「ふぅー……色々あって疲れたけど、引っ越し前の文化祭と比べりゃ天と地の差だったな」
学園祭1日目を終え、修也は舞原家のリビングのソファで大きく伸びをする。
「お疲れさまでした修也さん。その様子を見ると十分楽しめたようですね」
台所で夕飯の支度をしながら紅音がそう尋ねてくる。
「いやホント、何度でも言いますけど前の学校の文化祭とは比べようがありませんね」
「そう言えば詳しくは聞けてないですけど、前の学校の文化祭はそんなにつまらなかったんですか?」
「面白いつまらないの前にそもそも参加してないんだよ。させてもらえなかったと言った方が近いか」
蒼芽と紅音に対しては包み隠す必要が一切無いので修也は本当のことを話す。
「それはやっぱり……『力』のことで酷い扱いをされていたせいですか」
「まぁな。でももう吹っ切れたよ。こっちじゃ『力』のことが知れ渡っても扱いが何も変わらないんだからな」
顔をしかめて言う蒼芽に対して修也は明るい声で返す。
「それにまさか同じような『力』の持ち主までいるとは思わなかったよ。あれはマジで驚いた」
「確かに。世界って広いですねぇ」
「そういう訳だからさ。もう引っ越し前の俺の扱いとかどうでも良いや。こっちに来て良い思い出が物凄く増えたから」
「…………ふふっ」
そう言う修也を見て蒼芽は笑みをこぼす。
「ん? どうした蒼芽ちゃん」
「修也さん覚えてますか? ここに来てすぐの頃、楽しい思い出で今までの辛い思い出を私が上書きしてあげるって言ってたのを」
「……あぁ! 言ってたなそんなこと」
「どうです? 言った通りでしょう?」
「うん、こっちに来てから楽しい事ばっかりだよ」
「あはは、良かったです」
修也の言葉に微笑む蒼芽。
「変な事も多いけどな」
「あ、あはは……それは……」
しかし次の言葉でその微笑みが引きつる。
「ただ、その変な事を考慮に入れてもこっちの生活の方が断然良いや」
「だったらずっとこっちで暮らすというのはどうですか? 修也さんのご両親には私から話しておきますよ?」
何の気は無しに呟いた修也に対し、紅音がそんな提案を出してくる。
「え? いや流石にそれはどうかと……」
「修也さんは良い思い出が増える。私と蒼芽は修也さんとこれからも暮らせる。修也さんのご両親は修也さんが楽しく暮らしていると知れる。3方向にメリットのある話だと思いますけど」
「俺や両親はともかく蒼芽ちゃんと紅音さんにメリットありますか?」
「むしろメリットしか無いんですけど」
修也の疑問にそう即答する蒼芽。
「え?」
「修也さんが良い思い出を作れるということは、私も良い思い出を作れるということですから」
「……うん、いやホントありがとな。蒼芽ちゃんには何から何まで世話になっちゃって……」
「良いんですよ。私が好きでやってることなんですから」
改めて礼を言う修也に対し蒼芽は満面の笑顔で返すのであった。
守護異能力者の日常新生活記
~第7章 第14話~
「さぁ学園祭2日目が始まるよー! 昨日だけでへばってる子はいないだろうね?」
翌日、2-Cの出店で集合している生徒たちの中心で陽菜が発破をかける。
「もちろんですわ陽菜先生! この程度で疲弊する私ではありませんわ!」
「自分もまだまだいけますぞ! 先日の即売会に比べればこの程度ならまだまだ余裕であります!」
それに対し白峰さんと黒沢さんが無駄に気合の入った返事をする。
「さて皆も知っての通り、今日は中等部や学外からもお客さんがやってくる。昨日程甘くはないから気を引き締めな!」
「……まぁ、学内だったら2-Cがどんなクラスかある程度は知られてるだろうけど、学外だとそうはいかないだろうなぁ」
修也のことを抜きにしても2-Cは個性派揃いだ。
球技大会などでも結構色々やっているので、学内ではどんなクラスなのかは周知されているだろう。
しかし学外ともなるとそうはいかない。
知名度がほぼゼロの状態から始まるのだ。
確かに昨日のようにはいかないだろう。
「……よし、じゃあそんな土神君に希望を持てる話をしてあげようじゃないか」
そんな修也の様子を見た陽菜がそう切り出す。
「希望の持てる話? 何です?」
「優実と瀬里にも宣伝頼んでおいた!」
「何やってんだオイィ!!?」
サムズアップしながらあっけらかんと言ってのける陽菜に修也は詰め寄る。
優実と瀬里が来ること自体はこの前話した時から何となく予見していた。
しかし宣伝まで頼んでいるのは想定外だ。
優実はまだ良い。
基本真面目なので行き過ぎた行為をすることは無い。
問題は瀬里だ。
瀬里は陽菜同様、人生楽しんだ者勝ちみたいなところがある。
しかも職業柄広報系は得意分野だろう。
はっちゃける可能性はかなり高い。
