「3人とも来てくれてありがとね。じゃあ午後も楽しんでね!」
「ああ。先輩も頑張ってくれ。それじゃあな」
会計を終わらせた修也は華穂に手を振って見送られ、蒼芽と詩歌と共に3-Cを後にした。
「……にしても、1人で昼飯食べることすらロクにできなくなってしまったのか俺は……」
「あ、あはは……今日と明日だけですよ、きっと」
「お、お祭りということだから……皆浮足立っているんですよ……」
愚痴るように呟く修也に苦笑いする蒼芽とフォローする詩歌。
「てか明日はどうしよう?」
「修也さんが良かったら明日もお付き合いしますよ?」
「え? いくら何でも連日は迷惑じゃね?」
「そ、そんな……迷惑だなんて、とんでもないです……」
蒼芽の提案に流石に悪い気がした修也だが、2人は全く気にする素振りを見せない。
「気にしなくても良いですよ。それとも修也さんは1人で出向いて周りにもみくちゃにされながら落ち着かないお昼ご飯を食べる方が良いんですか?」
「それは嫌だ……分かった、明日も世話になるな」
「はいっ、お任せください!」
そう言って蒼芽は気合十分に自分の胸を叩く。
「さて、そろそろ休憩時間も終わりだな。2人ともありがとな。教室まで一緒についてきてくれて」
「いえいえどういたしまして。午後も頑張ってくださいね修也さん」
「で、でも……あまり無理はしないでくださいね、先輩……」
2人に見送られ、修也は出店として使っている教室の中に入る。
「あ、帰ってきたわね土神君。どう? ちゃんと食事できた?」
それを見た爽香が出迎えてくれた。
「まぁな。蒼芽ちゃんと詩歌のおかげで何とかなったよ」
「そう、それは良かったわ。じゃあ早速指名来てるから行ってきてね」
「…………人使い荒いなぁ……」
帰ってきて早々送り出そうとする爽香にぼやく修也。
「仕方ないじゃない指名が来ているのは事実なんだから。ほら、お客さんを待たせるんじゃないわよ。また一番奥の部屋だからね」
「へいへい分かったよ……」
爽香にそう言われ修也は控室を出る。
「……さて、蒼芽ちゃんと詩歌にも応援してもらったし、無理の無い範囲で頑張るか」
修也は部屋の前で気を切り替えて姿勢を正す。
そして指定された部屋に足を踏み入れた。
「……あっ! お疲れ様です土神先輩!」
「お、お疲れ様です、土神先輩……」
「……? おぉ、陣野君と佐々木さんじゃないか」
しかし中にいたのが再び知り合いだったので、修也は幾分か気持ちが楽になる。
「はい。午前中にここで土神先輩が接客してくれるって噂が出回ってたんで来てみたんです」
「でも来てみたら先輩はお昼休み中だということで待っていたんです」
「あー、そりゃ悪いことしたな」
「いえいえとんでもない! 僕たちが勝手にやったことですので」
「そうですよ、土神先輩が気に病むことじゃありませんから」
謝る修也に対して慌てて手と首を横に振る陣野君と佐々木さんなのであった。
守護異能力者の日常新生活記
~第7章 第13話~
「ところで陣野君、良かったのか指名が俺で。女子スタッフだっているんだぞ?」
席に座りながら修也はおもむろに陣野君にそう尋ねる。
修也はこういった店の事情は全く分からないが、男が男を指名することはあまりないのではないかと思ったからだ。
「良いんです。土神先輩とお話したかったのは間違いありませんし、それに何だか佐々木さんに悪い気がして……」
「陣野君……!」
「おぉ、一本気だねぇ陣野君。男の俺から見ても好感持てるぞそれは」
照れながら頭を掻いてそう言う陣野君を感激した様子で見つめる佐々木さん。
修也はそんな陣野君に感心する。
「……それにもし女の人を指名してその人が僕より背が高かったら何か居た堪れない気になる気もして……」
「むしろそっちの理由がメインなんじゃね?」
しかしそんなことを言いながらどんよりと陰が降りた気がした陣野君に修也は半眼で突っ込む。
(にしても……陣野君もそこまで言うほど背が低い訳じゃないし、流石に2年とはいえ女子に負けるとは思え……あ)
背が低いことが悩みの陣野君だが、流石に蒼芽や詩歌よりは高い。
瑞音や千沙は平均よりかなり大きい方だから例外として考えても良いだろう。
爽香とは良い勝負っぽい感じだが裏方なので横に並ぶことも無い。
だったら陣野君の心配は杞憂……と考えていた修也だが、とある1人のクラスメイトが脳裏に浮かんだ。
(そういや白峰さん……背はそこそこ高かったな)
モデルと見間違うほどの容姿を持つ白峰さんは、スタイルはもちろんのこと背も結構高い。
流石に戒や修也には及ばないものの、塔次や彰彦とは視線の高さはそう変わらない。
塔次も彰彦も男子としては割と平均の身長だ。
そんな白峰さんと陣野君を比べた場合は……
(って、止め止め! こんなの突き詰めても誰も得しない!!)
