手なんだよー……」

修也の言葉にむくれながら由衣は答える。

「あー、由衣ちゃんも蒼芽ちゃんみたく1人で黙々とやるのが続かないタイプか」

由衣は蒼芽以上にコミュ力の塊のような子だ。
だとしたら蒼芽同様テスト勉強ができないタイプだとしても納得がいく。

「あ、いえ由衣ちゃんは私とは違ってシンプルに勉強が苦手なんです」

だが蒼芽が首を横に振り修也の考えを否定する。

「あれ、そうなのか」
「だってー、勉強って面白くないんだもん。ずーっと机に向かってないといけないしー」
「でも理由は蒼芽ちゃんと似たようなもんか」

由衣はいつも元気に動き回っているイメージが修也にはある。
そんな由衣がじっと机に向かって勉強するのが苦手というのは容易に想像できる。

「じゃあ由衣ちゃん、今から私たちと一緒にテスト勉強する?」
「えっ? 私も一緒にやって良いのー?」
「まぁ由衣ちゃんがやる気があるってんならな」
「うんっ! おにーさんとおねーさんが一緒なら頑張れる気がするよー!」

そう言って由衣は笑顔で頷く。

「ははは、由衣ちゃんのモチベーション維持方法は蒼芽ちゃんと俺か」

一瞬で元気を取り戻した由衣を見て修也は頬が緩むのであった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第7章 第22話~

 

「……だからこの問題の場合は教科書のここに書かれてる方法を使って……」
「あっ、そっかー! 分かったよおにーさん!」

修也の解説を聞きながら由衣は問題を解き進めていく。

「それにしてもおにーさんってホントに凄いよねー」
「凄い? 何が?」
「強いしカッコいいし頭も良いんだねー!」
「いやその辺は個人の主観が入るし、頭の良さについては俺よりももっとスゲェのいるからな……」

常に全教科満点で全国トップの成績を叩きだし続けている塔次に比べれば修也など凡人も良いところだ。

「でも修也さんの教え方、丁寧で分かりやすいですよ」
「うんうん!」
「いや昨日も言ったけどただ教科書の該当する場所指してるだけだからな?」
「それだけで分かるようになるってことはやっぱり修也さんの教え方が良いからですよ」
「うんっ! おにーさん学校の先生になれるよー!」
「流石にそれは……むしろ逆でこんな説明で分かる蒼芽ちゃんと由衣ちゃんの地頭が良いんだよ」
「えー? そーかなー? えへへー」

修也の言葉に首を傾げながらも嬉しそうに笑う由衣。

「そうそう。長谷川が何回やっても間違える氷室のなぞなぞも正解を即答してたんだし、絶対に頭は悪くない」
「頭が良いなんて初めて言われたよー。いつもありちゃんにテストの点で負けてるからー」
「そうか。じゃあ今回は頑張って勉強して長谷川に勝ってやれ」
「うんっ! 頑張るよー!」

そう言って由衣は気合十分で再び机に向かう。

「……ふふっ、やっぱり修也さん人にものを教えるの向いてるんじゃないですか?」
「え? そうか?」
「はい。由衣ちゃんがここまで前向きに勉強してるのなんて初めて見ますよ、私」
「別に俺は特に変わったことなんてしてないんだけどなぁ……」
「ということはもう才能なんじゃないですか? 由衣ちゃんがさっき言った通り学校の先生とか向いてるかもしれませんよ?」
「学校の先生…………ねぇ……?」

蒼芽に言われ修也は学校の教師について考える。

「………………」

そしてどんどん表情が渋く歪んでいく。

「し、修也さーん……? どうしてそんな顔になってるんですかー……?」
「いや……学校の先生と聞いて連想したのが……」
「あ……あぁー……」

修也の言葉で何を考えているのか察した蒼芽は表情が引きつる。
大体の場合、何かをイメージする時は一番身近なものを思い浮かべる。
そして修也にとって一番身近な学校の教師と言えば……

「いや確かに教師としては時々とんでもねぇハイスペック披露してくるよ? でも尊敬はできんしああなりたいとは思わんな……」
「で、でも良い先生だと思いますよ……?」
「俺もそこを否定する気は無い。でも『良い先生』と『尊敬する先生』は同値になるとは限らないという良い例だな」
「あ、あはは……」