「大丈夫大丈夫! 君も知ってるでしょ、優実は節度を守る真面目人間だってことは。宣伝っていっても知り合いにそれとなく話してくれるくらいだって」
「高代さんは? 高代さんはどうなのさ!? 持てる限りのスキルをフル活用しかねないでしょうがあの人は!」
「じゃあ2日目も楽しんでいこう!」
「いや質問に答えろよ!!」
「ふぉおおおお、やはり気合を入れるには土神殿の突っ込みが一番ですな!」
「そうですわね、私も漲ってまいりましたわぁぁぁ!!」
場が混沌としかけているが、2-Cはこれが日常なのである。
それが分かっている他のクラスメイト達は黙って学園祭2日目に向けて各々準備を始めるのであった。
「……よくよく考えればいくら何でも朝イチから客が押し寄せるなんてことにはならないか」
準備も終わり、営業開始時間になったので修也は他の接客スタッフの生徒たちと共に控室でスタンバイしている。
いくら優実や瀬里に宣伝を頼んだと言ってもたかが知れている。
優実の職業は警察なので、学園祭が開催されている週末も普通に出勤だろう。
瀬里の所は休みかもしれないが、流石に瀬里の同僚にまで修也の功績が事細かに知れ渡っているとは考えにくい。
そもそも知り合いの知り合い程度の人の為にわざわざ貴重な休みを使ってまでやってくることは無いだろう。
「それじゃあ今日こそ控室でゆっくり休むことが」
「土神君に霧生君に氷室君、ご指名よ」
「…………できなかったな」
昨日のようなことにはならないだろうと思っていた修也だが、爽香からの呼び出しでその希望は早々に打ち砕かれた。
「流石は土神殿ですぞ! その知名度はもはや学内では収まりきらぬという訳ですな!」
「もしよろしければ昨日と同様私たちの売り込みもお願いいたしますわ!」
「へいへい分かったよ……じゃあ行こうか。霧生、氷室」
「おうよ」
「うむ、では行くとするか」
黒沢さんと白峰さんの激励を適当に受けて修也は戒と塔次と共に控室を出る。
「それじゃあ土神君はあっち、霧生君はそっち、氷室君はこっちね」
爽香に指さされた方に向かって修也たちは足を進める。
「さて今日のお客さん1号は」
「おにーーさーん!!」
「ほがっちゃぁ!?」
個室に入ろうとした修也だが、逆に個室の中から飛び出してきたものに飛び付かれる。
「えっ? あ、由衣ちゃん!?」
「うんっ! 私だよー」
個室から飛び出し修也にしがみついている由衣はにこにこと笑いながら修也の問いかけに応える。
「あはは、由衣ちゃんがどうしても修也さんのやってるお店に行きたいって聞かなくて」
「す、すみません先輩……私も今日も来たくて……」
個室の中には蒼芽と詩歌の姿もあり……
「やっほー土神くん。私も昨日の約束通り来たよ」
更には華穂の姿もあった。
「あれ? 先輩は美穂さんと来るって言ってたような」
「美穂ちゃんは霧生くんの所に行ってるよ」
「まぁ普通に考えればそうか……霧生も同時に指名されてたもんな」
「あっ、ちーちゃんも霧生おにーさんの所だってー」
「え、新塚も来てんの?」
由衣の言葉に修也が聞き返すとほぼ同時に……
「おぉー師匠のスーツ姿もなかなか決まってんなぁ! 服の隙間から見える鍛え上げられた肉体が最高にイカしてるぜー!!」
個室の外から千沙の大声が響いてきた。
「……相変わらず声デッケェなアイツ……で、新塚も来ているということは……」
「うんっ! ありちゃんもいるよー。氷室おにーさんの所に行くって言ってたよー」
「なるほどなぁ……にしても、俺は4人同時に接客すんのか」
そう言って修也は蒼芽たちを見回す。
「あ、うん。何か土神くんは凄い人気だから何人か纏めるって爽香ちゃんが言ってたよ」
「何やってくれてんだ爽香!」
華穂の言葉を聞いて爽香に不満をぶつける修也。
「私に言わないでよ。私は先生の采配に従ってるだけなんだから」
「あの人はっ……!」
爽香から返ってきた言葉に怒りの矛先を陽菜に向ける修也。
「まぁまぁ落ち着きなよ土神くん。1人ずつ相手にしてたらそれこそ時間がいくらあっても足りないよ?」
「そりゃそうかもしれんが、だからと言って4人同時とか……」
「……? それ普段のお昼休みと何が違うんですか修也さん?」
「……あ」
蒼芽にそう言われ修也は気づく。
最近は屋上で4人の女の子と一緒に昼食を食べるのが普通になっている。
いつもと違うのは場所が屋上でないことと、瑞音が由衣に変わっていることくらいなのである。
「……確かにそう考えるといつもの昼とそう変わらんのか」
「そうそう。いつも通り楽しくお話ししながらご飯を食べれば良いんだよ」
「あ、悪い先輩。ここは飲み物しか無いんだ。茶請けのお菓子程度ならあるけど」