ここまで考えて修也は強引に思考を打ち切った。
「とりあえずそれは置いとこう。せっかくこうやって時間が取れたんだ。もっと前向きな話をしようじゃないか」
「あっ、そうだ! 私、土神先輩に相談したいことがあったんです」
話題を変えようとした修也に佐々木さんが乗ってくる。
「ん? 俺で良いのか?」
「はい、男の人の意見を聞きたいので……」
「陣野君じゃダメなの?」
「ダメということは無いんですけど……意見が多い方が良いので」
「ふぅん……じゃあ聞こうか」
「僕も聞くよ。悩んでる佐々木さんを放っておけないし」
佐々木さんの話を聞く姿勢を作るために修也と陣野君は座り直す。
「えっと……今度の夏休みに、皆で旅行に出かけますよね?」
「あ、うん。そうだな」
佐々木さんの問いかけに頷く修也。
以前そんな話が華穂から上がり女性陣で水着を買いに行ったのは記憶に新しい。
スケルスの問題も片付いたので、修也としても気兼ねなく旅行を楽しむことができそうである。
「で、舞原さんと米崎さんに水着を買いに行こうって誘われたんですけど……その時は別の用事があって行けなかったんです」
「あーそういやあの時佐々木さんの姿は無かったな」
「えっ? その時土神先輩もいたんですか!? だったらこっちを優先しておけば……」
「ああいや違う違う。俺も佐々木さんと同じく別件の用事があってそれには同行してないんだよ」
身を乗り出してきた佐々木さんを修也は両手で制する。
「でも何となく話が見えたぞ。まだ水着を買えてないとかそんなところじゃないか? そしてどんな水着が良いか相談したいってところか」
「……はい、そうなんです。流石は土神先輩。そんなこともお見通しなんですね」
そう言って佐々木さんは尊敬の念が籠った目を修也に向ける。
「しかし、それなら別に俺じゃなくても陣野君でも良いんじゃね? むしろ陣野君が一番の適役だと思うんだけど」
「あ、いえ……陣野君に水着を選んでほしい訳じゃないんです。陣野君がどんな水着が好きなのかは知ってますし」
「おぅおぅ陣野君、そんな話するほど仲良くなったのか?」
佐々木さんからもたらされた新情報に修也は陣野君を軽く肘で小突きながら問いかける。
「え? いえ……そんな話したことありませんけど」
「ん?」
「男同士ならともかく……女の子、ましてや佐々木さんとそんな話なんてしませんよ」
修也の問いかけに真顔で答える陣野君。
その目に照れや誤魔化しの色は無い。
(え……じゃあ何で佐々木さんは陣野君のそんなことまで知って……?)
女の子の水着の好みなんて普通べらべらと口外するものではない。
なのに佐々木さんは知っていると言う。
「…………ま、まぁ好みなんざ大体似通うもんだろうし男なんて単純だからなー。俺も先日までワンピースとビキニとスクール水着くらいしか知らなかったし」
「え? 他にあるんですか!?」
取り繕うような修也の言葉に素で驚く陣野君。
(うんうん、そんなもんだ。その3択……いやスクール水着は除外して……2択なら適当に選ぶのも分の悪い賭けじゃないはずだ)
修也はそう自分に言い聞かせ強引に納得させる。
以前蒼芽が『スクール水着は可愛くない』と言っていたことを修也は思い出す。
蒼芽1人の意見で全てを決めることはできないが、お世辞にもあまり見映えが良いとは言えないスクール水着を好む人が多いとは思えない。
紅音が『そういう需要もある』と言っていたことは記憶の奥深くに埋めておくことにする。
「……で、佐々木さんは何を悩んでんだ?」
「それは……陣野君の好みを優先させるべきか、私が着たいものを選ぶべきか……どうすれば良いのかご意見を伺いたいのです」
「あー……それは確かに陣野君だけじゃ意見が足りないか」
佐々木さんの意図を理解した修也は背もたれに体重を預けて考える。
「つっても……佐々木さんが気に入って選んだものならそれで良いと俺は思うがねぇ?」
……が、結局は当人同士の問題なので修也としてはそう言うしかない。
そもそも修也が『本人が気に入っているものが一番良い』というスタンスだというのもある。
「うん、僕も土神先輩と同じ意見だよ。佐々木さんが気に入ったのが僕の好みの水着スタイルだよ」
修也の言葉に頷きながら追随する陣野君。
「でも、気に入ったからって似合うかどうかはまた別問題じゃないですか?」
「そうか? 少なくとも陣野君にとっては『気に入る』と『似合う』は同値だろ。今言ってた通り」
尚も悩んでいる様子の佐々木さんに修也は後押しする。
「だから俺から言えることは佐々木さんが気に入ったものを選べば良いってことかな」
「なるほど……分かりました。貴重なご意見ありがとうございました」
そう言って佐々木さんはぺこりと頭を下げる。
「つまり自分の選択・決断に自信をもって迷わず突き進めと言うことですね!」
