その後テスト2日目と3日目も1日目同様特に変わり映えなど無く消化した。
「……まぁテストだけなんだしそうおかしな事件なんて起きはしないわな」
「むしろ修也さんが引っ越してきてからつい先日までが異常だったんですからね? あんなに事件が立て続けに起きるのが日常な訳無いですから」
「そうなんだけどさぁ……あのクラスだとそれはそれで不気味だ」
「あ、あはは……」
テスト全てが終了して学校を出た修也は1日目と2日目同様蒼芽と一緒にファミレスに来ていた。
「にしてもまぁ、テスト終了後の解放感はどこでも変わらんものだな」
「ですねぇ。最後のテスト終了のチャイムが鳴った時の感覚はいつになっても堪りませんね」
「特に霧生の全てから解き放たれたかのような顔はハンパなかった」
「あはは、確かに霧生さんはそういうリアクション大きそうですね」
「そのまま真っ白になって天に召されて行きそうな勢いだったぞ」
「え、それ大丈夫なんですか? ちゃんと生きてますよね?」
修也の言葉に頬を引きつらせながら尋ねる蒼芽。
「まぁ何はともあれ今回のテストは終了だな」
「はい。お疲れさまでした修也さん」
「蒼芽ちゃんもな。あとは結果がどうなるか……一応相川と点数勝負みたいなことやってるわけだし」
「あ、そうなんですね。どうですか? 勝てそうですか?」
「どうだろなぁ……まぁ勝ったところで何も無いからな。割とどうでも良い」
今回のテストの勝負は別に負けた方が罰ゲームなんてルールも決めていないのだ。
というかそもそも瑞音との勝負ではそういうものを設定しない。
これは単に瑞音が勝負そのものを楽しんでいるというところがあるからで、結果はおまけでしかないからだ。
だからせいぜい勝てばちょっと嬉しいし負ければちょっと悔しい程度のものに落ち着くのである。
「じゃあ修也さん、私ともテストで勝負しませんか?」
「蒼芽ちゃんと? 終わった後に言うことでも無いしそもそも学年が違うんだから一概に点数で比較しても……」
「いえ、比較するのは私だけです」
「ん? どういうこと?」
蒼芽の発言の意図が読めず修也は首を傾げる。
「今回のテストでは修也さんと一緒にテスト勉強したじゃないですか。それで私の成績が上がったかどうかを比較するんです」
「あぁなるほど、比較対象は過去の自分って訳か」
「はい。目に見えて上がってたら勝ちで、そう大差無ければ負けです」
「つまり勉強会を始めとする俺とのテスト勉強に効果があったかどうかってことか……効果が無かったら役立たずってことでクビにならない?」
「なりませんよ!? 修也さん別に私の家庭教師じゃないんですから!」
ぼそっと呟いた修也に蒼芽が慌てて突っ込みを入れる。
「クビにはしませんが……そうですねぇ、勝ったらご褒美ってことでぎゅーって抱きしめてください」
「負けたら?」
「残念だったねってことでぎゅーって抱きしめてください」
「どっちも同じじゃねぇか!」
「あははは!」
修也の突っ込みに大笑いする蒼芽。
「まぁそれは置いといて、これ食べ終わったら放課後デートですよ!」
「やっぱやるのか」
「もちろんです! これを楽しみに昨日と今日のテスト頑張ったんですから」
「で、何やるんだ?」
「まぁ適当に町中をぶらぶら歩くだけですかねぇ。放課後デートなんてそんなものですよ」
「そういうのもたまにはアリか」
蒼芽の言葉に修也は頷き注文していた料理を食べ進めるのであった。
守護異能力者の日常新生活記
~第7章 第28話~
テスト終了から数日後。
「…………これで全部の答案が返ってきたかな」
直前の授業で返ってきた最後の1科目の答案を見ながら修也はそう呟く。
「どんなもんだった、土神?」
「んーまぁこんなもんかって感じだ。今までと比べたらそれなりに良い感じではあるが、学校が違う以上比較にはならんからなぁ」
「俺もそこそこ良い感じだったぞ。今回は勉強会とかもやったしそれなりに手ごたえあったんだよなぁ」
「私も良い感じね。少なくとも前回よりは成績が上がったわ」
修也と彰彦の会話に爽香も混ざってくる。
「聞くだけ野暮かもしれんが一応聞いておこう。氷室、お前はどうだった?」
「ふむ……現状維持と言っておこうか」
「つまり今回も全科目満点、と。うん、分かりきってたけど」
「だったら何で聞いたのよ」
「聞かなかったら何か仲間外れにしてるみたいじゃないか」
ジト目で尋ねる爽香に修也はそう返す。
「私たちも上がりましたわ!」
「いやはや氷室殿の自己啓発方法は素晴らしいですな! ここまで効果があるとは」
白峰さんと黒沢さんも嬉しそうに話の輪に入ってきた。
「おー良かったじゃないか」
「ええ、やはり目に見えて効果があるというのは良いものですわ」