きっぱりと言い切る修也に乾いた笑い声をあげる蒼芽。
蒼芽も修也の言い分を否定する気は無いらしい。

「さっ、それは置いといてテスト勉強に戻ろう。時間的にあと少しだ」
「えー、もっとやろーよー」

切り替えた修也の言葉に不満そうに頬を膨らませる由衣。

「初日からいきなり飛ばしても続かんぞ。時間を決めてその間集中する方が良い」
「それに寝て頭を休めるのも大事だよ由衣ちゃん」
「でもまぁ『勉強したい』という気持ちになったのは良い事だ。また明日やろうな」
「んー…………うん、分かった!」

始めは不服そうな由衣だったが、修也と蒼芽の言うことに納得したのか最後は笑顔で頷いた。

「……うん、じゃあ今日はこれで終わりー! それじゃーまた明日ねー、おにーさんおねーさん!」

それからしばらくして、時間が来たので由衣はそう言って自分の勉強道具を持って窓から自分の部屋に帰っていった。

「それじゃあ俺たちも今日はここまでにするか?」
「あ、すみません。えーっと……もうちょっとだけ続けても……良いですか?」

修也の問いかけに対して蒼芽は遠慮がちに切り出す。

「ん? キリの良いとこまでやっときたいとかか?」
「え、えぇまぁそんな感じです。あっ、もちろん修也さんが迷惑でなければ、ですけど」
「いやぁ勉強したいというのを止める理由は無いだろ。俺で良ければどれだけでも付き合うぞ? むしろ苦手だって言ってたテスト勉強を自分でやりたいと思えるようになったのは良いことじゃないか」

蒼芽の言い分に感心した修也は勉強道具を片付けかけていた手を止め再び机に向かう。

(…………今日は由衣ちゃんが参加してたから修也さんと2人っきりの時間が少なかったから……とは言えないよねやっぱり)

蒼芽がそんなことを考えていたとは修也は全く想像もつかず、2人はもう少しテスト勉強に時間を割くのであった。

 

翌朝。

「それじゃあ行ってきます」
「行ってきますお母さん」
「はい、行ってらっしゃい」

修也と蒼芽はいつも通りの時間に登校の為に舞原家を出る。

「おにーーーさーーん!!」
「ぐぼぉぉっ!!?」

それとほぼ同時に由衣が全速力で飛び付いてきた。

「おっはよー! おにーさんおねーさん!!」
「おはよう由衣ちゃん。今日も元気だね」
「うんっ!」
「げ、元気なのは良いことだけど……毎度毎度俺に突撃してくるのは如何なものかと……」

笑顔で挨拶する蒼芽と由衣の横で少しよろめきながら呻く修也。
由衣は非常に軽量なので、たとえ現役陸上部を圧倒できる脚力で飛び付かれてもダメージと呼べるものにはならない。
しかし何故か毎度修也の意識の外から突撃してくるのでとても心臓に悪い。

「えー、だっておにーさんを見つけたら抱きつきたくなるんだもん」
「いやなんで?」
「んー、由衣ちゃんの気持ちも分からなくはないけど……」
「いや分かるのか蒼芽ちゃん」

由衣と蒼芽の言い分に修也は首を捻る。

「ふふっ、由衣ちゃんはおにーさんが大好きだからねっ!」

そこに別の声が割って入ってきた。

「あ、由紀さん。おはようございます」
「おはようございます由紀さん」
「うんっ、おはようおにーさん蒼芽ちゃんっ!」

修也と蒼芽は由衣と一緒に出て来ていたらしい由紀に挨拶する。

「……で、今日はどうしたんですか表まで出て来て。今まで何度か由衣ちゃんとここで鉢合わせたことはありますけど、その時は由紀さん出て来てませんでしたよね?」
「それはね、おにーさんにお礼を言いたかったからだよっ!」