「そうなの? じゃあそれで良いや。私はアイスコーヒーにするけど皆は何にする?」
「私オレンジジュースー!」
「私は紅茶にします」
「わ、私も舞原さんと同じで……」
「それで、こういうお店だと土神くんの分も私たちが頼むんだっけ?」
「え? まぁそういうもんだけど俺は別に水道水でも……」
蒼芽たちの注文を聞いた華穂が最後に修也の注文について尋ねる。
しかし来てくれた客に自分の分のお金を出してもらうのは何だか悪い気がする修也は大体お金のかからない水道水にしていたのだ。
「それはダメだよ土神くん! お客さんにもお客さんのプライドがあるんだからちゃんと頼まれてあげないと!」
「そ、そういうもんなのか?」
「そういうもんなの! 実際のホストでも、推しの子に支援してあげようって思いから大枚をはたくんだよ……多分」
「多分かよ」
「という訳で土神くんの分は私が払ってあげよう! ……ところでここドンペリとか無いの?」
「無ぇよ。ここ学園祭の出店だぞ」
「あっても飲めませんよ。まだ20歳になってませんから」
「そ、それに……それって凄く高いお酒じゃあ……?」
おかしなことを言いだした華穂に突っ込む修也と蒼芽と詩歌。
まぁ華穂の目は笑っているので冗談なのだろうが。
「じゃあアレやろう! シャンパンタワー!」
「だから無ぇよ。学園祭の出店だっつってんだろ」
「シャンパンもお酒じゃありませんでしたっけ?」
「あれ……絶対こぼれると思うんですけど……もったいない……」
「シャンパンタワーってアレだよねー? グラスをピラミッドみたいに積んでー、そのまま崩さずに下に敷いてるテーブルクロスを引き抜くやつー」
「それ何かちょっと違うやつ混ざってるな由衣ちゃん」
とりあえず修也はアイスコーヒーを頼み、蒼芽たちといつもと同じ空気でワイワイと楽しい時間を過ごすのであった。
「……さて、そろそろ時間か」
持ち時間を使い切りそうになったところで修也はそう切り出す。
「えー、もっとおにーさんと遊びたいよー」
それを聞いた由衣が不満そうに口を尖らせる。
「由衣ちゃん、今修也さんはお店で働いているみたいなものなんだから我儘言ったらダメだよ」
「それに他のお客さんもいるんだから、私たちだけで独占するのは良くないよ」
「うー……」
蒼芽と華穂に窘められるが、由衣はそれでも不満顔だ。
「じゃあおにーさん、お昼ご飯一緒に食べようよー」
「あ、それなら良いね。土神くんもお昼なら出られるでしょ?」
「まぁな。ただ何時になるかは分からんぞ」
昨日の一件があるので普通の昼休み時間とはズレる可能性が高い。
「じゃあお昼休みになったら昨日みたいに連絡してください。すぐに駆け付けますので」
「私は自分のお店があるから無理かも。そうなったらゴメンね?」
「いやそれは先輩が謝ることじゃないから」
「……おっ、ゆーちゃんこの部屋だったんだなー!」
昼のことについて修也たちが話していると、個室の外から千沙が顔だけ出してきた。
「あっ、ちーちゃんだー!」
「お疲れさまでした土神さん」
「おっ、土神の所も終わりか」
千沙の後ろから美穂と戒も顔をのぞかせる。
「どうだった美穂ちゃん、楽しかった?」
「うん、貴重な経験をさせてもらったよ」
「まぁホスト風の喫茶店なんてそう経験できるものじゃないですからね……」
「む、どうやら土神たちも時間が来たようだな」
そこに塔次と亜理紗もやってくる。
「……毎度のことながら何で長谷川はそんなぐったりしてるんだ」
「ダメなんですよ土神先輩……何度なぞなぞ勝負を挑んでも全く歯が立たないんです。そして見事に思考の裏を突かれて返り討ちに遭うんですよ……」
修也の問いかけに項垂れて低い声で呟く亜理紗。
「お前も懲りんやつだな……」
「しかし完全に無駄という訳ではない。少なからず成長の兆しは感じ取れる。諦めず継続すればいずれ道は開けるというものだ。やはり人間の可能性というものは面白い」
「え?」
しかし塔次のその言葉に顔を上げる。
「正直ここまで食らいついてくるとは思っていなかった。すぐに諦めるか飽きるかすると思っていたがこれは想定外だ。なかなかやるではないか、見直したぞ長谷川」
「氷室先輩……!」
「まぁ平下さんは1発で正解したがな」
「上げて落とすスタイルですかコンチクショー!! でも私は諦めませんよ! いつか絶対勝利をもぎ取って見せますからねー!!」
「……そこまでされても食らいついていくのか」
塔次のねぎらいに感極まっていた亜理紗だが、次の言葉でキレ散らかす。
それでも諦める様子を見せない亜理紗に修也はある意味感心するのであった。
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