「しかーし! これで満足する我々ではありませぬ! まだ見ぬカップリングを白日の下に晒しだすべく邁進し続けますぞ!」
「もしくは先人の知恵の結晶である戦国武将や三国志の萌えキャラ化に倣ってみるのも良いかもしれませんわね」
「ならば白峰殿! 自分は北欧神話辺りを攻めてみたいですぞ!!」
「あら良いですわね! 他にもイソップ物語やグリム童話なんかも良さそうですわ!!」
「……この2人がどこに向かおうとしてるのか俺にはさっぱり分からん」
「良いではないか。何事もきっかけは好奇心と探求心からだ。いつか新説が導き出されるかも知れん。これだから人間の可能性は面白い」
やたらと意欲的な2人を見て呆れる修也を塔次が窘める。
「…………で、一番の問題である霧生は……」
「おぉーい、見てくれ皆ー!!」
修也が戒の名前を出したのと同時に、その戒が明るい表情で修也たちの元にやってきた。
「来たな霧生……その様子だと良い感じの結果だったみたいだな」
「まぁなー! 俺テストの点が2桁行ったのすっげぇ久しぶりだ!!」
「………………」
「………………」
「………………」
戒の言葉に修也たちは何も言えず黙り込む。
「それどころかどの科目も30点越えてるんだよ! これも氷室のおかげだな!」
「いや、それは霧生自身の努力の結果だ。俺はあくまでも勉強に対するモチベーションの維持方法を教えたにすぎん」
「……というか……今まで1桁得点だったのか?」
「それで赤点判定されないとか……基準が緩いにも程があると思うんだが」
「でもまぁこれなら赤点じゃないから補習も無しでしょ」
塔次が戒をねぎらう陰で小声で話し合う修也と彰彦と爽香。
「まぁ……うん、頑張ったじゃないか霧生」
「毎日毎日精魂尽き果てるまで勉強してたもんな」
「途中で投げ出すかと思ったけど最後まで食らいついてきたわね。正直見直したわ」
「えぇ、霧生さんもやればできる殿方という訳ですわね」
「やるときはやれるというのは中々評価高いですぞ霧生殿」
修也たちは戒がどれだけ頑張ってきたかを直に見て知っている。
なので今回ばかりは白峰さんと黒沢さんも変に弄ったりせず素直に称賛の声をかける。
「土神ー! いるかー!?」
そこに教室の扉が勢いよく開き、瑞音が中に入ってきた。
「おお、いたな土神。テストは全部返ってきたか?」
「ああ、今さっき全部返ってきたところだ」
「そうか、じゃあ早速ルールを説明するぜ。ルールはいたってシンプル。主要5科目の合計点を競うってだけだ」
「いや……主要5科目って言っても、選択科目はどうするんだ? 例えば物理と化学とか、日本史と世界史とか」
「あとは現代文と古文とかもね」
修也の疑問に爽香が続く。
「そういうやつは点が高い方を加算する。それで計算してくれ」
「500だ。全部キリの良い数字だから計算が楽で助かる」
「…………だろうな」
即答する塔次に対して半ば呆れ気味に瑞音が呟く。
「…………あぁー、惜しい! 200は越えられなかったかー」
「何っ? そういう言い方をするってことは100は越えたのか霧生!」
次に戒の言葉を聞いて本気で驚いた顔をして瑞音が尋ねる。
「おうよ! 今回は過去最高の出来だぜ!」
「やるじゃねぇか! 努力が報われたな!」
嬉しそうにそう言う戒に対し瑞音も笑顔で激励する。
「えぇと…………俺は382だな」
「私は396よ」
そうこうしているうちに彰彦と爽香は計算が終わったようだ。
「私は404ですわ」
「自分は403ですな」
白峰さんと黒沢さんも計算が終わったらしい。
「えっ? 2人とも結構高いな?」
「私たちも今回は頑張りましたので」
「しかしこの数字は……なかなか因果が決まっておりますなぁ」
「ですわねぇ。私はNOT FOUNDで、黒沢さんがFORBIDDENとは……」
「これらの数字で辛酸を嘗めた回数は数知れず……!」
「黒沢さんの403はまだ良い方ですわ。私の404と来たら……!」
「分かります! 分かりますぞ白峰殿! その数字を見るたびに襲い掛かってくる虚無感と絶望の入り混じった何とも言えない感情が!」
「…………何の話をしてるんだろう?」
「どうせロクでもないものだろうからスルーして良いと思うぞ」
「それもそうか」
よく分からないことを言いだした白峰さんと黒沢さんに首を傾げる修也だが、彰彦にそう言われ疑問を引っ込める。
この2人がこういう話をするときは大体が知らなくても全く問題ないものだからだ。
「……で、えぇと俺は……」
気を取り直して修也も自分の点数を足していく。
「395だな」
「私は395だ」
修也が合計点を言うと同時に瑞音も口を開く。
「えっ?」
「えっ?」