再び首を傾げる修也に対し、何故か胸を張ってそう答える由紀。

「お礼……? 先日の誘拐事件云々についてはもうしてもらいましたが」
「違う違う、昨日の話だよっ!」
「昨日? 昨日はテスト勉強しかしてませんが」
「そうっ! まさにそのテスト勉強についてだよっ!」

意図を掴めず疑問顔で呟く修也にビシッと指を突き付けながらそう言う由紀。

「今朝由衣ちゃんが朝ごはんの時に、昨日はおにーさんと蒼芽ちゃんと一緒にテスト勉強したって嬉しそうに話してくれたんだよっ」
「えぇまぁ……それが何か?」
「由衣ちゃんが楽しそうに勉強の話をしてくれるなんて今まで無かったんだよっ!」

そう言って由紀は興奮気味に修也に詰め寄る。

「私もお父さんもまずは自由にのびのびと育ってほしいって理念だから勉強はそこまで重要視してないんだけど、どちらかと言うとできる方が良いでしょっ?」
「まぁそれは……できるに越したことは無いですね」
「だから由衣ちゃんが勉強を楽しいと思ってくれるなら願ったり叶ったりなんだよっ!」
「うんっ! おにーさんとおねーさんと一緒に勉強するのは楽しいよー!」

由紀の言葉に笑顔で頷く由衣。

「……俺大したことしてないんだけどなぁ……」
「そんなこと無いですよ。修也さんはいるだけでも十分意味があります」
「どんな?」
「同じ部屋にいるだけで安心感が段違いです」
「……テスト勉強に安心感いるか?」
「分からないところがあっても丁寧に教えてくれるしー」
「それ俺が単にこの中で一番学年が上だから教えられるってだけじゃないかな?」
「まぁ、私も由衣ちゃんも修也さんがいれば勉強に集中できるってことです。言葉では説明しにくい何かがあるんですよきっと」
「……凄く強引に纏めてきたな……そう言われたら反論のしようがねぇじゃねぇか」

言葉で説明できないのであれば言葉で反論することもできない。
蒼芽のまとめを聞いた修也は大きくため息を吐く。

「つまり由衣ちゃんも蒼芽ちゃんも、おにーさんと相性がとっても良いってことだよっ!」
「うんっ! 私おにーさん大好きだもん!」
「これまた強引な纏め方を……まぁでも嫌われるよりかはマシか」
「いや修也さんを嫌いになるとかあり得ないですよ? ホントに、絶対、天地がひっくり返っても」
「やたら強調するなぁ……」

真剣な目つきでそう言う蒼芽に少し呆れる修也。
しかし蒼芽には引っ越し前の境遇も話しているので、そういう反応をしたくもなるのだろうと修也は自分を納得させる。

「私もおねーさんと同じー。おにーさんを嫌いになるとか絶対に無いもん!」
「というか由衣ちゃんの場合は『好き』か『すごく好き』しか無いんじゃないか?」
「あっ、そーかもー。おとーさんもおかーさんもおにーさんもおねーさんも紅音さんもありちゃんもちーちゃんもみーんな大好きだもん!」

修也の言葉に対し、両手を挙げて笑顔全開で応える由衣。

「ここまでくると逆に由衣ちゃんが嫌う人物ってのを見てみたい気がする。あの誘拐犯以外で」
「それすっごい難しいですよ? 私ですら見たこと無いですから」
「私も無いね。小さい頃から誰に対してもにこにこ笑ってるからねっ」

蒼芽と由紀ですら見たことが無いというのであれば、そんな人物を見つけ出すのは困難を極めるだろう。
ほぼ不可能と言っても良い。
人格を変えられる前の猪瀬ならワンチャンあったかもしれないが、今となってはそれも不可能だ。

「ところでそろそろ学校に行かなくて良いのかなっ?」
「え? うわ結構時間経ってる!」
「普通に歩いてたらギリギリになりかねませんね。駆け足で行きましょう!」
「じゃあおかーさん、行ってきまーす!」
「はーい行ってらっしゃいっ! 蒼芽ちゃんとおにーさんも頑張ってねっ!」

笑顔で手を振って見送ってくれている由紀を背に、修也たちはいつもの通学路をいつもより速いペースで進んでいくのであった。

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