「いやそんな大げさには言ってねぇよ?」
何やら気合の入った様子の佐々木さんを修也は一応制止する……が、耳に入っているかは不明だ。
「それにしても……私が気に入ったものが陣野君の好みのスタイルかぁ……えへへ……」
先程の陣野君の言葉を思い出し照れ笑いを浮かべる佐々木さん。
「…………陣野君も大分私色に染まってきたなぁ」
「佐々木さん?」
しかし何やら不穏当なことを小声で呟いたような気がして修也は頬が引きつる。
「ま…………まぁ、旅行まではまだ時間があるからじっくり探したら良いじゃないか。気に入るのが見つかると良いな」
「はいっ。ありがとうございました」
「何か接客というよりは悩み相談みたいになっちゃったな」
「いえ、貴重なお時間を頂きありがとうございました」
そう言って2人揃って修也に頭を下げる。
「じゃあ陣野君、今度のデートは水着選びにしよっ」
「えっ? 女性の水着売り場って男は入れないんじゃないの?」
「そんなこと無いよ、男の人だって入れるよ」
「そうなんだ。じゃあせっかくだし僕も新しいやつ買おうかな」
そんなことを言いながら個室を出る陣野君と佐々木さん。
「陣野君……男にとってあの場は魔境にも近いものがあるが……強く生きるんだぞ……」
そんな陣野君の背中を修也は遠い目をして見送るのであった。
「結果発表ー!!」
1日目の学園祭も無事に終わりスタッフ役の生徒も全員着替え終わった後、教壇に立った陽菜が突然そんなことを言いだした。
「え、まだ1日目でしょ? 明日もあるのにそれは早くないですか」
「いやいや、今日の結果を元に明日も頑張ってほしいってことだよ!」
修也の問いかけに対し陽菜はちっちっと指を振りながら答える。
「とはいえ皆頑張ってくれてるから総じて良い成績なんだよね。という訳で貢献度ベスト3を発表するよ!」
そう言って陽菜は手に持っているメモ用紙に視線を落とす。
「何ですかそれ」
「実はだね、お客として来てくれた子たちに簡単なアンケートを取ってたんだよ。このメモはそれを元に私の独断と偏見で纏めたものさ」
「いつの間にそんなことを……」
「ただアンケートの性質上どうしてもスタッフとして働いてくれた子のことばかりになっちゃったんだ。裏方の子たちはゴメンね」
そう言って謝る陽菜だが、裏方役の生徒たちは誰も気にする様子を見せない。
「そんじゃまぁ第3位! 黒沢さん!!」
陽菜がそう言うと同時に視線が黒沢さんに集まる。
「なんと、自分が3位でありますか!」
「おめでとうございますわ黒沢さん!」
その結果に黒沢さんは驚きつつも満更ではなさそうだ。
そんな黒沢さんに対して白峰さんは惜しみない称賛を浴びせる。
「アンケートには『綺麗な黒髪が素敵』『普段と髪型が違って新鮮』みたいな回答があったね」
「どぅふふふふ、ならば作戦成功ですな」
「あと『僕もたけのこ好きです!』『自分……眼鏡派ですから』って回答もあったよ」
「おぉ、その御仁たちとは深く語り合えそうですな」
それを聞いた黒沢さんが眼鏡の位置を直しながらほくそ笑む。
「じゃあ次、第2位! 霧生君!」
「え、俺!?」
次に名前を挙げられた戒は意外そうな顔をする。
「寄せられた回答には『あの筋肉が堪らん』『鍛えられた鋼の肉体しか勝たん』とかあったよ」
「見せるために鍛えてるわけじゃないけど……でもやっぱ褒められると嬉しいもんだな」
「あと『どっちもイケるって本当ですか?』『受けですか? 攻めですか?』みたいなのも」
「んな訳あるかぁ!! てかアンタらだろそんな根も葉もない事広めてるの!!」
陽菜が読み上げた回答にかぶせ気味に否定しつつ白峰さんと黒沢さんに詰め寄る戒。
「まぁまぁ、その甲斐あって貢献度2位という栄光を勝ち取ったのですから良いではありませんの」
「良いわけあるか!」
「まぁそれは置いといて」
「いや置いとかないでくださいよぉ!!」
さらりと流して次に行こうとする陽菜を戒は止めようとするがこれまた華麗に流される。
「お待ちかねの第1位! 土神君だよ!」
「これは順当ね」
1位の発表に爽香だけでなく他のクラスメイト全員が頷く。
「アンケートには『話せただけでも大満足です』『英雄と言われているのに気取ってなくて親しみやすい』って回答があったよ」
「何か前評判が独り歩きしてる気がするなぁ……」
「あと『今度はキレのいいと噂の突っ込みを是非見たいです』『いつか天下一品の突っ込みを見せてください』なんてのもあったよ」
「俺の価値突っ込みかよ!? てか毎回毎回オチ付けてくるんじゃねぇ!!」
「……そういう所じゃないかしら」
メモを読み上げる陽菜に突っ込む修也を見て呆れながら呟く爽香であった。
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