そしてお互い狐につままれたような顔でお互いを見合う。
「……もう1回。俺は、395」
「……私は、395だ」
お互いもう1度確認するが、出てきたのは先程と同じ数字だった。
「……同点かよ。そう言うこともあるんだなぁ」
「ククク……やるな土神! 流石は私のライバルなだけはある」
「いや流石にただの偶然だろ。内訳は違うみたいだし」
理系科目では修也に分があり、文系科目では瑞音が上回っている。
その結果程よくバランスが取れて同点という決着に落ち着いたようだ。
「じゃあ決着は次回のテストに持ち越しだな」
「次もやるのかよ……」
「当然! というか学生ならテストの点数は最もポピュラーな勝負方法だろ」
「……そういうもんなのか?」
前の学校ではテストの点を競い合うなんてことを修也はしたことが無い。
なのでさも当たり前のように言ってのける瑞音に対して首を傾げて聞き返す。
「まぁ競い合える相手がいるってのは悪いことじゃないだろ」
「そうね、私と彰彦も毎回比べてるわね。相川さん程熱を入れてるわけじゃないけど」
「ふーん……」
彰彦と爽香もそう言うということは、一般的によくあることなのだろう。
修也は相槌を打ちながらそう思うことにした。
「……ということがあったんだが……蒼芽ちゃんは誰かとテストの点数を比べたりしたか?」
今日の授業が終わり、帰る途中に蒼芽と会ったので横に並びながら修也は蒼芽に尋ねる。
「あ、はい。詩歌と比べましたね。やっぱり普段からコツコツ頑張ってるらしい詩歌には勝てませんでしたけど」
「まぁこういうのって普段からの積み重ねだからなぁ」
「でも私自身の成績は上がりましたよ! それで充分です」
「おー、良かったじゃねぇの」
「はいっ! だから帰ったらご褒美くださいね?」
「あ、あれマジのガチなんだ……」
「はい、マジのガチですよ」
「まぁ別に俺に何か損があるわけじゃないから良いけど……」
期待に目を輝かせている蒼芽を横目に修也は校門を通り抜ける。
「おにーーーさーーん!!」
「ふぼっふぅっ!!?」
……と同時に真横から衝撃を受けた。
「ねーねーおにーさんおねーさん聞いて聞いてー! 私ねー、今回のテスト凄く点数高かったんだよー!」
修也に飛び付いたテンションのまま由衣が嬉しそうにまくしたてる。
「そ、そうか……テスト勉強の成果が出たんだな」
「良かったね由衣ちゃん」
「うんっ!」
蒼芽の言葉に元気よく頷く由衣。
「なるほどいつもより由衣の点数が高いなとは思ってたけどそう言うことだったんですか。土神先輩効果で学力までブーストがかかったとかそういうタネがあったんですね?」
「おぉーそんなことできるのかゆーちゃん! もう無敵じゃねーか!」
「いや流石に学力にはかからんだろ。脚力にかかるのも変な話だけどさ。単純に由衣ちゃんがテスト勉強頑張ったんだよ」
遅れてやってきてそんなことを言いだした亜理紗に修也は修正を入れる。
「でも土神先輩がいたから由衣のやる気にブーストがかかったのは合ってるでしょ」
「そうなのか由衣ちゃん?」
「うんっ!」
「ほら本人もこう言ってることですし」
「肝心なのはやる気! やる気さえあれば何だってできるんだぜ兄さん!」
「でも私が勝ちましたけどね!」
そう言って亜理紗は自慢気に薄い胸を反らす。
「あっ、そーなんだよおにーさーん。頑張ったんだけどありちゃんに負けちゃったんだよー」
「そうだったのか……まぁ次頑張ろうぜ」
「うんっ! 次は負けないよーありちゃん!」
「ふふんっ、私だって負けないわよ! というか由衣に負けてるくらいじゃ氷室先輩に追いつくなんて夢のまた夢なんだから!」
「え、氷室に追いつくつもりなのか長谷川? アイツ今回のテスト全科目満点だぞ」
「…………え?」
修也からもたらされた情報に亜理紗の表情が凍り付く。
「へぇースゲーな氷室の兄さん! 主要5科目ならあたしもあと一歩だったんだがなー!」
「…………え?」
そして千沙の言葉でさらに顔が引きつる。
「へぇー! ちーちゃん頭良かったんだねー」
「言っちゃ悪いが意外だったな」
「そうよ千沙にはもっとバカっぽいイメージがあったのに……」
「はっはっはー! やっぱ良い点取る方が派手でカッコいいもんなー!」
「……私、とりあえず当面の間は千沙に勝つことを目標にすることにします……」
「あーまぁ……それが現実的なラインだな。頑張れ」
豪快に笑う千沙を見て項垂れながら呟く亜理紗に対し修也はそう励ますに留めるのであった。
いくら何でも今の状態の亜理紗を弄るのは気の毒だと判断したためである。
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